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2020.11.24INSIGHT

トヨタとともにつくる クルマと社会がつながる未来(前編)
~IoT化する社会を見すえて、異業種の協業が実現~

IoT社会では「さまざまなモノ」がインターネットに接続されていく。
これは、100年以上の歴史を持つクルマにとっても例外ではない。
クルマがインターネットに接続されて、センサーが検知した膨大なデータが活用されると、私たちの暮らしはどのように変わるのか。
コネクティッドカーの開発に最前線で取り組むトヨタの研究開発部門に、NTTグループと共に進めるプロジェクトや未来像について聞いた。

情報系システムは、クルマとは切り離された別ものではない。クラウドを含めたコネクティッドカーの一部になっていく。

――まずは、国内のコネクティッドカーをめぐる現状を教えてください。

前田社会がIoT化する流れにあって、クルマもそこへコネクティッド(接続)されるという予測のもとに、どのメーカーにおいてもコネクティッドカーの開発に乗り出し、市場に普及してきています。日本では、レクサスブランドが先行してコネクティッドしていましたが、トヨタブランドも、2018年のクラウンとカローラを皮切りに、各モデルが新しく切り替わるタイミングで通信機の標準搭載を進めているので、日本におけるトップランナーを自負しています。2025年には、トヨタ製のコネクティッドカーだけでも、およそ2,000万台近くが普及している見込みです。

前田 篤彦

前田 篤彦
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長。コネクティッドカー基盤関連を対象にプロジェクト全体をとりまとめ、開発の方向性を見極めるプロジェクトマネージャー。「今、InfoTechは70人規模の組織です。主にコネクティッドカー、MaaS、自動運転、それらを支えるICT、特にネットワークやクラウド系の研究開発、先行開発に従事しています」

現在のクルマには、カメラがついていますし、ミリ波レーダーや外界を見るためのセンサーもついています。つまり、クルマ自身が「社会のセンサー」になることができるんです。センサーによって集められたデータを活用することで、お客様へのメンテナンスや保険といった連動サービスの提供に加え、平時における安全な移動、災害時の情報提供といった社会課題を解決する将来像も踏まえて普及を進めています。

――IoT化する社会の中で、コネクティッドカーがインフラの一部になるということですね。このクルマを裏で支える「コネクティッド基盤」は、どれくらい開発が進んでいますか。

吉津最初に社内でプロジェクトが立ち上がったときは「コネクティッド基盤って何?」というところからスタートしました。トヨタでは2017年ごろから車両データの蓄積を始めていますが、最初の段階では、データを蓄積するセンター側の小規模な開発で解析できるデータ量でした。でも、どんどんデータが蓄積されてくると、その処理に莫大なコストが掛かるものだと認識できました。今では基盤の重要度が高まり「いかに速く、安くデータを処理できるか」という議論が先行開発だけではなく現行のシステムについても行われ、NTTデータさんと一緒に改善を進めています。

吉津 沙耶香

吉津 沙耶香
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部InfoTech 基盤システム開発グループ グループ長。コネクティッド基盤の技術開発を進めるソフトウェアアーキテクト。「現在、基盤システム開発は8名のグループです。メイン業務は先行開発で、カメラ画像などを溜めたり活用したりするシステム、ダイナミックマップの作成などを扱っています」

前田将来の「自動運転社会」の到来も見すえて、「クルマから集めたデータを解析して、車両そのものの制御につなげていく」といった応用も想定しています。そのため、クラウドも含めたコネクティッド基盤全体を「クルマの一部」と捉えるようになりました。従来だと、情報系のシステムは「クルマとは切り離された別もの」でしたが、コネクティッド基盤は今後クルマと一体化していくでしょうね。

吉津これからコネクティッド基盤が重要になることはグループ内で理解が進みましたが、まだ「技術的にどこまでできるのか」という共通認識は持てていない状態です。「センターに問い合わせたら1秒で答え返ってくるんだよね」というような人もいれば、逆に「問い合わせても20分、30分は待たされるんでしょう?」という人もいます。2018年度から始めた実証実験では、2020年度に「クルマからデータがサーバに上がってきて、次のクルマに返すまでを7秒にしよう」という目標を立てました。今やっと、その達成が見える段階にまで来ました。

