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2020.10.15業界トレンド/展望

VR・AR・MR……加速するXRトレンド。小売業界の”使いどころ”とは?

テクノロジトレンドから次世代デジタルストアのあり方を検討する私のチームでは、前回記事で「ロボット」についてご紹介しました。今回は、今最もトレンドが加速している領域の一つであるVRやARと言った技術の総称である「XR」について、その効果や導入事例を踏まえ、私たちの考える”使いどころ”をご紹介します。

NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。

前回記事はコチラ

店内活用の可能性は?Walmart特許から見る小売業界向けロボットの進化

vr

川北健太郎
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部プラットフォームデザイン統括部 テクノロジーサービス担当 主任
NTTデータ入社後はエンターテイメント業界向けのプリペイドカードシステムに従事し、システム運用を入り口に、開発から保守含むシステム開発の一連の工程を経験。その後、同システムにて運用自動化による抜本的な原価削減を達成した実績をきっかけに、そのノウハウを横展開すべく、R&D部門での運用生産性向上プロジェクトに参画し、システム運用コンサルティングやServiceNowなどのソリューション導入を経験した後、現職へ。現在は、小売り及びエンターテイメント業界向けの新規オファリングサービス検討と、事業部横断での運用生産性向上を実施中。併せて、技術トレンド調査や情報発信活動にも取り組んでいる。

vr

小川貴史
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部プラットフォームデザイン統括部 テクノロジーサービス担当 主任
NTTデータ入社後はアプリケーションエンジニアとしてエンターテイメント業界向けプリペイドカードシステム開発に従事。その後、インフラエンジニアとして同システム運用自動化開発および保守に携わり、ソリューション横展開として、運用自動化開発プラットフォームの企画にも参画。さらに、金融機関向けECサイト構築や、プリペイドカードシステム更改案件に従事した後、現職へ。現在は、主に小売業界、エンターテイメント業界などを対象とした新規サービス企画や、海外ベンチャー、技術動向の調査を実施中。その他、社内外に向けた情報発信などにも取り組んでいる。

VR、AR、MR……そもそも”XR”とは?

トレンドの話に移る前に、まずXRの定義を改めて説明します。XRとは「仮想空間技術、空間拡張技術をまとめた総称」のことで、大きくはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の3つに大別されます。それぞれの違いについては以下の通りです。

・VR:現実世界とは切り離された仮想世界を体験できる技術(プレイステーションVR)
・AR:現実世界への情報付与を目的とした技術(ポケモンGO)
・MR:仮想世界を現実世界と重ね合わせて体験できる技術(Microsoft Hololens)

それぞれ、没入度(仮想度合)に応じて下表のように違いを表すことができます。

分類 AR
Augmented Reality
(拡張現実)
MR
Mixed Reality
(複合現実)
VR
Virtual Reality
(仮想現実)
空間 拡張させる
現実世界にCGなどで作った仮想世界を反映(拡張)させる
融合させる
仮想世界を主体とし、仮想世界と現実世界を重ね合わせる
没入させる
コンピュータ上に現実に似せた「仮想世界」を作り出し、入り込む
没入度
(仮想度合)

現実のモノは見える
移動しながら○

現実のモノは見える
移動しながら△

現実のモノは見えない
移動しながら×
デバイス スマホ
スマートグラス
ヘッドマウントディスプレイ
(シースルー型)
ヘッドマウントディスプレイ
(没入型)
主な利用シーン 作業ガイド シミュレーション教育 ゲーム
代表例 ポケモン GO Microsoft Hololens
Google Glass
プレイステーションVR

また、この記事では説明は割愛しますが、研究段階の技術として、SR(代替現実)やDR(減損現実)といった新しい技術も登場してきています。詳細に興味のある方は下記の外部サイトのリンクを参照ください。

そんなXRですが、IDC Japanが発表した「2023年までの世界AR/VR関連市場予測を発表」によると、2023年には市場規模が1606.5億ドルに達するという急速な成長が予測されています。さらに、この予測で注目すべきは、ゲームやエンターテイメント領域だけでなく、他の業界での成長も期待されている点であり、ゲーム以外での活用シーンの拡大が予測されています。

なぜ今XR?トレンドを加速させる技術の進化

では、なぜ今XRが注目を浴びているのでしょうか。過去にもVRやARが脚光を集め、ブームとなったことがありました。しかし、当時はさまざまな課題が存在し、社会に受け入れられませんでした。その課題と現状を3つほどご紹介します。

まずは、コストの問題です。ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)をはじめとするXR用のデバイスは非常に高価でした。また、それらのデバイスを通して視聴するためのXR用コンテンツ生成にも多大な労力が必要でした。

