日本の社会システムが直面する危機
世界各国で医療格差が深刻化する今、老若男女問わず充実した医療サービスを受けられる日本の公的医療保険制度は世界に誇れる社会システムのひとつと言えるでしょう。一方、医療費は2021年に過去最高額、約45兆円(厚生労働省調べ)を記録し、2040年には66兆円を超える(内閣府調べ)という試算が出るなど、医療への需要が高まり続けるなか、医療現場における人手不足や医師の地域偏在など、供給体制には課題が山積している状況です。
また、健康の維持のためにはまず「予防」が重要ですが、人々の予防意識は諸外国と比べても低水準にとどまっています。さらに、がんなど復職に向けた治療後の回復や再発防止へのサポートにも課題があり、介護においても要介護認定者数、施設内高齢者の寝たきり率の増加などが課題となっています。
これらの課題が右肩上がりで増え続ければ、日本が世界に誇る公的医療保険制度および公的介護保険制度は存続の危機に直面し、私たちの生活が脅かされてしまうことになります。
図1:健康面で苦しむ方々が増え、介護や看護の負担も増加し、個人のQOL(生活の質)や国全体の生産性の低下につながる“起きてほしくない最悪の未来シナリオ“イメージ
このような危機を打破するために必要な“さらなる変革”は、どこから起こり得るのでしょうか。近年、AI、ロボティクス、遺伝子解析、サイバーセキュリティなど、最先端技術は目覚ましいスピードで進化し、ヘルスケア分野でも活用が始まっています。政府においてもこれらの技術をより効果的に活用するためのデータ利活用への機運が高まり、法や産業界と一丸となって医療DXを進める体制の整備が進められています。これから官民一体となって変革を推し進め、最先端技術を暮らしやヘルスケアの領域へと浸透させていくことで、私たちの健康づくりとQOLの向上につながることが期待されます。
2040年、ヘルスケアの未来像
このような技術の活用により、私たちはくらしとヘルスケアをどのように変革させていくべきなのでしょうか。NTT DATAが描くのは、“Harmonized Well-being with Data~生活に溶け込む健康づくりが進む未来~”。日々の生活に多様なサービスが組み込まれ、「予防」「診断・治療」「治療後」といったフェーズにおいて、一人一人にパーソナライズされたかたちで展開され、個人の健康とウェルビーイングを実現していく未来です。
図2:Harmonized Well-being with Data
そこでは、日本が誇る公的医療保険制度と公的介護保険制度によって蓄積された生活者の医療データと、個人や民間企業が自ら測定・管理する健康データが融合され、生まれる前から生涯を終えるまで、ライフサイクル全体の情報が一つの物語のように紡がれていきます。
NTT DATAでは、最先端技術のヘルスケアにおける2040年のユースケースを、「予防」「診断・治療」「治療後」ごとにヘルスケアの未来像として描いています。生活に溶け込む健康づくりにより、自然と健康になっていく“Harmonized Well-being with Data”とは、どのような世界なのか、具体的な未来像とともに皆さんもイメージを膨らませてみてください。
2040年のヘルスケア未来像(1)【予防】
3つのフェーズのうち、「予防」は日本において意識が高いとは言い難く、、また日常生活に組み込まれやすいという点で、これからもっとも変化が期待される領域となるでしょう。本人も気づかないほど自然に健康づくりが進んでいく世界を、未来の旅行イメージから見ていきましょう。
AIヘルスツーリズム
図3:AIヘルスツーリズムのイメージ
仕事が多忙で健康状態に興味がない太郎さんは、夏休みに旅行へ出かけるためにある旅行予約サイトを訪れます。実はこのサイトは、全国医療情報プラットフォームに蓄積された個人の健康とカルテデータを旅行先の特徴と掛け合わせることで、自然と健康状態の向上につながる旅行プランを提案するAIヘルスツーリズム。「こころの落ち込みが要注意、脂質異常が進行中で近々に要注意水準に」という職場健診のデータ、太郎さんのウェアラブル端末のバイタルデータを組み合わせ、「コレステロールが高めの方におすすめの低脂質で美味しい食事レシピと温泉を完備した温泉旅行プラン」が提案されました。
