スマホで手軽なWebサービス
そのサービスは、表情と話し方の特徴をとらえ、相手に伝わる感情などを可視化し気づきを与えるもの。自分の話し方から得られる分析結果をもとに、改善へと導くようサポートしてくれる「Com Analyzer™」(コム・アナライザー)だ。
利用はいたって簡単。スマホやタブレットからインターネット経由でアクセスするWebサービスで、自分の話す様子をインカメラで撮影するだけ。この動画情報から顔の表情と声をパラメータ(数値)化し、「親しみ」「熱意」「落ち着き」を独自に開発した「かけ合わせ・評価」で導き、結果をグラフ表示する。
「口角、眉など顔のパーツをトラッキングし、わずかな動きをデータ化することで表情を特定し、その組み合わせから感情の発現度合いを認識する仕組みです。声は速さ、大きさ、高さをデータ化します」と担当の成田さんが印象を可視化する技術を説明してくれた。
NTTデータ 第一金融事業本部 保険ITサービス事業部 主任 成田苑子
30秒の会話で即採点
システムの仕組みを聞いた後、実際にトライアルに挑む。早速、スマホのブラウザを立ち上げ、好感度たっぷりに、と自分に言い聞かせながら30秒程度会話を撮影する。やはり最初とあって緊張してしまったかな、と振り返ろうとするも、そんな余裕もなく瞬時に分析結果が表示された。
人の印象を形成する「親しみ」「熱意」「落ち着き」の3項目でグラフ化されるので与える印象が分かりやすい。さらに表情と声を「笑顔」「声の大きさ」「話す速さ」で5段階評価されるので、具体的に何が良くて何を改善すればいいのかを分かりやすく示唆してくれる。さらには点数や順位まで教えてくれるので、ゲーム感覚で楽しみながらチャレンジできるうえに改善するごとに自分の成長が分かるので、おのずとモチベーションが上がってくる。筆者も面白くなって、いろんなパターンで会話し、どんな結果が出るかAIを試してみたが、しかめ面で話せば軒並み数値が悪化し、力を込めて話すと「熱意」が上昇する。納得の採点内容にCom Analyzerの精度の高さを実感。最初は、AIに人間の感覚といったものを採点できるのか?と疑心暗鬼だった筆者も、気づけばAIが出す自分の「コミュ力」採点結果にすっかり虜になっていた。2019年5月から提供開始されたCom Analyzerは、現在、生命保険会社や不動産会社など、接客に重点を置いている会社が接客トレーニング用として採用しているとのことだが、広く"第一印象を良くする"ためのトレーニングと捉えれば、さまざまな分野に応用できるはず。成田さんは「まだ最初の一歩です。今後、可視化の対象や評価軸を拡充することで採用面接やセミナー・教育の場など幅広い分野に向け提供していく方針です」と語ってくれた。
精度をチェック
Com Analyzerは緊張による変化を読み取れるか!?
Com Analyzerの精度をチェックするため“好印象が必要だけど緊張してうまくいかない”代表例として「婚約者の父親に挨拶に行く」ことを想定したシミュレーションを編集部のA君に実施してもらうことにした。(決してパワハラではないことを付け加えておく)
※写真はイメージです。
ちなみに編集部内でも親しみやすいキャラクターで知られているA君。事前測定でCom Analyzerが下した採点結果は、表情カテゴリーの「笑顔」の評価が5段階で満点。印象カテゴリーの「親しみ」でなんと100点満点。これまで数百もの被験者を見てきた成田さんも驚く結果をたたき出している。そんな彼がこのシチュエーションで一体どんな結果を出すか。事前測定の結果の良さに自信を付けたA君がプレッシャーに打ち勝ち普段と変わらぬ好結果をたたき出すか、それともCom Analyzerが微妙な表情の変化を見逃さず、普段と異なる採点を下すか見ものである。
今回の検証では、実際に近い緊張感を再現するため、父親役にはA君の上司を配役。さらに、特別に厳かな雰囲気の和室を用意してみた。さっそくシミュレーション開始。A君が婚約者役の成田さんと並んで座り、父親役の上司に挨拶を始める。普段のA君を知る筆者には少し緊張した面持ちであることが分かったが、知らない人から見れば絶やさぬ笑顔が親しみやすさを醸し出し、緊張している様子はほとんど伝わらない。その様子を淡々と撮影、分析するCom Analyzer。一通りの自己紹介と"彼女への想い"を熱く語って測定は終了。ミスなくこなしたA君は若干得意げでもある。果たして結果はどう出るか。
