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2023.3.8業界トレンド/展望

「レガシー企業」のデジタル変革~インタラクティブ・データを活用した新しい競争戦略~

NTTデータでは2022年7月に「コンサルティング&アセットビジネス変革本部」を新設し、Foresight起点のコンサルティングでお客様のデジタル変革を支援している。データの性質やデジタル技術が変化し続けるデジタル時代において、企業に必要な競争戦略とは何か?IMD Business SchoolのMohan Subramaniam教授に話を聞いた。
目次

NTTデータが提供する「Foresight Design Method™」

企業にはデジタル時代に対応したビジネスモデルの変革が求められている。NTTデータ コンサルティング&アセットビジネス変革本部 副本部長 野崎大喜は、「今の時代は、もともと持っていた機能に別の力を加えることによって、違う意味を持たせることが簡単にできる」と話す。その一例として、「スマートフォンで人や車を動かすことはできるか」という問いを投げかけた。

コンサルティング&アセットビジネス変革本部 副本部長 野崎 大喜

コンサルティング&アセットビジネス変革本部 副本部長
野崎 大喜

「物理的にはスマートフォンで車を動かすことはできません。しかし、例えばUberをイメージしてみてください。私がスマートフォンのアプリに行き先を入力するとタクシーが来て、目的地まで移動してくれます。つまり、デジタルを活用することによって、スマートフォンで人や車を動かすことが可能になるのです。これがデジタル社会の概念です」(野崎)

我々が存在しているフィジカルなビジネス環境において、企業はさまざまなデータを取得している。しかし、それをどのように活用できるのか、どんなビジネスを生み出せるかが見えていない企業も多い。こうした中で、NTTデータはForesight起点でお客様のあるべき姿を構想し、提案を行っている。

「データに“意味”を持たせて、データ活用による新しい価値を創出していくことをめざしています。ここで大事なのが、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、デジタルビジネスを起点に既存ビジネスをアップデートすることです。足りないデータがあれば新たに取得し、既存データと組み合わせてビジネスモデルを組み立ていきます」(野崎)

こうした価値を高いレベルで、素早くお客様に提供できるように、NTTデータでは「Foresight Design Method™」というメソッドを整備している。メソッドではまず現状ビジネスを紐解き、エンドユーザーへの価値そのものであるカスタマ―ジャーニーと、それを実現しているバリューチェーンを見える化する。次に、それらが環境やテクノロジーの変化によってどのような影響を受けているのか、デジタルテクノロジーの変化によってどのようなインパクトを受けるのか、さらにはお客様が市場にどのような価値を提供していくのかという3点の整合性をとりながら、お客様の将来のあるべき姿を提案する。そして、NTTデータが持つさまざまなアセットを提供し、お客さまと一緒に実現計画を策定していく。

図1:「Foresight Design Method™」

図1:「Foresight Design Method™」

その具体例として、野崎は損害保険会社のケースを挙げる。

「損害保険会社では従来、モビリティやサイバー領域のような『いざ』に備えた対応を中心にビジネスを展開してきました。一方で、防災やヘルスケアといった『万が一』への備えや、エネルギーやSME(Small and Medium Enterprises:地域の中小企業)などの、暮らしの『いつも』を下支えするものに対する保険のニーズも増えています。我々はテーマごとにビジネスのあるべき姿を描き、それを実行するためにNTTデータが持つソリューションをどう活用できるかを考えながら計画を立てていきます」(野崎)

