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2022.2.18業界トレンド/展望

SDGs時代のパートナーアライアンス像 ~PA for Good~

企業同士が協業してビジネスを推進する『PA(Partner Alliance:パートナーアライアンス)』。最近はビジネスシーンだけでなく、さまざまなステークホルダーが一体となって大きな社会価値の創出に取り組む文脈でも使われる。今回はNTTデータとデル・テクノロジーズの戦略的PAについて対談を実施。SDGs時代のパートナーシップの在り方がどのように変化しているのか、事例をもとに紹介する。
目次

NTTデータとデル・テクノロジーズのパートナーアライアンス戦略

「SDGs時代のパートナーアライアンス像」とは何か。モデレーターを務めるNTTデータ サステナビリティ担当の金田 晃一は、「SDGs時代には、パートナーアライアンスにもサステナビリティの文脈が入ってくる」と口火を切った。「企業同士の協力で利益だけを求めるのではなく、お互いの企業、そして社会の持続性も一緒に話し合っていく時代が始まっている」。

これからのパートナーアライアンスを語るためには、まず現状を理解する必要がある。NTTデータはどのような視点でパートナーアライアンスを進めているのか。

NTTデータ パートナーアライアンス推進室 室長の有村忠朗は、「NTTデータのパートナーアライアンスが掲げるミッションは、グローバルITパートナーとのエコシステムを構築すること。それをNTTデータグループ グローバル全体での事業貢献につなげていきます」と語り、具体的な取り組みを3つ示した。

図1:パートナーアライアンス推進室の取り組み

図1:パートナーアライアンス推進室の取り組み

1つ目は、パートナーアライアンス戦略だ。グローバル企業において、会社全体を俯瞰した戦略策定と実行を行い、ビジネスを支援。グローバル連携や事業連携の支援、経営幹部間のエンゲージマネジメントを行う。

2つ目は、パートナー連携によるケイパビリティ向上だ。グローバル各社と連携して各地域でさまざまな技術を持ったパートナーと技術ケイパビリティを強化。認定技術者育成や共同ソリューション開発を進めている。

3つ目は、先端企業の発掘や調査活動だ。市場動向を追いながら、次世代の新しい技術パートナーを探し当てる。これを「パートナーエコシステム」と名付け、エコシステムを構築する。

「特に、新たな技術パートナー発掘には力を入れています。デジタル時代、さまざまな技術があらゆる場所で生まれている。チャレンジングなテクノロジーをしっかりと把握し、早期にアライアンスを組むのは、全社にとって必要な動きです」(有村)

続いて、NTTデータと戦略的パートナーアライアンスを組むデル・テクノロジーズの現状についてご紹介する。
デル・テクノロジーズ株式会社 ソーシャルインパクト ジャパンリードの松本笑美氏が語ったのは、デル・テクノロジーズが、グローバルレベルで共有・展開している目的とVisionだ。

「デル・テクノロジーズの大きなテーマは、<人類の進歩をけん引するテクノロジーを創出する>こと。あらゆる戦略において、この目的が埋め込まれています。グローバルアライアンスにおいても、お客さまのビジネス、あるいは社会にとって最適な変革をもたらすテクノロジーを提供することで、真のパートナーになりたいと考えています」(松本氏)

図2:デル・テクノロジーズ グローバルアライアンスの取り組み

図2:デル・テクノロジーズ グローバルアライアンスの取り組み

この真のパートナーを目指す上で、「アライアンスパートナーの変革=DXに貢献する」というテーマを掲げたデル・テクノロジーズ。「Infrastructure&Multi Cloud(インストラクチャーとマルチクラウド)」「Digital Workplace(デジタル ワークプレイス)」「Applications&Data(アプリケーションとデータ)」「Secure Everything(セキュア エブリシング)」の4つをフォーカスエリアとして設定したという。

