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2021.12.23業界トレンド/展望

ESG経営とデジタル・フィランソロピーの将来
~デル・テクノロジーズ×NTTデータ~

NTTデータは、デジタルの力を使って事業を通じた社会課題の解決を目指す「デジタル・ソリューション」だけではなく、社会貢献活動を通じて課題解決を実現する「デジタル・フィランソロピー」の取り組みを進めている。他方、大きな社会課題に対峙する際に、一社単独の取り組みでは限界となる場面があり、さまざまなステークホルダーとの協業の可能性も常に模索している。本記事では、すでに複数の協働事業を展開しているデル・テクノロジーズと、SDGs時代のESG経営とデジタル・フィランソロピーの将来について対談した模様を紹介する。

NTT DATA Innovation Conference 2022において本記事に関連する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。

目次

ESG経営における両社それぞれの取り組み

――まずは両者が目指すESG経営についてお話しください。

総務部 サステナビリティ担当 シニア・スペシャリスト 金田 晃一

総務部 サステナビリティ担当 シニア・スペシャリスト
金田 晃一

総務部 サステナビリティ担当 シニア・スペシャリスト 金田 晃一(以下、金田) 当社の企業理念やグループビジョンの解説文には、「豊かで調和のとれた社会の実現」や「社会課題の解決」が記され、社会との関係が色濃く表現されています。このことからも、常に社会を意識してビジネスをしている企業であることがおわかりいただけると思います。2019年度からの現中期経営計画ではこの考え方を経営により統合させていこうということで、ESG経営を明確に打ち出しました。数ある社会課題の中から12のESG重要課題(マテリアリティ)を選び出し、KPIを設定して取り組んでいます。ESG経営を通じてSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献し、それにより当社自身の企業価値も高めていくことを目指して施策を進めています。
このようなESGの経営統合を進める中で、マイケル・デル会長兼CEOがESGやサステナビリティの分野でイニシアティブを発揮され、日本企業にはなかなかできないブレイクスルーも実現していらっしゃいます。そんなデル・テクノロジーズからいろいろ学びたい、というのが対談をお願いした理由です。

デル・テクノロジーズ株式会社 上席執行役員 NTT営業統括本部長 兼 テレコム営業統括本部長 日下 幸徳 氏

デル・テクノロジーズ株式会社 上席執行役員 NTT営業統括本部長 兼 テレコム営業統括本部長
日下 幸徳 氏

デル・テクノロジーズ 日下 幸徳 氏(以下、日下) ありがとうございます。まずESG経営については、マイケル・デル自身が世界経済フォーラム内の「CEO気候リーダー同盟」に参加するなど、パーソナルにも強くコミットしています。また、デル・テクノロジーズ全体としては「ムーンショットゴール」として、2030年までに達成すべき目標を「サステナビリティの促進」と「多様性とインクルージョンの醸成」、「社会貢献と生活の変革」、「倫理とプライバシーの順守」の4つの分野に設定し、その実行を約束しています。進捗状況についてもESGレポートを作成し、毎年詳細に公表しています。このように期限と目標値、進捗状況をつぶさに公表している企業はまだそれほど多くないかもしれません。
また、ESG経営ではステークホルダー・エンゲージメントをはじめ、サプライヤーやパートナー、非営利団体(NPO)、公共部門の組織と連携を深めていき、成果を上げることが重要です。とくに昨今は、以前より明らかにESG経営の優先順位が高まっており、同じ方向性を持った方々とともに推進していくことを重要なテーマと考えています。中でもNTTデータとは、定期的な意見交換の場でCSRやダイバーシティ活動に関する情報共有を行い、当社のESGの取り組みについてご意見を頂くこともあります。こういったご意見をきちんとアクションに反映させていくことが、ソーシャルインパクト(社会的影響力)の推進につながると考えています。

――デル・テクノロジーズのESG経営における数々の取り組みについて、同じくESG経営に取り組む立場から感銘を受けた部分を教えてください。

金田 やはり、「ムーンショットゴール」と「ステークホルダー・エンゲージメント」の2点です。まず前者については、長期目標を設定し、バックキャストした上でそれに向かって着実に活動を進めていく。しかも単なる長期目標ではなく、非常に野心的なゴールを設定されています。将来についてコミットすることを躊躇してしまう日本企業が多い中、これは当社自身もしっかりと学びたいポイントです。
後者については、日本企業も最近こそESG投資家やNPO、あるいは社員とのエンゲージメントに取り組んではいますが、デル・テクノロジーズが自社のESG経営について、投資家やNPOからだけでなく、当社のようなクライアントからの声を聞くのはとてもユニークなアプローチだと思います。

