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2024.8.27業界トレンド/展望

自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント(前半)

はじめに
世の中ではDXの動きが加速しており、民間企業では様々なデータをビジネスに活用しているが、その流れは自治体にも及んでいる。例えば、いわき市ではAIを活用した介護予防に取り組んでいる。介護認定されていない人の中から、将来的に介護レベルが急激に高まる可能性のあるハイリスク者を早期に特定するため、実際に介護認定された人のデータをAIに学習・分析させ、潜在的なハイリスク者を抽出している(※1)。また、川崎市では国民健康保険料の滞納者への催告業務におけるAI活用に取り組んでいる。コールセンターでの国民健康保険や後期高齢者医療制度に関する問い合わせ業務において、滞納者との接触率向上のためAIを導入し、電話督促の接触率向上を目指している(※2)
このように、データ活用の必要性が増すなかで、データ活用の実証事業をこれから始めようと考えている自治体が増えている。その一方で、データを活用した事業の推進に苦慮しているという声が聞かれる。本レポートでは、このような現場の状況を踏まえ、当社が自治体におけるデータ活用実証を支援した経験や調査活動によって得た気付きから、自治体がデータ活用を進めるにあたり実証事業を行う際に留意すべき点をまとめる。

※本記事は2024年6月6日に経営研レポート(株式会社NTTデータ経営研究所)に公開された内容を転載しています。

目次

自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント

本レポートでは、自治体におけるデータ活用推進を「(1)目的の具体化」、「(2)関係者の巻き込み」、「(3)個人情報を含むデータの収集」、「(4)施策および評価方法の検討」、「(5)データ分析の実施」、「(6)分析結果を用いた施策および評価の実施」、「(7)取り組みの改善」の7つのフェーズに分け、各フェーズにおけるポイントを前・後半の2回にわたって解説する。前半パートでは、(1)~(3)について解説する(図)。

図:自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント

図:自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント

なお、今回は当社が支援を行ったこども家庭庁における「こどもデータ連携実証」を例として話を進める。「こどもデータ連携実証」とは、児童虐待などの問題を抱え、潜在的に支援が必要なこどもや家庭を各種データの分析を通して自治体が把握することによって、自治体が主導してプッシュ型・アウトリーチ型の支援を実施できるスキームを構築することによって、こどもに降りかかる問題を未然に防ぎ、被害を最小化する取り組みに関する実証である。本実証は複数の自治体で実施されており(当社はこのうち1自治体を支援)、それぞれの自治体で取り扱う問題や対象とするこどもの年齢層などが異なるものの、関連組織で保有するデータを連携し、迅速なデータ収集やデータ分析を可能として、アウトリーチ型支援の実現に繋げるための検証を実施するという試みは共通している。したがって、本レポートで解説する推進上のポイントは検証段階(本格導入よりも前の段階)を対象とする。

(1)目的の具体化

「目的の具体化」では、解決すべき問題を明らかにした上で、あるべき姿を言語化する。
解決すべき問題については、日々の業務や市民からの苦情などにより現場担当者が認識しているケースが多く、これらの「認識しているが未解決の問題」を洗い出し、問題の発生場所となっている業務や問題の発生理由などを整理する、といった深掘りを行うことで、問題の解像度が上がり、解決すべき問題が明確になる。
例えば、こどもデータ連携実証における目的が「児童虐待など、こどもに降りかかる問題を未然に防ぎ、被害を最小化する」ということであった場合、この目的を実現するために誰がいつ何を行えばよいのかといった具体的なイメージはしづらい。そのため、現場担当者へのヒアリングなどを通して詳細な問題を洗い出し、課題を整理することで、一段具体化した目的を設定することが必要となる。これによって、最終的には「保健所による相談対応、検診、訪問などの業務において、迅速に正確な情報収集を可能とすることで、潜在的に支援が必要なこどもや家庭を早期発見できるようにする」といった一段具体的な目的へと落とし込むことが可能となる。

(2)関係者の巻き込み

「関係者の巻き込み」では、特定の活動やプロジェクトにおいて、関連する人々や組織に積極的に参加していただけるよう働きかける。
自治体におけるデータ活用推進をデジタル化推進部門が起点となって取り組む場合、現場担当者の巻き込みが欠かせない。官公庁や自治体では縦割り組織となっている場合が多く、各組織の間に隔たりがあると協力が得づらいこともあり、慎重な巻き込みが必要となる。この組織の間に隔たりがあると協力が得づらい理由としては、「(1)現在の業務が忙しすぎて実証に割くリソース(人的、時間的)がない」、「(2)現在の慣れた業務のやり方が大きく変わる可能性があり、たとえ業務が効率化されるとしても抵抗感がある」、「(3)協力した後のメリットが何かわからない」ことが考えられる。そこで、そもそもなぜ、この取り組みが必要なのかといった目的の説明や協力依頼内容、協力することによるメリット・デメリット、協力期間などについて丁寧に説明することで、協力することへの納得感を持ってもらうことが、関係者の巻き込みでのポイントとなる。また、関係者が協力に対して慎重姿勢であることも多いため、新たな局面を迎える前に、丁寧な説明することが重要となる。

