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2023.9.1業界トレンド/展望

【国立がん研究センター・モデルナ】モダリティドリブン時代の創薬DX最前線

日本は特許競争力を活かし、がん治療における先進的技術で世界をリードするなか、有望なモダリティ創出から開発成功までの確実な創薬戦略実行が求められている。本記事では、日本からアジアを巻き込む臨床研究の仕組みを推進する国立がん研究センター中央病院・中村健一氏、mRNAを通じた創薬戦略で世界を席巻するモデルナ・ジャパン社・鈴木蘭美氏の両名が、医療機関・創薬企業それぞれの立場からR&Dの最前線を解説した。
目次

本記事は2023年7月11日に開催された「LIFESCIENCE FORUM 2023 Powered by NTTDATA」での講演をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。
本イベントの講演レポートはこちらからダウンロードいただけます。
https://go.nttdata.com/l/547422/2023-08-31/8w8vh8

希少がん治験の課題を解決するMASTER KEYプロジェクト

国立がん研究センターによれば、希少がんとは「新規に診断される症例の数が10万人あたり年間6例未満」のがんの総称である。個々の希少がん患者数は極めて少ないため「臨床試験が困難」「診療データが集まりにくい」などの課題がある。国は規制面から希少がんの開発を前向きにバックアップするものの、医療・創薬系の企業各社では「費用対効果が小さい」などの理由から開発姿勢が必ずしも前のめりではない。

そうしたなか、国立がん研究センターは産学そして“患”共同で希少がんレジストリを構築し、効率的な希少がん薬剤開発を進めることを目的に、2017年「MASTER KEYプロジェクト(以下MK)」を発足した。

同プロジェクトでは希少がん患者の大規模データベースを蓄積しバイオマーカーを含む希少がんの特性を明らかにする「レジストリ研究パート」と、登録患者が自身のバイオマーカーの結果に応じて最適な臨床試験(副試験)を受けられる「臨床試験パート」で構成される。すでに3,000例以上の希少がん患者が登録、27の臨床試験を実施中だ。

図1:MASTER KEYプロジェクトの全体像

図1:MASTER KEYプロジェクトの全体像

プロジェクトへの参加施設はすでに全国7施設まで拡大しているが、いずれも都市部に集中、地方で暮らす患者にとってはいまだ参加が難しいという。そこでMKが近年注力しているのが、DCT(Decentralized Clinical Trial)——分散型臨床試験の導入である。

MKを牽引する国立がん研究センター中央病院 国際開発部門 部門長の中村健一氏はDCT導入の背景についてこう説明した。

「最近はがん遺伝子パネル検査が保険収載されましたが、たとえパネル検査を受けられたとしても治療薬まで到達できる患者さんはわずか。割合にすれば8.1%と非常に低いのです。その最大の理由が、地方の患者は治験参加への機会がもとから限られていること。例えば国立がん研究センター中央病院では525のがん領域の治験を実施していますが、地方の大学病院になるとこれが1桁に下がります。だからといって患者さんに長距離移動を強いるわけにもいきません」(中村氏)

地方在住でも治験が受けられる!? 3者連携のフルリモート型DCTとは

今回MKが導入したのは「フルリモート型DCT」と呼ぶスキームだ。いったいどんな仕組みをしているのか、中村氏による解説をまとめる。

仮に、地方在住で治験を希望する患者がいたとする。フルリモート型DCTのスキームで患者は、治験に必要な検査を自宅近郊のパートナー施設で受けることが可能だ。検査結果はクラウドシステム上で国立がん研究センター中央病院に共有され、あとは同院と患者をつないだオンライン診療で治験を完遂させる。なおオンライン診療はパートナー施設の主治医同席のもとで行われる。パートナー施設は患者にとってかかりつけ医にもなるため、患者にとって安心感は大きい。パートナー施設にはオンライン治験システムがインストールされたタッチパッドが貸与され、患者はビデオ会議で治験説明を受けた後、タッチパッド上でデジタルサインを署名。治験薬の配送は同院から患者宅へ直接行われる。

図2:フルリモート型DCTのスキーム(国内)

図2:フルリモート型DCTのスキーム(国内)

MKではより広範なエリアの患者が治験を受けられるようパートナー施設を拡大中だが、今後DCTを全国展開していくには技術的に2つのポイントがあるという。

「まずは、施設間の円滑なデータ共有。医療情報は非常にセンシティブなので、それをクラウド上で共有するとなれば規制面でハードルがあるのは事実です。病院ごとにセキュリティの考え方も異なりますから、まずはそこをクリアしていかなければいけません。そうした意味では医療・製薬で活用が進んでいるDDC(Direct Data Capture、電子的な記録データの直接収集)も並行して進めていかなければいけない。

もう1つは、DCTプラットフォームの成熟。現状は各ベンダーがDCTの各要素技術をバラバラに持っている状態。統合プラットフォームが存在しません。本当の意味で統一プラットフォームができれば、DCTがいっきに進むきっかけになるでしょう」(中村氏)