しかし、CPUなどの進化によってデバイスの小型化が進み、安価になってきています。

例えば、ARグラスのGoogle Glassは1500ドル(Google Glass Enterprise Edition)から999ドル(Google Glass Enterprise Edition 2)へ、VR用のHMDであるOculus Riftは599ドル(Oculus Rift)から400ドル(Oculus Rift S)へ下がっています。まだ個人で購入するには勇気が必要な価格ですが、今後さらに安価になるものと予想されています。

vr出典(左):「Google Glass」新モデル、大幅アップデートし999ドルで発売へhttps://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/21/news056.html

出典(右):Oculus Rift Sが399ドルで今春発売、外部センサーいらずの新型VRヘッドセット
https://jp.techcrunch.com/2019/03/21/2019-03-20-the-oculus-rift-s-is-indeed-real-and-arrives-in-spring-for-399/

次に、性能の問題です。仮想空間の映像の解像度や画質は粗く、現実世界とは大きな乖離がありました。また、インターネット経由で配信される場合、映像の遅延発生によるストレスも少なくありませんでした。

この問題に対しては、8K相当の解像度や人間に非常に近い視野角度200解を実現するHMD(Pimax Vision 8K Plus)などが登場してきました。後述する5Gも大きな起爆剤です。

vr出典:広い視野角と8K表示のVRヘッドセット「Pimax Vision 8K Plus」
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1255797.html

最後に、機能の問題です。現実世界と同様の操作性を仮想空間で実現するUI /UX技術が未熟であったことに加え、XR技術を代表するようなキラーアプリも登場しませんでした。

機能面では、AppleのARKitやGoogleのARCoreなどのSDKに加え、3Dコンテンツ開発プラットフォームやツールの充実により、XRアプリを容易に開発できる環境が整ってきました。加えて、ポケモンGOのようなキラーコンテンツの登場もあり、XRが馴染みのある技術として社会的に認知されるようになりました。

こうした技術進化に加え、5G普及や新型コロナウイルス流行といった要因が、XRの進化をさらに加速させつつあります。「大容量・低遅延・多接続」の5Gによるリアリティの向上や、「非接触」の実現、「三密」を避ける遠隔体験として、XRの活用が世界的に注目されています。

IT業界の巨大企業であるGAFAも下記例の通り、積極的に投資を進めており、XRは目が離せない領域です。
・Google・・・スマートグラス開発企業North買収スマートグラス関連特許出願
・Amazon・・・試し置きアプリ「Room Decorator」発表
・Facebook・・・Oculus Quest 2発売開始Raybanとのスマートグラス共同開発
・Apple・・・VR関連企業Spaces、NextVR買収ARグラス関連特許取得

VR・ARのユースケースと小売業界の活用事例

実用段階に入り、トレンドの加速するXR。ここからはVR、ARそれぞれのユースケースと小売業界における活用事例を見ていきたいと思います。

VRのユースケースと小売業界の事例
まず、VRのユースケースは大きく3つです。

① 魅力的な仮想空間を体験・シェアする
主にゲームやeスポーツなどを想像いただければわかるとおり、HMDを通して、現実とは異なる3次元空間を体験したり、その空間を他のユーザと共有したりすることが、VR登場時からの最大のユースケースです。

vr

② 実施困難な状況をシミュレーションする
2つめに挙げられるのが、コストやリスクなどの理由によって現実世界での実施が困難な事象を何度も再現することです。手術や災害のシミュレーションや、再現が難しい特定状況下のトレーニングなどに活用されています。

vr

③ 距離を超えてリアルな空間情報を認識・体験する
遠隔地にあるモノや空間を目の前に存在するように認識させることが、3つめのユースケースです。旅行や不動産の内見などを遠隔から擬似体験するような活用例をイメージいただけると分かりやすいと思います。

vr

こうしたユースケースを踏まえた小売業界の活用事例のひとつが、VR×棚割最適化です。

米国では、VRを使って消費者の視線トラッキングを行うことにより、商品棚割の最適化を検討した事例があります。仮想空間によって棚の準備や商品陳列などにかかるコストを抑え、かつVRを用いることで消費者の視線トラッキングデータを取得した点にも新しさがあります。実際の結果として、実験期間中の売上増の効果も確認されています。


出典:仮想現実(Virtual Reality/VR)マーチャンダイジング
https://www.accenture.com/jp-ja/insights/technology/virtual-reality-merchandising

もう一つの事例が、VR×トレーニングです。

Walmartでは、年に一度の大規模セール(Black Friday)時の対応や、BOPIS用ピックアップタワーなどの設備導入前における操作方法の習熟のために、HMDを活用したトレーニングを実施しています。実際に、VRを使ってトレーニングを行った従業員のうちの70%は、他のトレーニング方法を用いた従業員と比較して高いパフォーマンスを示すという報告もあります。

vr出典:VRトレーニングを100万人の従業員へ ウォルマート、VRデバイス大量導入の理由
https://www.moguravr.com/walmart-vr-training/

