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2023.4.20事例

プロセスの可視化と統制組織の両輪で実現する業務改革~ハイパーオートメーション~

業務プロセスのデジタル化が進むいま、複数領域の業務プロセスを横断して継続的な自動化サイクルを確立する「ハイパーオートメーション」を推進する企業が増えている。NTTデータはプロセスマイニングの世界的なリーダーであるCelonis社と提携し、プロセス指向データドリブン経営のコンサルティングサービスを提供している。本稿では、Celonis社の組織改革担当副社長 Lars Reinkemeyer氏とNTTデータ ServiceNowビジネス統括部統括部長 我妻智之が、ハイパーオートメーションのテクノロジーと事例について紹介する。
目次

テクノロジーと統制組織の両輪で進めるハイパーオートメーション

多くの企業がDXへの取り組みを加速するなか、注目されているのが「ハイパーオートメーション」だ。ハイパーオートメーションは、もともと複数の業務プロセスにまたがる自動化を実現するものとしてガートナーが提唱した概念だが、NTTデータ ServiceNowビジネス統括部 統括部長の我妻智之は、テクノロジーだけでなくそれを統制する組織なども含めて、複数の業務領域にまたがった横断的で、継続的な自動化サイクルの確立をめざす概念だと定義する。

「具体的には、カスタマーエクスペリエンスから製造・管理プロセスに至るまで、ビジネスのさまざまな領域を横断的に可視化、自動化するためのテクノロジーのハイパーオートメーションプラットフォームと、テクノロジーを統制し、業務改善を成功に導く組織機能としてのCoE(Center of Excellence:中核組織)の双方が必要になると考えています」(我妻)

図1:ハイパーオートメーションの概念

図1:ハイパーオートメーションの概念

ハイパーオートメーションは一過性の業務改善ではなく、継続的な取り組みである。そのためには、テクノロジーに精通するだけでなくそれを活用して業務変革を担う人財の育成や、変革に前向きな組織風土づくりが求められる。その継続的な活動を牽引するのが、CoEのチームである。

ServiceNowビジネス統括部 統括部長 我妻 智之

ServiceNowビジネス統括部 統括部長
我妻 智之

「業務や組織風土を変革するためには、一定の合意形成が欠かせません。そのためには定性的な情報だけ不十分であり、データやそれに基づく業務の可視化が重要です。業務を極限まで可視化した状態を、私たちは『Digital Twin Office(デジタルツインオフィス)』と呼んでいます」(我妻)

ハイパーオートメーションの実装において鍵となるのが「プロセスマイニング」、つまり業務プロセスの可視化と分析だ。NTTデータは2022年10月、プロセスマイニング分野の世界的なリーダーであるCelonis社(本社:米ニューヨーク、独ミュンヘン)とタッグを組み、プロセス指向データドリブン経営を支援するコンサルティングサービスの提供を開始した。Celonis社が提供するプラットフォーム「Celonis EMS(Execution Management System)」は、企業に蓄積されたさまざまなデータソースへの接続性に優れており、業務やそのプロセスの可視化を実現する手段として最適だと我妻は言う。

業務プロセスの可視化により課題を浮き彫りに

このコンサルティングサービスの適用事例の1つが、社内稟議プロセスの改善だ。

「稟議回覧ルートが煩雑で、生産性向上の妨げになっていたケースです。2年ほど前に回覧ルートを簡略化し回覧者数を削減しましたが、それが有効だったのかどうか、客観的に評価することができませんでした。そこで、Celonisを導入して回覧プロセスを可視化し、定量的な評価をすることができました」(我妻)

Celonisの導入により、データ投入からわずか数日で約3年分のプロセスを可視化。平均所要時間と回覧者数の時系列での変化を定量的に可視化することで、申請不備による差戻率が高く、所要時間のボトルネックとなっていることが特定でき、改善施策の立案につながった。

図2:プロセス指向データドリブン経営実現に向けた取り組み

図2:プロセス指向データドリブン経営実現に向けた取り組み

「プロセスマイニングを活用することで、改善状況の確認だけでなく、さらなる問題点の把握ができ、継続的な業務改善につなげやすくなります。現実世界をこのようにデータに基づいて多面的に分析し、業務の視点から改善施策を考えていくことが重要です」(我妻)

