NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
【スピーカー紹介】
仙台育英学園高等学校 須江航監督
秀光中教校の教諭として全国中学校軟式野球大会にて初優勝に導き、その後2018年1月より仙台育英高校の監督に就任。
立花学園高等学校 志賀正啓監督
日本体育大学荏原高校で助監督を経て2017年4月より立花学園高校の監督に就任。
NTTデータ 荒智子さん
VRを利用したシミュレーションシステムを選手のパフォーマンス向上及びファンエンゲージメントの両面で日米にてサービス立上げ、展開中。
高校野球におけるデジタル活用の現在地
田中:昨今、デジタル活用がさまざまな分野で進みつつありますが、高校野球におけるデジタル活用の現在地について、どのようにお考えですか。
志賀さん:高校野球では正直あまり進んでいないと思います。少しITを活用しただけで周りから「進んでいますね」と言われますからね。現時点ではデータに基づいた指導ではなく根性や熱意が優先されている印象です。しかし近年は生徒に根性論で教えても納得しない生徒が増えてきているのも事実です。
田中:なぜそういった生徒が増えてきているのでしょうか。
志賀さん:バッティングの仕方などの方法論がネットに転がっているので、指導者より生徒の方が方法論をたくさん知っている場合も多いからです。また、生徒同士でもスマートフォンを使って練習風景を動画で撮影し分析しています。そういった状況を目の当たりにしていると、指導者が根性論だけで指導する時代は終わり、これからはITやデータを活用した指導が必要だと肌で感じます。
取材時の様子。左上から反時計回りに、インタビュアー:田中、スピーカー:志賀さん、須江さん、荒
田中:デジタル活用が高校野球で進んでいない理由は他にもありますか。
須江さん:正直なところ、金銭的な問題が大きいと思いますが、それ以外では生徒の野球のスキルにばらつきがある点だと思います。プロ野球選手の場合はある程度の基準スキルを持っていますが、高校生の場合はデジタル活用以前に基本スキルを指導すべき生徒も多くいます。
ただ、ある程度スキルを持った生徒にはデジタル活用によってよりスキルを伸ばすような指導を行うなど、生徒に合った指導はすべきだと思っています。私としては、高校野球においても今後ますますITやデータを活用した指導は進めるべきだと思います。
荒:仙台育英さんも立花学園さんも高校野球チームの中では、積極的にITやデータを活用し、チーム力強化に繋げていらっしゃるチームだと思います。一方、プロ野球チームと比較すると、ITやデータ活用に明るい監督やコーチが、アマチュア業界ではまだ少ない印象がありますね。ただ、今後は両監督がおっしゃっている通り、確実に浸透していくように思います。
コロナ禍がもたらした練習のデジタル化
田中:新型コロナウイルスの拡大によって練習方法などで変わった点はありますか。
須江さん:練習時間が以前より減ってしまったので、校庭を使える時間はできる限り練習に時間を充て、ミーティングなどは21時からzoomで行うなど練習スケジュールを変える工夫をしています。また、今まで当たり前に行っていたことを見直し、無駄と感じた部分は排除したり、自動化できるものは自動化したりと効率化を意識しています。
志賀さん:私たちのチームでは練習日記を今までノートに書いていたのをアプリに変えて、対面で渡さなくても良い仕組みにしました。また、数値化できる部分は見える化しようと意識が変わったので、新型コロナウイルスによってデジタル活用は進んだように感じます。
デジタル活用が少しずつ浸透し始めている高校野球
荒:2020年は新型コロナウイルスの影響により、センバツや甲子園の開催見直しがありました。それらを目標に一生懸命練習を積んできた選手のみなさんにとっては、本当に言葉にならない思いがあったと思います。VR野球シミュレーションシステムの検証でご一緒させていただいている間、それでも前を向いて次に進もうとする姿は非常に心に響きました。
練習時間や場所にも制限がかかる状況で、限られた時間で効果を出すためのトレーニング手法として、デジタル活用はさらに重要になってきたと思います。
反復練習の救世主?VR野球シミュレーションシステムの実力
田中:今回、練習のデジタル化の一環として、NTTデータが開発中の「VR野球シミュレーションシステム」をご利用頂いたと聞いています。
荒:はい、今回ご利用頂いた「VR野球シミュレーションシステム」は、VR(Virtual Reality)技術を利用し、実際の野球グラウンドや実投手の投球(軌跡、スピード)を高精度に再現するとともに、スイングの動きをセンシングし、可視化するものです。
これまでMLBやNPBなど、プロ野球チームの方々と検証を進めてきましたが、アマチュア野球のみなさんにも活用いただきたいと考えていました。そこで今回、仙台育英さんと立花学園さんの2校に検証にご協力いただきました。
田中:このシステムを実際に利用してみて、2校のみなさんはいかがでしたか?
