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2023.3.23業界トレンド/展望

ギグワークが地域を活性化
オープンイノベーションによる課題解決のポイントとは

自社だけでなく、他社や自治体、社会企業家や大学などが連携し、技術やアイデアを組み合わせることで新たなビジネスを生み出す、オープンイノベーションの手法。NTTデータでは2013年からスタートさせたオープンイノベーション「豊洲の港から」を軸に、加速させてきた。
今回「豊洲の港から」を通じて地方創生を推進するギグワークのプラットフォームをギグベースと共に実現できた。ギグベースとNTTデータの協業を振り返り、この背景にある成功ポイントについて検証していく。
目次

NTTデータのオープンイノベーション活動「豊洲の港から」

NTTデータは、最先端の技術・アイデアを持つベンチャー企業、NTTデータのお客さま、そしてNTTデータの3者が「Win-Win-Win」の関係となる革新的で持続可能なビジネスを創発するオープンイノベーションの実現に長年、取り組んでいる。2014年から開催する「豊洲の港から」オープンイノベーションコンテストは舞台を世界各都市に拡張しながら推進してきた。2021年度からはコンテスト形式ではなく、通年で先進的なベンチャー企業とのマッチングを推進、続々と新たなビジネスを創出し続けている。こうしたオープンイノベーションの取り組みにおける重要なポイントを、NTTデータでオープンイノベーションを推進する事業戦略室 部長の渡辺 出は次のように説明する。

コーポレート統括本部 事業戦略室 渡辺 出

コーポレート統括本部 事業戦略室
渡辺 出

「私たちがまず行うのは事業部ヒアリングと題するフェーズ。事業部のメンバーが把握しているお客さまのニーズ、社会課題などを探索していきます。ここで得た知見を立脚点とし、オープンイノベーションが始まっていきます。このフェーズでのリサーチが、まずはとても重要となります」(渡辺)

このようにお客さまニーズや社会課題を把握した上で二つの取り組みを通じ、オープンイノベーションを推進する。
一つ目は、ベンチャー企業、お客さま、NTTデータ社員が参加する「フォーラム」だ。「フォーラム」ではお客さまニーズや社会課題などを考慮した上でテーマを設定する。そして、テーマに合致するスタートアップ企業を集め参加企業の取り組みを紹介し合う。「豊洲の港から」コミュニティでは積極的な情報交換が進められていく。

図1:「豊洲の港から」におけるエコシステム

図1:「豊洲の港から」におけるエコシステム

もう一つは「アクセラレーション」だ。

「スタートアップ企業と事業部との協業機会を作るだけではなかなかビジネス創発にはつながっていきません。そこで私たちオープンイノベーションチームが外部調査やパートナー企業との交渉を支援し、ビジネスのコンセプトやビジネスモデルの構築まで併走することが必要になってきます。この活動を『アクセラレーション』と呼んでいます。事業部ヒアリングによってお客さまのニーズや潜在的な社会課題を把握し、パートナー企業の探索を行いますが、最適なパートナー企業を見つけ出すのは難しいものです。把握した課題にマッチするパートナー企業は誰か、どうすればお互いに協業の価値を最大化できるのかを私たちも考え、繰り返し仮説構築・検証をしながら課題の明確化・パートナー企業の探索・協業の推進をすることが大切になります。オープンイノベーションによるビジネスの創発には、常に皆さんとともに考え、議論していくことでそれぞれのニーズや思考の解像度を高めていくことが、何より重要であると私たちは考えています」(渡辺)

図2:アクセラレーションの中身

図2:アクセラレーションの中身

地域金融機関の課題、地域の課題を解決する新サービス創発へ

では、具体的な協業案件事例を見ていく。その一例が、NTTデータとギグベース社の協業で生まれた「ギグワークマッチングプラットフォーム」。これは、地域金融機関の取引先企業と、労働供給者(ギグタレント)のジョブマッチングを地域金融機関が斡旋する仕組みである。プラットフォームの名称にも含まれる「ギグワーク」とは何か、ギグベース 代表取締役社長の田中 祥司氏は次のように説明する。

ギグベース株式会社 代表取締役社長 田中 祥司 氏

ギグベース株式会社 代表取締役社長
田中 祥司 氏

「ギグワークとは、短時間・単発でできる働き方です。弊社では日雇いなど雇用形態に限らず、業務委託の形態で企業や個人事業主と働き手をマッチングしています。このギグワークにはさまざまなメリットがあります。たとえば働き手側には、夏場が忙しいとか、月末月初が忙しいといった事情がありますが、ギグワークを活用すればその隙間時間を生かして働くことができる。ですから、定年退職したシニアの方、学生の方など多様な方々の労働意欲に応えられるというわけです。一方、労働力需要側となる企業にとっては保険手続きや中長期の雇用リスクなく労働力を調達できるため、労働力を変動費化することができ、迅速かつ簡便に調達できるというメリットがあります。」(田中氏)

こう聞くと、実に現代社会の働くスタイルにマッチした取り組みであるが、労働における需要と供給の場を単に設定するだけではミスマッチが起こってしまう。それに対しギグベースが持つ強みが、きめ細やかなマッチングのサポートだ。田中氏はこう話す。

