既存システムを「足かせ」ではなく、新ビジネスの源泉とする
「2025年の崖」――これは、2018年に経済産業省が公開したレポートの表題です。レポートの中では「DXができない企業の多くは、システムの高度化やIT人財不足にともなって経営的なリスクを抱えてしまい、2025年を境に競争力が大きく低下してしまう」といった報告がされています。
レポートの公開から2年が経ちましたが、IPA(情報処理推進機構)の公開情報によれば、DXを企業全体で組織横断的に、着実に進められている企業はいまだ5%にも届きません。企業がDXを始められない理由のひとつとして、「既存のシステムが足かせになっている」ことが挙げられています。しかし、コロナ禍で非接触・非対面のシステムが強く求められる今、デジタル化の推進はいっそう求められています。
レガシーなシステムの見直しは極めて重要です。新たなビジネスを創造するためには、「費用」「データ」「アジリティ」が必要ですが、日本国内のIT投資においては、実に8割が既存システムの保守に充てられています。経営層は、この投資配分を抜本的に見直す必要があります。また、新しいビジネスを生む価値の高いデータは、その多くが既存のシステムに眠っています。さらに、市場に追従するアジリティを得るためには、システムの開発速度自体を高めていかねばなりません。
このように言われても、DXにはさまざまな悩み・課題があると思います。「DXの攻めどころが定まらず、PoCから先に進めない」「既存システムがブラックボックスで、刷新の見積もりができない」「データが散在していて、活用できず頓挫してしまう」…これらの課題をいっぺんに解決する魔法の杖は、残念ながらありません。段階的なモダナイズのアプローチが必要です。
現状から理想を一気に目指すのではなく、守るべきIT資産と思い切って作り変えるIT資産を切り分け、優先度とコストを勘案して現実的な落とし所を目標に、段階的にDXのあゆみを進めていくのが、NTTデータが提唱する「APモダナイゼーション™」です。
APモダナイゼーション™では、モダナイゼーション全体のロードマップ案を示すために、目指すべき姿を決定するデジタルアセスメントを重視しています。具体的な改革テーマに対して、経営方針・業務影響・難易度を踏まえて、優先的に取り組むべき実装手段を決定します。
例えば、(1)まずは、基幹系ホストをクラウド化して運用コストを削減する(2)次に、他のシステムと連携してデータ活用していく(3)最後に、リアーキテクチャリングにより一部のシステムを切り出し、開発アジリティを向上させる――アセスメントを通じて、このような具体的なモダナイゼーションのアプローチを組み立てることができます。
NTTデータによる、具体的なDX方針策定へのサポート
デジタルアセスメントの実例を紹介しましょう。ある製造業のお客様に対して、数百の既存システムを分析しDX戦略を策定するコンサルティングを行いました。
お客様は数百システムのQCD向上を目的とした運用改善とデジタル化を課題としていました。「開発手法としてアジャイルに向いている」「クラウド化をすることで効果がある」といった軸で数百のシステムをカテゴライズし、最適な更改方式を洗い出しました。運用の観点では、手順の妥当性だけでなく、構成要素や監視に問題が無いか、または改善を行った場合に想定されるTCO算出についても提案しています。デジタル化に関しては、更改の方針に対するアセスメントや、アジャイル開発のPoCなども支援しています。
既存資産を活用するうえで、キーとなる技術が「API連携」です。レガシーリソースをつくりかえたり、一部に新技術を用いたりすることによって、AIやビッグデータとしての活用ができるようになり、既存資産にさらなる付加価値を与えることができるのです。
また、既存技術の「よいとこどり」をスモールスタートで利用できる仕組みとして、最近登場したのが「iPaaS(Integration Platform as a Service)」というサービスです。ESBやETL、EAIツールによってオンプレミスやSaaSを「つなぐ」こと、API Gatewayによって利用者に「わたす」こと、そしてローコード開発ツールによってGUIベースで「つくる」こと、これらすべてを、クラウドを駆使して包括的に実現するのがiPaaSです。
iPaaSを活用した事例を紹介しましょう。ある保険業のお客様は、顧客管理や契約管理においてオペレータの人的リソースを使う非効率な業務が残っていました。業務フローの自動化に加え、既存のIT資産とセールスフォースの顧客管理基盤、Tableauのデータ活用基盤を統合したいというニーズがありました。
顧客管理基盤やデータ活用基盤、既存のIT資産をAPI連携のハブとしてiPaaSを使うことで、オンライン・リアルタイムでの処理連携が可能になりました。請求や支払い業務が効率化しただけでなく、契約手続きのコストを削減し、保険サービスの付加価値を向上させることができました。
システムだけでなく、企業そのものをデジタル体質に
事例も含めて、既存IT資産のモダナイズのアプローチを紹介してきましたが、最後に、「システムだけでDXは実現できない」ということを強調しておきたいと思います。経産省が「DX推進指標」という、企業が自己診断するための指標を発表しているのですが、そのチェック項目の半分は、システム以外の要素です。DXを進めていくためには、経営視点から戦略を定め、それを組織・体制に落とし込み、人財を確保し、ビジネスプロセスをかたちづくる。これらすべてを考えていかねばなりません。
すべてをデジタライズしていく、包括的な「アジャイル経営」を実現するために、NTTデータは、既存資産を着実にDXへと転換していくさまざまなサポートをしております。何かお困りごとがありましたら、当社にご相談ください。
本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。