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2021.6.7業界トレンド/展望

【連載】”再現性のある”新規事業の作り方!プロダクトマネージャー育成と事業プロセス改革(2/3)

NTTデータがアーテリジェンス社の協力を受けて実施したプロダクトマネージャー育成プログラムと、それを起点とした事業プロセス改革によって本気で新規事業を創出しようとするドラスティックな取り組みを、全3回にわたって特集します。第2回は研修プログラムのねらいや具体的な取り組み、その手ごたえについて伺います。

NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。

第一回、第三回の記事はこちら

【連載】”再現性のある”新規事業の作り方!プロダクトマネージャー育成と事業プロセス改革(1/3)
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/051891

【連載】”再現性のある”新規事業の作り方!プロダクトマネージャー育成と事業プロセス改革(3/3)
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/071390

記事を読む前に、ダイジェストをどうぞ!

続きは記事へ!

プロダクトグロース研修について

SDDX事業部では、アーテリジェンス社協力の下、2020年度にプロダクトマネージャー育成をテーマとして「デジタルトランスフォーメーション&プロダクトマネジメント研修」と「プロダクトグロース研修」という2つの研修プログラムを開催しました。

  • デジタルトランスフォーメーション&プロダクトマネジメント研修
    特に知見が不足しているデザイン思考とファイナンスに比重を置きつつ、北米・国内スタートアップの実践論に基づいた半OJT的プログラム。実務で新規事業創出に携わるチームを対象に、e-ラーニングとオンライン集合セッションを組み合わせ、実践的な学びに加えマインド形成をサポートする。

  • プロダクトグロース研修
    実務として企画検討中の新規プロダクトを対象に、プロダクト・マーケット・フィットにおける課題と向き合うプログラム。スタートアップやベンチャーキャピタルの第一線の方々に、各プロダクトの本質的な課題を指摘いただくことで、事業化に向けて取り組むべきことに挑戦する。

今回の対談では、より実践的な形式で行われたプロダクトグロース研修に焦点を当てて伺いました。

対象フェーズ

プロダクトグロース研修は、SDDX事業部内の新規事業開発の専任組織を対象に、チームリーダー層から部課長層の12名が参加しました。メンバー全員がそれぞれ事業化に向けて推進中の新規プロダクト開発に携わっており、担当プロダクトを軸としたチーム編成でワークやディスカッションを行いました。

プロダクトグロース研修のカリキュラム

プロダクトグロース研修のカリキュラム

この研修の運営を担った山口さん、小木曽さん、田邉さんがどのようにカリキュラムを組んでいったのか、参加者の反応や手ごたえも含めて伺いました。 

ねらいはプロダクトマネジメントの実践知の習得

― プロダクトグロース研修のねらいは何だったのでしょうか。

小木曽さん:これまで、プロダクトマネージャーを「天然もの(個人の資質)」に期待するのではなく、組織で育てることをめざしてきました。一方、実際に取り組んでいるプロダクトの現状を見ると、PoCまで進み、事業化の一歩手前に至っているプロダクトが複数あるにもかかわらず、肝心の事業化までには至っていませんでした。 

そのため、実際に自分たちが企画中のプロダクトを題材として、山口さんを始めとした外部の刺激を受けながら、事業が市場に受け入れられる(注1)ことを阻む壁をどのように乗り越えるかをという課題に取り組みたいと考えたのが、プロダクトグロース研修のねらいでした。

注1)市場に受け入れられる…プロダクト・マーケット・フィット(PMF)とも呼ばれ、プロダクトが最適な市場に対し満足度が高い形で受け入れられる状態を指す。多くのスタートアップがめざすべき指標の一つとされている。

市場検証と事業拡大までの道のり(プロダクトグロース研修で示したステップ)

市場検証と事業拡大までの道のり(プロダクトグロース研修で示したステップ)

田邉さん:今回の研修は単なる知識のインプットだけではなく、参加者に内発的な気づきを与えたり、自ら考え手を動かして生まれたアウトプットに対して社外のメンターがフィードバックしたりといった、参加者に伴走する形のプログラムでした。研修を超えた取り組みとして、学ぶだけではなくプロダクトに手を加えて市場に受け入れられる状態の明確なシナリオを設計し、更には本格的な拡大への初歩的な道筋をつけることを強く意識していました。

山口さん:私自身最初は、研修としてインプットをしっかり行うことが大事なのだと思っていたところがありました。しかし、知識として持っていることと実践に足るスキルとして身に着けていることは、似て非なるものだということに改めて気づかされました。頭では理解してもそれを実践に落とし込むことに苦戦している参加者に対して、フィードバックを与えるという点をよりNTTデータのみなさんから評価いただけたことで、アウトプットとそれに対するフィードバックこそが、結果として最善のインプットに繋がることを理解できました。

