自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント
後半のフェーズでは、「(4)施策および評価方法の検討」で現場の負担感を踏まえた施策や成果指標の選定、「(5)データ分析の実施」でデータ分析結果の理解を助けるための分析結果の可視化、「(6)分析結果を用いた施策および評価の実施」で現場担当者の協力を得るための分析結果の十分な説明、「(7)取り組みの改善」でアンケートやヒアリングを通して得た意見や実証を通して明らかになった課題や示唆の整理がポイントとして考えられる。後半パートでは(4)~(7)について、詳細に解説する。(図)
なお、後半についても前半と同様、「こどもデータ連携実証」を例として話を進める。「こどもデータ連携実証」とは、児童虐待等の問題を抱え、潜在的に支援が必要なこどもや家庭を各種データの分析を通して自治体が把握することによって、自治体が主導してプッシュ型・アウトリーチ型の支援を実施できるスキームを構築することによって、こどもに降りかかる問題を未然に防ぎ、被害を最小化する取り組みに関する実証である。関連組織で保有するデータを連携することで、迅速なデータ収集やデータ分析を可能とし、アウトリーチ型支援の実現に繋げることが求められている。
図:自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント
(4)施策および評価方法の検討
ここでは、目的を果たすための手段となる「施策およびその評価方法の検討」について解説する。
施策を検討するにあたっては、目的を果たすための具体的な方法を選定することとなる。どのような行動が目的の達成やすでに露見している課題の解決に繋がるのか洗い出したうえで、効果的な方法や取り組みやすい方法を選ぶ。
施策の検討で重視すべきポイントは、現場の負担感を踏まえた施策の選定である。多くの場合、実証事業を推進する部門と施策を実施する部門とは異なるため、推進部門(デジタル化推進部門など)で検討した施策の実施を、現場で業務を担当している部門に依頼する必要がある。自治体に限った話ではないが、現場担当者は定常的な業務で逼迫していることが多いため、現場からの協力を得やすい施策を検討することが必須となる。今回の話は実証ということもあり、現場での検証(フィールド検証)に割ける期間が比較的短期間となることが考えられるため、その期間で発生する業務に紐づいた形の施策を選定すると現場も取り組みやすく、協力も得やすくなる。現場の協力を得られなければ実証も進められないため、現場の負担を考慮した施策の選定は重要となる。
例えば、こどもデータ連携実証では、既存業務として各家庭へ訪問する際に、連携したデータや分析結果を用いて訪問先の優先順位を検討してもらうなど、何らかの支援が必要と考えられる世帯を早期に見つけるための取り組みを実施した。このように、既存業務に組み込む形で施策を実施することで、現場の負担感を軽減し、協力を得るという形が推奨される。
成果指標の設定についても施策の選定と同様、現場がすでに設定している指標と整合が取れる形の方が現場には受け入れられやすい。成果指標は定量的に示せるものであることが好ましく、定量的に示すことが難しい場合であっても、アンケートを実施して効果的と回答した件数を集計し回答件数を指標とすることなどで、定量化が可能となる。
(5)データ分析の実施
データ分析を実施するにあたっては、「分析結果として得たいものは何か」「分析に活用するデータは何か」「データをどのように加工するのか」「適切な分析手法は何か」「分析結果にどの程度の信頼性を求めるのか」など、先行研究(論文など)や現場からの意見を参考に方針を決めたうえで推進することが重要となる。分析方針を検討するタイミングについては、施策を確定させてからというよりは、施策と並行して検討することが勧められる。施策ありきで分析方針を検討した場合、分析に必要となるデータ項目やデータ品質を確保できないことが原因で、施策が実施できなくなる可能性がある。また、分析方針ありきで施策を検討した場合、分析自体や分析結果の活用が目的となってしまい、本来果たすべき目的がおざなりとなりやすい。そのため、施策を実施するために必要となる分析結果は何か、収集可能なデータから実現可能な分析方法はどういうものか、これら両方を踏まえて検討を進めることが重要である。なお、民間企業によるデータ活用では、必要なデータがあれば、それをいかに取得するかという考え方のもとでプロジェクトを推進することが多いが、自治体では手持ちのデータでどう推進するかを模索することが多く、この点が、官と民の違いである。
