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2022.12.9業界トレンド/展望

メタバースにおけるペイメントの検討

メタバースへの注目度の急上昇から約1年経過し、企業のビジネス参入の検討が加速している。今後のメタバースにおける経済活動の広がりのカギとなるのが、価値交換の仕組みである。今回は、現実世界と仮想世界の違いを踏まえて、メタバースにおいてどのようなペイメントが必要になってくるのかについて言及する。
目次

1.メタバースの拡大に求められる“シームレス”で“堅牢”なペイメント

金融機関がメタバースへ参入する際の留意点等については、「メタバース×金融機関 ビジネス参入のリスクと可能性」(https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/0608/)でご紹介しました。今回は、今後のメタバースの広がりにおいて重要な要素となる、メタバースにおけるペイメントに着目していきます。

JPモルガン・チェースはレポート『Opportunities in the metaverse』(※1)の中で、「メタバースの拡大と成功は、現実世界と仮想世界をシームレスに接続する堅牢で柔軟な金融エコシステムの構築にかかっている」と述べています。

これはつまり、今後メタバースが拡大していくためには、以下の3つの要素を満たすメタバースにおけるペイメントが求められる、ということでしょう。

  • 1)信頼性・利便性の面からメタバース空間を意識したUX設計となっていること(シームレス)
  • 2)セキュリティの観点からの安全性が確保されていること(堅牢)
  • 3)行動データがどの範囲で収集され、何に利用されるのかルール整備によって明瞭であること(堅牢)

なぜこの3つが重要なのか。まずは現在のメタバースにおける決済手段について見ていき、順にひも解いていきます。

(※1)JPモルガン・チェース レポート(Opportunities in the metaverse)

https://www.jpmorgan.com/content/dam/jpm/treasury-services/documents/opportunities-in-the-metaverse.pdf

2.現状のメタバースにおける決済手段

現在のメタバースにおける決済の場面は、「仮想世界において保有するデジタルコンテンツの購入」と「現実世界で保有する物品の購入」に分けられます(図1)。「仮想世界において保有するデジタルコンテンツの購入」に際しては、現在は独自通貨(メタバースサービス内通貨)や暗号資産等による決済、もしくはサービス外のNFTマーケットプレイス等でデジタルコンテンツを購入し、サービス内に持ち込むという形が主流です。また、「現実世界において保有する物品の購入」については、たとえばアパレルの仮想店舗において試着を行い、購入する場合などが挙げられます。この場合、現在は購入の段階でサービス外のECサイトに遷移する形が主流です。

図:メタバースにおける現在の主な決済手段

図:メタバースにおける現在の主な決済手段

現在のメタバースにおける決済は、信頼性・利便性の面で改善の余地があります。独自通貨は、仮想世界の中で稼いでも現実世界において価値を保証できないなどの理由から暗号資産に注目が集まっています。一方で暗号資産の利用については価格の変動や安全性が確立されていないといった面での懸念や、Wallet(※2)が無いと始められないといった導入のハードルの高さなどが指摘されています。
また、サービス外へ遷移しての買い物はUXが一度途切れる形になり、手間がかかることに加えて購買意欲喪失につながる可能性があります。
そのため「1)信頼性・利便性の面からメタバース空間を意識したUX設計となっていること(シームレス)」を踏まえてペイメントを検討していくことが重要です。

(※2)Wallet(ウォレット)

ブロックチェーン上で発行されるトークンなどのデジタル資産を保有する場所。

3.安心・安全な金融取引の実現に重要となる2つの要素

安心・安全な金融取引を行うためには、前述の

  • 2)セキュリティの観点からの安全性が確保されていること(堅牢)
  • 3)行動データがどの範囲で収集され、何に利用されるのかルール整備によって明瞭であること(堅牢)

