労働人口不足をビジネスチャンスに
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、論文「雇用の未来」の中で20年後には米国雇用の47%がコンピュータに代替されると公表しました(※1)。
今後は技術革新により生産性は向上するが、雇用は伸びない「グレート・デカップリング」化も懸念されています。
日本は世界に先駆けて少子高齢化社会を迎える国です。内閣府が2014年に発表したデータでは日本の労働人口は、2013年の6577万人に対し、2060年には4390万人まで減少する予測も公表されています(※2)。
世の中の風潮をみると人工知能による失業リスクばかりが心配されていますが、労働人口減少による企業競争力の低下が企業の業績を押し下げることで、リストラが増加する可能性についても真剣に考えていく必要があると言われています。少なくとも現在の技術レベルでは、失業リスクより、企業の技術革新が遅れて企業業績が悪化する懸念のほうが大きいのではないでしょうか。
世界中からアウトソーシング専門家が集まる世界最大規模のカンファレンス「アウトソーシング・ワールド・サミット2016」でも先進技術の注目度が高まっていたそうです。2015年まではアウトソーシング先としてどこの国がホットかという話題が主流だったようですが、今年は技術革新による社員の生産性向上が主に話し合われたようです。世界レベルで労働人口不足をビジネスチャンスにする流れが生まれつつあるのだと感じています。
注目度が増す知的仮想労働者とRPA
このような状況を受け、知的仮想労働者やRPA(Robotic Process Automation)といった概念が注目され始めました。
知的仮想労働者はデジタルレイバー(Digital Labor)とも言われ、人間の代わりに知的な労働を実施するロボットという意味の言葉です。ロボットと言っても工場で働く物理的なロボットではなく、ソフトウエアにより作られたデジタルロボットになります。
RPAはこれまで人間のみが対応可能と想定されていた作業を知的仮想労働者(ルールエンジンや人工知能)が処理することを意味します。RPAについては2016年7月20日に日本RPA協会(※3)が発足しており、KPMGコンサルティングやアビームコンサルティングが専務理事を務めています。RPAはコスト削減だけでなく、作業の正確性を向上させ、付加価値の高い業務に社員をシフトさせる「ワークスタイル変革」を実現すると考えています。
RPAのコンセプトの一つに「既存システムに手を入れないで業務を効率化すること」があります。RPAツールを活用すれば、ルールベースで動作するデジタルロボットがGUI(PC上の画面)を自動操作し、定型業務を効率化させることが可能です。
例えば、複数システムから収集したデータを連携させ、分析結果を自動で他のシステムに登録する処理やエクセルなどのOffice文書に情報を書き込こむ処理を全て機械化できます。
NTTデータにおけるRPAの取り組み
NTTデータでは「WinActor(ウィンアクター)」(※4)と呼ばれるRPAツールを販売しています。本ツールは、2011年頃にNTT研究所が開発した技術で、NTTデータが販売の総代理店になっています。本ツールの特長は自動化できるアプリケーションの領域が広く、導入実績は50件以上です。
RPAツールは基本的にはノンプログラミングで動作しますが、定型業務ではなく知的業務を効率化したい場合はRPAツールに人工知能を組み合わせる必要があります。
NTTデータはテキスト処理技術等のAI技術に強みがあり、RPAツールとAIを連携させることで一般的なRPAツールを超える最適化が可能だと考えています。また、PDFやテキスト文章を解析して役員名や株式比率など、業務に必要な情報を自動的に抽出する知識獲得技術もあります。他にも、NTT研究所が開発した質問の意図を人工知能が理解して回答する意味理解型検索技術の活用も可能です。
現在では、RPA領域の研究開発のみならず、社内のBPO業務をRPAツールで効率化する取り組みも進めています。今後、RPA技術は業務を継続的に改善するための中核技術になると考えています。
http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0312/shiryou_02.pdf