旅行中は、太郎さんにおすすめの食事が旅館に共有され、パーソナライズされたメニューとして提供されるだけでなく、特殊スプーンによって太郎さんの好きなこってり味へと調整されるため、体への負担を避けながら心の満足度も高められます。さらに、コレステロール高めの方におすすめの温泉に浸かることで心身ともにリフレッシュ。これらのプロセスにおける心身状態は、ウェアラブル端末のバイタルデータから常にモニタリングされ、最終日にはメンタルヘルスが“快晴”になり、コレステロール数値も低下しました。この旅行プランが気に入った太郎さんは定期的に訪れるようになり、快適な時間を過ごしながら自然と健康状態を取り戻します。
「AIヘルスツーリズム」は、日々の生活に健康増進プランを自然と溶け込ませることで病気の発症を事前に予防し、健康寿命を延ばすことで国民皆保険制度の存続にもつながっていくでしょう。
2040年のヘルスケア未来像(2)【診断・治療】
2つ目のフェーズ「診断・治療」では、医療のパーソナライズがキーワード。誰もが自分に最適化された医療を受けられる未来を見ていきましょう。
パーソナル診療デザインサービス
図4:パーソナル診療デザインサービスのイメージ
80歳の純一郎さんは、脳梗塞を患い、一命をとりとめたものの継続的な治療と歩行のリハビリが必要になりました。転院するリハビリ専門病院を選ぶにあたり、カルテやレセプトデータ、医療機関などの全国医療情報プラットフォームに蓄積された情報および民間で蓄積している健康データを使って、すぐに転院と治療がはじめられる病院を全国からピックアップしてくれる国などが提供する医療機関検索サービスを利用。医師の治療方針と蓄積データのかけあわせによってレコメンドされた複数のプランから、治療方針や費用、実績を基に北海道の病院を選択しました。
転院後は、オンラインで医師と理学療法士から治療やリハビリのプランが複数提案され、相談しながら低価格で移動の負担がないホログラム指導とロボット介助付きプランを納得して選びました。自宅近くの病院に通い、北海道の医師から遠隔治療を受け、後遺症もなく治療が終了。介助なしで歩行できるようになった後は、ウェアラブル端末から得られる活動量や血圧データがプラットフォームに蓄積され、主治医にも共有。直近1ヶ月での再発リスクが自動算出され、健康的なサポートを継続的に受けています。
プラットフォームに蓄積されたデータの利活用やパーソナル診療デザインといった最先端技術を活用したサービスにより、治療後の療養期間の短縮や患者のQOL向上が実現され、医療資源や医師の地域偏在の解消が期待されます。
2040年のヘルスケア未来像(3)【治療後】
3つ目のフェーズ「治療後」は、疾患や介護とともにウェルビーイングなくらしを続けていく未来です。2040年の「治療後」を、ヘルスケア未来像で見ていきましょう。
デジタルツイン活用で自然なリハビリ
図5:デジタルツイン活用で自然なリハビリのイメージ
地方都市に住む和子さんは、椎間板ヘルニアが持病です。診療データ、処方データ、脊椎や腰椎のCT画像データがプラットフォームで管理され、自分でも痛みセンサの記録を健康管理アプリに自動保存しています。
ある日、医師から手術を勧められました。手術する場合としない場合の今後5年間の腰椎の変化を3Dシミュレーションで比較され、体型、痛み、QOL、医療費、介護費が提示されたことで、手術することを選択しました。手術は、まずはサイバー空間からスタート。デジタルツイン腰椎に施術し、術後の経過や安全性を予測、検証した上で、腰椎疾患の専門医が遠隔手術を行いました。
手術後は、和子さんの最新の生体状況を反映したデジタルツイン腰椎で、気象変動などをもとに痛みの変化をシミュレーション。先読みしたリハビリメニューの調整や痛み止めの服用で、痛みを感じることなく生活でき、リハビリも順調に進んでいます。
デジタルツインと遠隔医療技術を活用することで、いつでも自らケアすることができ、いざというときには近隣で質の高い医療サービスを受けられる治療後ケアを実現しています。
NTT DATAでは、この他にも、「予防」「診断・治療」「治療後」というフェーズごとにさまざまな未来像を考察し、ホワイトペーパーへ掲載しています。
