1.システム開発プロジェクトを成功させることの重要性と課題
システム開発プロジェクトの成功は、企業等組織の競争力を維持、向上するとともに、顧客満足度や企業価値を高めるために極めて重要です。
仮にプロジェクトでのQCD(品質、コスト、納期)が順守できない場合、次のような大きな影響が生じることが考えられます。
- システム利用ユーザや事業に及ぼすマイナスの影響
- 従業員などに生じる膨大な追加稼働、心身の疲弊
- 組織の利益毀損、財務への影響
- 組織の信頼低下や新たな受注機会の損失
まさに、現代はシステム=経営そのものといっても過言ではありません。
しかし、下表1に例示するような課題を抱えるケースが多く見受けられる実態があります。
表1:よくある課題状況
2.NTTデータでの取組み、仕組み整備
NTTデータでは、過去に複数の大規模不採算プロジェクトが発生し、それが決算下方修正に至る事態を招いたことがありました。この要因として、無意識のうちに受注やプロジェクトの進捗が優先となっていた姿勢や、プロジェクトの計画見極めの甘さなどがあったと分析しています。
これらの反省を踏まえ、再発防止策としてプロジェクト審査委員会(PJ審査委員会)を中核とする組織的なITガバナンスの仕組みを整備し、プロジェクトの成功に向けた取組みを推進しています。
その主な仕組みの概略は図1のとおりで、第三者の有識者が受注時の計画などを客観的に判断し、必要に応じてプロジェクト進行の停止や軌道修正を行っていくことを主な対策コンセプトとしています。
図1:NTTデータにおける主な組織的ITガバナンスの施策概要
これらの仕組み整備や取組みを通じて、NTTデータではシステム開発プロジェクトの成功確度を高めるとともに、図2のとおり売上高不採算比率の低減という成果にも結び付けています。
図2:売上高不採算比率の推移
3.ITガバナンス強化の仕組み導入支援
NTTデータでの取組みを通じて得た経験や知見をアセットとして活用し、お客さま組織のITガバナンス強化や仕組み導入などを支援しています。その実現にはさまざまな進め方がありますが、お客さま組織の課題や状況に応じて最適なアプローチを選択しています。
例:
・開発工程全体を見据えた仕組み整備現状を分析したうえで、開発開始時/開発中/開発終了時など、主要なマイルストーンにおける対策を導入し、開発工程全体を通じたITガバナンスの仕組みを整備します。
・試行からの仕組み導入NTTデータでの施策をもとにITガバナンス強化策を試行導入。試行状況を踏まえて調整を行い、仕組み化します。
・特定案件のフォローアップを踏まえた仕組みの見直しITガバナンスの仕組みはすでに存在するものの、遂行状況に注意を要するプロジェクトがある場合、プロジェクト状況を確認・評価し、第三者による所見や推奨対策の助言を通じて改善をはかります。同時に、ITガバナンスの仕組みにおける改善点の有無を考察し、必要に応じて見直しを行います。
なお、支援実施にあたって重要視するのは主に次のような点で、ITガバナンスを組織的に構築していくにあたってのキーポイントと考えています。
(1)経営層のコミットメントと参画
経営としてのリスク管理とともに適時に対策や予防策を講じることができるようにしておくことが重要です。特に、リスク状況が経営層へタイムリーに報告される仕組みが必要です。
(2)第三者目線での客観的な評価
プロジェクトの実行に近い立場の人ほど状況を良く見せようとする心理が働き、冷静な判断が難しくなる傾向が見受けられます。第三者が状況や計画等を確認し、客観的な評価や判断が働く仕組み作りが重要です。
(3)推進組織の権限確保
重要なリスク提示を行っても、受注やプロジェクト実行に向けたバイアスが強く、リスクは認識しながらも黙殺され、結果的にプロジェクトの失敗につながっていくことが見受けられます。このような場合に対応するため、検討や計画が不十分なプロジェクトの実行を阻止する権限が必要です。
このようなポイントを踏まえながら、ITガバナンスを組織的に強化し、システム開発プロジェクトの成功を高める支援に取り組んでいます。
4.ITガバナンス強化の取組みを踏まえた組織文化の変革
ITガバナンス強化支援の取組みを通じて、お客さま組織文化の変革にもチャレンジしています。
組織文化の変革推進により、実ケースとして次のような好影響を生み出しています。
(1)品質重視の態勢強化
ITガバナンスや品質保証の推進組織を新設し、システム開発プロジェクト成功に向けた対策を強化しました。品質保証を更に重視し、組織的に取り組む意思を組織内外へ明示することで、失敗プロジェクトを減らし、品質を重視する組織文化を醸成しています。
(2)経営層への速やかなエスカレーション態勢
第三者組織による日常的なプロジェクトモニタリング態勢を整備しました。品質不足や仕様変更多発などの課題が生じる案件が出てきましたが、経営層への速やかなエスカレーションとともに強化対策を実行しました。特に、ネガティブな点が上層部の耳に入ることのないようプロジェクトの現場だけで問題を留めようとする対応を避けました。組織的なサポートのもと速やかに対策を実行し、立て直しを進めた結果、プロジェクトを完遂することに成功しています。
(3)プロジェクト推進組織+第三者組織の確認と支援等の連携による組織力強化
プロジェクト開始時や各工程のマイルストーン、定期タイミングなどにおいて、プロジェクト推進組織と第三者組織が共同でプロジェクト実態状況を可視化し、Wチェック(二重の確認)の実施を標準化しました。この連携によって、プロジェクトの対応力だけでなく、組織全体の力を強化しています。
システム開発プロジェクト成功に向けて、ITガバナンス強化は重要なポイントであり、その取組みが組織内での化学反応を呼び起こし、組織文化の変革を生み出す効果も期待できます。
これまでの取組みを通じた考察を以下にまとめます。
野球投手の防御率と同様に、年間を通じて失敗プロジェクトをゼロにすることは現実的に難しいかもしれません。しかし重要なのは経営上コントロール可能な範囲に抑えることです。
そのためには、ITガバナンスの仕組みを組織的に整備していくことが有効であり、まず必要なことは経営としての取組み意志、コンセンサスといえます。
経営の取組み意志を基盤として、ITガバナンス強化に組織的に取組むことは、組織文化の変革も生み出し、プロジェクトの成功確度を高めていく重要ポイントになると考えます。
システム開発の成功に向けた仕組み作りや組織課題対応にあたり、本稿が検討のご参考になれば幸甚です。
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