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2023.10.2業界トレンド/展望

グリーンソフトウェアに取り組む必要性と実現に向けたアプローチ

環境負荷低減は企業の重要な経営課題として捉えられている。IT領域も例外ではなく、ITのグリーン化に向けた取り組みが進められており、その中でもソフトウェア領域の取り組みは比較的新しい。Green Software Foundationは、グリーンなソフトウェアの普及を目指して設立された非営利団体であり、本記事では、同団体が発行したグリーンソフトウェアに関する調査レポートをもとにグリーンソフトウェアの最新情報を紹介する。
目次

グリーンIT実現に資するソフトウェアのグリーン化

2023年6月に公開した「今、IT部門が取り組むべきグリーンITとは?(※1)」において、グリーンITとは一体どのようなものか、について解説しました。同記事において言及したように、気候変動をはじめとする環境問題に対するソリューションとしてITを活用すると同時に、私たちはITそのものが及ぼす影響にも目を向ける必要があります。グリーンITの取り組みは過去から進められており、当初はハードウェアの省エネやデータセンタのエネルギー効率化といったコスト削減と温室効果ガス低減が比例する領域に焦点を当てていました。今ではデータセンタにおける再生可能エネルギーの活用や水消費の管理、ハードウェアの廃棄管理などあらゆる方面からの取り組みが求められています。そして、IT機器からの環境負荷最小化のためにデータセンタ、ハードウェアに加え、ソフトウェアも含めたITシステムを構成する全要素に対して取り組みが検討されるようになりました。

グリーンIT実現に向けた様々な取り組みの中でもソフトウェア領域のグリーン化はデータセンタやハードウェア領域のグリーン化と比べて新しい取り組みです。NTT DATAが運営メンバーとして加盟している非営利団体Green Software Foundationは、グリーンなソフトウェアの普及展開とその実現に向けたエコシステム構築を目指しています。2023年5月には、グリーンソフトウェアに関する調査レポート「State of Green Software」を発行しました(※2)。State of Green Softwareでは、Green Software Foundationが独自に行った調査の結果も踏まえながら、なぜソフトウェアのグリーン化に取り組む必要があるのか、実現に向けた課題はどこにあるのか、どのような観点から取り組みを進める必要があるか等が解説されています。
本記事ではグリーンIT実現に向けたアプローチの中で、ソフトウェア領域に関する最新情報を紹介します。

(※1)今、IT部門が取り組むべきグリーンITとは?

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/0616/

(※2)State of Green Software

https://stateof.greensoftware.foundation/

ソフトウェアに起因する環境負荷

従来は、データセンタやハードウェアの効率化に焦点が当てられてきましたが、最近ではソフトウェアが与える環境負荷の議論も活発化しています。例えば、テレワークによる通勤の減少やカンファレンスのオンライン開催の増加によってCO2が削減される側面もありますが、それに伴うシステム利用の増加によりデータセンタにおける水消費、各家庭における電力消費の増加といったネガティブな影響も同時に生じます。デジタルトランスフォーメーションに代表されるようにIT利用が拡大する中、このような負の側面にも目を向けなければなりません。ソフトウェア関連のCO2排出量は、世界の全排出量の4~5%を占める(※3)と言われ、これは航空、鉄道、船舶を合わせた排出量に相当します。また、クラウドだけでも航空業界よりも多くのCO2を排出しているという調査結果(※4)もあります。ソフトウェア起因の排出量は増加傾向にあり、今後何も手を打たなければ2040年までに世界の全排出量の14%をソフトウェアが占めると予想されています(※5)

