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2024.2.16技術トレンド/展望

日欧データスペース最新動向
~2023カンファレンスから見えてきた日欧の比較と今後の展望~

「データスペース」は、企業や組織をまたがる安全なデータ流通を実現するデジタルインフラ構想である。社会課題の解決や付加価値の創出を目的として、さまざまな産業界で生成されるデータを安全に必要な相手に共有できる仕組みを整える活動が、欧州や日本で推進されている。本稿では、データスペースの構想に取り組む主要な団体により開催された2023年のカンファレンスにおける、データスペースの社会実装に向けた議論の最前線を紹介し、今後の展望を考察する。
目次

はじめに

「データスペース」は、企業や組織をまたがる安全なデータ流通を実現するデジタルインフラ構想です。社会課題の解決や付加価値の創出を目的として、さまざまな産業界で生成されるデータを必要な相手に安全に共有できる仕組みを整える活動が、欧州や日本で推進されています。

欧州では、データスペース構想がいち早く政府のデータ戦略に組込まれ、その社会実装に向けた活動が推進されています。データスペース実現プロジェクトがいくつも立ち上がっており、Catena-Xを代表とする先行プロジェクトがサービスを開始しています。

日本では、企業間データ流通による社会課題解決や付加価値創出を追求するため、産官学が連携したプロジェクトが盛り上がりを見せています。特に2023年は、「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の発足や、「スマートモビリティプラットフォームの構築」事業の開始など、顕著な動きが見られた一年でした(※1)(※2)

本稿では、日欧のデータスペース分野の団体により開催された、2023年の主要なカンファレンスにおける議論の最前線を紹介し、今後の展望を考察します。

(※1)経済産業省 | Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html
なお、ウラノス・エコシステムの活動やアーキテクチャーについては、以下の記事でも紹介しています。
DATA INSIGHT | 国内の議論も進む企業間データ流通インフラの実現構想 ~ウラノス・エコシステムが目指す国内産業界のデータ連携基盤~
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2023/1121/

(※2)内閣府 | スマートモビリティプラットフォームの構築社会実装に向けた戦略及び研究開発計画(案)

https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/10_smartmobility.html

データスペースの欧州における動向 ~Gaia-X Summit 2023 in SPAIN~

欧州においてデータスペースを推進する主要な団体・イニシアティブとして、International Data Spaces Association(以下IDSA)とGaia-Xが挙げられます。

IDSAは、「データ主権(Data Sovereignty)」という考えに基づいたデータ交換に関する仕様を策定。そして、Gaia-Xは、IDSAが策定したデータ交換に関する仕様に加えて、「フェデレーション(分野横断で相互運用性やポータビリティを確保すること)」に基づくデータ交換についてのアーキテクチャー、フレームワークを策定し、ユースケースの開発を行っています(※3)

Gaia-Xは、活動範囲を広げるために、欧州を中心とした国にGaia-X Hubと呼ばれる団体を設立しました。Gaia-X Hubは、定期的にカンファレンスを開催しており、その時々の取り組みや動向が共有されます。2023年11月にGaia-X HubのひとつであるスペインのアリカンテにてGaia-X Summit 2023が開催されました(※4)。本稿ではその最新動向をご紹介します。

本カンファレンスでは、実用段階に向けて進行している欧州内のプロジェクト事例が紹介されていました。最初のセッション「The Gaia-X Journey & Strategy 2025」では、図1のような、ライトハウスプロジェクトが10個紹介されました。

図:Gaia-Xにおける10個のライトハウスプロジェクト

図:Gaia-Xにおける10個のライトハウスプロジェクト

ライトハウスプロジェクトとは、Gaia-Xのフラグシップとなるプロジェクトを意味します。特にその中でも、参画するパートナーが多い農業分野のAgdatahubと、最も先行している自動車分野のCatena-Xについて、それぞれのプロジェクトを運営する団体のCEOから、最新状況が説明されました。

Agdatahubは、農業と農産物のデータスペースプロジェクトです(※5)。セッションでは、Agdatahubは、Gaia-Xに準拠していること、目標として2024年にEUの1千万の農場と50万のパートナーと相互接続することが示されました。注目すべきは、接続ユーザーの多さです。大規模な農場だけでなく、小規模な農場も参加していることや、農業関係者だけでなく、それを取り巻く地域社会(生協、スーパーマーケット)や異業種企業(銀行、IoTスタートアップ)など幅広い業種から接続されていることが、接続ユーザー数の多さにつながっていると思われます。農業の上流下流を幅広く巻き込めていることがポイントであると言えるでしょう。

