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2024.10.4業界トレンド/展望

今、知っておくべき「データスペース」の現在地
~国や企業の壁を超えたデータ連携で、未来はこう変わる~

データスペースは、信頼性を確保しつつ国や業界、組織を超えた多様な相手とデータを連携し、利活用できる仕組みだ。欧州をはじめとし、近年データスペースの構築に向けた議論や技術開発が世界中で進んでいる。データスペースが当たり前になった未来は、どう変わるのか。また、社会に普及させていく上では、どのような課題があるのか。データスペースの第一人者である東京大学大学院の越塚 登教授と、NTT DATAでデータスペースの取り組みをリードする土橋 昌に話を聞いた。
目次

データスペースの概念と日本における取り組みの現在地

社会課題の解決、協働によるイノベーションや付加価値の創造のため、企業や業界、組織を超えたデータ流通の必要性が急速に高まっている。こうした状況を背景に注目を浴びるようになってきたのが「データスペース」の概念だ。データスペースとは、複数の組織が互いに信頼性を確保しながらデータを自由に流通させることができる新しい経済・社会活動のための空間だ。複数の組織が持つシステム同士をつなぎ、データ提供者がそのデータの権利を保持し続ける「データ主権」を確保しながらデータの利活用ができる仕組みである。
欧州では、自動車サプライチェーンでデータを安全に交換できる「Catena-X」が2023年10月に運用を開始。さらに欧州でデータスペースを推進するイニシアティブであるGAIA-Xが、10を超える各産業領域でデータスペースの展開を進めており、データスペースを巡る取り組みは既に動き出している。まずは、このような世界の動向について、「データ連携」の分野における第一人者、東京大学大学院情報学環の越塚 登教授が次のように話す。

「『データスペース』という言葉自体は近年、登場してきたものですが、概念としてはかなり古くからあったものです。世界中のさまざまなデータを他の企業や国と安全に共有する仕組みがあれば、労働生産性が向上するかもしれないし、単一企業では実現し得なかった新製品を生み出せるかもしれません。こうしたデータ連携の必要性がようやくクローズアップされ始めたということです。背景には、競争領域がデータのレイヤーに移行してきたという現状があるでしょう。1940年代にコンピューターが登場して以降、約20年間はハードウェアの時代。1960年代以降は競争領域がメインフレームへと移行しました。さらに20年後の1980年代以降はマイクロコンピューターの時代。そして2000年以降はインターネットに、2020年以降の現在はまさにデータに競争領域が移ってきています。こうした変遷を背景として、いまデータの構築、収集、分析、利活用といったプロセスすべてに注目が集まっているのです」

図1:データスペースのイメージ図(出典:データスペースの推進 | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)

図1:データスペースのイメージ図(出典:データスペースの推進 | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

NTT DATAは、すでにさまざまな国や産業でのデータスペースの社会実装に向けた取り組みを進めている。経済産業省が主導する「ウラノス・エコシステム」のファーストユースケースであるバッテリートレーサビリティプラットフォームの提供もその一つだ。ほかにも欧州政府機関プロジェクトにも参画するなど、具体的なユースケースの創出を先導している。
NTT DATAにおいてデータスペースの取り組みをリードしている土橋 昌は、こう語る。

「データをどう取り扱うのか、どう利活用していくのか、どのような基盤を構築すればいいのかという相談は10年以上前からさまざまな業界、企業からいただいており、当社でも積極的に取り組んできました。課題感自体は昔からありましたが、解決するための技術が成熟しておらず、また企業間でデータを利活用するためのルールが不明瞭であったため、実現が難しかったのです。近年になって、ようやくデータスペースを構築するための技術の組み合わせ方やアーキテクチャが明確になってきました。そして、企業を超えたルールの議論の場も作られるようになり、まさに今、この仕組みを実用可能な状態にするための取り組みが日本国内でも動き始めたというフェーズです」

欧州の取り組みが先行しているイメージがあるデータスペース。日本は欧州と比較してどのような立ち位置にいるのだろうか、という問いに対し、越塚教授はこう答えた。

「特に欧州の取り組みが先行しているとは考えていません。インターネットやクラウドの領域において欧州は覇権を握れませんでした。ハードを作る領域においてもアメリカや日本の方が先をいっているでしょう。こうした状況を鑑み、欧州はデータの領域でなんとか覇権を握ろうとしていて、それゆえデータスペースの領域において積極的な動きを見せています。一方、データを利活用するという観点で見ると、実は日本は相当進んでいます。公共交通、防災の分野でも世界的に見て先進的なシステムがすでに動いていると言っていい。ただ、日本の場合はアプリの積み重ねで大きな枠組みを作ろうとする傾向があって、プラットフォームを作ることが苦手。データスペースの取り組みにおいて日本が立ち遅れているとは全く思いませんが、プラットフォームの構築に向けた技術や知恵の結集は必要でしょう」

