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2021.9.7事例

手取り、足取り指導の脱却 ~新たな価値創造のための人財育成~

社会の構造変化の加速でDX(デジタルトランスフォーメーション)への注目度はいっそう高まり、多くの企業がデジタルを活用した新たな取り組みに着手している。その流れの中、顧客に対して新たな価値創造を提案していくことを目指し、人的リソースのベースとなる社員教育にも各社さまざまな工夫を凝らしている。NTTデータでは、2020年度から新人が主体的アプローチで課題に取り組むプログラムをトライアル導入している。新入社員たちが「スキルとマインドの両面で成長した」と語るその方法について解説する。
目次

“教える”育成はもう古い?アフターコロナ時代の共創型OJT

新人教育といえば、従来は人事部門等の担当者が手取り足取り仕事の基礎をイチから教え込む、あるいは部署に配属されて上司・先輩のもとOJTで学ぶ、というスタイルが一般的だ。これらの方法が実際に効果を発揮してきたことは間違いない。ただ、DXが進展し、既存のものとは異なる新しい価値づくりが求められ始めたいま、人財育成に関しても新たなスタイルの模索が必要となっている。

自社の未来づくりを見越し、これまでとは異なる施策に着手したのが、NTTデータのITサービス・ペイメント事業本部(ITSP事業本部)だ。2020年度から「デジタル人財育成プログラム」をトライアルでスタート。新入社員のビジネスコンピテンシー=価値創造能力の獲得を目指し、新入社員のみで編成したチームに対して裁量のあるジョブをアサイン。新人が能動的に思考しながら、従来型OJTとは異なる“共創型OJT”の考え方で、プロフェッショナルと共に学び働ける環境を整備している。

この施策が浮上してきた背景には、同社がこの数年取り組んでいる「Digital CAFIS」がある。Digital CAFISは、NTTデータが創立当初から37年にわたり携わってきた、日本最大級のキャッシュレス決済プラットフォーム「CAFIS」のデジタル版といえるものだ。インターネットとモバイルデバイスが普及し、さまざまな接点がデジタル化していく中で、ペイメントに関わる事業者のビジネススタイルも変わってきている。CAFISもその変化に対応しなければならないのはもちろん、それを提供するNTTデータ自らが変化することで、これからのキャッシュレスをリードしていくことが大きなテーマだ。

このテーマの実現に向けてコアとなる取り組みが、Digital CAFISである。同事業本部 カード&ペイメント事業部長の栗原正憲は、その狙いについて「不透明・不確実な社会に、新たな価値を創造・提案・実装していくことを目指し、“目的志向”と“前例を前提にしない”ことをポイントに置いて、組織・人財・ビジネスプロセス・システムを変革していく取り組みです」と語る。

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部長 栗原正憲

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部長
栗原 正憲

そしてその一要素として、価値創造に適した人財を社内に増やしていくため、既存組織とは切り離した“デジタル特区”を設置し、これまでにないコンセプトによる施策を始動。それこそがデジタル人財育成プログラムだ。

正解なき価値創造。失敗を恐れない人財を育てる

具体的にITSP事業本部では、未来を見据えてどのような人財を育成しようと考えているのだろうか。栗原は次のように話す。
「当社の根本となる事業はシステムインテグレーション(SI)です。その事業が継続成長しているときの人財には、顧客の要望に即して決められたものを正確・迅速・効率的に、かつ品質よく作り上げることが求められます。そのためには、標準的な人財を育成する管理型の施策が有効でした。しかし、これからの価値創造を中心とする事業を生み出していくステージでは、創造性・多様性・自主性・能動性を持ち、失敗を前提にしながら能力を発揮できる人財が求められます」

新たな価値創造とは、正解がない世界だ。会社で経験を積んだ上司も先輩も、答えを持っているわけではない。そこで、機動力をもって試行錯誤しながら物事を自発的に進めていける人財を育成するため、新入社員のみのチームを構成。各チームで課題を乗り越え、問題を解決するために自学自習しながら、事業の構想策定から価値の創出・実装までを実際に経験することで、成長を促していく……これが本プログラムの基本となる。

2020年度のデジタル特区においては、カード&ペイメント事業部 デジタルペイメント開発室に配属された新入社員が対象の「アジャイル特区」、SDDX事業部 サービスデザイン統括部 デジタルエクスペリエンス担当に配属された新入社員が対象の「サービスデザイン特区」の2つを設定。前者は「先進テクノロジーを活用して顧客価値を創出できる人財」、後者は「ビジネスアプローチで構想策定から価値を出せる人財」の育成を目指し、成長の場を提供した。

