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2018.2.6INSIGHT

斉藤賢爾(計算機科学者)

ビットコインの登場やブロックチェーン技術の進展が、金融の世界に留まらず お金と社会のあり方にも、かつてない変革をもたらそうとしています。 慶應義塾大学SFCでインターネットと社会のあり方を研究する斉藤賢爾さんに、 変わりゆくお金の行方と、目指すべき“お金不要の社会”のビジョンを聞きました。

ビットコインと変わりゆくお金

斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

斉藤賢爾(さいとう・けんじ)1964年生まれ。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)などでエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ。2003年、地域通貨「WATシステム」をP2Pデジタル通貨として電子化。著書に『不思議の国のNEO──未来を変えたお金の話』(太郎次郎社エディタス)『信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来』(インプレスR&D)など。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事。

お金はすべて「仮想」である

───本来、お金とはどんな役割を持っているのでしょうか。

お金の始まりはおそらく税金だったと言われています。それも、当初は麦や塩などだったのでしょう。例えば国家が農民に大麦を納めさせると、国庫にたくさんの大麦が集まります。それらを国が、例えば公共事業の労働者への給与として配分することで、大麦が循環し始めます。その内に、循環していく大麦自体に、一定の価値を量り、何らかの交換の媒介物となり、そして価値を保存する役割が生まれていきました。そうした国家の経済システムを支えるツールとして貨幣がつくられるようになったのでしょう。これがいまのお金の基本構造です。

いまビットコインが注目されていますが、こうした新しいお金のシステムも、基本的には従来のお金の役割を強化する方向へ進むと思います。しかし、テクノロジーの面白いところは、結果として真逆の変化も起こしうる可能性があること。ビットコインの基本理念はP2P(ピア・トゥ・ピア)(※1)ですから、中央銀行を介さずにお金が個人同士でやりとりできるようになります。すると、本来は国家を維持するシステムだったお金の役割が変わってくるかもしれません。

ただひとつ注意したいのは、ビットコインを「仮想通貨」と呼ぶのは間違いだということ。より正しく呼ぶなら「デジタル通貨」でしょうね。なぜなら、お金はすべて「仮想」だからです。私たちはお札の紙きれ一枚にも、価値があると信じている。これ自体が仮想信用なのです。

───そもそもビットコインとはどのようなお金なのでしょうか。

ビットコインは紙幣や硬貨として流通する円やドルなどの法定通貨ではなく、通貨の機能を持つソフトウェアであり、特定の国や地域に限定されません。また、各国の中央銀行の信用下で発行される法定通貨に対して、ビットコインはネットワーク上のプログラムに従って自動的に発行されます。

その誕生はサトシ・ナカモトを名乗る人物または集団によって2008年に発表された論文に遡り、翌年のシステム稼働開始以降、中核を担う開発者グループによって基準となるソフトウェアのメンテナンスと拡張が続けられています。

ビットコインはいわば、「自分のお金を誰にも干渉されず、自由に使うにはどうすればよいか」という発想を具現化したものと考えられます。例えば日本円は日本国という発行主体に信用が依存していますが、ビットコインはお金をその依存から解き放ち、“中心なきネットワーク”で支えていく仕組みを標榜しています。私たちは日ごろ、国家という特権的な存在が定めたお金の仕組みを無条件に受け入れて生活を営んでいますが、ビットコインの登場はお金をつくる仕組みを誰もが持ちうることを広く示した点で画期的と言えるでしょう。

さらに、ビットコインという存在自体に「お金とは何か」という問題提起が内包されており、社会構造を根底から覆しうる以上、国家や銀行はその動向に注視せざるを得ません。しかし計画的なデフレによって滞留を生んでしまっている点など、真に自由なお金と呼ぶにはまだ多くの課題を抱えています。万能視ではなく、分権できる構造の実現に向けた議論などが必要だと思います。

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える”中心なき通貨システム”の思想がある

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える“中心なき通貨システム”の思想がある

ブロックチェーンの課題と可能性

───ビットコインを支える技術として注目を集めているブロックチェーンについて、教えてください。

ブロックチェーンとは、ビットコインを支える中核技術としてP2P技術を応用して発明された、分散型の台帳システムの名称です。“中心なきシステム”を前提とするビットコインにおいて、ユーザーそれぞれが履歴を複製管理する仕組みとして設計されました。全世界におけるビットコインの取引情報が「ブロック」と呼ばれる記録の集合に格納され、その連なりがユーザーのコンピューター上で同時にバックアップされていく仕組みを採用しています。暗号技術の応用によって、過去の取引記録を変更するにはネットワーク上で承認作業に参加する全コンピューターの処理能力を超える計算が必要となるため、改ざんは事実上不可能とされています。

ブロックチェーンはその耐改ざん性の高さから、ビットコイン以外の分野でも製造業のサプライチェーンや、戸籍や登記簿など行政の情報基盤への導入が有望視されていますが、技術的にはまだ発展途上。利用規模が大きくなるほどユーザー端末の計算量が増大し、全人類規模での利用は難しいなど、数々の問題が指摘されています。解決に向けた研究コミュニティが数多く立ち上がっており、問題点を解決する技術が今後現れては試されていくと思います。将来を見据え、AIにも改ざんが不可能な台帳技術をいかに確立できるかが焦点になっていくでしょう。

※1P2P(ピア・トゥ・ピア)

複数の端末間で通信を行う際のネットワークシステム。LINEやSkypeなどが代表例で、個人間の通信をスムーズにしてきた。

お金の未来は、貨幣不要の社会にある

お金を介さなくても生活できる?