こどもデータ連携実証では、潜在的に支援が必要なこどもや家庭の支援に関与する現場担当者を対象に、「児童虐待など、こどもに降りかかる問題を未然に防ぎ、被害を最小化する」といった実証目的を説明し、実証を進めるにあたり、いつ、誰に、何を依頼したいか、可能な限り具体的に説明した上で、関係各位の疑問点や懸念点を解消しながら、提供いただくデータの種類や対象期間などの妥当性に納得感を持ってもらった。また、予測精度の向上やリスト化をして現場での要保護児童の探索や評価の負担軽減につながるといったメリットを提示しながら巻き込みを図った。
なお、提供してもらうデータの種類や対象期間などの妥当性に対して納得感を持ってもらうのにあたっては、データの種類が多いほど、様々な分析によって多様な結果を得られる可能性がある反面、本来のデータ分析における目的からの逸脱やデータ漏洩などのリスクが大きくなるといった観点から、必要十分のデータであることを示す必要がある。

(3)個人情報を含むデータの収集

「個人情報を含むデータの収集」では、目的を果たすために必要となるデータセットの洗い出し、個人情報を包含しているかの確認、(個人情報を包含している場合は)データの詳細な利用目的の整理、(データ連携が必要な場合は)データ提供組織からの了承の取得、といった段階を踏むこととなる。データ収集において詳細な利用目的の整理をする理由としては、個人情報保護の観点でデータの過剰取得をしない(不要な個人情報まで収集しない)ことが重要となるためである。このとき、過剰取得をしないことが重要であるのは、取得するデータが多いほどデータ漏洩やプライバシー侵害のリスクが大きくなるためである。ここでは、取り扱いが困難とされる個人情報を取り扱う場合の、詳細な利用目的の整理やデータ提供組織からの了承取得におけるポイントを説明する。

詳細な利用目的の整理について、そもそも自治体業務を遂行する上では個人情報の取り扱いには細心の注意が必要であり、自治体の各部署で自治体業務の遂行に必要なデータは何か、その利用目的は何かなどを整理している。実証事業の目的を果たすために新たなデータが必要になる場合でも、個人情報の利用目的の整理は必須となる。
データ利用組織がデータを保有していない場合、データを保有している他組織から連携してもらうことが必要となる。連携に際してデータ提供組織から了承を取得するにあたっては、個人情報保護法や個人情報保護法施行条例に準拠する必要がある。ただし、法律や条例に準拠していても関係者が情報漏洩や個人情報の連携可否(法的な解釈や連携方法など)に関する懸念を抱えたままでは了承を得ることは難しい。これらの懸念への対応策を提示して懸念を取り除いていくことが重要となる。
なお、抜け目のない検討のためには、利用目的の整理に着手する前に、個人情報の取り扱いに関する専門家(弁護士など)からアドバイスを得たり、専門機関(情報公開・個人情報保護運営審議会(※3)やJIPDEC(※4)など)から意見を得たりすることが有効である。

こどもデータ連携実証においては、まず潜在的に支援が必要なこどもや家庭を把握するために必要なデータセットを洗い出すことから着手した。データセットの中に個人情報が含まれるかを確認の上、個人情報が含まれる場合には、その利用目的について整理した。他組織で保有している健康診断の受診履歴など、データ利用組織において保有していないデータについては、データを保有する他組織からの連携が必要なため、詳細な利用目的の整理を行った。

(※1)

地方公共団体情報システム機構(202303),「地方公共団体におけるデータ利活用の推進に関する研究報告書」,(2024/5/28参照),総務省 情報流通行政局 地域通信振興課(令和4年6月),「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」,(2024/5/28参照),富士通株式会社,「AIを駆使して膨大なデータから介護予防に挑む」,(2024/5/28参照)

(※2)

日本電気株式会社,「神奈川発 AIが電話接触率の高い時間帯を予測し、国保料滞納者への催告を効率化」,(2024/5/28参照)

(※3)

行政機関の情報公開制度が適正に行われているか、行政機関による個人情報の取り扱いについて適正に保有・管理・利用がなされているかを、第三者の観点からチェックする審議機関。(参考:「情報公開・個人情報保護審議会」(総務省)、「日野市情報公開・個人情報保護運営審議会

(※4)

JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)とは、個人情報保護、情報セキュリティに関する認証制度の運営・普及、真正性(トラスト)に関する評価制度の運営、データの利用に関する産官学のニーズ調査・研究、IT施策の支援などを行う機関。(参考:『JIPDEC事業案内2023』)

前半のまとめ

本レポートでは自治体におけるデータ活用推進を7つのフェーズに分け、前半の3フェーズにおけるポイントを解説した。「(1)目的の具体化」においては、問題の洗い出しと深掘りを通じた解決すべき問題の明確化、「(2)関係者の巻き込み」においては、協力を得やすくするための目的や協力内容などに関する丁寧な説明、「(3)データ収集における個人情報の取り扱い」においては、専門家や専門機関からのアドバイスを踏まえた個人情報の利用目的の整理が重要となる。
後半では「(4)施策および評価方法の検討」、「(5)データ分析の実施」、「(6)分析結果を用いた施策および評価の実施」、「(7)取り組みの改善」について解説する。

後半はこちら:自治体におけるデータ活用実証の流れとそのポイント(後半)

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  • 本記事は2024年6月6日に経営研レポート(株式会社NTTデータ経営研究所)に公開された内容を転載しています。
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