須江さん:個のスキルアップには最高のシステムだと思いました。今後、高校野球にも浸透するのではないのかなと思っています。特に、新型コロナウイルスによって効率化を意識した結果起こっている、反復練習の時間減少を解決してくれるシステムだと思います。バッティングの自習練習には最適ですよね。
VR野球シミュレーションシステムを使った練習の様子①
志賀さん:そうですね、私も繰り返し練習できるところが最も良い点だと思います。例えば、VR空間での投球に対するスイング結果に対して指導を行った後、その生徒がその指導を活かして同じ投球を繰り返し練習できたり、その後のスイングにおける変化を可視化できたりします。左ピッチャーが苦手な左バッターの子のように、苦手意識がある投球を繰り返し練習できるのが良い点ですね。
また、生徒にとっては今まで体験したことのない速度の投球を体験できたことも良かったようです。余談ですが、自分の投球をVR上でバッターとして打つことができる点は本当に画期的ですよね!
須江さん:そうですね、このシステムのお陰で長年の野球人の夢が叶いましたね(笑)
現状は、野球の打撃における「上手さ」の基準値がないため、どれだけ頑張れば甲子園に行けるのか誰にもわかりません。ですが、こういったVR空間という同一環境、条件下でパフォーマンスを可視化することができれば、各チームがどこをどの程度強化する必要があるのか自覚でき、より目標めざして頑張れる気がしています。
荒:まさに野球偏差値のような全選手のパフォーマンスを客観データとして可視化していくことはこのソリューションの最終目的地です(笑)!
現在、映像によるスイングフォームの分析など、打者のパフォーマンス解析もさまざまな形で進みつつありますが、このシステムの場合、投球とセットで分析することで、投球の違いによる打者の癖や傾向まで可視化することができます。
また、VRという360度の空間で「体感」ができるというもの大きいですね。データや映像の場合、2次元の情報であるため、頭で理解したものを身体で動かすというステップを踏むことになりますが、VRの場合は最初から身体で理解することが可能です。
VR野球シミュレーションシステムを使った練習の様子②
デジタル活用によって選手が自ら考える練習スタイルへ
田中:今後のデジタル活用への展望、もしくはVR野球シミュレーションシステムへの期待があれば教えてください。
須江さん:チーム力強化には、試合分析と個のパフォーマンス強化の両面が必要だと思います。その双方において、デジタル活用は必須となると考えます。試合分析については、特に高校野球の場合、常に対戦チームの状況が変わるので、年々データを蓄積し、傾向を出していくことは今後必須となると思いますね。
個のパフォーマンス向上という意味では、まさにVRのように個々人のコンディションを各自が自覚でき、それに合わせたトレーニングができることは大きいですね。実際、VR上でパフォーマンス向上が見られた選手は、リアルでもコンディションが上がってきています。
志賀さん:高校野球でも一般的に使えるようなITツールが増えていくとよいですね。選手には野球に限らず、全てにおいて自ら考え、行動していくことを意識させています。全体練習以外でもVRのようなツールが今後浸透していくことで、自主的にコンディションを把握し、必要なトレーニングに自ら取り組むような動きが加速していくと良いと考えています。
荒:実際、今回検証した結果として、VRを日々のトレーニングに組み込んでいただいた選手の方が、結果としてパフォーマンス向上が見られたことも非常に大きな結果となりました。アマチュア野球における活用方法も今回の検証を通じて見えてきたことから、来春以降、アマチュア野球向けのサービスについても本格展開をめざしていきたいと考えています!!
須江さん、志賀さん:期待して待っています!!