行員発信の新サービス発案を目指して
デザイン思考で地域の未来を拓く
日本の歴史と伝統が息づく京都に創業し、70年以上にわたり地域とともに発展してきた京都銀行。「地域社会の繁栄に奉仕する」という経営理念を一貫して掲げ、地域密着型の地銀として確固たる基盤を築いてきました。変化し続ける世の中で地域の未来を拓くために、京都銀行がなすべきことは? その問いへのひとつの答えが、NTTデータが提供する「新規ビジネス創発ワークショップ」への取り組みでした。
「新規ビジネス創発ワークショップ」とは、本格的なグループワークを重ねることにより、チーム全体で「デザイン思考」を身に付けられるようになる、という試みです。デザイン思考とは、ビジネスや社会に変革をもたらすサービスや方法論を生み出すための思考法のひとつで、米グーグル社やアップル社など、名だたる企業が取り入れていることでも知られています。
ワークショップでは、NTTデータが長年にわたって培ったデザイン思考の手法と新規ビジネスの開発手法をメソッド化し、京都銀行からの参加者にノウハウを伝えていきました。参加者は2016年6月から12月までの6ヶ月間、全10回のワークショップを通して、顧客にアピールするアイディアを生む技術を学び、柔らかく斬新な発想で新しいビジネス案を作り出していったのです。
メンバーと共に考え “発想力”を磨く
運営事務局の指揮を執る、京都銀行総合企画部の三宅夕祐次長はこう話します。
「京都銀行はこれまで、地域のみなさまとの発展を目指して堅実なサービスを提供してまいりました。しかしその一方、現在の日本経済の流れや世界状況を鑑みるに、地銀もまた、変わらなくてはならない局面に来ているのではないか、という思いがあります。目まぐるしく変わり続ける世の中で、金融業界もまた、新しいことにチャレンジしていかなくてはならない。地域へのさらなる貢献という目標を達成するとき、どのような変化が必要なのか。日々手探りする中、根本的に私たちに必要とされているのは、“発想力”そのものではないか、と考えたのです」
京都銀行 総合企画部 三宅次長
発想力を磨く――この漠然とした目標に対し、「新規ビジネス創発ワークショップ」は次第に効果をもたらしていきました。ワークショップでは様々な部署から行員が参加しました。同僚とはいえ、普段はやりとりをすることがないメンバーと顔を合わせ、話し合う中で、少しずつアイディアの出し方のコツをつかんでいく。参加者の大橋昌浩さん(本部勤務)はこう話します。
「初日はみんな固い雰囲気だったんですよ(笑)。けれども回数を重ねるごとに場の空気が変わり、自由に、気兼ねなく意見交換ができるようになりました。同じ職場に務めてはいても、出会うお客様が違えば持っている情報も違う。会話を重ねながら、次第に私たち行員だから知っているお客様のニーズが見えてきました。一人ひとりが持っている情報をすり合わせていくことで、私たち地銀の行員ならではの目線で、地域密着型の新サービスが発想できるはずだと確信しました」
6月から9月にかけて行われた前期ワークショップでは、チーム内で出されたアイディアをすべて付箋に書き込んでいきました。その数は最終的に1,000枚以上に及びます。参加者は1,000を超える発想をグルーピングし、絞り込み、磨き上げていく作業を続けていきました。
人数は1チームあたり5、6人。左側の手前から2人目が大橋さん
「ワークショップはしっかりとメソッド化されているので漫然とした話し合いには終わらないのが良かったです。毎回、明確な目標とそれに到達するための手段があるので、それに沿って作業していくうちに、自然と発想力が刺激されていくんです」と大橋さんは振り返ります。
「ひとりで考え込むのは、ビジネスアイディアを生み出すには向かないのだと気づかされました。付箋で貼りだされた様々なフレーズを前に全員でディスカッションしていると、メンバーの案を引き出す力が磨かれてくるんです」
発想力の根本は“共感”にあり
前期ワークショップの最大のポイントは、「どんなアイディアも捨てずに、すべてを出し切り、可視化すること」だ、と今回のワークショップのディレクターを務めたNTTデータの角谷恭一(かどや・きょういち)は言います。
「デザイン思考の特徴のひとつは、アイディアを出し合い、話し合って絞り込む、という作業を繰り返すことです。ひとりの天才が生み出すアイディアよりも、平凡な私たち全員が集まって、知恵を寄せ合い、遊ぶように楽しみながら生み出したアイディアのほうが、世界にインパクトを与えられることは往々にしてあります。それは、デザイン思考の根本に“相手への共感”があるからです」