我妻によると、ヨーロッパでは、Celonisをサステナビリティ経営の課題解決のために活用しているケースもあるという。業務プロセスを二酸化炭素排出量、リスク値などのデータで定量化し、プロセス全体を俯瞰することで、サステナビリティ経営における課題発見や改善施策立案に役立てることもできると考えられる。

一方、ハイパーオートメーションは幅広い産業分野への適用が可能だ。例えば、製造業の出荷品質管理業務である。原料調達から製品出荷までのプロセスに散在するデータを集約し、出荷可否判定などを行う業務だが、ここにCelonisを導入することでプロセスを大幅に効率化することができる。データを一元的に確認することで、情報不足や人的ミスを排除して誤出荷を防ぐとともに、不良発生時にはプロセスを遡って原因特定、影響範囲の調査などが容易になる。

「ハイパーオートメーションの前提は、関係する各業務プロセスのデジタル化です。手作業などのアナログプロセスが残っている場合は、まずデジタル化に取り組む必要があります。デジタル化の基盤になるのが、先ほど触れたServiceNowなどの業務管理プラットフォームです。逆に、こうしたプラットフォームを運用している企業であれば、ハイパーオートメーションへの展開は比較的容易になります」(我妻)

ハイパーオートメーションやプロセス指向データドリブン経営の効果を最大化させるためには、先述した変革実行組織、CoEが重要になってくる。プロセスマイニングによって収集・分析したデータをもとに、継続的な改善のPDCAを回す。その取り組みをリードするのがCoEである。

図3:業務プロセス変革におけるCoEの重要性

図3:業務プロセス変革におけるCoEの重要性

我妻は、「テクノロジーが無秩序に使われることのないよう、組織内でのガバナンスを利かせる必要があります。同時に、テクノロジーを使いこなせる人財の育成、変革を受け入れる組織風土の醸成を図ることもCoEの重要な役割です」と話す。

NTTデータはテクノロジー導入とCoEのような組織的な仕組みづくりの支援から自走・運用定着まで、ハイパーオートメーションへの取り組みを伴走型でサポートしており、Celonis社とのパートナーシップにより、そのサービスはさらに強化されつつある。

図4:変革のための方法論

図4:変革のための方法論

ハイパーオートメーションを実践するシーメンスの事例

Celonis社の組織改革担当副社長Lars Reinkemeyer氏は、Celonisの特徴について次のように語る。

Celonis 組織改革担当副社長 Lars Reinkemeyer 氏

Celonis
組織改革担当副社長
Lars Reinkemeyer 氏

「Celonisは業務プロセスを360度可視化できます。業務プロセスを可視化すれば、例えばどこかに問題が発生したときにプロセスを遡って原因を特定することができます。同時に、デジタル化された業務プロセスをつなぎ、自動化することも容易になります」

Reinkemeyer氏によれば、Celonisはすでに世界で1300社以上に導入されており、Reinkemeyer氏自身も2014年から独シーメンス社でCelonisを使ったDXを推進した経験をもつ。

「まず第1ステップとして、Celonisを用いてプロセスマイニングを実施しました。Celonisを使えば、現状の業務プロセスをまるでX線を当てるように可視化でき、どこに問題があるのか、意図との乖離が生じた理由は何かといった議論をデータに基づいて行うことが可能になります」(Reinkemeyer氏)

図5:シーメンス社のDXジャーニー

図5:シーメンス社のDXジャーニー

第2ステップはデータを活用した問題解決とハイパーオートメーションだ。シーメンス社では、プロアクティブアラーティングというシステムを導入し、問題特定と解決策の提案を可能にした。さらにハイパーオートメーションを実装し、プロセスを効率化して組織全体を変革していった。Reinkemeyer氏によれば、現在は500以上の業務プロセスで、6000人以上のユーザーがCelonisを活用しているという。