が重要です。

セキュリティ

メタバースを利用したことがない人がメタバースを始めるための条件として最も望まれているのは、「セキュリティ担保」です(クロス・マーケティング社による「メタバースに関する調査(2022年)」(※3)。メタバースにおけるセキュリティ上の課題は複数指摘されていますが、今後金融サービスを展開する場合、セキュリティ対策の検討は最も重要な要素となってくるでしょう。
ここでは、メタバースにおいて想定されるセキュリティリスクとその対策について紹介します。

表:メタバースにおけるセキュリティリスク

表:メタバースにおけるセキュリティリスク

1.アカウントの乗っ取り・アバターのなりすまし
他人のアカウントへ不正にログインをする乗っ取りや、他人を模倣したアバターの作成により、あたかもその人物であるかのように振る舞うなりすましが挙げられます。これによって不正取引や詐欺行為のリスクがあります。これらの対策として考えられるのは、ログイン時の多要素認証の導入や本人確認の強化、不正ログの監視などです。また、現状身元確認が不十分で匿名性の高い暗号資産による取引が可能なメタバースは、取引経路の追跡が困難でありマネーロンダリング(資金洗浄)に利用される恐れがあります。マネーロンダリング対策としてFATF(金融活動作業部会(※4))をはじめ、国内外の組織が本人確認に関するガイドラインの整備に乗り出しています。

2.データの改ざん・否認
行動履歴の改ざん、操作ログの改ざん、メッセージの改ざんによって攻撃や犯罪の証拠を隠ぺいされると、攻撃者や犯罪者の特定を行えなくなる可能性があります。また、不快な音声、画像や映像を表示するようにデータを書き換えられたワールド(※5)へアクセスした場合、聴覚と視覚が乗っ取られて心理的・身体的な悪影響を及ぼすことも考えられます。これに対して、改ざん検知システムの導入や脆弱性を狙った攻撃から守るためのツールやサービス導入、さらにサービス側でのデータ保護などの対策が必要です。

3.デジタルコンテンツの複製
著作権者の許諾を得ないで、複製・模倣によりデジタルアートやアバターなどのデジタルコンテンツを作成し利用することは、著作権の侵害です。一つの対策として、ブロックチェーン上で所有権を明確にできるNFT(※6)の活用が挙げられます。NFTは、複製そのものを防止するものではありませんが、デジタルコンテンツが保有するNFTによって、それは「本物」であるかどうかが証明できます。

4.盗撮・盗聴・窃視
ワールド内における会話や行動が盗聴・盗撮されることによる、プライバシーの侵害や肖像権の侵害が考えられます。また、ユーザーが利用するVRゴーグルへ不正にアクセスし、アバターの活動をのぞき見されるリスクもあるでしょう。
前者に対しては、ワールド作成時のアクセス制限の設定や使用可能な機能の制限を検討するなどの対策が考えられます。後者に対しては、VRゴーグルもコンピュータ等の端末の一種であるため、コンピュータと同様にセキュリティソフトの導入といった対策が必要です。

5.パソコンやVR機器へのDOS攻撃(サービス拒否攻撃)
アバターやワールドを自由に作成できるメタバースでは、パソコンやVRゴーグルなどのVR機器に高負荷をかけ、クラッシュさせるアバターやワールドが作成される恐れもあります。アバターやワールドの表示や高負荷処理に対する制限を設け、それらを作成する際には検査をするなどの対策が必要です。

メタバースは元々、コミュニケーションの場としての活用を主目的としており、それに沿った形でのセキュリティ対策が検討されてきました。一方で、今後メタバースにおいて経済活動が広がっていくためには、金融取引を前提としたセキュリティ対策を行っていくことが非常に重要です。

データ収集・利活用

メタバースが進展していくと、サービス上で収集できる人々の会話や行動ログ、資産情報などの他、VRゴーグルから収集できる生体情報を始めとした膨大なデータを取ることができる、取れてしまうようになります。金融取引が活発に行われるようになると、その機密性もさらに増していくでしょう。
膨大なデータを収集することができる一方で、個人情報保護やプライバシー保護、またサービス利用者意識への配慮といった観点から、データ収集や利活用においては考慮が必要です。メタバースは、匿名性が高い環境で自由な自己表現を行える場として活用される面も大きく、行動ログの収集や個人情報を明らかにすることに抵抗のある人が多い傾向にあると考えられます。