デジタル化という環境変化でパートナーアライアンスの重要性が高まる

NTTデータ、そしてデル・テクノロジーズの今回のようなパートナーアライアンス戦略について、サステナビリティ領域が専門のデロイト トーマツ コンサルティング モニター デロイト 山田太雲シニアスペシャリストリードは、大所高所から現在のトレンドについて、こう話す。

「1社では足りない能力を他社との連携で補い、コスト削減や売上増につなげていく。これが、経営戦略におけるパートナーアライアンスの位置づけです」。

そして、例としてP&Gが取り組んだオープンイノベーションを挙げた。
P&Gは2000年に、R&Dやイノベーションのアイデアの50パーセントを社外から調達する目標を掲げた。その結果、2007年頃にかけて、研究開発費を維持しつつ、ベンチャー企業と連携をしながら、売上倍増を達成。アイデア数が3倍に増え、研究開発期間も短縮させるベネフィットも生まれたという。

山田氏は「デジタル化によって、従来と異なるプレーヤーが参入してライバルになったり、ディスラプター(破壊的企業)によって足元をすくわれたりするリスクが大きくなりました。一方で、自社が持っているケイパビリティを使って新しい市場に入っていくことも可能になっている。そういった環境変化により、パートナーアライアンスの重要性が高まっていると思います」と語る。その上で、現状にこう苦言を呈した。

「多くの日本企業は長年に渡り培ってきた内製化へこだわりを拭い切れていません。一昔前のオープンイノベーションブームも差別化ができなかったり、目標や戦い方を練りきれなかったりしたことで、結果に結びつきませんでした。その失敗を繰り返さないためにも、パートナーアライアンス戦略にどういった旗印を掲げるのかが重要になります。そのひとつに、サステナビリティが入ってくるのではないでしょうか」。

(左から NTTデータ 金田 晃一、デロイト トーマツ コンサルティング 山田 太雲氏、デル・テクノロジーズ 松本 笑美氏、NTTデータ 有村 忠朗)

(左から NTTデータ 金田 晃一、デロイト トーマツ コンサルティング 山田 太雲氏、デル・テクノロジーズ 松本 笑美氏、NTTデータ 有村 忠朗)

パートナーアライアンスの強化にはトップ層のコミュニケーションが重要

ここからは、サステナビリティ要素が入ることで、今後のパートナーアライアンスがどう変化するのかという話題に移る。NTTデータとデル・テクノロジーズは、ビジネスでのシナジーだけでなく、サステナビリティという文脈でもパートナーアライアンスを進めている。

有村は、「パートナーアライアンスを強化するには、トップ層同士が会合を続けることが必要です。デル・テクノロジーズとNTTデータも双方のトップ層が定期的に意見交換する場を設けていますが、サステナビリティが話題の中心になった会合があり、そこを起点として、協働に向けた議論が始まっています」ときっかけを振り返る。

実は、NTTデータとデル・テクノロジーズの関係は深い。2016年、NTTデータがアメリカ本国のデル・サービス部門を子会社化したことに端を発する。これをきっかけに多くの協業が始まり、アメリカでは自治体クラウドを通じて公共分野に参入。日本では社会インフラ領域で両社同時にサービスを提供している。またアジア地区では、共同でクラウド領域のワーキンググループを立ち上げたばかりだという。

では現状、具体的にどういったサステナビリティを見据えたパートナーアライアンスが進んでいるのか。「軸は『ビジネス』『バリューチェーン・コミュニケーション』『社会貢献活動』の3本。それぞれに、実施中、実施に向けて議論中、協働の可能性を検討中、という時間軸があります」と松本氏。すでに環境関連で5つ、社会関連で4つ、コミュニケーション関連で3つの協働案件があるという。

図3:サステナビリティ分野での協業

図3:サステナビリティ分野での協業

「例えば、実施済/実施中の協働では『Bi-weekly創発会議』という会議を中心にして、サステナビリティに対するコミットメントをメッセージングするコ・ブランディングを行っています。実施に向け協議中の協働では、『NPOのIT利活用促進プロジェクト』があります。日本にはNPOやNGOにITの利活用を促すテクノロジーオフィサーが少ないので、テクノロジストの開発やサポートできないか協議をしています。可能性を検討中の協働では、NTTデータのAIソリューションを社会に活用するため、『AIによる医療業務の効率化』が進んでいます」(松本氏)