データスペースがもたらす未来の社会とは

近い未来、データスペースが普及した社会ではどのようなメリットが生まれるのだろうか。越塚教授はこう説明する。

「データスペース活用の初期段階で可能となるのは、一企業では成し得ない技術革新や、海外と連携した社会課題の解決などが分かりやすい例でしょう。そして、データスペースのさまざまな課題をクリアした最終的なイメージを極端に言えば、何を聞いても認証されれば答えが出てくる高度な検索エンジンのような姿、すなわち『AIスペース』ではないでしょうか。有力なデータを有する企業がそのデータを10万円で販売できるかもしれないし、一個人がロケットの設計図をデータとして入手して自力でロケットを制作できるようになるかもしれない。一部の人には、人気ブランドのTシャツが世界でいつ何着売れたかが分かるかもしれないし、固有の銘柄の明日の株価すら分かるようになるかもしれません。生成AIとデータスペースの技術を組み合わせれば、相手や用途によって回答のレベルを変えるなど、生成AIをコントロールしながらその真価を発揮させることも可能ではないかと考えています」

常日頃多様な企業、業界と関わりあい、実ビジネスの推進にも取り組む土橋が、データスペースの実装がいち早く進むと考えている領域はどこなのか。

「データスペースの活用が進むと思われる業界の代表例は、製造業です。たとえば自動車業界を見ると、一企業でビジネスが閉じることはありません。サプライチェーンが長く、深いため、データスペースの考え方が有用です。近年では資源循環といったコンテキストも加わり、企業と企業をまたいで情報をやりとりしながら社会的責任を果たす必要性も高まっています。また、ヘルスケア業界、エネルギー業界のようにプレーヤーが多く、かつ独自に活動しているような領域も、研究開発、イノベーションに必要なデータを他社から入手したいというニーズが非常に高い。あくまで一例ですが、こうした業界の方々からのデータスペースに関する問い合わせは確実に増えていますね」

一方で、データスペースを機能させていくには、国際的な枠組みや企業間の規定、利用者を認証する際のルールづくりが大きな課題となる。データスペースにおいて、データの提供元はデータカタログと呼ばれるインデックスを公開し、データを見つけた利用者はコネクタや連携システムを通じて認証、認可を受け、データを取得する。データ提供者は、どのような利用者に対してどのようなデータを提供するかをあらかじめ設定することができるため、データを不本意なかたちで利用者に提供することは避けられる。

図2:データスペースにおけるデータ連携の仕組み

図2:データスペースにおけるデータ連携の仕組み

データスペースにおけるルールの重要性について、土橋はこう述べる。

「データの提供元にとって、データを提供しながらも自らの競争力を担保するルールを設けるのは非常に難しいことです。例えば、ある企業が製品の設計書を公開すると、当然ながら自社の強みが薄れてしまいます。設計書といっても、ここからここまでは秘密、ここからここまではこのような用途であれば特定の企業、個人に対して公開する、といったコントロールをどこまで行えるようにするのかが課題となってきます。ブレーキがない車では、怖くてスピードを出せません。0か100の2択ではなく、調整可能なブレーキを設定することこそが難しく、それができればこれまでなかった世界が見えてくるのです」

加えて、データスペースはこれまでのプラットフォームとは異なると越塚教授は指摘する。

「他のプラットフォームと異なるのは、プラットフォーマーがビジネスの主役ではないということです。データスペースにおいてプラットフォームは協調領域であって、主権はあくまでデータの提供者にあります。データを作り出した提供者こそがビジネスの主役となるようなプラットフォームを構築していくことが求められます」

社会実装の起点となる東京大学データスペース技術国際テストベッド

日本国内におけるデータスペース推進の動きは、間違いなく加速している。今後の開発やルールづくりの中心となりうるチームが、2024年7月「東京大学データスペース技術国際テストベッド(以下、東大テストベッド)」という名のもとにスタートした。この東大テストベッドを率いる越塚教授に、取り組みの背景と活動内容について聞いた。