欧州議会のThink Tankが2022年6月に公表したレポート(※7)の中では、データ保護に関して「メタバースにおいてVRヘッドセットなどで大量に収集されるデータは、一般データ保護規則(GDPR)上の機微な個人情報に該当するため、データの利用目的ごとに特別な注意と利用者の明確な同意が必要である」と述べています。
前述の通り、金融取引が拡大する中でログの収集はセキュリティ面からも非常に重要です。今後は金融取引の拡大を視野に入れると、メタバースにおける個人情報の取扱いやデータ収集範囲、収集・利活用に際する利用者の同意取得等に関するルール整備が必要になっていくでしょう。

(※3)クロス・マーケティング社「メタバースに関する調査(2022年)」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000356.000004729.html

(※4)金融活動作業部会

麻薬、賄賂(わいろ)、脱税にかかわるマネー・ロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与対策における国際協調を推進するために設置された政府間会合。参加国が順守すべき対策の国際基準を策定している。

(※5)ワールド

メタバースプラットフォーム上に存在する特定の領域。個々の世界観へ共感する人が集まり、コミュニケーションをとるなどの活動を行う。

(※6)NFT(非代替性トークン(non-fungible token))

ブロックチェーン上に構築されるデジタルデータの一種。発行者および所有者、また、取引履歴がすべて記録され、ユーザー同士で取引を行うときにも、所在が明確であるため不正が起こりにくい仕組み

(※7)欧州議会のThink Tankレポート(Metaverse: Opportunities, risks and policy implications)

https://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document/EPRS_BRI(2022)733557

4.現実世界と仮想世界の違いを踏まえた、メタバースにおけるペイメントのポイント

以上の点を踏まえて、メタバースにおけるペイメントに求められるいくつかのポイントを紹介します。
メタバースにおいて金融取引を行うユーザーにとっては、安心・安全な決済機能と利便性、処理の即時性などが重要な要素でしょう。
先述の通り、現状のメタバースにおける決済手段は独自通貨や暗号資産を用いるのが主流です。しかし近年、現実世界においてクレジットカードの他、バーコード決済やQR決済といったさまざまなキャッシュレス決済方法が普及。仮想世界における買い物の際にも、ユーザーが普段使い慣れている決済方法を選択できるようになると非常に便利でしょう。一方で、決済時のUIが現実世界と仮想世界とで異なる点は、セキュリティや利便性の面から考慮が必要です。
たとえば現実世界で利用しているクレジットカードを仮想世界における決済に用いる場合、認証を行う際に仮想世界上でカード番号等を仮想キーボードで入力するのは利便性が低いですし、さらに、先述の通りVRゴーグルの動きを窃視される懸念も考慮する必要があります。窃視を避けるために、認証時にVRゴーグルを外すというのはUXの観点から考えると論外でしょう。VRゴーグルを着けたまま決済できることがメタバースにおける購買意欲喪失を避けるポイントの一つです。今後はVRゴーグルやコントローラーを用いた生体認証やパターン認証等を含む多要素認証によって、セキュリティを確保していくこととなるでしょう。

また、決済時には登録した決済情報を基に、なんらかの認証手段を通してユーザーの本人性を証明・認証する形になります。しかし、現実世界の自然人と仮想空間のアバターがどのようにひも付いているかわからないという特性上、メタバースにおいては本人確認の方法についても重要な検討ポイントになります。

最後に、先述の通り、メタバースにおいて安心・安全な金融取引を行うためには、データ収集・利活用のルールを踏まえた上で、不正取引監視やログ取得を行うことも、重要なポイントの一つです。

本稿では、メタバースにおけるペイメントに必要な要素や留意点について紹介しました。
NTTデータはメタバースを取り巻く環境変化、動向を注視し、金融サービスの未来について考えていきます。

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