――ブロックチェーン技術/分散台帳技術とは簡単に言うと何でしょうか?
一言でいうと、「みんなが同じ情報を手元に持って共有していることを、みんなで検証し合って担保する」技術でしょうか。
従来の情報共有は「1カ所にある情報をみんなで信用して参照する」ものでした。特別な場所を必要としなくなったので大きな変化です。
例えば、貿易の現場は国と国を超えることから、電子化が進まず、まだまだ紙の書類が数多く残っています。原本は紙で相手に送ると手元には残りません。手元を離れた原本の紛失や偽造、不正な利用は避けにくい状態です。
ブロックチェーン技術/分散台帳技術を使うと、自分のシステムにある電子書類と関係者のシステムにある電子書類は同一であることを担保できます。そのため、ネットワーク上の電子的な書類が原本であることを確認できるのです。
貿易は特定の国が中央集権的に情報を一元管理することができません。しかし、国と国とを結んで情報共有することが必要ですから、このことが極めて重要で、有用であると考えています。
私たちはこれを「ユビキタスな原本」と呼んで、プラットフォームの実現に向けた取り組みを進めているのです。
――赤羽さんがブロックチェーン技術に関わるようになった経緯を教えてください
私が入社した当時、インターネットの商用利用がまだ行われていない時代で、「マルチメディア通信」の技術開発に携わっていました。90年代初頭のインターネットが夢にあふれていた時代というのでしょうか。その雰囲気が大好きでした。ブロックチェーンを知った時、その頃と同じ雰囲気を感じて、もう一度夢の実現に取り組むチャンスが来たと思ったのです。
その後、銀行の基幹システムに10年ほど関わり、非常に高い信頼性・可用性が求められるシステムの開発方法、携わる者としての心構えを得ることができました。
それが一段落し次にやるべきことに考えを巡らせていた時、ちょうど話題になっていた仮想通貨に出会いました。仮想通過は従来の決済と世界観が全く異なります。使われているブロックチェーン技術を分散台帳技術として理解すると、いままでにない世界を実現できるという大きな期待を感じました。
――なぜ、最近になってブロックチェーン技術/分散台帳技術が登場したのでしょうか?
システムの考え方が根底から変わりつつあるのです。
インターネットの発展によって、世界のあらゆるところからネットワークにアクセスでき、高速で大容量のデータがやりとりできる時代になったことがその背景にあります。
十分なネットワーク基盤の無い時代のシステムは、すべてのサービスやデータを持ち自己完結していることが必要でした。
これがインターネットでつながることが当たり前になった現在では、データはどこかにあって正しいことが担保できていれば、手元のシステム規模は小さくて済みます。
この前提に合わせてシステム開発が大きく変化しようとしている時に、ブロックチェーン技術/分散台帳技術は登場しました。
したがって、ブロックチェーン技術/分散台帳技術があるから新しいことができる、というのは1つの側面に過ぎず、ネットワークを前提としたグローバルなエコシステムを開発するために必要な要素技術としてブロックチェーン技術があるということになります。
ブロックチェーン技術/分散台帳技術を応用したシステムには、大きく分けて、パブリック型とコンソーシアム型があります。
パブリック型とは仮想通貨、IoTネットワークへの応用など、誰でも参加できるものです。パブリック型は責任を誰が取るかというところがネックであり、これを乗り越えられるとビジネスとしての広がりがでてきます。
コンソーシアム型は大企業が中心となって責任の所在を明確にし、ビジネスとして進めようとしているものですが、まだ大成功を収めるというところまで到達していません。理由はブロックチェーンの技術そのものがまだ発展途上であり、解決しなければいけないことがあるからです。現在、さまざまな議論が進められています。
――NTTデータはどのように関わっているのでしょうか?
