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2023.6.16業界トレンド/展望

今、IT部門が取り組むべきグリーンITとは?

環境負荷低減は企業の重要な経営課題として捉えられている。ITはソリューションとして活用される一方で、ITそのものが環境や社会に及ぼす影響についての議論がより一層活発になっている。過去からのグリーンIT実現に向けた取り組みも多角化し、最近ではサステナブルITへの広がりを見せている。
目次

1.グリーンITとは?

グリーンITとは「ITシステムやITサービスにまつわるグリーン化(環境負荷の低減のための取り組み)」を指す言葉ですが、統一的な定義があるわけではありません。時代や世の中の変化にあわせてグリーンITという言葉の指す内容は少しずつ変わってきています。(図1参照)

図1:グリーンITの流れ

図1:グリーンITの流れ

そもそもグリーンITの概念そのものは、最近生まれたものではありません。米国環境保護庁が1992年に開始した国際エネルギースタープログラム(※1)がグリーンITという概念のきっかけとも言われています。この活動では、機器の省エネ化を促進することで温室効果ガス(GHG)排出低減につなげることを目的としていました。そして、京都議定書の第一約束期間がスタートした2008年にはグリーンITが大きく注目されます。IT分野の大手調査企業であるGartner社は、企業経営に影響を与える戦略的技術の第一位としてグリーンITを挙げています。日本においては経済産業省が「グリーンITについて」という資料を発行し、グリーンITの考え方や国内外における取り組みを解説しています。

その後、世界的にグリーンITの取り組みが加速。省エネをキーワードに(1)ハードウェアの省エネやデータセンターのエネルギー効率化といったコスト削減、(2)環境負荷低減効果が比例する領域の二つを中心に取り組みが活発化していきました。さらにITによって、「ITの消費エネルギー以上に社会全体の省エネを実現できる」という概念のもと、ITによる日々の生活や産業活動の効率化が急速に進められました。このようにグリーンITの概念は時代とともに変遷するため、2000年代後半に特に活発化したIT自身のエネルギー効率化や省エネの取り組みを「グリーンIT1.0」、その後に特に活発化したITを活用した社会の環境負荷削減の取り組みを「グリーンIT2.0」と区別して呼ぶこともあります。

そして近年では、SDGsに代表されるように社会全体のサステナビリティに対する関心が一層高まっています。それに呼応するようにグリーンITの概念も領域を拡大していきます。ITを活用したサステナビリティへの貢献を前提としながら、IT自身のサステナビリティに対して、より焦点が当たるようになりました。従来のIT機器やデータセンターを中心とした省エネの活動だけではなく、再生可能エネルギーの活用やグリーン調達(※2)、水資源の保全や電気電子廃棄物(E-Waste)マネジメントなどあらゆる方面からの取り組みが求められるようになりました。そして、IT機器からの環境および社会への負荷最小化のためにデータセンター、ハードウェア、ソフトウェアといったITシステムを構成する全要素に対して取り組みが検討されるようになりました。こういったグリーンITに関する取り組みの多角化を踏まえて、最近では欧州を中心に「サステナブルIT」という言葉も使われるようになってきています。(図2参照)

図2:グリーンITの拡大

図2:グリーンITの拡大

(※1)国際エネルギースタープログラム

「国際エネルギースタープログラム」は、オフィス機器の国際的省エネルギー制度です。製品の消費電力などについて米国EPA(環境保護庁)により基準が設定され、この基準を満たす製品に「国際エネルギースターロゴ」の使用が認められています。
(出典:国際エネルギースタープログラム公式HP https://www.energystar.go.jp/

(※2)グリーン調達

環境省によって「納入先企業が、サプライヤから環境負荷の少ない製商品・サービスや環境配慮等に積極的に取り組んでいる企業から優先的に調達するもの」と定義されています。

2.ITが環境や社会に与える影響

異常気象や海水面の上昇により日々の生活や自然の生態系への影響が顕著になってきており、いまや世界中のあらゆる国や産業で環境問題は大きなトピックとなっています。COP26終了時点では150か国以上が年限付きのカーボンニュートラル目標を掲げており、排出量の実質ゼロに向けた具体策が求められるようになっています。