「私たちが重視するのは、労働供給側のギグタレントにはオンデマンドに働ける機会を提供しながら報酬とやりがいについても一定のサポートをしつつ、労働力を求める企業や個人事業主側にはきちんと戦力化された潜在労働力にアクセスする機会を提供していくこと。ですから弊社のサービスでは、オンラインで世界中とつながることができるクラウドソーシングだけでなく、ノンデスクワークにも対応しています。また軽作業だけでなく一定の経験が求められる仕事も対応できますし、ギグタレントごとのスキルや評価のデータベースを利用したマッチング満足度の確保も行っています。さらに、費用の受け渡しを円滑に行えるよう、エスクロー(※)の仕組みも有しているのです」(田中氏)

「ギグワークマッチングプラットフォーム」は、ギグベースが従来提供してきたギグワークのマッチングサービスをベースに、NTTデータが持つ地域金融機関とのリレーションや金融機関個人向けアプリケーション(アプリバンキング)を組み合わせ、地域金融機関向けのプラットフォームサービスとして実現した。

図3:ギグベース社との協業スキーム。青枠部分はマッチング機能を担うステークホルダー。

図3:ギグベース社との協業スキーム。青枠部分はマッチング機能を担うステークホルダー。

今回のビジネスの創発に至った経緯には次のようなステップが存在すると、渡辺とともにオープンイノベーションを推進するNTTデータ事業戦略室 課長の藤原 健一は説明する。

コーポレート統括本部 事業戦略室 藤原 健一

コーポレート統括本部 事業戦略室
藤原 健一

「最初のステップではコンテストという形態を通じ、ギグベース社と当社のしんきん事業部が出会いました。そこから互いがアセットを持ち寄り、協業の仮説立案を行いました。そして協業実現の可能性が見えてきた段階でアライアンスを締結し、協業ビジネス実現へとつながっていったのです」(藤原)

図4:ギグベース社とNTTデータの協業サービス実現への「みちのり」

図4:ギグベース社とNTTデータの協業サービス実現への「みちのり」

NTTデータの事業部側の担当者の立場で推進した、しんきん事業部 課長の村本 晋一は今回の協業について初期段階から一定の確信を得ていたと話し、その理由についてこう続けた。

「最初にギグベース社からコンテストで提示された提案は魅力的で、共同組織型金融機関との協業にふさわしいものでありました。金融機関における人材ビジネス解禁の方向性が見えてきていたことや、地方の労働人口減少が社会課題となっていたなかで、ギグエコノミーが地域の抱える地域活性化という課題を解決できると期待が持てたからです」(村本)

(※)

契約当事者の間に第三者である金融機関が入り、譲渡金額を決済することで、代金決済などといった取引の安全性を確保する仲介サービスのこと

成功のポイントは「論理」と「パッション」

この提案をもとに、NTTデータとギグベース社は協業ビジネスの検討を開始した。協業ビジネスの仮説立案にあたっては図5のようにさまざまな角度から見直しを図った。

図5:仮説立案プロセス

図5:仮説立案プロセス

第二金融事業本部 しんきん事業部 村本 晋一

第二金融事業本部 しんきん事業部
村本 晋一

「私たちは信用金庫様のコメントを常にいただきながら、仮説のブラッシュアップを進めていきました」と村本は話す。
そして、信用金庫様・ギグベース社との対話を通じて精度を上げた仮説を他の金融機関にも確認したところ、多くの事業者がギグワークサービスに大きな期待を寄せているという事実も見えてきた。これは日常的に金融機関と密なコミュニケーションを取っていた、しんきん事業部の地道な努力が実を結んだとも言えるだろう。

「仮説立案、検証を繰り返しながら当社とギグベース社との相性、信頼関係も確認することができました。結果として、強固な連携によってこのサービスを実現したいということで、キャピタルアライアンス締結に向かっていったのです」(村本)

この事例を通じ、あらためてオープンイノベーションの成功における二つのポイントが見えてきた、と藤原は話す。

「一つ目は論理。これは、仮説を一つひとつ論理的に積み上げていくことが極めて重要という意味です。二つ目はパッション。NTTデータ、パートナー企業様がベクトルを合わせながら熱いパッションによって協業に向かっていくことの大切さです。これら2つのポイントは、どのようなオープンイノベーションにおいても常に重要な要素なのではないかと感じています」(藤原)

最後に、このビジネスが有するインパクト、社会に資するポイントなどについて村本はこう説明する。

「本プラットフォームの利用により、ギグタレントは、目利きの役割を担う地域金融機関のお墨付きのついた企業で働くことができます。また利用企業は、本プラットフォーム上のギグタレントデータベースにより労働力の確保を簡単に行えるようになりました。そして、地域金融機関にとってはこのプラットフォームを通じた地域活性化の実現に加え、労働力紹介という新サービス提供による手数料収益の獲得や、本サービス提供を通じて得られる顧客行動に基づいた金融商品の提供といったメリットもあるでしょう」(村本)

まさに「Win-Win-Win」の実現にこぎつけた「ギグワークマッチングプラットフォーム」の事例。NTTデータが取り組むオープンイノベーションの試みは、社会課題を解決し、新しい価値を生み出すべく、一層、加速していく。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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