新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現在も世界に拡がり続け、行動変容を強要された人々は困難な日々を過ごしています。では、COVID-19がITのトレンドに与える影響とはどのようなものでしょうか。今回NTT DATA Technology Foresightチームがまとめた結果見えてきたのは、パンデミックに対抗する主役としてのITの活躍、最新技術の前倒し投入や実用化の進展、この状況下でも拡大を続けるITの影響力、そして具体化する課題です。
1.パンデミックに対抗するIT
パンデミックの世界を見るとき誰もが気づくのは、現状を整理分析し対策を進める中心に、常にITがいるという事実です。私たちは、COVID-19の感染者数が世界で変動していく様や、今後の予測を日々目にしています。今を反映した数値、様々な対策が与える影響予測を鮮烈に示すインフォグラフィックの裏に、グローバルに集計されるデータとデータサイエンティストの数理処理が活躍しています。そもそも原因不明の肺炎患者の急増が、SARS-CoV-2と名付けられた新型コロナウイルスを病原体とする感染症COVID-19であることをわずか1週間程度で特定した強烈なスピードを支えたのもITです。メタゲノムシーケンスによるゲノム配列の解読、データベース照合による過去のコロナウイルスとの差異認識、タンパク質の立体構造シミュレーション、治療薬の探索といった一連の成果を高速に実現し、世界に共有し、さらに日々情報を拡充させるITが、人類が挑む極めてやっかいな敵との闘いを支えています。
2.前倒しされるITトレンド
パンデミックの世界でITが奮闘する中で、今後のトレンドと目されてきた技術についても利用が加速しています。予定より前倒しで投入された技術が、現場で磨かれるフローに乗ったと言えるでしょう。様々なセンシング・分析技術を用いたデータ主導アプローチが、人流をほぼリアルタイムに解析し感染症拡大予測のインプットとして活用されているのは一例に過ぎません。最新のAI自然言語処理を用いCOVID-19関連論文に特化した検索・要約エンジンが開発され医療研究者を強力に支援しています。検証が続けられてきたAI画像診断支援は、COVID-19特有の肺炎症状の判定で活用する動きが具体化しました。AIコールセンタによる省力化は、人々が一カ所に集合して働く環境に規制がかかる中で現実的な選択肢に浮上しました。AIの目を獲得して自律行動を可能にしたロボット達は、本来の省力化メリットに加え、非接触の実現という新たな訴求ポイントから、多様な医療支援やラストワンマイルを担う配送などで活用が拡がっています。こうして開発されたばかりの最新技術の前倒し投入や利用拡大が半ば強制的に進む過程では、多くの利用者から得られるフィードバックがもたらす改善のスピードが増し、ビジネス化の可能性がさらに拡大していくと考えられるでしょう。
3.拡大するITの影響力
パンデミックに伴う強制的な人々の行動変容をITは受け止め、影響力を増しています。いわゆるオンラインシフトへの心理的・経済的障壁は強制的に撤廃され、人々はこれまで以上にインターネット経由で完結する生活に流し込まれました。「10年の変化が数ヶ月」と言われる急速なリモートワーク化の進行は大手金融機関まで含めて不可逆的に進行し、以前より検討されてきた教育のオンライン化は具体化へ急速に舵を切りました。その結果、ネットワークの通信量やクラウドの計算量は増大しましたが、ITは大きな破綻なく受け入れました。さらに注目すべきは、あらゆるコミュニケーションの代替手段として浮上したオンライン会議ソフトが、あらゆる生産活動が制約を受けるパンデミックの環境下でも改善を続け、機能追加を繰り返し、複数のサービサが競争を激化させ、ユーザを拡大し続けている事実です。厳しい環境下でも、ITはソフトウェアが持つ生産性や、クラウドが持つ柔軟性を最大限活用して成長を実現するのです。困難な状況でも社会を支え、人々の生活を改善するITの存在感はさらに増していくでしょう。
4.具体化する課題
このように、パンデミックはITの積極的活用や前倒しをもたらし、技術進化の方向=トレンドを加速させましたが、一方でIT活用の拡大に伴う課題についても同様に具体化したと言えるでしょう。オンライン世界へのシフトはネットワーク効果をもたらし、COVID-19との闘いを支え、人々の新たな生活を豊かにしています。個々の膨大なデータの収集と分析、個を追求した最適なサービスの提供はその根幹です。一方ではこうしたデータは、感染した個の特定や追跡、個人の権利の制約にも利用可能という危険性が拭いきれません。今後懸念される労働力不足や経済的打撃を前に、AIの判断やロボティクスがもたらす合理性をとにかく優先してしまう場面も出てくるかもしれません。さらに、企業や個人がIT適用を進めてきたか否かによって明白な差異が生じる可能性も拡がります。このようにCOVID-19に伴う技術の早すぎる浸透は、以前から規範の探求が求められてきた様々な課題を浮上させ、ルールの具体化と実行を求めている事実も忘れるべきではないでしょう。
このようにNTT DATA Technology Foresightは、COVID-19の影響を情報社会全体で捉えています。今後も膨大な情報の収集と、技術で裏付ける分析を元にレポートしていきます。
- ※「NTT DATA Technology Foresight」公式サイト
- https://www.nttdata.com/jp/ja/foresight/trend-listing/