ITサービス・ペイメント事業本部 企画部 人事育成担当 部長 矢野 忠則

ITサービス・ペイメント事業本部 企画部 人事育成担当 部長
矢野 忠則

「これまで、新人とは初心者であり、だからこそイチからしっかり教えなければという姿勢で人財育成を行ってきたわけです。一方、この取り組みでは、新人を“新たな価値観を持った人材”と捉えます。その人材がつくり出すものが新しい社会の価値となり、当社にとっても価値となります。だから何かをトレーニングしたり教えたりすることなく、新人が目的志向・価値創造志向で自ら考え、調べ、行動するようになるために、課題を与え、ジョブにアサインしています」と、同事業本部 企画部 人事育成担当の矢野 忠則は解説する。

主体的アプローチで課題に取り組むプログラム

従来のような講師やトレーナーは付けないものの、アジャイル特区では高度なスキルを持つエンジニア、サービスデザイン特区ではNTTデータ経営研究所等のプロフェッショナルと共に共創できる環境を用意し、新入社員のマインドを鍛える形を取っている。こうしたところから、この取り組みを“共創型OJT”と呼んでいるわけだ。

注意したいのは、全社はもちろん、ITSP事業本部でもすべての人財育成プログラムを変えたわけではないということである。「新入社員の中でもSI業務に携わる人財には、従来どおり先輩社員が懇切丁寧に教え、さまざまな技術を身につける研修もしっかり用意しています。対して今回の対象となる部門は、求められる要素がまったく異なるため、新しいチャレンジを始めたということです」と矢野は強調する。
実際に本プログラムを経験した新入社員の声を聞いてみよう。2020年入社でアジャイル特区に所属した山岸 香理は文系出身。初日に抜き打ちで実施されたプログラミングテストは0点で、「不安でしかたなかった」と振り返る。このテストの点数に応じて6人ずつのチームが4つ編成され、山岸は全員がプログラミング未経験のチームに入った。

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部 デジタルペイメント開発室 山岸 香理

ITサービス・ペイメント事業本部 カード&ペイメント事業部 デジタルペイメント開発室
山岸 香理

「全員が同じ境遇なので、不安を共有できました。各チームに出された課題に対し、他のチーム、特にプログラミングが優秀なチームには負けたくないとメンバー間で声をかけ合いながら、文系で培ったユーザー視点を大切にし、相手がほしいものを見出すことで価値を生み出そうと取り組みました」と山岸。課題とは「デジタルペイメント開発室の活動を対外的にアピールする成果物を作れ」というものだが、どのようなものを作り、どのような方法でアウトプットするかについてはすべて自由だ。山岸のチームは就活生が知りたいことをヒアリングし、それに応える社員の声を載せたWebサイトを作り上げた。「チームでJavaの勉強会を開くなど、すべてに主体的に取り組んでいきました」と山岸は振り返る。

人財の能力をいかに活かしきるかが今後の課題

サービスデザイン特区でプログラムに取り組んだ西田 琴乃は、育成期間に上司・先輩から基礎を教えてもらい、その後は与えられた仕事をこなす中、OJTで成長していくイメージを持っていったという。「ジョブのテーマだけ提示され、あとは、具体的に何をするか、日々どういったタスクをするかをすべて自分で考えて進めるということでしたので、戸惑いはありましたが、これほど大きな裁量で進められることに楽しさを感じました」

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 デジタルエクスペリエンス担当 西田 琴乃

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 デジタルエクスペリエンス担当
西田 琴乃

まずはNTTデータ経営研究所の社員等から新規事業立ち上げや市場調査のノウハウをインプットしてもらい、その後に新しいビジネスの仮説を立て、企画を作り、それを提案し、失敗して……という試行錯誤の繰り返しで進めていったという。

「正解がない中で進めていくために、チームで協力し、さまざまな人からアドバイスを受けながらも、意見の取捨選択の判断は自分で主体的に行わなければなりません。結果的に、失敗をしながら多様なアプローチを引き出せるようになり、今後の仕事に向けて大切な勉強になったと感じています」

初年度を終え、デジタル特区の新入社員たちが受け身の姿勢ではなく、目的を実現するため能動的に調べ、学び、スキルとマインドの両面で成長したという大きな成果を矢野は感じている。これを受け、2021年度は対象事業部配属の全新入社員へと共創型OJTの範囲を拡大。さらにはインターンシップとして、店舗のマーケティング、購買データ分析による利益拡大への貢献、実店舗の開店準備と開店後の運営など、チームであたるジョブの領域を広げた新たな施策も始めている。

ちなみに、この取り組みは2021年の第10回日本HRチャレンジ大賞において人材育成部門優秀賞を受賞。
「当社内ではチャレンジングな取り組みだと考えていましたが、専門家の目から見てもユニークな施策であると評価いただけたことで、自信を感じました」と矢野は振り返る。

今後について、栗原は「育てることが目的ではなく、当社に入ってきた人財の能力をいかに活かしきって新しい価値をつくり、それをもって社会に貢献していくかが課題」と語る。前述のように全社展開ではなく、これからも部門ごとの特性に応じて注力し、しっかりとビジネスにつなげていく考えだ。

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