1.安全検査とAI
昨今の社会情勢を反映し、公共機関、ショッピングセンター、大型イベントなど、多くの人や物が集まる場所では、安全への配慮が警察だけでなく、それを運営する団体にとっても責務となっています。様々な背景の人や物が集まる空港でも、日々、膨大な数の人・物を対象に安全のための検査を行っています。旅客数は多かれ少なかれ今後も継続的な増加が見込まれていることから、数をこなしつつも、品質を維持していくための有効な対策が求められています。
IATAによる今後の旅客数の予測(※1)
このような背景の中で、安全のための検査においてもAIを用いた業務の補助や自動化の検討が急速に進められています。人に対する検査の例として、世界のいくつかの空港では既にAIによる入国者の顔認証技術が実用化されており、検査負荷の低減が実現されています。
空港に設置された顔認証ゲート(※2)
一方、貨物を対象とするX線検査においても、機器ベンダや国家機関を中心に世界的にAIの導入に向けた技術開発が進められており、今まさに実用化されようとしているところです。(※3)
2.AIによるX線手荷物検査
航空機の搭乗時のX線検査では、爆発物やナイフのような航空機の運用上、危険となり得るものを検知します。また、国によっては国内で違法扱いとなるものや関税の申告漏れを検出するために入国時に検査しているケースもあります。NTTデータでも、これらの用途に向けたAIの技術開発と検証を行っています。
X線画像の例
X線の画像は普段、我々が目にしている物の見え方とは大きく異なり、特殊な色味かつ透過的に物が映し出されることから、同じものでも多種多様な見え方があり、内容物を判別するのは人間にとっても難しい作業です。
AIによる画像解析というとディープラーニングを思い浮かべる方も多いと思いますが、ディープラーニングはこのような特殊な画像においても高い効果を発揮します。ディープラーニングには「物体検出」と呼ばれる手法があり、画像の中から特定の物体の種類と位置を推定することができます。一般的に自然画像から車や人などを検出するような用途が多い手法として知られていますが、X線画像の色味の特性を考慮した加工を施した上で、多種多様な見え方を考慮した画像を学習させることで、社内の検証ではX線画像においても高い精度で物体を検出できることを確認できました。
AIによる物品検出のイメージ
3.実用化の壁
上記のように机上検証で高い精度が得られたAIを現実の旅客の手荷物に適用したところ、期待とは異なる結果が得られました。実際の旅客は様々な文化を持った国から集まることもあり、実験的に作成したデータと比較して、予想の範疇をはるかに超える多種多様な物品が、いろいろな詰め方でパッキングされています。これが原因で思わぬ誤認識をしたり、多くのものが重なっていて見逃してしまったりといった事象が発生することがあります。
このように現実の条件下でAIを適用してみると、机上検討では想定していなかった事態が多々起こります。これはX線解析に限った話ではありませんが、AIの実用化に向けては実フィールドで検証を重ね、丁寧に結果をフィードバックしていくことが実用化の壁を超える必須のタスクとなります。NTTデータではこの技術で世界の安全に貢献できるよう、グローバルに検証の機会をつくり、適用可能な分野から積極的に実用化できるよう引き続き取り組んでいきます。
“Automatic threat recognition of prohibited items at aviation checkpoint with x-ray imaging: a deep learning approach”