参加者のうちの1グループにつき、アイディア出しのアドバイスをする角谷(右端)
デザイン思考のプロセスは、次の5つのステップからなります。
1「共感」(顧客の問題に寄り添う)
2「定義」(ユーザーにとっての問題を明確化する)
3「発想」(ユーザーの問題の解決法を発見する)
4「試作」(ビジネスアイディアを可視化する)
5「試行」(実際にユーザーとともに検証する)
この5つの手順をチームで行うことにより、いま目の前にある様々な問題を解決する現実的なビジネスアイディアが生み出されていきます。チームでのアイディア出しの現場にもまた、互いへの共感は欠かせません。共感があるからこそ、仲間から言葉を引き出し、自分自身の考えを臆することなく伝えることができるからです。ときに天才の発想を凌駕するアイディアがチームの中から生まれる理由は、チームのメンバーへの、そしてその先にいる顧客への“共感”という出発点にあるのでしょう。
地域のニーズを見抜く新規サービスを発案
役員に向けたプレゼン会を実施
前期ワークショップで練ったアイディアをもとに、後期ワークショップではビジネスプランを磨き上げていく作業を行いました。全員で出し合った1,000以上のアイディアのもとが、最終的には5つのプランに収斂されました。チームごとに、じっくりと時間をかけてそれぞれのプランを綿密に検証し、実現性を高めていきます。ワークショップの締めくくりには、参加者以外の行員、そして役員も一堂に会した会場でのプレゼンテーションが行われました。
どのプランにも共通して見られたのが、京都という地域性を活かした地域密着型の視点でした。ワークショップを通して生まれたビジネスプランのひとつを紹介しましょう。
徹底的にリサーチし、発想の実現性を高める
丸岡哲太郎さん(京都銀行金融大学校勤務)が参加したチームが発案したビジネスモデルは「コトスモ」というもの。「コトスモ」では、京都の伝統的な家屋である京町屋に住むことを望む方々に向け、不動産を紹介するとともに住宅ローンを含めたプランを提案して新規顧客にアプローチします。
丸岡哲太郎さん
「これまでは銀行といえば、家を買うと決めた後で訪れる場所でした。しかし、これからは“家を買いたいけれど、まだ迷っている”という潜在的な顧客にも訴えかけるべきだと私たちは考えます」と丸岡さん。
「金融サービスの最終的な目標は“暮らし”そのものを支えることです。京都に住む人、これから住みたい人のために京都銀行が窓口となり、暮らしをかなえるお手伝いをすることが、この“コトスモ”の理念です」
顧客の目線に立てば、家を買うときには頼りになる相談相手が欲しいもの。また、相談しやすいきっかけ作りも大切です。そこで丸岡さんのチームでは、アプリの開発を視野に入れ、スマートフォンひとつでローンのシミュレーションや資産運用、貯蓄サポートまで行う方法を提案しました。
「コトスモ」の提案書
プレゼンテーションの手ごたえを尋ねると、丸岡さんは「チームとして伝えたかったことは100%伝えられたと思う」と自信を持って話してくれました。
「様々なアイディアを出し合いながら、あれでもない、これでもないと何度も話し合ってきました。雑談めいたものの中にも、見逃してはいけないアイディアのかけらがたくさんあることに気づかされました。ワークショップの進展とともに、プランをいかに実現可能なものにしていくか、シビアな話し合いにもなってきます。私たちは、自分たちが作り出そうとしているビジネスモデルの根底にある理念はなんなのか、その点についてとことん話し合いました。“人の暮らしを変えていきたい”という思いは、後期になって出てきたものです」
ひとりではここまで考えるのは無理だっただろう、と丸岡さんは続けます。「ひとりで5つのことを考えるよりも、5人でひとつのアイディアを練るほうが効率的に質の高いものを生み出せます。ワークショップで学んだ方法論は、新規ビジネス立案にかかわらず、なんらかのアイディアが必要とされるあらゆる場面でそのまま応用できるメソッドだと感じています」
プレゼンテーションに至るまでには、発想が机上の空論で終わらぬよう、ユーザーへのインタビューなど、リサーチも綿密に行いました。ワークショップとはいえ本格的な作業で、丸岡さんをはじめ多くの参加者たちは業務外の時間にもミーティングを繰り返したそうです。そういったやりとりもまた、丸岡さんには新鮮だったといいます。
「形のないところから話し合うということの大切さを、改めて思い出したように思います」
互いを刺激し合い、発想力が培われた
さて、プレゼンテーションへの反応はどのようなものだったのでしょうか。京都銀行総合企画部の岡島尚紀次長はこう話します。