───そうしてお金のシステムが変わっていくと、今後は信用のあり方も変わるのでしょうか。

近年、キャッシュレス化が進む中国では個人の過去のデータによって信用度を測るシステムが浸透し始めています。AlipayやWeChat Pay(※1)などアプリ決済用の電子マネーが爆発的に普及したことが最大の理由ですね。電子化すると過去の履歴をすべて辿れるので、この人物はお金を借りたらちゃんと返す人なのかどうかなどが客観的な指標として浮かび上がってきます。何もかも機械的に判断されるのが良いかはまだ一概に言えませんが、中国では若い人たちを中心に貸し借りなどのマナーが急速に向上しているそうです。中国やインドに比べて日本はキャッシュレス後進国ですが、他国の社会実験の様子を見るいいチャンスだとも言えますね。

個人の過去データによって信用度を測る。たとえるなら『ドラゴンボール』に登場する、相手の戦闘能力を測るメガネを販売者が持つようなものだと斉藤氏は言う

個人の過去データによって信用度を測る。たとえるなら『ドラゴンボール』に登場する、相手の戦闘能力を測るメガネを販売者が持つようなものだと斉藤氏は言う

───最近はメルカリなどの個人間物販サービスが盛んです。これは物々交換の時代に戻るような仕組みなのでしょうか。

お金が登場する以前に、人間が物々交換で経済生活を営んでいたかというと甚だ疑問が残ります。なぜなら、Aさんはお米が欲しく、Bさんは衣服が欲しかったとして、そうした交換ニーズを近隣の人々同士で均等に当てはめるには無理があったからです。しかし現在は、SNSなどによって遠くの人とでも互いのニーズをリアルタイムで満たせるようになりました。かつては近所の人から子供服のお下がりをもらうようなことが頻繁にありましたが、いまではソーシャルメディアを介してそれが復活し始めたということです。

しかし最も重要なのは、お金以前の社会では何かを交換する必要がなかったことです。国家という枠組みの勃興とは別に、当時ほとんどの民はトライバル(部族)社会の中で生活していました。そこでの社会構造は割とフラットで、狩りで捕まえた獲物や、小さな農業で収穫した作物をコミュニティ内で分け合って生活していたと思います。そこでは、交換よりも、贈与によって貸しや借りをつくる社会の仕組みが前提にあったのです。

ネットワーク上のプログラムから発行されるビットコイン。その背景には、ネットワークで支える中心なき通貨システムの思想がある

デジタル通貨や地域通貨の研究で有名な森野栄一氏による図。信頼関係が深まるにつれて貨幣を不要とする世界が広がっていく

───お金を介さずに生活することは可能なのでしょうか。

実は私たちの社会の経済活動のうち、貨幣を介する部分は氷山の一角にすぎません。上の図は森野栄一さん(※2)という研究者から教わった「信用の氷山モデル」です。これを見るとわかる通り、お店などで他人に支払うお金はすべて貨幣を必要としますが、人間関係が深くなるにつれてもっと広大な世界が広がっていきます。

例えば家族の中でどんな家事やお手伝いをしてもお金は発生しませんよね。また会社やチームで働いているときも、逐一仲間にお金を請求することはありません。他の例を出せば、鉄道会社の職員がその会社の電車に乗る切符代を払うことはないでしょう。グーグルなども社員は社食や自販機がすべて無料だと聞きます。人間関係が深いほど、その特徴は贈与が無条件にあることなのです。私たちは日常のほとんどを、こうした貨幣によるやり取りのない世界で過ごしているのです。

現在の「銀行」は姿を変える

───銀行の役割は変化するのでしょうか。

まず簡単に言うと、ATMのある駅前銀行は今後10年といったスパンで姿を消すと言われています。なぜなら、ビットコインや電子マネーがさらに普及すれば、現金が要らなくなるからです。また融資もいままでは銀行の専売特許でしたが、銀行よりはるかに精度の高い情報収集により貸し付けができる企業体は既にありますし、今後はAIを介したお金の動きの判断がますます容易になります。

そうした状況下で、銀行が従来の位置を継続できるかどうかは相当微妙です。一方、みずほ銀行などはAirbnb(※3)と提携を開始しましたが、銀行がこれまで把握している不動産資産を有用すれば、不動産事業に進出する可能性だってありますし、地銀は地域活性のサービスを運用するなど、今後は銀行から様々な事業が生まれてくるでしょう。

