バックキャスティングによる段階的なスマートシティの実現
社会基盤ソリューション事業本部
デジタルコミュニティ事業部 第一ビジネス統括部 統括部長
塩見 大輔
コロナ禍で取り組みが加速する都市のスマートシティ化。日本のスマートシティの取り組みは遅くはないものの、実証段階に留まり、実装まで進んだ事例が少ないことを指摘する声も多い。NTTデータでスマートシティ推進室長を務める塩見は「実現したい社会像を描き、バックキャスティング思考で、今できることを実フィールドで着実に積み上げていくことが重要」と語る。
「さまざまな生活者へ価値を提供するためには、具体的なユースケースを立ち上げ、利用者の意見を聞きながらブラッシュアップする、というプロセスを繰り返すことがポイントであり、それが結果として社会変容にも対応できる、持続的なスマートシティの実現につながると考えます」
柔軟な設計により機敏に変化に対応できるOS
社会の変化に対応した持続的なスマートシティ実現に向けて、NTTデータが2021年1月にリリースしたデータ連携・利活用のプラットフォームが「SocietyOS」だ。SocietyOSはいわゆる都市OSとしての機能ももち合わせているが、迅速にサービスや価値を提供できる「サービスデリバリープラットフォーム」という点が最大の特徴だと塩見は語る。
図1:社内外との連携プラットフォームであるSocietyOS。将来的には人々のあらゆる生活の裏側がSocietyOSにつながり、価値を提供する状態
これからの街づくりに欠かせない「生活者視点」「デザイン」「バックキャスト」「ユースケース」「つながる力」「自分ごと化」という6つのキーワードを軸に、認証、人流、パーソナライズ、地図、予測シミュレーション、ヘルスケアなど、NTTデータ、およびNTTグループが保持する技術、ノウハウ、サービスを活用し、世の中にあるサービス、データとも連携することで生活者目線の価値を提供している。
特に「生活者視点」については、サービス創出に際して最も重視した。生活者の目線から誰もが安心・安全で健康的、かつ日々の生活を楽しく充実させ、さまざまな便利さを享受できるような、個人に寄り添ったQOLの高い街づくりをめざす。スマートフォンやIoTセンサなどから取得できる情報を基に、各人の嗜好や健康状態を分析・把握・予測し、街の状況を加味することで、さまざまなサービスが一人ひとりに最適化した状態で提供可能となる。
SocietyOSでは、NTTグループの研究所の1つであるスマートデータサイエンスセンタが行動予測アルゴリズム研究から生み出した予測シミュレーションを、デジタルツイン上で再現することができる。もちろん、先進技術やビッグデータを用いても、将来を正確に予測することは難しい。そのため、SocietyOSはアップデートしやすい柔軟なアーキテクチャとなっている。
もう1つ、迅速な価値創造とデリバリーを実現するために重視したのが「つながる力」である。「100人いれば、100とおりのスマートシティ像があるでしょう。1つの都市OSですべてに対応できるとは思っていません。地域ごとにさまざまな都市OSが展開されていますが、我々としては、他地域の都市OSやさまざまなサービスと連携し、つながっていくことで、より多くの個人のニーズに応えられると考えています」
つながる対象は、都市OSを提供するITベンダーだけではない。企業や国、自治体、住民一人ひとりとつながっていくことでWellbeingな世界に近づく。
NTTデータではSocietyOSを活用し、NTTグループの取り組む「未来の街づくり」に向けて、NTTアーバンソリューションズとともに、さまざまな実証実験に取り組んでいる。例えば、飲食店における来店数予測、需要予測をもとに、発注や仕込みを最適化するフードロス削減に向けた取り組みや、パーソナルレコメンドを活用し、一人ひとりの嗜好に合わせ、混雑を回避できる店舗やメニューを提案するおもてなし「ランチレコメンド」。またそれらをつなぎ、売れ残りそうな商品を予測、嗜好にあったユーザーへレコメンドし、フードロス削減に貢献しつつ、利用者の満足度も向上させる、街全体の価値の最適化を図る実証実験にも取り組んでいる。
また、SocietyOSはNTTグループだけでなく、民間企業や国、自治体などスマートシティ実現のカギを握るプレーヤーとの連携も進めながら、生活者視点での街づくりを通して、地域の価値向上と課題解決を図っている。
図2:ユースケースの例。SocietyOSは必要なユースケースに応じて今も成長を続けている。
都市OSによるリアルとバーチャルの融合
塩見が今後さらなる期待を寄せるのは、SocietyOSのデジタルツイン技術だ。「リアルとバーチャルの融合は進み、データを2つの間で循環させながら課題の解決や新たな価値を創造するようになるでしょう。そうした世界はSocietyOSだけで実現できるものではなく、世の中のさまざまな先進技術やステークホルダーとの連携が重要だと考えています。そのためにも、今よりもっとあらゆる人が社会全体でつながることができるよう、SocietyOSを強化し、地域の価値向上や課題解決の実現に向けて取り組みを加速してまいります
※本記事は、日経MOOK『スマートシティ3.0』(2022年6月28日 日本経済新聞出版)より転載しています。