小木曽さん:実際に自分で作ってみることが比較的容易なプログラミングなどとは異なり、プロダクトマネジメントは実際に新規事業に取り組んでみないと実践的な学びや手ごたえが得られません。そのため、アウトプットを前提とした学びによって実践知を身に着けてもらえればと思い、実際に企画中のプロダクトにフィードバックをもらう形式のプログラムを組んでいきました。

山口さん:アーテリジェンス社としても、プロダクトマネジメントを知識で終わらせずに実践できるレベルまで伝えたいと思っていたので、その想いは一致していました。

しかし、難しい点は、実際のプロダクトを題材に実践を行うとなると、生々しい会話も含めた、本音の議論を避けて通れないということです。より良いプロダクトを作りあげていくためにプロダクトに手を入れようとすると、社内調整も必要ですし、お客さま企業との関係性なども考慮が必要です。そのような中で、いかに心理的安全性を確保して、プロダクトに向き合った本音の話し合いができるかどうかが重要になります。

一方、フィードバックを行う中で最も避けたかったのは、忖度しすぎてメッセージが伝わらなくなることでした。その点、講師や参加者の考えをストレートに受け入れる環境を用意していただけたのが、研修の成功の上で重要な要因だったと思います。

田邉さん

田邉さん:本音で議論ができたことは大変インパクトがありました。山口さんや有識者の方が本質的な問いかけをしてくれたことで、我々が気づかずに持っていたバイアスに気づくことができたと思います。このように第三者にフィードバックしていただく経験が重要だと気づきました。

小木曽さん:外部の方がどこまで本音を言うのかというのは、線引きが難しかったですよね。一歩間違えれば、かなりのリソースや時間を費やしているプロダクトを根底から覆すようなことにもなりかねません。忖度と本音のバランスにはかなり悩み、山口さんとも議論を繰り返しました。結果的には、かなり本音をストレートに投げかけていただいたと思いますが(笑)。

部課長自らプロダクトの本質的な問いに向き合った

田邉さん:今回、研修の対象を個人単位ではなく、特定の組織としたことも特徴だったと思います。チーム全員で同じ話を聞いたり議論に参加したりしたことが、「こんなことを言っても大丈夫なんだ」という参加者の心理的安全性の要因になっていたと思います。

小木曽さん:デジタルトランスフォーメーション&プロダクトマネジメント研修は複数部門から少人数のチームで参加してもらったため、参加者からは「研修で学んだ共通言語が実務に戻った際に通じないことに不安を感じている」という声が一部でありました。そのためプロダクトグロース研修では、一つの組織に焦点を当て、その中で同じプロダクトに取り組むチーム単位で参加してもらうという形式を採用しました。

今回の研修では、組織として共通言語や文化を新たにインストールするために本音でぶつかり合っていただいたため、特に部課長層は大変苦労したと思います。NTTデータでは基本的に実務は部課長層の配下のリーダー層が担うことが多いですが、研修の中でプロダクトの本質的な議論が深まってくると、部課長層も自らの言葉で語らざるを得なくなってきます。議論を重ねるごとに、部課長層が自ら有識者の投げかける本質的な問いに答えなければならないのは、部課長層自身やチームメンバーに大きな刺激になったと思います。

 

研修中のアウトプットに対する外部ベンチャーキャピタリストを招いてのフィードバック。白熱した議論に至ることも少なくなかった。

研修中のアウトプットに対する外部ベンチャーキャピタリストを招いてのフィードバック。白熱した議論に至ることも少なくなかった。

山口さん:研修を企画する際、一つのアイデアとして部課長層にも参加いただくことを提案してはいましたが、本当に実現したことには驚きました(笑)。

プロダクトマネジメントを進める上では、プロダクトをSI企業としての単なる営業ツールという位置づけではなく、顧客価値の源泉と捉えることが重要です。従来多くのSI企業はシステムインテグレーションの一つの手段として基盤ソフトウェアなどのプロダクトを開発してきました。しかし、その考え方を転換し、標準化されたプロダクトそのものが多くのお客さま企業に長期的な価値をもたらすという考えに発展させていく必要があると考えています。

成功している企業はプロダクトを経営戦略に直結するものと位置付けていますし、アーリーステージ~ミドルステージの企業ではCEO自らがプロダクトマネジメントを直接指揮することも珍しくありません。それほどにプロダクトが重要なものであるという意識を持つことが重要だと思います。

