規範の探求
テクノロジーは、グローバルビジネスの拡大、個に最適なサービスの提供、地球規模課題の解決など多くの恩恵をもたらし、社会の営みをより便利に、誰もが生きがいを感じながら成長できる世界を与えてくれます。しかしながら、テクノロジーの進化がもたらす急激な社会変化の中で、旧来の規範や価値観だけでは対応できない課題が生じ始めています。
インターネットは、世界中に存在する知識を誰もが共有できる世界をもたらしました。一方で、知識という情報の流量が増えるにつれ、貧困、飢餓、教育など不平等が生じている実態に目を瞑ることができない社会も到来させました。人工知能は多大なメリットをもたらす一方、学習データの偏りによる差別の助長、フェイク動画による虚偽情報の蔓延など、従来敬遠されてきた社会課題や早期の解決が求められる課題を顕在化していきます。テクノロジーがあまりに普遍的なものになると、技術リテラシーの差が人々の日常的・社会的なあらゆる不利益や危険に直結することもあります。社会の在り方そのものがテクノロジーを前提とした社会に変わりつつある中、技術リテラシーを高めるための活動は極めて重要な優先課題となるでしょう。
近年、テクノロジーが発明され、実際に市場投入されるまでの期間が劇的に短くなっています。これは、テクノロジーが社会や生活に与える影響の評価や、法的、道徳的な観点で発生し得る課題への対策など、テクノロジーを社会に適用していくために必要となるルールや規範の整備が追い付かないという状況を生み出し、実際に社会問題にまで発展する事例も生まれています。これは技術進化と規範整備の時間差を如何に埋めるか、空白期間に生じた課題にどう立ち向かうかという難題であり、全世界の英知を結集し方策を考え出す段階が訪れています。
我々は今、既存の価値観や生活様式が大きく変化していく、その渦中にいます。オンラインコミュニケーションへの移行、非対面を前提としたサービスのデザイン、種々の作業の自動化や省人化など、テクノロジーが新たな日常との橋渡し役となっています。しかしながら経済性、利便性、精確性などの観点での社会影響評価は十分に実施されているのでしょうか。将来の社会を持続可能なものにしていくためには、テクノロジーの援用がもたらす潜在的な課題にも目を向ける必要があります。予想もできないような社会問題が生じた際、その課題を乗り越えるために、法による規制をかけるのか?テクノロジーを用いる人の倫理に委ねるのか?社会を崩壊させないためにも、テクノロジーに即した規範の在り方を考え、規範を探求していくことが、新たに我々に課せられた地球規模の課題となっています。
テクノロジーの追求に加え規範を探求すること、テクノロジーを作る側と使う側双方が連携してその課題に取り組むことが、ビジネスや社会の発展、そして人類そのものの持続性の探求と同義となっていくのではないでしょうか。