ブロックチェーン技術は一時期のブームが過ぎ、より深い情報や考え方を知りたいという要望が増えています。
NTTデータは貿易分野に活用できると考え、「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォーム:TradeWaltz™」に向けた取り組みを推進しており、「貿易情報連携の効率化に向けたコンソーシアム」を立ち上げています。こうした取り組みを知った企業からはより深く、具体的にどう役立つのかを知りたいという要望が寄せられています。
写真:「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォーム」パンフレット。商社、保険会社、銀行、海運・総合物流など、18社の企業が参画。
貿易の世界は現在でも紙の書類やFAXでのやりとりが残る代表的な業界だと言われています。国をまたがる取引であるため、書類を郵送する必要があり、手間と時間がかかります。
例えば、荷物は現地に到着していても、書類が到着していないために引き取りができないということが起こります。現在はさまざまな工夫をして凌いでいますが、根本的な解決には至っていません。
そこでインターネットを使って情報のやりとりを行うことで課題の解決をめざしていくために始まった取り組みです。
NTTデータは、国と国をまたがるところにブロックチェーン技術/分散台帳技術を使おうとしています。貿易には輸出企業、輸入企業、物流会社、銀行、保険会社、税関などの行政機関など多くの組織が関係し、それらが国ごとに存在します。そのなかで、紙の書類のやりとりによって電子化された情報の流れが断絶してしまい、シームレスな取引が実現できない状況があるので、これを解決したいのです。
国ごとに行政機関、または企業が共同出資した事業会社など、中立的な組織がノードを運営し、それらをブロックチェーン技術/分散台帳技術で結びつけることで、信頼できるプラットフォームを作っていこうという発想です。
――ブロックチェーンが担うのはどんなシステムなのでしょうか?
ブロックチェーン技術/分散台帳技術は個々の企業が利用するというより、「社会を支えるインフラをまるごと飲み込むようなシステムに活用されていく技術」だと考えています。
貿易、電力の融通と課金、食物の生産過程や産地を保証する仕組みなど、世界各国を巻き込んで取引の信頼性や利便性を高めるための非常に大きな器の取引を載せていくと考えられます。
NTTデータはこの大きな変化に対応し、巨大な仕組みを構築できる体制を作る必要があります。
――ブロックチェーンが抱えている課題はどんなことでしょうか?
ブロックチェーン技術/分散台帳技術の優位性ははっきりしているものの、まだまだ課題があります。
ブロックチェーンという言葉は行き渡りましたが、システムのありかたが、ネットワーク上に様々なデータが存在することを前提としたものに大きく変化しているという前提がお客様に十分に浸透しているとは言えません。この点はアピールしていかなければいけません。
そして、長期的には各国に適した法律の改正等も必要になってくると想定としています。政府や省庁と連携して取り組み、グローバルにも幅を広げて議論を進めていくべきと考えています。
――講演を聴いてくださる方々へのメッセージをお願いします。
ブロックチェーンというキーワードに興味を抱いてお越しいただく方もいらっしゃると思います。
「貿易情報連携プラットフォーム:TradeWaltz™」は国内有力企業によるコンソーシアムで議論を進め、PoCは国内、海外の両方で既に実施済みです。これらで先行して得た成果や課題をよりくわしく明らかにし、今後の取り組みについてお話する予定です。
ネットワークが張り巡らされた世界でシステム開発が大きく変化していることを前提に、参加される皆さんがサービスやビジネスをどのように構築または再構築できるのかを一緒に考えていくきっかけにしたいと思っています。
写真:「ブロックチェーン 仕組みと理論 ――未来を創造するための最新動向と6つの基盤 増補改訂版」
赤羽 喜治・愛敬 真生 編著 リックテレコム(2019/7/27)
https://www.nttdata.com/jp/ja/about-us/publication/
「ブロックチェーン技術/分散台帳技術」に関する講演情報
NTT DATA Innovation Conference 2020
Accelerating Digital ~ デジタルで創る未来 ~
- 日時:2020年1月24日(金曜日)10:00~18:30(受付開始 9:30)
- 会場:ANAインターコンチネンタルホテル東京 地下1階
15:55~16:35
「ブロックチェーンでデジタル化が進む世界の貿易金融
デジタル鎖国への岐路に立つ日本はどう対応すべきか」
NTTデータ 金融事業推進部 デジタル戦略推進部 企画担当 課長
世取山 進二
お申し込みはこちら:https://www.nttdata-conf.jp/