デル・テクノロジーズ株式会社 ソーシャルインパクト ジャパンリード 松本 笑美 氏

デル・テクノロジーズ株式会社 ソーシャルインパクト ジャパンリード
松本 笑美 氏

デル・テクノロジーズ 松本 笑美 氏(以下、松本) 私たちの企業フィロソフィには、お客様第一という考えと、人類の進化に貢献するIT企業でありたいというテーマがあり、それがあらゆるところに埋め込まれています。サステナビリティにおいても、お客様への貢献、そして社会課題の解決を両輪として訴求していくことが、持続可能性につながると考えています。ですから、お客様の声を聞き、進化の実現に向けてコミットすることは、当社にとって“自分たちの性質を表す”ことになります。

インドを舞台に展開されるデジタル・フィランソロピー

――両社の共通項として「デジタル・フィランソロピー」(デジタルを活用し、社会価値と企業価値の創出を目指す社会貢献活動)があります。まずは、NTTデータがインドで実施している結核を対象とした「AI画像診断アクセス向上プロジェクト」の詳細、及びNTTデータとして活かしていきたいソリューションや技術的強みについて教えてください。

デジタル・フィランソロピー

デジタル・フィランソロピー

技術革新統括本部 技術開発本部長 雨宮 俊一

技術革新統括本部 技術開発本部長
雨宮 俊一

技術革新統括本部 技術開発本部長 雨宮 俊一(以下、雨宮) インドでの取り組みは、当社だけでなくマイクロソフトや当社が出資している現地のスタートアップ企業・DeepTekと連携したプロジェクトです。インド南東部のチェンナイで、医療画像AI技術を使い、10万人分の結核患者のスクリーニングを実施しています。結核は日本では深刻な状態ではありませんが、インドではまだ死因のトップ10に入っており、年間約40万人が亡くなっている感染症です。
同国での課題は、胸部X線写真を見て結核の診断を行う放射線科医が足りないこと。結核患者のスクリーニングをしようにも医療リソースが追いついていません。そこで当社のアイデアとしては、医療アクセスが悪い地域にX線検診車を派遣し、AIで結核の疑いがあるかどうか患者をスクリーニングすることで、より多くの人に医療のアクセシビリティを提供することが目的です。技術的には、AIで結核を発見する精度が高いことに加え、診断の所見もAI技術で自動的に書くため、放射線科医が逼迫している状況をサポートできることが強みとなっています。実際問題としてはAIの画像診断だけに頼らず、疑わしい人を抽出して検査を行うワークフローを地元政府と連携して作り上げていく点が特徴です。

――次にデル・テクノロジーズのインドにおける取り組み「Digital LifeCare」について教えてください。

松本 「Digital LifeCare」はもともと2013年後半に当社技術部門の女性社員とその仲間から始まったプロジェクトです。インドには医師のいない農村地区が数多くありますが、予防医学の情報が使えれば、糖尿病や高血圧、がんといった非感染性疾患(NCD)に関して病院に行く・行かないの判断ができるのではないかということで、まずは6人でアプリを開発しました。その後このアプリを使いたいというNPOが増えていき、2017年までに複数の州で導入されるなど取り組みが広がったため、プロジェクトとしても大きくなった経緯があります。いまはインドのTata Trustsとインド政府が国全体に広げるプロジェクトとして動いており、このプロジェクトに当社の約40人のチームが参加しています。当社の役割は、アプリを使うベースとなるデータセンターの運営です。