ARのユースケースと小売業界の事例
続いて、ARの代表的なユースケースです。こちらも大きく3つ挙げられます。

① 現実と融合した魅力的なコンテンツを体験する
現実空間を活かした形で3Dコンテンツを付加することによって、新たな体験を生み出すユースケースです。ポケモンGOなどのゲームのほか、AR広告やARライブなどの事例があります。

ar

② 現実に対してシームレスに補足情報を付加する
2つめは、現実世界に対して文字や図、視覚効果などを表示させることによって、情報を付加するユースケースです。具体的には、ARグラスへの作業指示・マニュアル表示による作業効率・品質向上や、スマートフォンをかざすことで画面越しに商品ガイドや商品までのルートナビゲーションを表示することによる消費者利便性の向上などが挙げられます。

ar

③ モノを用意する前に使用感を試す
最後のユースケースは、モノを3Dコンテンツにすることで、実物を準備することなく現実世界とのフィット感や完成イメージの確認、使用感を試すことです。企業向けには建築物3Dモデルイメージの事前チェック、ユーザ向けにはバーチャルメイク、スマートミラーなどに活用される利点です。

ar

その中でも小売業界の代表的な事例としては、上記③を活かした、AR×商品お試しが挙げられます。

ARを活用した家具の試し置き「RoomCo AR」では、ECサイトではわからない製品の実物感や、実店舗ではつかみにくい設置イメージが確認でき、EC・実店舗の弱みを解消している点が大きな特徴です。

本アプリ内に出品しているニトリでは、(他施策の効果も含まれているものの)2018年3月~8月期の連結決算にて、 EC事業の売上高が前年同期比で30%増加したとの報告もあります。

ar出典:RoomCo AR
https://apps.livingstyle.jp/roomco/launchApp.html

小売業界におけるXRの"使いどころ"とは?

xr

前章の通り、小売業界でもさまざまなXRのユースケースが登場し、そのビジネス効果も確認できるようになってきました。最終章では、こうした事例を踏まえつつ、CX(顧客体験)・EX(従業員体験)の変革を切り口に、XRの"使いどころ"を考えてみたいと思います。

CX(顧客体験)の変革に寄与するXR
CXの変革には、事例からもわかるようにARが適しています。オンライン、特にスマートフォンを前提とした購買活動が当たり前となった現代においては、スマートフォンやWebで実現できるARの方が消費者の体験との相性が良いからです。特に、前章に挙げたような購買体験を変革させる「商品お試し」が使いどころと考えています。

具体的には、前章で紹介したRoomCoARのような家具の試し置きや、ARを活用したバーチャルメイク、スマートミラーによるバーチャル試着などのサービスが挙げられます。購買意思決定段階の消費者に対して、実物に近いリアルなイメージをオンラインで提供することにより、購入前に消費者の納得感を高め、コンバージョン率向上や返品率低下に繋げられます

さらに、「AR×商品お試し」は、実店舗での買い物を不便に感じつつもECサイトでの購入に不信感を持つような消費者の期待にも応えられる可能性(=新たな顧客層の取り込み)があります。また、企業にとっては、試供品・サンプルの製造コスト削減や、その提供・接客・返品に関わる従業員の対応稼働の効率化も期待できます。

一方、ARによる商品ガイドやルートナビゲーションは、顧客体験に溶け込ませることが難しく、XR以外の技術(例えば屋内測位技術など)で代替できる可能性もあることから、現状では活用は難しい状況と考えます。

EX(従業員体験)の変革に寄与するXR
EX変革については小売業界でも既に効果が確認されている事例を踏まえ、「VR×シミュレーション」や「VR×トレーニング」などの領域が使いどころです。

例えば「VR×シミュレーション」は、店舗設計や棚割設計など、大掛かりな設備準備に稼働やコストを要する業務に適しています。これらは事前に設計フェーズでディテールを確認できるため、作業品質が上がり、構築・設営フェーズでの手戻りや失敗のリスクを最小限に抑えることができます。

また、「VR×トレーニング」は、店頭オペレーションのような臨場感が求められるシチュエーションでの教育に適しています。マニュアルや教育用動画のような視覚情報だけではなく、実際に近しい体験を提供することが高い教育効果に繋がっています。加えて、ネットワークを介して遠隔地からスキルが伝達できるため、高スキル者による教育を効率良く行うことにも寄与します。

とは言え、XRはあくまで手段のひとつ
xr

このように、既にXRは小売業界向け技術としても実用段階となっています。ただし、XRはあくまで課題解決のための手段、ツールの一つにすぎません。もしXRが適用できそうな課題があったとしても、別の技術・方法でより良い解決ができないか?という視点でも検討を進める必要があります。

例えば、先ほど挙げた「VR×トレーニング」でも、トレーニング領域・内容次第では動画配信やWeb研修などの方が効果的・効率的な場合もあります。XRを適用しようとする課題に対して、臨場感などの”XRならではの価値”が本当に必要なのか?を冷静に見極めることが重要です。適切な"使いどころ"を意識した上で、デジタルトランスフォーメーションの選択肢としてXR活用を検討してはいかがでしょうか。

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