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2020.2.26INSIGHT

トヨタ、コネクティッド基盤開発の最前線
~e-TOYOTA部における脱レガシー、組織変革、新技術への挑戦~

100年に一度の大変革期、と言われる自動車業界。トヨタ自動車(以下、トヨタ)ではモビリティカンパニーへの変革を目指し、自動運転車やMaasプラットフォーム開発、他業界連携による新サービス創造など様々な取り組みを行っています。その中でも、全てのクルマがつながるプラットフォームとして仕組みの中核を担うのが「トヨタスマートセンター、コネクティッドカー向けICT基盤」です。コネクティッド戦略という新しい領域に挑戦する中で、e-TOYOTA部がどのようにして様々な課題を乗り越えプロジェクトを推進しているのかを実際の事例を基にご紹介します。

自動車業界の変革と、トヨタにとってのデジタル化

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー e-TOYOTA部 スマートセンター開発室長 堂原 淳也 氏

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー e-TOYOTA部 スマートセンター開発室長 堂原 淳也 氏

自動車業界全体が「CASE革命(Connected, Autonomous, Shared&Services, Electric)」と呼ばれるかつてない変化に直面する中で、車のビジネスモデルも「所有から利用へ」、まさにMaaSの世界に変化しています。トヨタ自動車も「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」への変革を宣言。コネクティッド戦略の他にも自動運転やシェアリング、電気自動車などを待ったなしで進めており、自動車業界における「100年に1度の大変革期」は私たちにとっては「100年に1度のデジタル化の大波に飲み込まれている状態」とも言えます。

その中、私たちITの開発現場はどのようにコネクティッド戦略に取り組んでいるのでしょうか。今回、「トヨタにとってのデジタル化」を車のタイヤになぞらえて「最新テクノロジーの駆使(=クラウド活用)」と「カルチャーを変えること(=アジャイル導入)」を両輪とし、「100年に一度の危機感」を動力としてデジタル化を推進する、と整理しました。(下図参照)

デジタル化への挑戦!コネクティッド基盤、クラウドネイティブへの道のり

クラウド活用は約10年前からスタートしましたが、当時、どのクラウドサービスも未成熟で採用反対の声が多く、推進は決して容易ではありませんでした。しかし、コスト削減できる選択肢が限られていたことや、リーマンショックや円高などの暗いニュースが続く時だからこそ前向きなメッセージを発信したいという思いから、思い切って全面的なクラウド採用を決めました。

もちろん採用を決めた後もコスト問題や運用トラブルといった課題が次々と浮かび上がり決して順調とは言えませんでしたが、それでもオンプレに戻ろうと思ったことは一度もありませんでした。今振り返れば思い切った決断でしたがこの時点でクラウドに舵を切ったことは結果的に成功だったと思っています。

コネクティッド戦略が決まったのは、その後でした。私たちとしてはクラウドファーストに倒していたので全面的にクラウドで対応しようという意気込みでしたが、初代クラウド基盤では急増する大量データを高速処理することが難しく作り直すことになりました。第二世代のクラウド基盤は、高パフォーマンスとポータビリティ確保を目的にIaaS上にオープンソースで開発しました。しかしOSSをフル活用した仕組みの運用負荷が増大。さらにクラウド利用料の急騰でランニングコストの負担が想定以上となり運用開始後2年で第三世代の検討に入ることとなりました。第三世代の基盤はクラウドネイティブに切り替え、フルマネージド・サーバレスを採用しました。これは時間帯によりデータ処理量が変動するコネクティッドカー基盤と相性がよくランニングコストが半減。さらに開発サイクルが高速化するという副産物もありました。

コネクティッド戦略を加速させるべく、試行錯誤しながらのアジャイル開発

アジャイル開発は2017年に取り組みを開始しました。当初私自身はアジャイル開発に対して漠然と否定的な考えを持っていたのですが、コネクティッド戦略を加速させるためには必要だと考え、サービスインまでの2年間まずは全力でやってみようと心に決めました。進め方を試行錯誤する中で、ベンダーへの請負開発でアジャイル開発を成功させるのは難しいと思い、そこに対しての打ち手を模索しました。その打ち手として最初に着手したのがトヨタとベンダーの枠を取り払うことを目的に「大部屋を借りる」ことです。大部屋にトヨタ社員もベンダーも全員入ってコミュニケーションを向上し1つのチームにしました。その他、スクラム開発を教科書通りにしっかり学ぶことや、請負契約を廃止して準委任契約にすること、ベンダー主体のチームにも権限委譲しスピード感を持って開発推進できる環境を作りました。アジャイルに着手してからまだ2年しか経っていませんが、スタートして1年半あたりで手ごたえを感じています。

しかし今までお話ししたのは全て「現在」に対する取り組みです。一方、レガシー対応などの「過去」の話しや「未来」の話など手が回らないところもあり、自分たちだけですべてをやり切るのは困難です。デジタル化には一緒に推進する良いパートナーを見つけることも重要と考えており、私たちがまだ着手できていなかったところをパートナーとしてNTTデータとともに検討を進めているところです。

“Connected Car基盤への挑戦”トヨタとNTTデータの共同開発

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 古賀 篤

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 古賀 篤

NTTデータはトヨタとともに以下2つの取り組みを推進しています。

1つ目は2016年からNTTグループで共同開発している「未来の技術を一緒に作る」です。こちらではクルマのデータを活用してさまざまな課題をともに解決し、持続可能なスマートモビリティ社会を実現するコネクティッドカー向けICT基盤の確立に注力しています。実現にあたっては様々な技術課題も存在しましたが、3年実施して成果が出始めてきています。

2つ目は「過去(レガシー)の仕組みの安定化」です。こちらは割と最近スタートした取り組みで、レガシーシステムの抜本的なQCD改善に向けて検討しています。トヨタではクルマの利用年数が十数年なのに対して2~4年で新モデルがリリースされることから、10年以上前に開発した仕組みのノウハウ継承が困難、複数のアーキテクチャが存在、世代間連携が複雑等の課題がありました。それらの課題解決のために、まずはシステムアーキテクチャ面での歪みの見極めと対策など改善効果が大きな打ち手を先行的に着手し、中期的には複数世代管理からの脱却を実現していきたいと考えています。

「高い要求・情熱・技術革新が新しいものを生み出す」。これは私が大切にしているトヨタ側のリーダーの言葉です。現在、「未来」への取り組みで築いた信頼関係を基に「過去」の仕組みつくりにも取り組んでいるところですが、トヨタの未来をともにつくるパートナーとして、今後もとにかく手を動かしていきたいと思っています。

トヨタ自動車 堂原 淳也 氏

トヨタ自動車 堂原 淳也 氏

デジタル化の取り組みの中で私自身がITリーダーの立場として学んだことを最後にお伝えします。

  • ベンダー丸投げではなく自分達でやってみること。自らやってみてわかったことは多かった
  • 若手のエンジニアを信用すること。人・モノ・金・契約など働きやすい環境さえ整えばパフォーマンスを出せる。環境を整えるのはリーダーの仕事である
  • 一つ一つを早く決め、成果が出るまで我慢して続け、失敗したら責任を取ること
  • 自分たちでやれることはやるが、自分たちだけではデジタル化はできない。信頼できるパートナーを見つけることが大切
  • 本記事は、2020年1月24日に開催されたNTT DATA Innovation Conferenceでの講演をもとに構成しています。
    講演資料のダウンロードは、以下よりお問い合わせください。
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