Catena-Xは、自動車のサプライチェーン全体でデータを共有するため、2021年にドイツで設立されました(※6)。このプロジェクトには、欧州の大手自動車メーカーや自動車業界関連企業が参加しており、自動車業界の競争力強化やCO2削減などに向けて、データを安全に交換できるプラットフォームの提供を目指しています。セッションではCatena-Xは、初のGaia-X準拠プロジェクトであり、世界中で170以上の自動車産業のメンバーが参画していることや、2023年10月16日にサービスを開始したことが示されました。

これら2つのプロジェクトをはじめ、欧州では、複数の分野で同時に並行してプロジェクトが推進されています。それが可能なのは、各々のプロジェクトは、それぞれGaia-X準拠である、つまりプロジェクトメンバーは、Gaia-X Complianceとして設けられた基準を順守し、フェデレーションを推進しているためです。これは、仕様・ルールを決めて、皆がそれに従うというトップダウンの進め方の成功事例と言えるでしょう。

(※3)IDSAやGaia-Xについては、以下の記事で解説しています。

DATA INSIGHT | 注目!欧州発の企業間データ連携の仕組み作り:IDS・Gaia-X
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2022/0415/

(※4)Gaia-X | Gaia-X 2023 Summit

https://gaia-x.eu/summit-2023/

(※5)Agdatahub

https://agdatahub.eu/en/

(※6)Catena-X

https://catena-x.net/en/

データスペースの日本における動向 ~Data Spaces Discovery Day Tokyo~

2023年11月22日に東京大学が主催し、一般社団法人データ社会推進協議会(Data Society Alliance:以下DSA)及びIDSAによる共催のもと、Data Spaces Discovery Day Tokyoが開催されました(※7)。同カンファレンスは、複数の企業や学術機関、政府機関による協賛や後援のもと、多数の参加者を集めており、日本におけるデータスペースの関心の高まりを示しています。

東京大学とDSAは、日本におけるデータスペース分野の活動を推進しています。東京大学は、アカデミックな立場から、データスペースを実現する技術の研究開発や、企業では取り組みにくい課題に対する支援を行っています。DSAは産業分野横断のデータ社会実現を目指しており、特定の産業分野内に閉じたデータ連携を越えた、複数産業横断でのデータ連携のハブとなる活動をしています。また、国際連携に向けて、IDSAやGaia-X等とも議論を重ねています。

このカンファレンスの冒頭では、東京大学、DSA、IDSAの三者間でMoUが締結され、IDSA Japan Hub設立が宣言されました。IDSA Hub はIDSAと協力して、IDSAが提唱するデータ主権とデータスペースの標準仕様を広める活動を行う団体です。IDSA Hubは各国に設置され、日本では東京大学とDSAの協力により運営されます。IDSA Japan Hubが設立されたことで、今後の日本のデータスペースに関する取り組みがますます加速すると予想されます。

以降は、カンファレンスで示された、データスペース関連の取り組みについて紹介します。

IDSAの取り組み

IDSAは、データ主権を保証する標準のアーキテクチャーとルールを提供し広めることで、安全なデータ交換の実現を目指しています。IDSAが重視するデータ主権(Data Sovereignty)とは、データの提供相手や提供する条件、提供先での用途などを、データの提供元が自ら制御できるという、データスペースに関する最も根幹的な概念です。

IDSAの提唱するアーキテクチャーには、「コネクタ」と呼ばれるデータ主権を保証するためのコンポーネントがあります。コネクタはデータを提供する側とデータを受け取る側の双方で持ち、データ交換時の制御を行います。このカンファレンスでIDSAの講演者は、コネクタは「出島」であると紹介しました。出島というエリアを介して輸出入を制御する、ということが、コネクタを介して、「データの提供元が、データの提供相手や提供する条件、提供先での用途などを制御する」役割を分かりやすく例えています。

カンファレンスでは、IDSAの標準化への取り組みにおいて、各国や業界の意見を取り入れたグローバルスタンダードを目指すことが示されました。後日、データスペースに関するISO規格化に向けた作業が開始されており、国際標準化の活動を進めていることが分かります(※8)

