コンソーシアム型ブロックチェーンを採用する意義
最初にコンソーシアム型ブロックチェーンを用いる意義について考えてみます。従来のセンターサーバ型の仕組みでは、特定の機関がシステム構築や運用、データの品質を担保する責任がありました。
ブロックチェーンは、一社に集中していた責任やそれに伴う様々なコストを分散することが可能となります(図1)。そのため、データを一社で囲い込むような用途には向きませんが、貿易に代表される業界・企業間を跨いだ業務連携システムの構築において、一元的に管理する組織の組成が困難なケースや、そもそも運用が不可能なケースなどに適正があると言えるでしょう。パブリック型でも同じことは出来ますが、ガバナンスを効かせるのが難しくなるため、参加者を限定することが重要になります。
図1:センターサーバとブロックチェーン
コンソーシアム型ブロックチェーンの種類
ブロックチェーンは多く基盤が存在しており特徴も様々です。コンソーシアム形態で利用可能なOSS基盤としては、Hyperledger Project(※1)で検討しているHyperledger Fabric(※2)、R3(※3)で検討しているCorda(※4)、Enterprise Ethereum Alliance(※5)のQuorum(※6)などがあげられます。
Hyperledger Fabric
IBMが主体で開発し、Hyperledger Projectに寄贈された基盤です。2017年7月にGA(General Availability)版が公開され、商用化前提のPoCに採用されています。パーミッション型ネットワークによる厳密なアカウント管理(CA)や、ファイナリティの確保と高パフォーマンスを実現するため集中的にブロックを作成するOrdererなどが特徴です。また、チャネルというグループ定義を利用して、データの共有範囲を限定することが出来ます。
Corda
R3 CEVが主体で開発している基盤です。同社が主催するR3コンソーシアムは世界の主要な金融機関が参加しており、そのノウハウを活用して開発された基盤です。他のブロックチェーン基盤とは異なり、金融取引のユースケースを前提に開発されているため、ネットワーク全体で情報を共有するより、二者以上の当事者間における情報連携が基本となります。アカウント管理を行うDoorman、取引の一意性を確保し、監査的な役目も持つNotaryなど一部集権化した機能を持ちます。OSS版とEnterprise版(有償)があります。
Quorum
QuorumはJPモルガンが主体で開発し、EEA(Enterprise Ethereum Alliance)に寄贈された基盤です。QuorumはEthereumをベースとしてエンタープライズ領域での活用を指向しており、パーミッション型ネットワークと、Raft/IBFTなどのファイナリティが確保可能なコンセンサスアルゴリズムを持っています。また、データをパブリックとプライベートに分けて管理可能であり、プライベートなデータは特定のメンバとのみ共有可能です。
基盤ごとの比較
各基盤を比較すると、多様な機能を持ち分散と集中の長所を兼ね備えようとしたFabric、二者間の取引と秘匿性を重視したCorda、パブリックとプライベートを使い分けられるQuorumと、一口にブロックチェーンといってもシステム構成(図2)やデータ管理の考え方(図3)が全く異なっています。
図2:システム構成の比較
図3:データの共有範囲の比較
それぞれの特徴から想定される活用シーンも異なります。
Fabricは高パフォーマンスで特定グループ内での情報を共有したい場合に、Cordaは情報連携先が頻繁に変化する中で証券や取引などを転々流通させたい場合などへの活用が考えられます。ただし、中央集権的な機能が存在するので、それを誰が運用するかが注意点となります。Quorumは公開情報と個別のやり取りを行うSNSのような使い方が想定できますが、完全な分散システムであるため、運用やガバナンスの制御が課題となります。
おわりに
ブロックチェーンは基盤によって得意とする機能が異なるので、選定を間違えると本来やりたかった事が実現できない局面も起こり得ます。それぞれのブロックチェーンの特徴を知りつつ、ビジネス要件に合った基盤を見つけるのが今後のブロックチェーン導入で重要な要素となります。
(※1) Hyperledger Project公式サイト:
(※2) Hyperledger Fabric公式サイト:
(※3) R3公式サイト:
(※4)Corda公式サイト:
(※5)EnterpriseEthereum Alliance公式サイト:
(※6)Quorum公式サイト: