NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
山田 浩史
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 マーケティングデザイン統括部 デジタルマーケティング担当 課長
決済サービス「CAFIS」のソリューション企画・営業を担当し、業界のキャッシュレス化推進及び、お客さまが望む新たな購買体験を追求。現在は、ポイント・会員管理サービス「CAFIS Explorer」の企画・営業担当として、お客さまの顧客ロイヤル化を促進するソリューションを提供。
始まりから100年!?まだまだ伸びるポイントサービス市場
まず始めに、私たちの生活の一部になっているポイントサービスはいつ頃始まったか、みなさんご存知でしょうか。ポイントサービスの発祥には諸説ありますが、一説によると1916年に北九州市にある久我呉服店が始めたとのこと。詳細な記録が残っていないようなので内容はわかりませんが、この説が本当であれば始まりから既に100年が経っていることになります。
その後時代は流れ、1989年に大手家電量販店のヨドバシカメラが、値引き作業の負担を軽減するため日本で初めてバーコードを用いたポイントカードを導入しました。これが今日のポイントカードの仕組みの起源と言われています。(注1)
注1)出典:日本インターネットポイント協議会 ポイントサービスっていつ頃始まったの?
このようにして誕生したポイントサービスは、時代と共に単なる「値引き施策」ではなく「集客・囲い込み施策」としての活用に移り変わってきました。さらに、「囲い込み=単なるリピーター獲得」にとどまらず、「ファン化=企業やブランドに愛着を持ち、長期的に応援し続けてくれる優良顧客化」のきっかけとして、ポイントサービスを活用している企業も増えてきています。もちろん、ファンになってもらうには、ポイントサービスだけではなくさまざまな施策が必要ですが、ファンになる”きっかけづくり”には、私たちの生活に根付き、他サービスとも親和性の高いポイントサービスが最適なのではないでしょうか。(具体的な事例は後半で示します。)
数字の面でもポイントサービスの大きさ・伸びは裏付けられています。矢野経済研究所の調査データ(注2)によると、国内市場は約2兆円規模であり、今後もまだまだ伸びることが予想されています。
ポイントサービス国内市場規模推移と予測
注2)
出典:(株)矢野経済研究所「ポイントサービス市場に関する調査(2019年)」
2019年7月17日発表
注:ポイントの総発行額には特定の企業が発行するポイントやマイレージに加え、特定の決済(クレジットカード、電子マネー、キャッシュレスアプリなど)により付与されるポイント、業種・業態に関わらず提携先で利用できる共通ポイントなどが含まれる。
市場成長の要因の1つは、自社ポイントの発行に加え、マルチポイント化(1社で複数のポイント制度を導入)が進んでいることにあると考えられます。「集客・囲い込み」を強化するために、マルチポイントを導入し、1回のお買い物で自社ポイントと共通ポイント(Tポイント、楽天ポイント、dポイント、Pontaなど)の両方を付与するような企業もでてきています。ブランド力を持ち、大きな経済圏を築いている共通ポイントを活用して新規顧客を獲得し、獲得した新規顧客を自社ポイントの独自施策で囲い込むという動きが活発化しています。
一方、お客さまである消費者はどのようにポイントサービスを捉えているのでしょうか。次の章で紐解きます。
ポイントサービス好きはなんと8割強!消費者が魅力を感じる理由とは?
ポイントサービスに対する消費者意識の調査は数多くありますが、ここでは特徴的なものを二つほど取り上げたいと思います。
まず、ネットエイジア株式会社の「日本人のポイント活用に関する調査2020」によると、全回答者(2,000名)のうち、
・ポイントサービスが好きな人は8割強
・お得なポイントカードは積極的につくりたいという人は7割程度
という実態が見えています。この結果から、ポイントサービスは「当たり前に好きなもの」として定着している様子がうかがえます。また、この調査では「好きな理由=お得感」にも読み取れますが、実際はどうでしょうか。
もう一つの楽天ポイントの調査では、「お得」に魅力を感じる人が多い一方で、「ポイントを貯めること自体に楽しみを感じている」、「ポイントが限定グッズ(楽天ポイントのお買い物パンダグッズ、Pontaのポンタグッズなど)と交換できる」といった、ポイントを通してしか得られないモノやコト(体験)に楽しみを感じている人がいるという結果も出ています。お得感だけにとどまらないポイントへの期待があることがうかがえます。
左:お買い物パンダぬいぐるみ、右:ポンタぬいぐるみ
これらの調査結果からは、消費者は自社ポイント・共通ポイントにかかわらず、ポイントサービスに非常に好意的なことがわかります。そして、その理由は単なるお得感だけでなく、貯まる楽しみや使う楽しみ、新たな体験のきっかけにも期待があることが見えてきます。ポイントサービスと一言で言っても、企業にとっての活用チャンスは多種多様であると言えるでしょう。
今後のカギは、お得感以外の「体験価値」にあり?