図2:損害保険会社への貢献余地

図2:損害保険会社への貢献余地

NTTデータは今後、「Foresight Design Method™」を活用した価値提供を、全社を挙げて推進していく考えだ。

単発的データからインタラクティブ・データへ

企業がデジタル変革を起こし、従来のビジネスを進化させる鍵となるのが、インタラクティブ・データの活用だ。IMD Business SchoolのMohan Subramaniam教授は、著書『The Future of Competitive Strategy: Unleashing the Power of Data and Digital Ecosystems』の中で、インターネットが登場する前から存続する企業を「レガシー企業」と名付け、これらの企業がインタラクティブ・データを活用することによってどのような価値を生み出せるかについて述べている。
Mohan教授によれば、これまでは競争戦略の考え方として3つの点が重視されてきたという。1つ目は、製品やサービスが収益源になっている点。2つ目は、バリューチェーンがプロダクトのポジショニングに関わってくるという点。3つ目は、プロダクトの価値やポジショニングは産業構造によって強化されているという点だ。しかし、Mohan教授は「これらの考え方は今のデジタル社会には不適切だ」と語る。

IMD Business School Mohan Subramaniam 教授

IMD Business School
Mohan Subramaniam 教授

「レガシー企業が成長していくためには、データとデジタルプラットフォームを活用して、デジタルエコシステムをうまく活用していかなければなりません。そのために重要となるポイントが3つあります。まず、データを正しく理解できているか。データ自体は昔からありましたが、現代のデジタル社会ではその意味は大きく変わっています。また、レガシー企業にとってのデジタルエコシステムとは何かを考える必要もあります。そのうえで、競争優位に立つための新しい枠組みを生み出すことが必要です」(Mohan教授)

図3:レガシー企業の成長に重要な3つのポイント

図3:レガシー企業の成長に重要な3つのポイント

Mohan教授は、産業時代からデジタル時代へとシフトする際に、データの性質も大きく変化したと指摘する。

「デジタル時代では、単発的データからインタラクティブ・データへとシフトしました。例えば、書店で1時間過ごし、1冊の本を買った。これが単発的データです。このとき書店が持つトランザクションデータは『誰かが1冊の本を買った』というデータだけです。これに対し、Amazonで1時間本を探した場合はどうか。何も買わなかったとしても、どのような本を探しているか、何に関心を持っているかといったデータが集まります。これがインタラクティブ・データです」(Mohan教授)

Webサイトに限らず、近年はセンサーやIoTの発達によって、レガシー企業もこのようなインタラクティブ・データを取得し、ビジネスに活かすことが可能になった。しかし、そのためには戦略的思考が必要である。従来の単発的データはプロダクトをサポートするためのデータだったが、インタラクティブ・データはその逆に作用するからだ。Mohan教授は「プロダクトはさまざまなインタラクティブ・データを取得するための1つの媒体になっていく。企業もこれに対応した転換が必要になるだろう」と語る。

またMohan教授は、レガシー企業におけるデジタルエコシステムは「プロダクション・エコシステム」と「コンサンプション・エコシステム」を組み合わせたものだと説明する。プロダクション・エコシステムはバリューチェーンを発展させたものだ。従来のバリューチェーンでは、生成されたデータは主に業務効率の改善を目的として使われていたが、センサーやIoTの登場によってプロダクトからインタラクティブ・データを得られるようになった今、企業はプロダクション・エコシステムを活用して新たな収益源を生み出すことが可能になる。

「例えば、機械から得るデータを分析して部品の故障を予測できれば、それを未然に防ぐサブスクリプション型のメンテナンスサービスを提供することができるでしょう」(Mohan教授)

図4:プロダクション・エコシステム

図4:プロダクション・エコシステム

一方のコンサンプション・エコシステムは、商品の「補完財」を繋ぐネットワークだ。ここでいう「補完財」とは、商品のニーズを高めるもののことを指す。自動車であれば、道路やガソリンスタンドが「補完財」となる。かつて企業はこの「補完財」の存在を認識しつつも、それらを自らのビジネスに取り込もうとはしなかった。しかし、今は「補完財」同士がネットワークで繋がり、エコシステムを形成している。例えば、車内からAIを使ってコーヒーショップに飲み物をオーダーすると、代金がキャッシュレス決済で自動的に清算され、到着と同時に出来立てのコーヒーが提供される。この一連の流れもコンサンプション・エコシステムのうえに成り立っている。拡大し続けるコンサンプション・エコシステムによって、自動車は従来の単なる乗り物から、新たな価値をもつモビリティへと変わってきているのだ。