デル・テクノロジーズ株式会社 NTT営業統括本部 グローバルアライアンスディレクター 岡本 謙 氏

デル・テクノロジーズ株式会社 NTT営業統括本部 グローバルアライアンスディレクター
岡本 謙 氏

デル・テクノロジーズ 岡本 謙 氏(以下、岡本) いま、NTTデータとDeepTek、そしてDell Indiaのヘルスケアチームとデジタルライフケア分野で協業ができないか、議論を開始したところです。9月17日にキックオフミーティングを行い、NTTデータ/DeepTekと当社が持っている強みを活かし、NTTデータの医療画像AI技術の取り組みと当社のインドにおける「Digital LifeCare」のプログラムでGTM(Go-to-Market)、CSR双方の観点で連携できないか、協議を進めています。

補完関係を見いだし、パートナーとして進む意義

――両社が同じインドをターゲットにした背景にはどういったことがあるのでしょうか。

雨宮 もともとDeepTekは、2007年に当社がオフショア拠点として買収した会社の創業者であったAjit Patilが、2018年にヘルスケアAIの専門会社として新たに立ち上げた企業です。当社とAjitは技術者同士のリレーションが続いており、Ajitに経営能力やインキュベーション能力があることはわかっていたので、当社が市場として注目しているヘルスケアAIでAjitと連携するのは自然の流れでした。結核はインド以外に当社のアジア太平洋での重点国であるインドネシアやフィリピンでも深刻な感染症であるため、まずはインドで必要な技術的要件や放射線科医に使ってもらえる要件を明らかにし、他国への展開を図っていきたいと考えています。

金田 「Digital LifeCare」の話を最初に聞いたとき、インドという場所やヘルスケアという分野が共通している一方で、当社は感染症、デル・テクノロジーズは非感染症と、対象とする疾病が異なることに気づきました。ヘルスケア分野で連携した社会貢献プログラムを展開できれば、インドの方々は、感染症と非感染症をカバーした診断サービスを受けられるかもしれません。両社の連携によって、SDGs時代に求められるコレクティブなソーシャルインパクトが創出されるイメージを持ちました。

岡本 以前からNTTデータとデル・テクノロジーズはインドで別々に社会貢献活動を始めていたのに加え、2019年にはシンガポールでも共同で医療画像AI技術のショーケースを立ち上げていましたし、その後アジア地域でのジョイントGTMを始めていたので、今回インドにおける協業の可能性について議論を開始したのは偶然ではなく、必然だったと思います。また、両社が協力することで、NTTデータ/DeepTekは非感染症のプログラムに参画でき、デル・テクノロジーズは革新的なソリューションである医療画像AIをポートフォリオに加え、本取り組みの価値を格段に上げることができます。それがインド及びアジア全体の社会への大きな貢献につながると信じています。

松本 NTTデータと当社の間には複数の協働プロジェクトが動いています。同じテーマであっても、一歩踏み入れると取り組みにはそれぞれの特徴があり、共通事項もあれば違う部分もありますが、そこに補完関係を見いだせると、一社で実現できないことにもパートナーとして組むことで実現できてしまうものがあることがわかります。
例えば今年、デル女性起業家ネットワーク(DWEN)とEY Japanが共同で、女性起業家育成プロジェクトを立ち上げました。メンタリングとピッチ機会の提供によりビジネス育成のサポートをするのですが、そのピッチイベントに審査員メンバーとしてNTTデータから金田様と技術革新統括本部の飯塚真也様をお招きし、ソーシャル・ITの観点からアドバイスを頂きました。まだまだ女性起業家は少ない中、デル・テクノロジーズは女性起業家の機会提供、NTTデータはアイデアに対するソーシャルと技術分野の専門的コメントで補完関係を高め、結果として日本経済の支援につながると考えています。

サステナビリティ分野での協働プログラム

雨宮 補完関係の点でいえば、デル・テクノロジーズはハードウェアに強みがあり、病院にも医療画像蓄積のためにデル・テクノロジーズのストレージや高精細な医療画像をレビューするためのワークステーションが導入されています。そこに当社のAI技術を組み合わせることで、より多くの病院で働く人や放射線科医の業務を効率化できる可能性が広がると思っています。

コラボレーションを深めて協業エリアをさらに広げる

――課題が大きければ大きいほど一社単独での取り組みでは解決が難しく、コレクティブ・アクションが必要となります。とくに日本社会の課題解決に向け、コラボレーションを通じてどのようなアプローチが考えられるのでしょうか。