わずかな表情の変化を見逃さないAI
Com Analyzerは、事前に測定した結果とは異なる採点結果をA君に下した。普段5段階中満点だった「笑顔」の評価は低下。印象カテゴリーでも「親しみ」「熱意」「落ち着き」すべての項目で点数が低下している。
平常時に測定した結果(親しみ100点)
挨拶時に測定した結果(親しみ86点)
これは、Com Analyzerが、普段のA君をよく知る人間でないと気にもとめないような、わずかにこわばった彼の表情や、口角・眉などの動きの違いを見落とすことなく認識したからに他ならない。想像以上の精度だ。Com Analyzerにあっさり緊張を見破られてしまったA君も「AIによる客観的な分析を得て、人に指摘されるよりも素直に受け入れやすく、改善ポイントがデータ示されてわかりやすい」と話す。たしかに、人から抽象的に「緊張しているように見えた」と言われるより、何がどうだったか定量的データで示されるので納得感があり、何より振り返るより所があるので次はこうしてみようと前向きに受け止めやすい。これまで自分の表情や印象がどんなものかはわからなかったし、人に聞いたところで、人は悪くは言わない。逆に悪く言われたらちょっと腹が立って素直に聞く耳を持つことも難しいだろう。AIの活用で、それが180度変わる。接客をする人はもちろん、普段自分がどんな印象を人に与えているか、すべての人がCom Analyzerで測定してみると、人と人とのコミュニケーションがもっと円滑になるかもしれない。
なおその後のA君、取材完了した後もCom Analyzerにはまってしまい、色々なシチュエーションを自分で設定して一人でスマホ画面に向かって語り続けていたのであった。
顧客の悩みを共に解決
技術の掛け合わせで、価値を提供
身近なスマホ、タブレットで接客のトレーニングができるという、ユニークなサービスはどのようにして誕生したのだろうか。そこに顧客重視の姿勢を鮮明化させるNTTデータの展開が見える。開発の裏話を保険ITサービス事業部 課長 安藤亮に聞いた。
――Com Analyzer開発の経緯を教えてください。
「NTTデータが主催する、新規ビジネス創発事業『豊洲の港から』の中で、海外ベンチャー企業が提供する"表情から感情を推し量るソリューション"に興味を持ち、これを使って何かできないかと考えたのが始まりでした。また、ちょうどその頃に生命保険会社様から、成績優秀な営業社員の特徴やノウハウ科学的に検証し、見得える化することで横展開したいという声を聞き、それならば、このソリューションを材料として活用できないかと考え、生命保険会社様にも興味を持っていただいたことから実証実験がスタートしました。振り返ると、幅広く最新技術の情報収集をしてきたからこそ、お客様と多様なお話をさせていただく中から見出したニーズを具現化できたサービスといえます。」
NTTデータ 第一金融事業本部 保険ITサービス事業部 課長 安藤 亮
――開発にかかった時間はどのくらいですか。
「構想からは数年経ちますが、トレーニングツールとしての活用が決まってからは半年もかからずスピーディーに構築することができました。ゼロから研究開発始めると、どうしても時間がかかってしまいます。私たちの強みは必要となる技術やベンチャー企業を集めて、さまざまなお客さまと繋ぐこと、またそこに私たちならではの価値を提供するということです。
単体の技術ではできなかったことを、複数の技術を束ねてわかるようにする。今回で言えば『表情』と『声』が揃うと、『人の第一印象』がわかるというように、複数の外見情報を束ねて意味づけをするということをやっています。」
――今後のサービス展開をどのように考えていますか。
「今の状態が完成形ではなく、サービスは日々ブラッシュアップを続けています。今後は遠隔営業や採用活動、教育現場など、新たな利用シーンが出てくると考えられますが、その時々で求められることに応じて、サービスの内容を変容させて対応していきます。金融や保険分野を担当している私たちの事業部発のデジタルソリューションを、さまざまな分野・業界にも展開していきたいと考えています。」