「インターネット黎明(れいめい)期は、インターネットに触れたい人は誰でも触れることができました。しかし、データスペースは興味を持った人が誰でも触れる環境というものがまだありませんでした。このような環境を作るのは、やはり大学の役割だと考えたのがきっかけです。東大テストベッドを通じて学生、企業人、研究機関、そのほか世界中の誰でもデータスペースの技術に触れる環境作りを行い、進化を促したい。まだスタートしたばかりですが、学生や教授、NTT DATAをはじめとした10社ほどの企業が参加しています。研究開発と同時に人材育成も行っていくつもりです。データサイエンスの領域における人材育成は各方面で活発ですが、データ作成、整理、保存、流通、利活用といったデータのライフサイクル上、上流のデータ作成に関わる人材育成は立ち遅れています。データスペース構築においてデータ作成のプロセスは非常に重要な部分ですので、この領域の人材育成にも注力していきます」

あらゆる人材に広く門戸を開放する東大テストベッド。7月からさまざまな企業が参入してハンズオンが始まった。国内企業・組織だけではなく、Luxembourg National Data Service(LNDS)やLuxembourg Institute of Science and Technology (LIST)等のような欧州でテストベッドを構築する組織とも連携の議論を進めている。(※)このチームにサブプロジェクトリーダーとして参画している土橋も、人材育成の重要性と意義についてこう語る。

「データの活用が注目されがちですが、データスペースの基礎はまさにデータ作成の部分だと考えています。昨今、AIを導入したいという相談が増加しています。しかし、案件に深く入ってみると、そもそも末端のデータ形式が整っていないことで、システム全体をうまく機能させられないというケースが非常に多いのです。データマチュリティ(データ活用総合力)、つまりデータを作り、育てて、成熟させるという概念こそデータ利活用においては重要です。家を建てるためには基礎が必要であるのと同じように、データを皆が使えるようにする重要性や面白さを伝えていく必要があります。こうした状況からみても、東大テストベッドの人材育成には期待が高まります」

人材育成においてまず求められるのは、教材だと越塚教授は話した。データスペースの開発、運用を担う各プロセスにおいて、どのようなスキルが求められるのか、そしてそのスキルをどのように習得していくのかを体系的に提示する必要があるという。

「早急に必要なのは、データの発生から利活用までのそれぞれのプロセスにおけるスキルセット、知識体系を作っていくことです。データ作成から、AIに至るまで、データのライフサイクルすべてにおけるスキルが整理されたバイブルのような教材ですね。もうひとつは東大テストベッドを起点として学会を発足することができればと考えています」

(※)

The Imperative of International Cooperation in Health-Related Data Spaces: A Case for Collaboration between Europe and Japan

データスペースの未来と展望

今後ますます社会実装に向けて技術開発やルール作りが進むであろう、データスペース。土橋は、NTT DATAの今後の取り組みについて展望を語った。

「当たり前ですが、データを扱わない業界はないといっていい。そう考えるとあらゆる分野でデータスペースの必要性が高まっていくのは間違いありません。このような状況下でNTT DATAが企業として取り組むべきは、データスペースと親和性の高い企業や業界とともに、まずは事例を作ること。日本のほかにも、先に挙げたルクセンブルクの例に加え、EUにおける公共調達など公共サービスのためのデータスペース実現に取り組んでいます。続いて、さまざまなプロジェクトを共通して支える技術やソフトウェアを提供し、それらの第一人者として利用者の支援を行うサービスを提供していくことです。国際動向を踏まえた対応が重要な領域ですから、国際的な開発プロジェクトや議論に積極的に出ていき、知見を得ながらプレゼンスを高めることも私たちにとって大きな価値となっていくでしょう」

最後に、越塚教授がNTT DATAに対し期待することはどのような領域か、意見を聞いた。

「データスペースのような新しい概念、プロダクトは、そこにビジネスが介在しなければ持続可能なものとして社会に普及していくことはできません。データスペースの普及を考える上で、先端分野で新しいビジネスを生み出すことが得意なNTT DATAには、プレーヤーとして最大の期待を持っています。プラットフォームを作って、何十年もきちんと運用していくというプロセスの中で、ビッグビジネスを生み出していただきたい。それによってデータスペースが持続可能な状態で社会に資するものになっていくんだと考えています」

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