シーメンス社におけるハイパーオートメーションの一例として、Reinkemeyer氏は受注から入金までのプロセス改善を挙げる。

「シーメンス社では、受注から入金までの一連の流れの中で60以上のステップがあり、取引システムも40以上あります。Celonisを用いて可視化したところ、この業務プロセスは非常に複雑で、プロセスには90万通り以上のバリエーションがあることがわかりました。このように現状を可視化することで、『何を改善すべきか』が見えてきました」

ハイパーオートメーションを推進するにあたっては、シーメンス社のCFOがプロジェクトリーダーとなり、受注処理システムをデジタル化すべきだという明確な方向性を示した。さらに、「デジタルフィット率(※)」「オートメーション率」「手戻り率」という3つのKPIを設定し、世界共通の評価基準を定めることで、各地の現場のモチベーションにもつながったという。こうした取り組みの結果、オートメーション率は24%向上し、手戻り率11%減、手作業数年間1000万減という大幅な改善を達成した。

(※)デジタルフィット率

マニュアルアクティビティ率÷受注アイテム数
デジタルフィット率が低いほど、業務が効率的にまわっていることを意味する

継続的な変革をリードするCoEの重要性

Celonis社の顧客のうち300社はCoEを構築している。そのうち、80社の顧客は、CoEにより100万ドル以上の価値を生み出しており、さらにそのうちの30社は1,000万ドル以上の価値を創出した『CeloCoEチャンピョン』に認定されている。

図6:CeloCoEチャンピオンズ・リーグ

図6:CeloCoEチャンピオンズ・リーグ

Reinkemeyer氏によると、CoEには「カタリスト」「エバンジェリスト」「イネーブラ」という3つの役割がある。

「カタリスト」は、シーメンスの事例におけるCFOのようなエグゼクティブオーナーと連携し、オーナーをサポートする組織を準備。そして、設定されたKPIを測定しつつ、目標に向けてプロジェクトを推進する。「エバンジェリスト」は、社内での取り組みのコンセプトや活用法の普及、ユーザーコミュニティの形成、ベストプラクティスの共有などを担う。「イネーブラ」は技術的な実装、オンボーディングやトレーニングなどを提供する役割だ。

図7:CoEの3つの役割

図7:CoEの3つの役割

「2022年5月、私たちはお客様への調査を実施し、200社以上から回答を得ました。多くのお客様はCoEの重要性を認識しており、CoEを構築している企業はそうでない企業と比べて、ROI(投資利益率)が8.8倍も高いということが分かりました。『成功の鍵は何か』という質問に対して最も多かった回答は、『エグゼクティブオーナーのコミットメント』でした」(Reinkemeyer氏)

CoEは変革の成果にも大きく関わってくる。最も高い成果を期待できるのが「中央集権型」だ。プロセスの標準化や進捗管理など、全社の取り組みをリードし、事業部間のギャップをコントロールする役割をもつ。次に、中央CoEに加えて各事業部内にもCoEを構築する「ハイブリッド/フェデレーション型」。現場のオペレーションに関する意思決定は事業部内のCoEが担うが、全体的な統制は中央CoEが権限をもつ。最も成果が低いのが「分散型」だ。中心的なCoEは存在せず、各事業部が主導して業務変革を推進する。

図8:CoEの形態と変革の成果の関係性

図8:CoEの形態と変革の成果の関係性

「シーメンスは中央集権型でハイパーオートメーションを推進しており、約40人で構成されるCoEが、世界全体の組織をサポートしています。どの形態が適しているかは、企業のビジネスや組織などの特性によって異なります」とReinkemeyer氏。

NTTデータはCelonis社と連携しつつ、CoEの設置や運用などを支援している。NTTデータの大きな強みは、ハイパーオートメーションを推進する際に変革の実行環境となるServiceNowやSAPといった業務管理プラットフォームにおける豊富な経験だ。一方でCelonis社はプロセスマイニングの世界的リーダーである。NTTデータとCelonis社双方の強みを掛け合わせることで、企業のハイパーオートメーションの実装を最適・最速に推進することができ、さらには新たなビジネス価値の創出にも貢献していきたい考えだ。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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