「実現可能性はともかくも、どのビジネスプランも具体的で、京都銀行らしい地域への視点が貫かれていることに満足しました。発想力というものはすぐに成長がみられる種類のものではないと思っていましたが、“新しいことをしよう”という行員の思いが、短期間でこれほど形になって表れてくれるとは」
京都銀行 総合企画部 岡島次長
また、京都銀行の三宅次長はこう話します。
「私たち行員の日常業務は、正確であることに重きが置かれます。業務の特性上それは当然のことですが、今後は柔軟な発想力もまた、今まで以上に必要とされることでしょう。今回のワークショップでは若手の行員に参加してもらいました。彼らが楽しそうにアイディアを出し合い、互いに刺激を受けていることがまずなによりも収穫でした」
「このワークショップへの挑戦は京都銀行としては異例です。発想力を磨くといっても、その結果はわかりやすい実績や数字ですぐに表れるものではないからです。しかし、発想力がなければ、山積する課題に対して立ち向かっていくことすらできないでしょう。プレゼンテーションは、参加者が磨き始めた発想力の一端を見せてくれるものです。彼らの柔軟な力が、今後、様々な場面で実りを与えてくれることを期待しています」
地方の企業や地方銀行にも、発想力はなければならない時代。行員の行員による夢あるアイディアが地域の人々の暮らしを支えるサービスとして実現し、身近な社会を変えていく日も遠くないかもしれません。
発想力を分かち合い、新規サービスを生み出していく
行員発のアイディアに取り組むという夢
ワークショップを推進してきた事務局は、成果をどのように感じているのでしょうか。まず、岡島尚紀次長(京都銀行 総合企画部)にお話を伺いました。
───「新規ビジネス創発ワークショップ」に取り組んだきっかけを教えてください。
岡島 正直に言えば、初期段階ではこのワークショップで何が得られるのかは未知数でした。なにかしらの効果が出るのかどうかは、やってみないとわからない。それを承知のうえでワークショップに挑戦してみることにしたのは、地域銀行に現在与えられている課題に対し、このワークショップが一助になる可能性を感じたからです。
───地方銀行に求められることとは、なんでしょうか。
岡島 地方銀行は、地方創生に貢献する使命があります。そのためには地域企業の価値向上を企業のみなさまとともに目指すことが第一です。そして地域全体の経済、ひいては日本経済の持続的成長を支えていくのが私たち銀行の仕事です。そのためには、従来の方法に加えて、新しい考え方を導入する必要があります。今回は若手の行員を中心にこのワークショップに取り組んでもらいました。今後ますます活躍する彼らに、通常の業務からは得られない新鮮な刺激を受けてほしかったからです。
───手ごたえはありましたか。
岡島 手ごたえを本当に感じたのは、最終日のプレゼンの場においてです。どのプランも想像以上に具体的でした。私自身、行員が発案するアイディアに取り組んでみることには夢があるかもしれないと、銀行としての可能性を感じました。
私たち行員は与えられた課題に対し、綿密にプロジェクト進行を管理し、目に見える形で着実に実績を作り出していく手法には長けていると自負しています。しかし、ゼロから新しいことを作り出していくことが得意とは言えません。しかしこのワークショップを通して、参加者は自由な発想でアイディアを練り上げ、提案する段階にまでは到達していました。この点に特に意義があったと思います。
───ワークショップを通し、参加者にはどのような変化が見られましたか。
岡島 6ヶ月間を俯瞰してみると、「どんなアイディアでもいい」と言われることに当初は参加者も戸惑ったのではないかと思います。ワークショップを繰り返すごとに試行錯誤が重ねられているのが見て取れました。中盤、先行きが見えなくなることもあったと思います。「どうすればこのアイディアを実現できるだろう」という思いを全員が抱え、話し合いを繰り返します。
9月に行われたワークショップの風景。ホワイトボードに付箋を貼りだし、アイディアを検討していく
毎回明らかな結論が出るわけでもありません。ある意味で不確実な状態が続くわけです。しかしその状態こそがこのプロジェクトの最大の特徴であり、大切な部分だったのだと今になって感じます。というのも、不確実な状態の中からこそ何かが生み出される可能性があるのですし、私たちは全員、ゴールにたどり着くことを信じていくしかないからです。
───アイディアが生まれていく過程を信じるのも大切なのですね。
岡島 そうです。課題が先にあり、期日とタスクを決め込んで達成する方法ではなく、課題がなんであるのかを模索しつつ解決に向かっていく方法を今回のワークショップでは共有しました。ゴールにきっとたどり着くと信じていないと、結果は出せなかったのではないかと思います。