IDSA Japan Hubの取り組み

IDSA Japan Hubの講演では、日本が国際社会と連携しつつデータを活用し、より良い社会を目指すビジョンが示されました。カンファレンスで提示された内容の中から、日本国内のデータ連携のあり方と、データスペース技術の国際テストベッド(試験用環境)について紹介します。
日本国内でも、多くの産業分野で既にデータ連携のためのデータプラットフォームの構築が進んでいることが紹介されました。しかし、それらは各分野、企業内での利用に限られ、相互運用がまだ可能ではありません。この課題を解決するための方針として、新たなプラットフォームを構築しデータを集めるのではなく、既に存在するデータプラットフォームや、企業内データはそのまま生かし、データプラットフォームをフェデレート(相互運用)していく、というボトムアップの方針が示されました。そのフェデレーションには、コネクタという技術が重要であると示されました。
東京大学では、「データスペース技術国際テストベッド」を設け、データスペースの国際連携実現に向けた技術面での課題解決を推進していることが紹介されました。例えば、データスペースのコネクタには複数の種類が存在し、相互接続が課題になっています。テストベッドでは、いくつかのコネクタを用意しており、その解決に向けた検証の場となります。さらに、このテストベッドは技術者が自由に試せる技術検証の場であり、欧州からも参加可能な研究拠点を目指すことが示されました。

(※7)Data Spaces Discovery Day Tokyo | Business value of sovereign data sharing

https://internationaldataspaces.org/events/data-spaces-discovery-day-tokyo-business-value-of-sovereign-data-sharing/

(※8)ISO standard on data spaces officially registered

https://internationaldataspaces.org/iso-standard-on-data-spaces-officially-registered/

データスペースの取組方針に関する日欧の共通点と相違点

本稿で紹介した2つのカンファレンスでの議論を俯瞰すると、企業間のデータ流通や活用に向けたデータスペースの整備に向けては、日本と欧州とで異なるアプローチを採っていることが見えてきます。

まず欧州では、データスペース構想をいち早く政府のデータ戦略に組込み、各産業分野のデータスペース構築で利用できる技術仕様や標準アーキテクチャーの整備を進めてきた経緯があります。そうしたトップダウンのアプローチに基づき、Catena-Xを代表とする先行プロジェクトがサービスを開始したことが2023年の大きな動きでした。

日本では、ウラノス・エコシステム等のさまざまな産業分野でのデータ共有プラットフォーム構築の動きの中で、データスペースの構想を採り入れた具体的なプロジェクトがボトムアップ的に発足し始めたことが2023年の大きな動きです。そして、先行プロジェクトで得た成果を他産業分野や他ユースケースに展開していくことで、データスペースのエコシステムを発展させていく方針にあると言えます。

日本がボトムアップ的な動向を見せる理由として、カンファレンスで示された、「従前から構築・運用されてきたさまざまな産業分野のデータプラットフォームを生かしながら、データスペース技術の活用により、データ流通を実現したい」という目論見があると考えられます。すなわち、現状では特定プラットフォームの内部での利活用にとどまっているデータを、データスペースの連邦型アーキテクチャーに基づいて産業分野横断で流通できるようにするというものです。こうした議論は、欧州が進めようとしているトップダウンのアプローチだけでは必ずしも対応できない、既存データプラットフォーム内で管理されるデータの利活用促進という課題の解決につながりうると考えられます。

日本と欧州とでは、データスペースの構築やデータスペースエコシステムの醸成に向けたアプローチに幾つかの違いがあるものの、企業あるいは産業界としてのデータ主権を確保しながらデータ流通ができるデジタルインフラを整備する方針は一致しています。また、そうしたデジタルインフラの技術開発においては、ルールや技術仕様の策定における国際協調が重要となります。

おわりに

NTT DATAは、欧州のデータスペース関連技術を活用した研究開発や実証、日本のデータスペース構築プロジェクトへの参画など、多方面にわたり活動をしています(※9)(※10)。そうした活動を経て蓄積したノウハウや成果を生かし、背景やアプローチの異なる多様な産業でのデータスペース実現を推進していくとともに、これからますます重要となってくる、国際協調に基づくルールや技術仕様の策定の取り組みにも貢献していきます。

(※9)企業や業界、国境を跨ぐデータ連携基盤構築に向け、「ウラノス・エコシステム」に関する公募事業に採択

https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/101301/

(※10)『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期/スマートモビリティプラットフォームの構築』に採択

https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2023/122500/

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