図5:コンサンプション・エコシステム

図5:コンサンプション・エコシステム

レガシー企業のデジタル変革における4つの階層

では、レガシー企業がこうしたエコシステムを構築してデジタル変革を進めるためには、どのように取り組めばよいのだろうか。Mohan教授はデジタル変革の4つの階層を挙げた。

第1階層は、既存のアセットから得たインタラクティブ・データを使った業務効率化だ。例えばARやVRを使った塗装検査の効率化は第1階層に当てはまる。第2階層では、ユーザーであるお客様からインタラクティブ・データを集めていく。これにより、顧客のニーズをより正確に把握し、製品開発や業務効率の改善につなげることが可能になる。第3階層では、プロダクトからインタラクティブ・データを取得し、先に例として挙げた予測メンテンナンスサービスのような新たな収益源を生み出していく。そして、最後の第4階層では、プロダクトをデジタルプラットフォームに転換する。インタラクティブ・データを外部の多くの企業とやりとりして、トランザクションを実行していくのだ。

「自社は今どの階層にいて、どこにいるべきか。そして、そこに到達するために何をすべきかを考える。これがデジタルエコシステムにおける基本的な考え方です」(Mohan教授)

図6:デジタル変革の4つの階層

図6:デジタル変革の4つの階層

デジタル変革の具体的な事例として、Mohan教授は保険業界の例を挙げた。

保険会社が持っているデータは、これまでは単発的データが中心だった。健康状態や人口統計などのアーカイブデータに基づいて平均危険率を算出し、より多くの人を抱えて平均危険率を下げることで利益を生み出していた。

しかし、インタラクティブ・データを活用すれば、個々の顧客のリスクを予測し、それぞれに合わせた新しいビジネスを展開することができるようになる。従来のように何か起きたときに補償するのではなく、リスクを未然に防ぐという考え方だ。また、リアルタイムでデータを活用できることもインタラクティブ・データの特性の1つだ。

「例えば、気温の急激な変化で水道管が凍結する恐れがある場合に、対象となる家の状況をセンサーで感知し、温かい水を水道管に流すなどすることで未然に凍結を防ぐことができます。また、事故発生時に自動車に設置したセンサーで損傷を瞬時に把握し、すみやかに保険請求処理ができるようになります」(Mohan教授)

自身が提唱するレガシー企業のデジタル変革プロセスでは、第4階層の「プロダクトからデジタルプラットフォームへの転換」が最も難しいとMohan教授は話す。

「重要なのは、プロダクトの補完財を特定すること。例えば自動車の場合、道路、ガソリンスタンド、関連するサービス事業者などが補完的な役割を担っている。それらを特定し、既存サービスと組み合わせることで新しいサービスを生み出していけるのです」(Mohan教授)

図7:コンサンプション・エコシステム構築の方法

図7:コンサンプション・エコシステム構築の方法

さらにデジタルプラットフォームを構築する必要もあるが、そこで重要となるのが「オープンAPI」だ。

「レガシー企業の場合、APIはデータを内部で共有するためだけに使われています。しかし、コンサンプション・エコシステムの中ではAPIをオープンにして外部要素にも接続する必要があります。自動車の例であれば、車を運転するときに関連のある駐車場やガソリンスタンド、あらゆるサービスの提供者や小売店までがデジタルプラットフォーム上でつながっていなければなりません。それにより、従来のバリューチェーンからデジタルエコシステムへと変革することができるのです」(Mohan教授)

日々変化し続けるデジタル社会で「レガシー企業」が勝ち抜いていくためには、データの変質を正しく理解できているかどうか、そしてデータのネットワークを広げ、収集したインタラクティブ・データをうまくビジネスに転換できるかどうかが鍵となりそうだ。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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