リスクテイクのマインドを組織で育てる

― 実際に研修を行ってみてどんなことを感じましたか。  

山口さん:NTTデータのみなさんは、個々人のスキルがとても高いと感じました。プロダクトマネージャーは求められる知識やスキルが幅広いことが特徴の一つですが、NTTデータの方は研修当初から多くの幅広いスキルを持っていました。不足しているスキルも短期間で習得できるので、どのようなニーズに対しても確実に合格点を取れるような印象を持ちました。

一方で、主体性を持って長期的な目線でプロダクト運営を行う場合、あえてリスクを冒すような、ある種の並外れた”クレイジーさ”が求められることもあります。これは個人の問題だけではなく、組織としてどのように個人が持つパッション・情熱を尊重する企業文化に育てるかは発展の余地がある部分だと思います。

小木曽さん:もともと当社では、多数のステークホルダーをマネジメントするプロジェクトマネジメントの文化が根強く、全方位的な目配りを行うことは得意な社風だと思います。逆に、一点に集中して良い部分だけをとがらせるマインドセットやプロダクトマネジメントの覚悟がまだ組織として不足しているという実感があり、(個人でなく組織として)どう育てていくのか手探りの状態ですね。

山口さん:NTTデータだけではなく、日本人は全体的にリスクを嫌う傾向があると言われています。それを打開するひとつの考え方として、リスク評価の観点に「挑戦しないことによる機会損失がどれくらい生じるのか」を取り入れるのが良いのではないでしょうか。例えば、自企業の売上成長率がプラスでも、他企業の成長率がさらに伸びていた場合、市場のシェアとしては下がっている=機会損失をしていることになります。将来得られるリターンと比べたとき、新たな施策を実行しないことにより機会損失がどれくらい生じるのかを考えることが、プロダクトへの投資を惜しんだり、過剰なリスク回避傾向に陥ったりすることを防ぐための一つの後押しになるかもしれません。

田邉さん:この話はビジネスだけではなく、人材育成にも当てはまると感じます。個人のスキルには得意分野と弱点があり、その振れ幅は人によって大きく異なります。全方位に満遍なくバリューを出せる人だけでなく、弱点があっても得意分野で大きなバリューを出せるような人材を組織で受け入れ生かすことができるかどうかは、多様性という意味でも重要だと思います。

小木曽さん:リスクヘッジではなく、リスクテイクの考え方を持つことが重要だと思います。人材育成に投資をして短期的な成果が得られなかった場合に、それを失敗とみるのか、むしろ学びを得たとするのか、捉え方を変えることも組織として大きく違うと思います。

リスクの捉え方

山口さん:従来の捉え方を変えるには、(短期的・一過性の)売上を絶対視せず、プロダクトの特性に応じた指標を設計することが重要になります。例えばSaaSなどのデジタルなプロダクトは、一定期間投資フェーズが必要になることから、長期的には無形資産になり得るものの、単年度の売上としては即効性が低い場合が多いといえます。売上を唯一の評価指標にすると、長期目線の仕込みが過小評価されてしまい、逆に一過性の売上を生むような取り組みが過剰に高く評価されてしまうことになります。

これを防ぐために、例えばユニットエコノミクスといった考え方や、エンゲージメントに関する先行指標(注2)を可視化し、プロダクトに応じたきめ細やかな指標を設計することで、ある観点からは一見失敗や後退に見えるものでも、別の観点からは成功や前進ととらえることもでき、実りの多い学びになるのではないでしょうか。

注2)先行指標…売上などの遅行(結果)指標と比べ、先行で将来を予見し得る指標をさす。プロダクトの学びを最大化する上では、財務指標に依存しない先行指標の設計が重要となる。

【まとめ】

  • プロダクトグロース研修のねらいは、プロダクトが市場に受け入れられるまでの壁を乗り越えること。実践知を身に着けるため、実務で取り組み中のプロダクトに外部からフィードバックをもらう形式のプログラムを組んだ。
  • 本音の議論を行うには、いかに心理的安全性を確保できるかが重要。同じプロダクトに取り組むチームで参加したことも心理的安全性の要因になった。
  • プロダクトは単なる営業のツールではなく顧客価値の源泉である。従ってマネージャー自らプロダクトの本質的な問題に立ち向かうことも必要。
  • プロダクトマネジメントでは、リスクヘッジではなくリスクテイクの考え方を持つことも必要。将来得られる利益と比べた機会損失を考えることや、売上以外の評価指標を持つことでリスクテイクの姿勢を持つことが大切。

第一回、第三回の記事はこちら

【連載】”再現性のある”新規事業の作り方!プロダクトマネージャー育成と事業プロセス改革(1/3)
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/051891

【連載】”再現性のある”新規事業の作り方!プロダクトマネージャー育成と事業プロセス改革(3/3)
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2021/071390

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