ITは様々な分野で不可欠なものになっており、私たちの生活にも大きな変化をもたらしています。地球環境問題の解決に対してもITはソリューションの一つとして期待されています。しかし、その一方でデジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるように、IT利用の急速な拡大によってITシステムが地球に与える環境負荷は増加傾向にあります。2015年にはIT分野の消費電力は世界全体の10%でしたが、2030年には20%に上るとの試算も出ています。(図3参照)

図3:全業界に占めるIT業界の消費電力(※3)

図3:全業界に占めるIT業界の消費電力(※3)

IT業界が地球環境に与える影響はエネルギーの側面だけではありません。電気電子廃棄物(E-Waste)も大きな問題となっています。E-Wasteは中古利用されない使用済みのパソコン等の電気電子機器を指します。E-Wasteも急速な増加を見せており、リサイクル率はわずか20%程度、2019年時点でE-wasteの資源価値は570億ドルほどにのぼったされています。(図4参照)

図4:2050年までのE-Wasteの増加予想(※4)

図4:2050年までのE-Wasteの増加予想(※4)

E-wasteが環境・社会に及ぼす影響には大きく4つの側面があります。(図5参照)

  • (1)気候変動
    多くの業界において共通課題となっていますが、IT業界においても大量生産、大量廃棄によって温室効果ガスの増加が引き起こされています。
  • (2)人体・生物多様性への影響
    E-Wasteは有害物質を含んでおり、大気や水質、土壌汚染といった環境問題を引き起こし、人体への影響のみならず生態系にも影響が及ぶ可能性があります。
  • (3)資源の枯渇
    電気電子機器にはレアメタルが含まれており、このまま大量消費が継続されれば一部の資源は2050年までに枯渇するともいわれています。
  • (4)人権侵害
    IT機器に使用される鉱物の採掘過程で強制労働が行われているケースや、鉱物取引過程でその利益が武装集団の資金源となるケースもあり、社会的に大きな問題となっています。

図5:E-Wasteによる環境・社会への悪影響

図5:E-Wasteによる環境・社会への悪影響

データセンターによる大量の水使用も社会問題となっています。データセンターは運転の継続のために継続的に冷却される必要があり、一部のデータセンターでは水による冷却が実施されています。米国のある干ばつ地域では、データセンターが市全体の30%弱にあたる水量を消費していたことが公開され、地域全体の水不足と自然環境への悪影響を引き起こすとして社会問題となりました。(※5)

ITは環境問題解決のソリューションと期待されている一方、このようにIT自身が環境や社会に与える影響も大きな議題となっており、業界としても取り組みを進める必要性が広く認識されてきています。そこでグリーンITという概念が注目されています。

(※3)全業界に占めるIT業界の消費電力

https://www.nature.com/articles/d41586-018-06610-y

3.グリーンIT実現に向けた動き

企業排出量に占めるITの割合が比較的大きい業界は、通信分野や金融分野、保険分野と言われています(図6参照)。そういったITからの排出量削減寄与率が大きい業界からグリーンITの取り組みが進んでいます。欧州中央銀行(※6)、イギリスを拠点とする国際金融グループであるBarclays社(※7)、ドイツを拠点とする保険グループであるAllianz社(※8)などは、データセンターの高効率稼働に向けた検討や100%再生可能エネルギー稼働を既に実現、もしくは実現に向けたロードマップを作成しています。また、NTTデータが運営メンバーとして加盟しているGreen Software Foundation(※9)(※10)というソフトウェア領域におけるCO2削減を目的とした非営利団体においてもIT分野以外では金融分野の企業も比較的多く加盟しています。ITシステム全体での環境や社会への負荷を低減する取り組みが今後より一層活発化すると見ています。

図6:業界ごとのITによる排出量割合(※12)

図6:業界ごとのITによる排出量割合(※12)