発想法から共有して、喜ばれるサービスを目指す
次に、花谷昌弘(はなたに・まさひろ/NTTデータ オープンイノベーション事業創発室 部長)に話を聞きました。
───「新規ビジネス創発ワークショップ」の内容を具体的に教えてください。
花谷 アイディアをゼロから発想して形にしていくことをテーマに、グループでのワークを行いました。わが社が蓄積してきたアイディアの作り方のノウハウを余すところなく伝えて、皆さんとデザイン思考の方法論を共有しよう、という思いがこのサービスの根底にあります。具体的には、6~7名ごとにチームをつくり、話をする中で様々なアイディアを生み出します。小さなアイディアも書き出して共有し、次にそれを絞り込んでいきます。意見を重ねていく過程を可視化し、議論を活発化させていきます。私たちはプロセスを進めるお手伝いこそしましたが、議論は決して導きません。あくまで並走者として、ともに同じ立場でワークショップに加わります。
───アイディアを発想するメソッドを共有しようと思われた理由を教えてください。
花谷 私たちNTTデータは社会インフラの提供に関して、その品質と技術力には自信を持っています。私たちの究極の目的は、お客様にとって最良の価値、体験をひとりひとりに届けることです。その実現のためにできることはなんだろうかと考えたとき、商品を生み出すパートナーである金融業界の皆さまがたとアイディア発想の方法論から共有できたら、と思ったのです。
───ワークショップを通して得られた手ごたえを教えてください。
花谷 参加者のみなさまは、新規ビジネスサービスのアイディアを練ることを通して、京都銀行が目指すべきありかた、そしてさらにその先にいらっしゃるお客様の姿を熟考なさっていました。ワークショップの最終目的はあくまで「新規ビジネスを発案」というものでしたが、真の成果はその過程だったと思います。
今回のワークショップでは、銀行の根本的な存在意義に立ち返って議論がなされているとしばしば感じました。「銀行にお金を預けること」や「お金を使う」ということの本来の意義から考え直すことから発想が展開していったんです。お客様にとって、お金とはひとりひとりにとって大事ななんらかの目的を実現するためのもの。原点に立ち返って議論が進んだ結果、最終的に生まれ出た5つのビジネスプランはどれも奥行きのあるアイディアでした。サービスの先に、お客様の現実的な姿や、人生が見えていたんです。単なる金融商品ではない、人々の生活を見据えた広がりのあるプランが生まれました。
───では、サービスを生み出す難しさとはなんでしょうか?
花谷 私は自分自身がサービス提供を生業にしている身として、お客様に喜んでいただけるものこそが良い商品だと考えています。しかし、昨今は「喜んでいただけるものはなにか」という問いかけにも、簡単には答えが出しづらい状況です。豪華なものをつくればよいわけでも、目新しさだけで楽しんでもらえるわけでもない。そこに難しさがあります。
ではどうすればよいのか。きめ細かく試す、という地道な作業に答えがあると私は思っています。サービスを作っては試すことを繰り返し、改善していくことで、確実に商品化できるサービスを見極めていくことが必要なのです。とはいえ、試作と検証の反復は大掛かりですから、簡単には実行できません。良いアイディアがせっかく生まれたのに、実現できないというジレンマに陥りかねないのです。そこで、私たちは実証実験の場をつくり、アイディア実現のお手伝いをしたいと考えています。
───実証実験の場とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
花谷 「BeSTA Fintech Lab」というものです。オープンイノベーションを通じて新たな金融関連サービスを創発することを目的とするラボで、数多くのビジネスアイデアを創発し、実証を通じたトライ&エラーによりサービスをつくり上げていく活動を行います。アイディア検証の道具立てをラボで用意しますので、サービスの有効性を確認していただけます。机上で答えを求めるのではなく、実際にフィールドの反応に答えを求めることができるのです。
NTTデータは京都銀行と一緒に2004年に新しいビジネスとして地方銀行向けの共同利用型センター「BeSTA」をつくってきました。今回の取り組みも新たな金融関連サービスを創発するためのものなのです。
チームでの発想が銀行の未来を変える
臆さず話せる環境からアイディアは生まれる