図1:IT利用によるCO2排出

図1:IT利用によるCO2排出
https://learn.greensoftware.foundation/energy-efficiency

ソフトウェアが与える影響はCO2排出だけではありません。データセンタにおける水の消費とも密接な関わりがあり、特に干ばつが発生している地域では、AIに起因する水消費は大きく懸念されています。マイクロソフトの最新鋭の米国データセンタでGPT-3をトレーニングすると、70万リットルの水が直接消費され(BMW車370台分、またはテスラ電気自動車320台分を製造する際の水消費に相当)、もしマイクロソフトのアジアデータセンタでトレーニングすると、水の消費量は3倍になるという試算もあります(※6)。今後も生成AI、Web3、メタバース、ゲームなどの最新技術を用いたソフトウェアの開発・利用においても大量のコンピュータリソース消費が見込まれており、ソフトウェアのグリーン化の重要性がますます高まっていくとみられています。

グリーンソフトウェアに取り組む理由

ソフトウェアのグリーン化は環境や社会に対してポジティブな影響をもたらしますが、取り組むべき理由はビジネス面にもあります。ビジネスとサステナビリティ関連の取り組みは両立するものであり、グリーンソフトウェアが企業にもたらす影響は次の3つが考えられます。

1.開発が効率化される

プロセッサやストレージなどの使用の削減によりリソースを最適化することができます。また不要になったコードや冗長なデータを削減することで開発が効率化され、最終的にはソフトウェアエンジニアが書くコードの量を減らし、時間を削減することができます。

2.コスト削減に貢献する

ソフトウェアはハードウェアの動作を決定し、そのエネルギー消費に影響を与えます。グリーンソフトウェアによってコンピュータリソースの最適化や効率的な利用が可能となり、IT資産のエネルギーコストを削減することができます。

3.顧客、投資家、従業員といった各ステークホルダーにとって魅力的な企業となる

近年では、企業や消費者、投資家がサステナビリティへ強い関心を示すようになってきており、企業活動が環境や社会に負荷を与えていないかが意思決定の際に重要な判断軸となっています。また、従業員も自社がサステナビリティ経営にコミットしているかを気にしており、就職活動における企業選定においてサステナビリティは考慮される要素になってきています。

Green Software Foundationのアプローチ

ソフトウェアのグリーン化を実践するためには、ソフトウェア開発者にすべてを委ねるのでは不十分です。ソフトウェアにおけるグリーンをセキュリティなどと同等に重視し、企業として教育プログラムを提供するなどグリーンソフトウェア開発をサポートしていく体制が必要になります。Green Software Foundationでは、グリーンソフトウェアに関する教育コースであるGreen Software for Practitioners(※7)を無料で公開しており、誰でも国際的な脱炭素の動向からグリーンソフトウェアの考え方までを体系的に学習できるようになっています。また、Green Software Patterns(※8)というグリーンソフトウェアのためのオープンソースデータベースを公開しています。そこでは、ソフトウェアのグリーン化のために具体的に何をすべきか、今何ができるのかという問いに対して、具体的なアプローチが掲載されています。現段階では、Green Software Patterns CatalogとしてAI、Cloud、Webの3つのカテゴリごとに様々なパターンがナレッジベースとして収集されています。

(※7)Green Software Practitioners

https://learn.greensoftware.foundation/

(※8)Green Software Patterns

https://patterns.greensoftware.foundation/

グリーンソフトウェア実現に向けた打ち手

Green Software Foundationでは、Green Software Principlesとしてエネルギー効率、ハードウェア効率、カーボンアウェアネスの3つをソフトウェアグリーン化の構成要素としています。

図2:Green Software FoundationによるGreen Software Principles

図2:Green Software FoundationによるGreen Software Principles
https://learn.greensoftware.foundation/introduction

測れないものは改善できないと言われるように、排出量削減のためにはまず定量的な評価指標が必要になります。そこで、Green Software FoundationはSoftware Carbon Intensity(SCI)というソフトウェア運用時の炭素排出量を評価する指標を定義しました。SCIを活用することでCO2排出量の少ない製品の選定や削減技術の開発の促進等が期待されます。