「予防」では、治験において既往症やカルテ情報、ゲノム情報などのデータを利用してリスクの低い候補者を自動選出する「治験者簡単リクルート」、自宅のトイレに設置した腸内フローラ測定センサとの連携で最適な食材が毎週送られてくる「パーソナライズミールキット」。
「診断・治療」では、乳歯や骨髄、脂肪組織などから抽出した幹細胞を“幹細胞バンク”にでき、再生医療に利用できる「肝細胞バンクを生かした再生医療」、体調モニタリングセンサが血圧の低下を感知し、緊急度が高い場合に自動で119番に救急要請する「119のいらない自動救急」。
「治療後」では、遺伝子や日々の運動履歴、バイタルデータなどをもとに妊娠糖尿病をケアする「デジタルで出産前後を見守り」、自立的なケア、リハビリ、介護などにより本人や介護者の負担軽減につながる「AI・介護ロボットで、自分で介護」。
すべての未来像において共通しているのは、生活に溶け込む健康づくりにより、自然と健康になっていく世界観。どれかひとつでも気になるテーマがあったら、ぜひ一度リンクからホワイトペーパーをご覧ください。
2つのループの融合によって、NTT DATAが目指す世界
未来のヘルスケア像について、具体的なユースケースとともに見てきましたが、このような世界の実現に向けて、今後は何が鍵となるのでしょうか。NTT DATAでは、公的医療データの利活用「Public-Data Oriented Loop」と、民間健康データの利活用「Service Oriented Loop」の融合がその役目を果たすと考えています。
NTT DATAは長年にわたり、中央省庁や地方自治体に対し、社会保障制度を支える情報システムの開発や運用を担当してきました。また、民間の医療・ヘルスケア分野、製薬・ライフサイエンス分野においては、データ基盤開発や分析といったICT導入を支援してきました。これまでの実績を通じて培った幅広いデータを扱うノウハウを、2つのループのスパイラルアップに活かすことで、日本の社会保障制度を支え、医療・ヘルスケアを世界に誇る成長産業に押し上げ、より豊かで調和の取れた社会を実現します。
図6:2つのループのスパイラルアップ
さらに、生活者起点でつながった公的医療データと民間医療データが生み出す価値は、ヘルスケア業界の枠を超えて広がり、新たなビジネスエコシステムを構築していきます。例えば、製薬会社、食料品メーカー、化粧品メーカー、金融機関などが、医療機関で受診した内容や処方された薬などの公的医療データに個人の同意のもとでアクセスできる環境が整えば、生活者一人一人に対応したオーダーメイド商品が生まれやすくなります。官民のデータ融合により、生活者ニーズに沿った多様な商品開発が活性化され、公的医療データの価値が社会へと還元される循環を生み出していくのです。
そのような未来を実現する道筋として、NTT DATAでは「データ連携」と、倫理的・法的・社会的課題を意味する「ELSI」の両面からアプローチしていきます。まずはSTEP1の「公的医療データ活用準備」から取り組み、2030年を目処にSTEP2の「公的医療データの民間利用」、そしてSTEP3の「公的データ・民間データの融合」を果たし、最終ステップとして「ビジネスエコシステムのグローバル化」を目指しています。
図7:望ましい未来に向けたロードマップ
このような大きな未来のしくみは、私たちだけで創りあげるものではありません。すでに国、研究機関、医療機関など多岐にわたる分野の企業とともに取り組みを始めていますが、さらに多くのみなさまのコアコンピタンスとの掛け合わせで、よりよい未来を創っていきたいたいと思っています。”Harmonized Well-being with Data ~生活に溶け込む健康づくりが進む未来~”に向けて、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。
図8:Harmonized Well-being時代のビジネスエコシステム
NTTDATAが描く未来のヘルスケアに関するホワイトペーパーはこちら:
生活に溶け込む健康づくりが進む未来(nttdata.com)
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