雨宮 NTTデータは、信頼をつむぎ、ひとりひとりの幸せと社会の豊かさを実現する「Smarter Society」という将来の社会ビジョンをこの夏に発表しています。ポイントは、生活者、企業、行政というさまざまなステークホルダーが信頼関係に基づき連携し、データ活用によって生活者のWell-Beingを実現していくことです。一例として、日本政府が掲げた2050年カーボンニュートラルという高い目標を実現するには、企業活動の川上や川下も含めたサプライチェーン全体での脱炭素に貢献する取り組みが欠かせません。原材料の調達から消費者の手に渡り廃棄・回収するまでのトレーサビリティや、各サプライチェーンのCO2排出量の可視化などが求められますが、この実現には企業や組織の壁を越えたデータ連携・データ活用が技術として大事になると思っています。

岡本 データ活用については、当社で昨年「デジタルトランスフォーメーションインデックス」の調査結果を発表しました。グローバルレベルではDXを導入している企業はかなり増えていますが、日本ではまだデジタルを評価している段階の企業が多いという状況になっています。NTTデータと当社が協業することで、評価から導入に向かう営みを、日本社会全体で加速できると考えています。

デル・テクノロジーズの記者会見資料「Digital Transformation Index調査結果」より抜粋。

デル・テクノロジーズの記者会見資料「Digital Transformation Index調査結果」より抜粋。

日下 NTTグループとはさまざまなプロジェクトを実施していますが、その中の一つに、米ラスベガスにおけるスマートシティの取り組みでの協働事例があります。NTTデータを中心とするNTTグループの技術と当社のテクノロジー、VMware社のソフトウェア技術などを組み合わせ、スマートシティのソリューションを提供しています。

金田 コレクティブ・アクションの今後の展望ですが、ここまでは企業同士の協業・協働というお話が中心でしたが、社員同士のコラボレーションという切り口にも大いに可能性があると思います。当社はESG重要課題の中に「IT教育の推進」を掲げており、「STO(Social Technology Officer)創出プロジェクト」への支援を継続しています。これは、NPOのIT利活用をサポートすることで社会課題の解決に役立ててもらうプロジェクトですが、この活動に社員がプロボノ活動で関わっています。企業としての資金的な支援だけでなく、社員がプロジェクトに共感し、ITの強みやプロジェクトマネジメント力、デザイン思考力などを活かして現場のNPOをサポートしています。デル・テクノロジーズも市民社会によるIT利活用を支援していると伺っていますが、この辺りでもご一緒できると嬉しいです。

松本 当社でもプロボノには以前から取り組んでいましたが、今年から大々的に「Tech Pro Bono」というプロジェクトをグローバルで開始しました。パソコンの使い方という点では南米やアフリカなどで、コンテナ内で太陽光を利用し、放課後の学生たちにパソコンを利用して勉強する機会提供のプログラムを用意していました。今後「STO創出プロジェクト」においてNTTデータと協力し、良いプロジェクトが立ち上げられるのではないかと期待しています。

金田 お話を聞けば聞くほど、現時点で動いている協働事業以外にも新しい接点をこれからも発見できる気がしています。

日下 社員同士のコラボレーションという点で、当社は2030年までにテクノロジーを通じて1,000以上のNPO・NGOのDXをお手伝いしていこうという目標を設定しており、同時に2030年までに75%以上の社員がボランティアに参画することも目標値に挙げています。まさに、会社同士の取り組みから社員同士の取り組みまで発展させていくことができれば、コラボレーションはもっと広がっていくだろうと、いま話を聞いていて感じました。
今日の対談を通じ、NTTデータとデル・テクノロジーズはそれぞれのトップが意気投合したところから協業が広がり、今後に向けてもさらに幅広いエリアで協業の可能性を実感しました。両社には親和性があり、相互補完できるエリアも数多くありますので、今後も協業のディスカッションを深めていければと思います。

デル・テクノロジーズの取り組み事例はこちらからもご覧いただけます。
https://www.tkfd.or.jp/files/research/csr/CSR_white_paper_2021.pdf
(東京財団政策研究所CSR白書2021、P.184-190)

講演情報

NTT DATA INNOVATION CONFERENCE 2022
ー新しい「これから」ー

2022年1月27日(木)-28日(金)オンライン開催

2022年1月27日(木)11:00~12:00
「PA for Good:SDGs時代のPA像」

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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