近年の共通ポイントは、キャッシュレス決済(○○Pay)と連動する形で、10~30%といった非常に高い還元率を打ち出しています。では、今後の自社ポイントにおいても「お得感」を追い求め、還元率競争に挑むべきなのでしょうか。
私たちとしてはそうは考えておらず、還元率以外の要素が重要と考えています。前述の通り、ポイントサービスは私たちの生活に定着し、まだまだ発展余地が大きいと見込まれている中、「還元率というお得感」や「単なる値引き」といった、消耗戦かつ差別化がいずれ難しくなる方法にとどまらない、ポイントサービスの差別化が必要だと考えます。
その差別化要素の1つは、金銭的な価値以外の「体験価値」を消費者であるお客さまに感じていただくことにあると私は考えます。具体的には、①不便さの解消、②新たな体験のきっかけづくり、の二つです。
①不便さの解消
例えば、キャッシュレス決済が増えている昨今、1度のお会計でお客さまが、「A社のポイントカード提示→B社のポイントアプリバーコード提示→C社のキャッシュレス用QRコード提示」と、何度もカードやスマートフォンの操作を必要とするケースは少なくありません。
レジオペレーションの煩雑さイメージ
これはお客さまの利用意欲低下だけでなく、従業員(レジスタッフ)の目線で考えても、好ましい状態ではありません。効率的なレジオペレーションによって評価されるレジスタッフにとって、レジオペレーションの煩雑化によってやる気が失われるという事例も実際に起こっています。これでは、結果としてサービス品質が低下し、お客さまも離れてしまう......ということも招きかねません。
では、どんな体験が良いのでしょうか。少なくとも、自社ポイント付与と決済がワンオペレーションで実現できることが必要です。例えば、ファッションビルを展開する「パルコ」では、モバイルQRコード決済サービス「ポケパル払い」にて、1つのQR提示でポイント利用&付与も支払いも完結できるという仕組みを実現しています。(※)
(※)パルコ様の事例を詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
レジオペレーションの体験イメージ
このような「不便さ」を解消し、「使いやすい」という体験価値が、ポイントサービスを利用し続けてもらう差別化のカギになるのではないでしょうか。
②新たな体験のきっかけづくり
ふたつめは、ポイント利用がお客さまにとって新しいレジャー的体験のきっかけとなることです。
例えば、「スリージェネレーション(親子3世代)ショップ」をコンセプトに、レディース服・子ども服・生活雑貨などを販売する「COSUCOJI(コスコジ)」は、貯めたポイントを「コスコジの2時間店長」「店主のおんぶタクシー500メートル」など、ユニークなイベントに交換できます。中でも一番人気は「コスコジの2時間店長」を子どもが利用することだそうです。「子どもに楽しい体験をさせたい」という親世代のお客さまの興味関心にあっている点と、このイベントを通して物販にとどまらないお客さまとの関係を築けている点が特徴だと思います。
COSUCOJIポイント交換特典表(出典:https://kawacoji.hatenablog.com/entry/2018/05/28/103119)
また、クレディセゾンの永久不滅ポイントでは、貯めたポイントを運用し、投資を疑似体験できるサービスを行っています。おそらく、金融商品への興味関心が強い層が多いことを踏まえて、「投資を疑似体験=楽しい体験」というレジャー的な体験になっているのではないでしょうか。
このように、ポイントサービスを通じて、お客さまの興味関心・趣味嗜好にあったレジャー的な楽しい体験を提供することも、差別化のカギになると考えます。そして、その体験を通して、ブランド・商品に対する企業の想いや背景を理解していただくことが、ファンになるきっかけにもなると考えます。
「不便さの解消」も「新たな体験のきっかけづくり」も、お客さまの行動や思考、企業や商品に対する期待を理解することが成功のカギとなります。今後は、お客さまを深く理解し、お得感にとどまらない価値を提供できる企業が、お客さまからより愛されることになるでしょう。
まだまだ伸びるポイントサービス。今の時代に合った一工夫を加えることによって、企業のビジネス成長に貢献する新たな起爆剤になるものと考えます。
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