ワークショップの参加者はどのような感想を持ったのでしょうか?全20名の参加者の中から、2名にお話を伺いました。
八木景子さん(総合企画部)
「参加する誰もが臆さずに自分の考えを発信できること。それがチームで発想力を磨くためにはまずなによりも必要なのだと気づくことができました」
参加者の八木景子さんはそう話します。
「前期のワークショップでは、“プレイズ・ファースト(Praise First)”という概念がキーワードとしてありました。これは、発言者に対してまずは称賛を送るという方法なんです」
プレイズ・ファーストとは、出されたアイディアの良いところに注目して、話し合いを進めるというもの。出された意見を肯定的に捉えることでチームの創造性を発展的に伸ばしていく効果があります。
「実践してみると、とても意見が言いやすくなりました。それは、“否定されることはない”という安心感が得られたからだと思います」
アイディアは、それが受け入れられやすい環境が整えば加速度的に生み出されていきます。そのための具体的な方法論を学ぶのが前期ワークショップの主眼だったと言えるでしょう。
後期に入ると、アイディアの実現性を探る作業に入りました。マーケットを絞り込み、収益性をシビアに考え抜いていきます。八木さんのチームが注目したのは、京都の中小企業を支援することでした。
「私たち行員は中小企業のみなさまと普段からお話しています。地域に根付く中小企業の事業活性がかなえられてこそ、京都全体の活力が増すと私たちは考えています。そこで、京都の観光資源を新しい視点から活用し、中小企業に還元するビジネスプランを提案しました」
八木さんのチームのプランは「体験バンク」というもの。
「朝という時間帯に着眼することで、京都のさまざまなスポットに新しい光を当てます。例えば、“早朝、和菓子作りの仕込みをお手伝いする”“お寺で朝の掃除をする”といった体験を、京都銀行が地域の企業のみなさまとともに作り出し、観光コンテンツとしてパッケージングするのです」
「ユーザーの皆様には新しい京都体験を商品として提供します。中小企業は観光客が今求めているものはなにか、フィードバックを得られる仕組みです。ワークショップとはいえ、全員が真剣勝負でした。その理由は、実際に触れあってきたお客様一人ひとりを念頭において話し合ってきたからだと思います」
望まれる“面白さ”を全員の目で発見する
ワークショップを始める際に、自己紹介をする新居さん
参加者の新居憲幸(にい・のりゆき)さんは、ワークショップの効果をこう話します。
「初めて顔を合わせるメンバーも多く、話し合いをする中で普段の業務とは違った刺激を受けました。肩書も所属部署も超えてフラットに話ができ、“こんな考え方があるんだ”“こんな方法もとれる”と、何度も目からウロコが落ちました。ワークショップで実践した発想法は、論理的であろうとか、厳密に分析しなければならない、という方向性ではないんです。むしろその逆で、“くだらない意見かもしれないけれど、思いっきり出してみよう”というところから始まる。それがとても新鮮でした」
ワークショップでは、顧客への共感を基本としてアイディアの交換が進められていきます。全員が同じ目線に立ち、共感をもって話し合うその過程こそが収穫でした。
「顧客への共感を基盤にするということは、いちど自分自身が顧客になりきるということ。その作業があって初めて、本来のニーズが明白になってきます。お客様に少しでも面白いと思ってもらえるサービスはなんだろうという視点で、私たちは徹底的に話し合いをしました。面白さというのはとても難しいもので、ひとりよがりな発想では見つけられません」
「けれども、全員で話し合っていると、会話の中から拾い上げられる光り輝くアイディアがあるんです。もしもひとりで考えていたら、ばかばかしいと思えて一蹴してしまうかもしれない発想をあえて口に出してみる。すると誰かがそのよい部分を見つけ出し、拾ってくれる。自分でも気づかなかった捉え方が、そこにはあるんです。そして、それを全員の目で検討していく。この方法をとれば、従来にはなかったサービスを生み出せると思います」
地方銀行は変革の時代に来ている、と行員として実感する日々だと新居さんは言います。
「これからは、他行にはないサービスを提案しつつ、銀行からお客様に語りかけなくては生き残れない時代だと思っています。趣味や嗜好、ライフスタイルがますます細分化する昨今、銀行もそれに合わせて、コアなファンを獲得していかなくては」
「そのためには、我々行員が発想力を発揮して、多様なサービスを生み出す必要があると思います。そして、そのための手立てとして、このワークショップでの学びは非常に役立つと感じます」