(※6)欧州中央銀行の取り組み(ECB Environmental Statement 2022)

https://www.ecb.europa.eu/ecb/climate/green/html/ecb.environmentalstatement202207~dedabd566b.en.html

(※7)Barclays社の取り組み(Annual Report 2022)

https://home.barclays/investor-relations/reports-and-events/annual-reports/

(※9)Green Software Foundation

https://greensoftware.foundation/

(※10)Green Software Foundationがソフトウェア利用時の炭素排出量を比較評価するスコア「Software Carbon Intensity」の1.0版をリリース

https://www.nttdata.com/jp/ja/news/information/2022/120200/

(※11)

CO2eは、CO2 equivalentのことであり、CO2換算の単位として使用されます。地球温暖化係数を用いて様々な種類の温室効果ガスの量をCO2相当量に換算することが可能です。

(※12)出典:McKinsey & Company「The green IT revolution: A blueprint for CIOs to combat climate change」

https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/the-green-it-revolution-a-blueprint-for-cios-to-combat-climate-change
上記をもとにNTTデータが翻訳

4.グリーンIT実現に向けて取り組むべきアクション

グリーンIT実現のためには、データセンター、ハードウェア、ソフトウェアといったITを構成する各要素に対して俯瞰的に評価し、対応する必要がありますが、具体的にどのように取り組みを進めていけばよいのでしょうか。

まずは現状を分析することから始まります。自社のITについて現状を評価し、どの部分でどれほどの環境負荷が発生していて、それぞれに対してどこに取り組みの余地があるかを分析します。続いて、分析した結果に基づき、優先的に取り組むべき領域を定義し、具体的な実行策を立案します。例えば、データセンターからの排出量が多いという評価結果が得られた場合、クラウドへのワークロード移行や再生可能エネルギーの導入を検討するといった方策が考えられます。Scope 3(※13)のハードウェア由来の排出量が多いという評価結果が得られた場合、グリーン購買ポリシーやデバイス管理ポリシーを策定するなどの対応が考えられます。このように、取り組みは自社のIT資産に対してだけでなく、社員の行動変容に向けた取り組みや社内ITポリシーの策定もしくは改訂、社外のビジネスパートナーを巻き込んだ取り組みなど多岐にわたる可能性があります。自社のビジネスを勘案しながら、ある取り組みが他方でトレードオフになる可能性に注意しつつ取り組むことが必要です。

最後に、目標を設定し、タイムラインとあわせてグリーンIT実現のロードマップを策定し、モニタリングしていきます。グリーンITに関する取り組みは単発的なものではなく、継続的なプロセスになります。野心的な目標を設定し実現するためには、具体的な取り組みをいつ、どのように実施していくかを明らかにし、各マイルストーンにおける達成状況をモニタリングしていく必要があります。

(※13)Scope 3

事業活動のなかで事業者の直接排出(Scope 1)、間接排出(Scope 2)に該当しないその他の間接排出量を指します。例えば、製品の上流工程における原材料調達から製造、下流工程における製品の使用、廃棄といった事業者の活動に関連する他社の排出が含まれます。

5.まとめ

欧州を中心に、企業の自主性に任されていたサステナビリティの取り組みを、法制化によって評価・推進していく動きも出てきています。さまざまな分野でカーボンニュートラルや環境および社会への負荷低減に向けた取り組みが求められており、IT分野も例外ではありません。データセンター、ハードウェア、ソフトウェアといったITを構成する各要素について現状を分析し、対応策を立案、実行していく必要があります。現在では、企業排出量に占めるITの割合が高い業界を中心に具体的な取り組みが始まっています。具体的な対応策に関しての体系的な整理を今後、掲載していきます。

NTTデータはITサービスプロバイダーとして、ITシステム・サービス全体のグリーン化を目指します。外部パートナーと連携しながら自社ならびに社会のグリーンITの普及・展開をリードしていき、環境と調和したシステム、サービスにより豊かで持続可能な社会を実現することに貢献していきます。

NTTデータのカーボンニュートラルに関する取り組み
https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/environment/

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