『IOWNグローバルフォーラム』は複数の企業が参画するパートナーアライアンス

NTTデータとデル・テクノロジーズの事例を受けて山田氏は、「サステナビリティ領域においては、本気であればあるほどパートナーシップやアライアンスを組まざるを得ない状況。多くの企業がそれに気づいて取り組みを進めています」と語り、海外を含めた事例を紹介した。

1つ目は、「メーカー大手を中心に発足した異業種間のパートナーシップを通じた循環型サプライチェーン構築へのコミットメント」、いわゆるサーキュラーエコノミーについてだ。

「世界では、使い捨てプラスチックの流通を禁止しようという動きが高まっていますが、一社で対応するにはコスト負担が大きすぎます。そこで、アメリカのジョイントベンチャー企業『LOOP』が一般消費財容器の回収・再利用をサービス化するプラットフォーム構築。ここにユニリーバやネスレ、P&G、コカ・コーラ、テラサイクルといった企業が参加してパートナーアライアンスを組んでいます」(山田氏)

次の事例は、「脱炭素トランジションにおける大量失業などの社会的副作用の抑制(Just Transition)に向けた、企業間パートナーシップの発足」、カーボンニュートラルに関わる取り組みだ。

図4:サステナビリティ志向の企業間PA事例

図4:サステナビリティ志向の企業間PA事例

「カーボンニュートラルは、やり方を間違えると多くの社会的弊害を生んでしまいかねない。世界ではそんな認識が高まりつつあります。そういった背景もあり、ESG投資では、再生可能エネルギーの導入において人権侵害を引き起こさないことを投資判断に入れる動きが出てきています。企業も対応しなくてはいけないのですが、1社では難しい。そこで、再生可能エネルギーを供給する企業は労働者の基本的人権を守ることを誓い、また、購入する企業は基本的人権を守っている供給先から調達することを誓うといったパートナーシップを複数の企業同士で結びました」(山田氏)

最後は、日本の事例を紹介する。光通信の技術を基盤にした次世代ネットワーク情報処理基盤『IOWN』に関する事例だ。

「NTTグループは『IWON』の実現に向けて、ユーザー企業も巻き込む形で『IOWNグローバルフォーラム』を立ち上げています。複数のパートナーが参画する巨大なコンソーシアムのような形ですが、面白いのは、IOWNの技術ベースは、さまざまなユースケースが語られていること。いろいろな会社がサステナビリティというトピックに対して議論を重ねていくという新しい流れを感じます」(山田氏)

現段階では、さまざまなユースケースを構築することでIOWNの開発に注力。NTTグループは、「実現すればSDGsの達成にも貢献できる」と標榜している。

「今後、デジタル化が進みクラウドサービスなどが普及すれば、データセンターなどの電力消費量も増加し続け、再生可能エネルギーでは賄いきれない可能性がある。EUなどでは規制の議論が進んでいますが、こういったルール形成の部分で、IOWNグローバルフォーラムがプレーヤーとして能動的に関与し、IWONが必要とされる通信の世界をつくることができるのではないでしょうか」(山田氏)

エゴシステムからエコシステムへ。ビジネスで社会課題を解決

パートナーアライアンスの将来像について山田氏は、日本企業は戦い方を「“エゴ”システムから“エコ”システムに変化させるべき」と提言した。エゴシステムでは、取引先との関係は自社第一、他社との関係は競合となる。エコシステムは、取引先とも他社とも大義の下に協調する関係だ。エゴシステムはターゲット顧客の課題解決が目的だが、エコシステムではビジネスでの社会課題解決により市場を創造し、拡大していくという。

「白物家電を例に取ると、戦後の日本では、機能や品質、価格で競合優位性を構築していました。そして、問題に対しては事後的な対応が目立ちます。冷蔵庫のフロンガスなどが社会的な問題になると、行政が規制を掛けてから取り組む。言われてから実行するのが、これまでのやり方でした。これらはエゴシステムに当たります」(山田氏)