――公道での実証実験は、どのように行われてきたのですか。

高橋2018年度の実証実験はお台場で実施することに決め、まずは公道を走ることができる試験車の制作から始めました。レクサス・トヨタの3車種を使い、電源や機材の配置などを乗員の安全も考えながら、ゼロから検討しました。

実証実験に用いられた車両と機材設定の様子

実証実験に用いられた車両と機材設定の様子

高橋 克徳

高橋 克徳
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部InfoTech 基盤システム戦略グループ 主任。コネクティッドカー基盤の全体構成のバランスを見ながら、開発の方向性を検討する実証実験のリーダー。「インフラ側を検討するメンバーが多いなか、私はクルマ側に何か入れる要素があったら、どうバランスを取っていくべきかといった比較検討をする役割です。現場で一緒にやらせていただいているので、NTTグループの方たちと共に過ごす時間は多かったですね」

高橋また、基盤側の技術検証だけをしていても世の中にはなかなか訴求しづらいので、障害物を検知してドライバーに通知する仕組みや、集めたデータから「ダイナミックマップ」と呼ばれる刻々と変化する現地状況を含めた地図を自動で作る仕組みが必要と考えて検証を進めました。2017~18年当時、このようにクルマから収集したデータをもう一度クルマに戻すという発想はあまりなく、世の中に先行して進められたと考えています。

吉津ダイナミックマップや画像収集基盤を実現するためには、クルマから送られてくるデータを解析して、さまざまなシステムで使えるようにセンター側で加工・蓄積する必要があります。その処理をいかに速くできるかというアーキテクチャの研究開発にNTTデータさんと取り組んでいます。

公道の実証実験では、朝早くから日が暮れるまで試験車に同乗。両社が1つのチームとなって、さまざまなトラブルを解決した。

――トヨタ自動車はコネクティッドカーというテーマでNTTグループ、NTTデータとパートナーシップを組まれました。パートナーを選ぶにあたって重要視したポイントはどこでしょうか。

前田NTTグループさんはICTに関して世界トップクラスの研究体制をお持ちですし、グループ全体で見ても開発力を備えています。その中でも、NTTデータさんは大規模システムの開発に精通しているという点が、パートナーとしての技術面で非常に重要だったと考えています。

コネクティッドカーの要は「いかにデータ活用を効率的にやれるか」にあります。車両から生み出されるデータは膨大で、移動データもあれば、車両自身のセンサーデータもあります。それら大量のデータを低コストで効率よく、リアルタイムで処理するシステムを一緒に開発していただいています。

前田加えて、コネクティッドカーで社会課題を解決する目的もありましたから、そうした試みに対しての「志」や意識を同じようにお持ちだという条件も大切です。その点、NTTグループさんには短期的な利益だけでなく、長期的な目線でお付き合いいただけると思いました。

近い将来、コネクティッド機能の搭載は、クルマの標準になります。それによって社会でのデータ活用の幅がますます広がると私たちは考えていますし、そうした時代を見すえたNTTグループさんとの協業でもあります。パートナーとなるのは必然だったかもしれませんね。

――NTTデータ側では、どんな感想を持っているでしょう。

柿沼私たちNTTデータが持っている強みは、もちろん大規模システムの開発実績ですが、トヨタさんからコネクティッド基盤で協業するお話を初めていただいたときに、ネットワークやモバイルを始め、そのほか難しい研究要素の話が盛りだくさんでした。「これはおそらくNTTグループ全体で取り組まないといけない大きなプロジェクトだ」と直感したので、そういった意味では、NTTグループの総合力がパートナーとして重要だったと感じます。

柿沼 基樹

柿沼 基樹
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長。コネクティッド基盤のアーキテクチャ全体設計、ダイナミックマップ/画像収集基盤の研究開発、実証実験の全体統括を担当。得意分野はオープンソースを用いた大規模基盤開発。「コネクティッド基盤や画像収集基盤に関する研究開発を長らく担当しています。社内のスマートモビリティ企画室も兼務していて、この春から始まったトヨタさんとのスマートシティのプロジェクトにも参画しています」

――振り返ってみて、協業における印象的なエピソードはありますか?