図3:SCIの定義

図3:SCIの定義
https://learn.greensoftware.foundation/measurement

SCIの値を下げるためにはエネルギーの使用を減らす、ハードウェアの使用を減らすといった複数の打ち手が考えられます。その中でも、近年グリーンソフトウェア実現のための有効な打ち手として挙げられているものの一つが、電力の炭素強度を考慮したタスクスケジューリングです。炭素強度とは、1kWhの電力利用で排出される炭素の量を示す指標で、同じ電力でも火力発電由来と再生可能エネルギー由来では炭素強度が異なります。この炭素強度は、気象や時間、地理的条件によって変化します。たとえば、曇っているときや風が吹いていないときは、太陽光発電や風力発電由来の電力が少なくなるため炭素強度が増加します。

図4:気象条件による炭素強度の変化

図4:気象条件による炭素強度の変化
https://learn.greensoftware.foundation/carbon-awareness/

少ない炭素強度で電力を得られる場合は活動を増やし、炭素強度が大きい場合は活動を減らすことをカーボンアウェアネス(Carbon Awareness)と呼び、カーボンアウェアネスがソフトウェアのグリーン化に大きな役割を果たすと着目されています。カーボンアウェアなソフトウェアは、できる限り炭素強度の低い電力を活用できるよう、時間的、地理的にタスクをシフトさせることで処理を低炭素に実行できます。

図5:地理的シフト:炭素強度が低い地域でソフトウェアを稼働させる

図5:地理的シフト:炭素強度が低い地域でソフトウェアを稼働させる
https://learn.greensoftware.foundation/carbon-awareness/

図6:時間的シフト:炭素強度が低いときにソフトウェアを稼働させる

図6:時間的シフト:炭素強度が低いときにソフトウェアを稼働させる
https://learn.greensoftware.foundation/carbon-awareness/

Windows11やXboxなどの消費者になじみのある製品にもカーボンアウェア機能はすでに実装されており、再生可能エネルギーがより多く活用できる時間帯にアップデートやダウンロードが行われるようになっています。また、Google Cloudでは、開発者が最もクリーンなエネルギーを生み出している地域を選択し、カーボンフットプリントを5倍から10倍削減することができるとしています(※9)。カーボンアウェアなソフトウェアは、今後成長する分野であり、グリーンソフトウェア実現のための中心的役割を担うとされています。
Green Software Foundationでは、Carbon Aware SDKというカーボンアウェアなタスク計画をサポートするオープンソースソフトウェアを開発しています。Carbon Aware SDKは、発電時の炭素強度を提示することでエネルギーがグリーンな時間や地域でシステムが稼働することをサポートするツールとして期待されています。

NTT DATAが目指すソフトウェアがグリーンな世界

NTT DATAは、Green Software Foundationに運営メンバーとして参画しており、海外グループ会社も含めグループ一丸となって同団体内のさまざまなプロジェクトに貢献し、取り組みを牽引しています。ソフトウェア関連の取り組みは、特に欧州において金融や保険業界といった企業全体の排出量に占めるITの排出割合が大きい業界を中心に活発化してきており、NTT DATAはイタリアの大手銀行とITシステムの電力消費および炭素排出の可視化に関するプロジェクトを実施しています(※10)。また、IT業界の各企業と連携し、ソフトウェア領域の脱炭素化を促進するための標準策定にも取り組んでおり、経済産業省が公募した「令和5年度 GX促進に向けたカーボンフットプリントの製品別算定ルール策定支援事業(※11)」に参画しています。この取り組みを通して、ソフトウェア開発にかかるCO2排出量の算定に向けた公平なルールの確立を目指しています。NTT DATAはソフトウェアのグリーン化を促進するための標準策定と、その先の環境負荷削減技術の開発に取り組むほか、その普及展開を進めることでサステナブルなITシステムの社会実装を推進していきます。

NTT DATAはITサービスプロバイダーとして、ソフトウェアを含むITシステム・サービス全体のグリーン化を目指します。外部パートナーと連携しながらITのグリーン化の普及・展開をリードしていき、環境と調和したシステム、サービスにより豊かで持続可能な社会の実現に貢献していきます。

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