しかしSDGsの達成に向けて企業がビジネスを通じて社会貢献するエコシステムを目指すなら、今のやり方を見直す必要がある。山田氏は「これまで社会に押し付けてきた企業活動に起因する外部不経済性や環境破壊、人権侵害などについて、自ら是正を織り込んでいく必要があります」と指摘する。

山田氏は、「多くの企業がサステナビリティに無関心のなか、1社だけが理想を追い求めても、経済合理性のないやせ我慢経営になりがちです。それを踏まえてサステナビリティを尊ぶ市場を作り上げなくてはならない」と話し、こう続ける。

「市場を作り上げるのは1社だけでは無理です。政府や自治体にルールを作ってもらったり、NGOなどに世論を盛り上げてもらったりする必要があるでしょう。さまざまな方々と協力しながら新しい市場をつくり、そのなかで勝てる企業になる必要があります。そこで参考になるのが、ヨーロッパ最大の航空会社グループである『エールフランス-KLM』の事例でしょう」(山田氏)

図5:クロスセクターPAの事例

図5:クロスセクターPAの事例

航空業界において、ジェット燃料の使用は脱炭素に向けた大きな問題のひとつだ。ソリューションのひとつとしてバイオ燃料が考えられるが、森林伐採や農地をバイオ燃料の原料生産に振り分けることで食料価格が高騰するといった問題も危惧されている。そこで、国連機関や各国政府、航空会社といった利害関係者によって『持続可能なバイオ燃料のための円卓会議(RSB)』が実施され、バイオ燃料の国際基準も制定された。

エールフランス-KLMはここに参画すると同時に、国際基準に適合するバイオ燃料を開発・販売する子会社「スカイエナジー」を設立。これまで競合関係にあったエアラインにもバイオ燃料を販売するビジネスを展開している。

「この事例は、社会が求めるサステナブルな商品を見極め、公共性の高い場で正統性のあるルールを作る。そして、ルールに叶う商品を売っていくという流れを体現しています。ルール形成は、サステナビリティ領域では戦い方のスタイルのひとつとして確立しつつあります。ここで必要となるのは、社会の課題を解決できるような大義力。そして、新しい市場のルールを形成できる秩序形成力です」(山田氏)

大義力と柔軟性で複数社が集まるパートナーアライアンスを推し進める

山田氏の話を受けて、松本氏は「大義力」に共感を示しつつ「柔軟性」というキーワードも用いて、将来のパートナーアライアンスの在り方について以下のように語った。

「SDGsを含めたパートナーアライアンスでは、大義力がなければ異なる意見を集約できません。加えて、柔軟性も大事だと考えます。柔軟性がなければ両面の違い、相反する話をうまく進めていくことは難しい。柔軟性があれば、異なる意見のどちらも守りながら、進めることができます」(松本氏)

有村は、「2社間だけではなく、複数のステークホルダーが集まるところで社会問題を解決する議論を進める新しい流れが生まれています。そこでのパートナーアライアンスでは、エコシステムをどうデザインするかが非常に大切です。ビジネスとサステナビリティの敷居が無くなるなか、どういったパートナーアライアンスが最適解なのか、すぐに答えを出すのは難しい。しかし、議論を交わして行くことが重要なのは間違いない。今後も実践し続けていきたいと思います」と述べた。

現在のパートナーアライアンスは企業同士がスタート地点になっているが、これからは大義の下、マルチセクターが協働して社会価値を創造し、そのうえで、企業は自らの企業価値を高めていくことが重要となる。金田は、マルチステークホルダー間の協働だからこそ「環境にポジティブな影響を与えても社会にネガティブな影響を与えないかなど多様な視点でサステナブルな社会的アクションについて議論できる一方、企業としてはルール形成の段階から戦略的にアライアンスに参画することで、より大きな新市場を構想できる」とまとめた。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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