※1AlipayやWeChat Pay

中国で爆発的に普及した電子決済サービス。いまやローカルな露店でもアプリひとつで決済可能になっている。

※2森野栄一

経済評論家。 國學院大學大学院経済学研究科博士課程修了。 ゲゼル研究主宰。

※3Airbnb(エアビーアンドビー)

個人が自宅を宿泊施設として貸し出すインターネットサービス。現在世界192ヶ国に普及しており、日本国内でも「民泊」として注目を集めている。

資本主義を超える、未来の社会像

お金を必要としない世界のビジョン

───お金を必要としない世界は、資本主義社会も揺るがすのでしょうか。

資本主義の定義は、お金が足りない状態をつくることだと森野栄一さんはおっしゃっています。お金があれば幸せだという考え方は、裏を返せばお金がないと不幸だということになります。そうして常に欠乏症的にお金を得ようとするわけです。

対して、私の理想とする社会ビジョンのひとつに、映画『スタートレック』(※1)の世界があります。この映画では24世紀の人々が宇宙船でタイムスリップをして21世紀の地球にやってきます。それを見た地球人は、こんな宇宙船をつくるには一体いくらかかるんだと聞くのですが、その船の艦長は「24世紀にはお金は存在しない」と返答します。お金を得たいという欲求は社会を動かす原動力ではなくなり、みんなが人と社会をより良くするために生きているのだと。

その背景には、テクノロジーの進化があり、宇宙船すらもつくってしまえるレプリケーター(複製機)が各家庭にあるので、買い物も必要ないと言うのです。昨今話題のシンギュラリティは70億人分の脳のシミュレーションが千ドルのコンピュータ1台で可能になる時代だという定義がありますが、そうした技術革新によってスタートレックの世界が近付いてくるかもしれません。

未来からやってきた人は、お金が必要ない世界を生きているかもしれない

未来からやってきた人は、お金が必要ない世界を生きているかもしれない

社会の安全と幸せを捉え直す

───AIの発展にはどんな可能性があるでしょうか。

AIが人間の様々な仕事を肩代わりするようになると言われていますが、私は大歓迎です。従来の仕事を奪うのではなく、面倒な業務を省いて、専門性がなくても人間が思い描いたことを可能にする力が手に入るとも言えます。そうした人間を自由にする側面がAIにはあります。身近なところで言えば、雨雲が近付いてくることをAIが予測し、自宅の洗濯物をロボットが取り込んでくれるといったことは容易に起きるでしょう。それらが拡大すれば、AIとセンシング技術によって社会が新たな目や耳、手や足を得て、人と社会にとってより良い環境を構築していくことができます。

これはまた、サイバネティクス(※2)の考え方が機械と生物だけではなく、組織や社会にも適応しうることを示しています。そのとき、AIの拠り所とする判断が正しいかどうかを調べるために、ブロックチェーンのような改ざんされない記録技術が必要とされるでしょう。

───お金と人間の幸福の関係はどうあるべきでしょうか。

ひとつの例として、ミヒャエル・エンデの物語『モモ』(※3)の中に、人々の時間を奪っていく時間泥棒が登場しますね。あれは不労所得の話だと思っています。誰かの労働時間から搾取することで、儲ける人たちが出てくる。そして労働者は常に時間がない状況に置かれるのです。しかし、今後AIが人間の労働時間を代替してくれれば、その分人々は時間を割いてお金のために働かなくてもよくなり、新たに思考することができます。

そのとき、人は何のために働いたり生活したりするようになるのでしょうか。人間にとっての幸せや富とは何かをもう一度捉え直す時代がついにやってきたと私は考えています。よくお金は「富」とみなされがちですが、富とは本来、将来の安全を守るセキュリティのことを指すと思います。

その安全保障の最も手っ取り早い手段がいままではお金でしたが、お金に依存しすぎることはリスクも生み、国家によって常に不安な状態にさらされるということにもなります。しかし、いま新たなお金のシステムが生まれてくる中で、一人ひとりが人間関係や地域、自然の恵みに対して投資していけば、もっと大きな意味での安全と幸せを得ることができると思っています。

※この記事は、当社広報誌『INFORIUM』第8号(2017年11月30日発行)「お金の消える日がやってくる? 新たなお金と未来の社会像」「ビットコインとブロックチェーンーーその実像と課題」の取材内容をもとに、加筆・再構成したものです。

※1スタートレック

1968年に放送を開始したアメリカの人気TVドラマシリーズ。22〜24世紀と設定された未来社会では、貨幣経済はなくなり、人種や性別による差別のない理想的な世界が描かれた。

※2サイバネティクス

生き物が、体内の信号処理と環境からのフィードバックによって動くのに対して、機械も同じ構造を持つという考え方。機械と人間を融合させるサイボーグの考え方もこの系譜上にある。

※3モモ

世界的な児童文学作家ミヒャエル・エンデの代表作。人々の時間を盗む「時間泥棒」に挑む主人公モモの物語を通して、現代社会に鋭いまなざしを向けた。

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