柿沼先ほど高橋さんから説明いただいた実証実験は、大きな役割としてクルマ側はトヨタさん、センター側はNTTグループという分担でした。その一方で、私たちが車載機の開発に一部携わらせていただいた経緯もあり、朝早くから日が暮れるまで試験車に同乗して、さまざまな経験をしました。位置情報が取れない、車載機が起動しない、センター側にうまくデータが届かない……といったトラブルをトヨタさんと一緒に解析したり、再トライしたりして、まるで「1つの会社の1つのチーム」のような関係で実証実験を進めることができたと感じています。

実証実験(2018年)の様⼦

実証実験(2018年)の様⼦

――データ処理にとって大切なのは、サーバのスケールやコンピューティングパワーだけではないのですね。

竹内日常におけるデータの処理は、もうノートパソコンやスマホなどで当たり前にできる環境になりました。でも、実証実験だとそうはいきません。車両用のパソコンをNTTデータが設計したのですが、クルマに載せるにはサイズや電力など、さまざまな制約があります。でも、クルマ側がうまくフィットするよう、トヨタさんにはものすごいスピード感で対応いただけました。これはカーメーカーとの協業だからこそできたことです。

竹内 一弓

竹内 一弓
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長。CAN(Controller Area Network)基盤の号口導入(本番環境への導入)案件のアーキテクト兼プロダクトマネージャー役ほか、CAN基盤の高速化・効率化へ最新技術の知見を生かした研究開発を提案。得意分野はHadoop等の大規模並列分散処理開発。「クルマからサーバ側に送られてくるCANデータを効率的に扱ったり、データを見やすく成型したりする方法をコスト面も考えながら検討、支援しています。また、車載機の設計・開発もお手伝いしました」

吉津センター側との通信を円滑に行うために、どのようにクルマからデータを送るかを考えられたのも、この2社の組み合わせだったからという気がします。

実証実験の目的は、研究開発だけではない。派生技術が商用の場面に転化されるサイクルが回り出した。

――コネクティッドカーの今後に向けては、どんな課題がありますか。

前田いろいろな課題解決に成功したからこそ、次に解決したくなる課題が周辺に見えてきています。例えば、現状では大量に溜めたデータを解析することで、お客様の行動や、クルマの動きなどを把握しています。もっと大きな流れにまで広げると、交通量の変化などもわかってきますが、その部分は、まだ手つかずです。

吉津ダイナミックマップのような技術も多様なサービスに使えると思っているので、そのためにはさまざまなデータ分析ができないといけません。どんどん新しい課題が出てきている印象はありますね。

竹内実証実験の目的は、研究開発だけではありませんよね。そこで試した技術をベースに、商業システムへの適用を私たちは目指しています。現行車と比較すると、性能が数倍良くなった、コストが数倍下がったといった効果が見えてきています。こうした派生技術が商用の場面に転化されるサイクルが回り出したなと感じます。

前田数パーセントとか、数十パーセントというレベルではなく、本当に「何倍」という成果です。コスト効率が急激に上がるんだという実感がありますね。浮いたコストのおかげで新しい挑戦ができるので、とてもいい循環が生まれていると思いますよ。

クルマと社会がつながる未来へ(後編)に続く

講演情報

本記事に登場したトヨタ自動車 前田氏も登壇するNTTデータのプライベートカンファレンスを開催します。
講演では本記事に関連した情報、記事内では語りつくせなかった情報についてもお楽しみいただけますので、皆さまのご参加をお待ちしています。

NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会
2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信
2021年1月28日(木)~2月26日(金)オンライン展示期間

2021年1月28日(木)16:45~17:25
「コネクティッドカーが実現する未来の社会― トヨタ自動車とNTTグループのチャレンジ」
トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長 前田 篤彦 氏
アイディアピクニック代表理事 日本大学情報科学科大澤研究室研究員 中沢 剛 氏
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 千葉 祐

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

※本記事は2020年9⽉に、新型コロナウイルスの感染対策を講じたうえでインタビュー・撮影を実施しました。

取材・構成/神吉 弘邦  写真/奥田 晃司  編集/宇佐見 智紀

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