また、ここでは分析結果の可視化についても言及したい。データ分析というと専門知識を要することが多く、一般の人には理解が難しいとされがちである。だが、現場担当者によるデータ分析結果の理解を促すためにも分析結果の可視化に取り組むことは重要となる。そのため、分析結果をグラフやチャートに表現し、データ間の関係性や変化を視覚的に把握できるようにすることで、新たな洞察やパターンや傾向などの発見を助けることが推奨される。
(6)分析結果を用いた施策および評価の実施
ここでは、前段で準備した分析結果を用いて、現場担当者に施策を実施してもらったうえで、施策と分析結果の評価を行う。
これまでも言及してきた通り、施策の実施にあたっては、現場担当者の協力が必須であり、事前に施策や分析結果について十分な説明を行う必要がある。そのため、前半のレポートで記載していた関係者の巻き込みなどは早い段階で着手し、施策の実施および評価について協力を依頼することが勧められる。また、施策を実施するにあたっては、予定していた人員の確保が困難となったり、分析結果を用いるにあたり、その精度が低く現場から実証に耐え難いと判断されたり、想定外の問題が起こることも多く、こまめに現場担当者から状況を確認し、調整することが必要となる。
評価の実施については、事前に設定した成果指標に沿って効果を計測するため、アンケートやヒアリングを実施することとなる。アンケートについては、効果を確認する質問に加え、今後の改善に繋がる意見を問う形が考えられる。自由記述の場合、曖昧な回答内容の確認であったり、回答内容の理解を深めるために、さらなる問いが必要であったりするため、アンケートの実施に加えてヒアリングを実施することによりフィードバックを得ることも勧められる。
こどもデータ連携実証では、「実際に支援が必要と考えられる世帯を見つけることができたか」「どのような支援を実施することになったか」の結果を問う質問に加え、それらの結果を得るにあたり有用だった「データ項目」や「分析結果」、「有用と考えた理由」などを確認した。実際には、支援が必要と考えられる世帯の数は限定的なこともあり、定量的な結果から示唆や課題を抽出することは難しいようなケースもあるだろう。しかし、そのような場合であっても、定性的な回答から施策の改善に結び付けたり、定量的な成果指標については今後の定点観測に活用したりすることで、時系列で状況を捕捉した際の傾向の変化を見たりすることが考えられる。
(7)取り組みの改善
ここでは、アンケートやヒアリングを通して得た意見や、実証を通して明らかになった課題や示唆について情報を整理し、さらなる改善サイクルを回すといった、今後の方針を検討する。
データ活用を目的とした場合、改善内容として挙がる意見は、さらなるデータ項目の拡張、収集したデータの品質向上、データ分析精度の向上などに集中しやすいが、実際の改善対応については、予算や割ける期間を踏まえた優先順位を考慮した検討が必要となる。また、データ活用の実証事業を持続的に運用することを決定した場合、上記検討と並行して、データマネジメントの実施についての検討が進むことも考えられる。
こどもデータ連携実証では、評価の実施でも言及した通り実証の有用性を判断するための結果が集まり難いこともあり、さらなる改善サイクルを回す必要性が考えられる。その場合、引き続き現場担当者からの協力を得る必要が生じることもあり、データ分析結果の説明に必要となるデータ項目の拡張や、現場から求められるデータ鮮度の確保に取り組むなどの対応を行いながら改善サイクルを回していく必要がある。
まとめ
本レポートは、自治体におけるデータ活用実証の流れを7つのフェーズにわけ、実証事業を行う際に気を付けるべき事項について述べてきた。
後半パートの「(4)施策および評価方法の検討」では現場の負担感を踏まえた施策や成果指標の選定、「(5)データ分析の実施」ではデータ分析結果の理解を助けるための分析結果の可視化、「(6)分析結果を用いた施策および評価の実施」では現場担当者の協力を得るための分析結果の十分な説明、「(7)取り組みの改善」ではアンケートやヒアリングを通して得た意見や実証を通して明らかになった課題や示唆の整理が重要となる。
これら7つのフェーズでは、各フェーズで関係者をしっかりと巻き込むことで手戻りを防ぐことに繋がることを意識して欲しい。今後も自治体によるデータ活用は進められることが考えられるため、実際にデータ活用を進めていく際に、各フェーズでのポイントを押さえながら推進し、その結果、データ活用による業務改革が前進すれば幸いである。
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- ※本記事は2024年6月11日に経営研レポート(株式会社NTTデータ経営研究所)に公開された内容を転載しています。
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