国境を越えたDCT活用——Cross-Border DCTの普及拡大目指す

話はまだ終わらない。さらに中村氏はこのスキームを国内のみならず、国境を越えて活用していきたい考えだ。すでにその具体的な動きも展開している。

「人口減少が進む日本が自国のみで治験や臨床試験を行っていくのには、どう考えても限界があります。他国の力も借りなければいけないのはコロナ禍のワクチン開発を見ても明らかです。国もそうした危機感から感染症領域・がん領域でアジア圏の臨床試験ネットワークづくりを進めており、そうした背景から我々は、政府とAMEDの支援を受け、アジアがん臨床試験ネットワーク事業・ATLAS(Asia Clinical Trials Network for CancerS)を発足しました」(中村氏)

ATLASが担うアジア共同開発には「各国の治験経験が少なければ安全性に不安がある」「国内試験よりもコスト高になる」など懸念の声もあるが、国境をまたいだオンライン治験Cross-Border DCTならばそれらの支障もなくなるという。

「実はこのアイデア、2022年4月1日のエイプリルフールに思いついたんです。新しいアイデアは既存のアイデア同士の組み合わせなんて言われますが、たまたまそのときの私は“オンライン治験”と“アジアの臨床試験ネットワーク構築”がミッションだった。いっそそれを掛け合わせたら面白いのではないか、と思ったことがきっかけです。国内のオンライン治験のスキームをそのままアジア圏にまたいで展開すればよいので、新たなシステム開発は最小限で済みます」(中村氏)

図3:フルリモート型DCTのスキーム(Cross-Border)

図3:フルリモート型DCTのスキーム(Cross-Border)

しかし導入にあたっては課題もあった。最大のハードルはシステムではなく規制面にあったという。具体的には「医師免許問題」だ。

「国内だけでオンライン診療をする分には当然ながら医師免許の問題は発生しません。しかし例えばタイで承認される医師免許を持たない日本の医師は、タイ在住の患者に対してオンライン診療を行えないことがタイ保健省とのディスカッションで分かりました。それではCross-Border DCTは実現できません」(中村氏)

解決の兆しはすぐに見つかった。特別な技術を持った医師であれば、特例としてライセンスが発行され、タイ国内での医療行為を可能とする制度があったのだ。

「私は国や厚労省の方々にご協力いただきタイ保健省に出向き、度重なる交渉のうえ、オンライン治験推進のための覚書を締結。先般、ライセンス発行の合意を得ました。タイとの提携が実現したことで、これまで同スキームを敬遠していた他国も関心を示してきています。最大のハードルがなくなりましたからあとはやるだけ。このスキームが実現すれば患者さんはもちろん、医療機関・製薬企業を含めたいずれもがWin-Win-Winになれますから、必ず実現したいと考えています」(中村氏)

テクノロジーを積極活用する、唯一無二の「mRNA創薬」スタートアップ

他方、製薬企業もR&Dに余念がない。先進的な取り組みをしている企業の1つが、新型コロナウイルス感染症のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを開発・実用化しているモデルナ社だ。

日本でもすっかりその名は知られる存在となったが、実は会社設立からの歴史は短く、2010年米国・ボストンで「mRNA創薬」のスタートアップとして設立されている。

同社が強みとするのはなんといってもmRNAに特化した研究開発。しかし、同時に各部門のデータベース統合・AI活用などのテクノロジーを活用してきた、業界でも希有な“創薬企業”でもある。今年3月には、シアトルで200人規模のテクノロジーハブを設立。名だたるテックジャイアントで働いていた西海岸のエンジニアたちを積極的に雇用し、新たなデジタル創薬に日夜挑んでいる。

デジタル技術は創薬の現場のみならず、こんなところにも有効活用されているという。2021年4月に設立した日本法人、モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長(医学博士)の鈴木蘭美氏が解説する。

続きはこちら
https://go.nttdata.com/l/547422/2023-08-31/8w8vh8

本記事は2023年7月11日に開催された「LIFESCIENCE FORUM 2023 Powered by NTTDATA」での講演をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。
本イベントの以下3講演をレポートにまとめました。ぜひダウンロードしてご覧ください。

【レポート内容】

  • 1.モダリティドリブン時代の創薬DX最前線
    登壇者:
    国立がん研究センター中央病院 国際開発部門 部門長 中村 健一 氏
    モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長・医学博士 鈴木 蘭美 氏
    株式会社NTTデータ 製薬・化学事業部 部長 関根 志光
  • 2.改正次世代医療基盤法で製薬企業のデータ活用はどう変わるのか、徹底解説
    登壇者:
    内閣府 健康・医療戦略推進事務局 参事官補佐(弁護士) 吉原 博紀 氏
    日本製薬工業協会 産業政策委員会 安中 良輔 氏
    アステラス製薬株式会社 メディカルアフェアーズ本部 浅井 洋 氏
    日本臨床試験学会理事、東京理科大学薬学部客員教授、公益財団法人がん研究会有明病院、株式会社CTA 樽野 弘之 氏
  • 3.治療用アプリ「DTx」の規制対応の先に起こる、製薬業界のビジネス変革
    登壇者:
    日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)事務局統括 南雲 俊一郎 氏
    第一三共株式会社 グローバルDX Haas企画部長 中島 伸 氏
    サスメド株式会社 代表取締役社長 上野 太郎 氏
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