はじめに
食物アレルギーは、食物に含まれる成分に対して人体が過剰に反応し、全身のかゆみや咳、呼吸困難や血圧の急な低下などの症状を引き起こす疾患です。先進国を中心に有症率は増加傾向にありますが(※1,2)、根本的な治療法は実用化まで10年以上かかると言われています。世界的に食の安全に対する意識が高まる中(※3)、日本でも2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博といった大きなイベントが控えているため、多様な背景を持つ人々が食事をする場における表示義務や配慮の重要性は今後さらに高まると考えています。
対策の現状と課題
対策の現状
食物アレルギーの発症を防ぐ観点で様々な対策が進められています。容器包装された加工食品のアレルギー表示は法律で定められ、学校給食では文部科学省や地方自治体が定めた指針に則り除去や代替がされています(※4)。これらの対策により、アレルギーが疑われる食物自体を「食べない」という対処は多くの場面で可能になりつつあります。しかし、「食を楽しむ」というQOLの観点では、まだ課題が残されています。許容量や症状で個人差が大きいため、目の前の料理を食べられるか否か、という判断は本人の経験に大きく依存します。安全に倒して「知らない/わからないものは基本食べない」となり、食の楽しみから取り残されてしまうのです。
課題1:外食での情報提供
大きな課題の1つは、外食での適切な情報提供です。パッケージ食品と違い原材料の表示義務が無く、調理過程での食材混入により正確な情報の担保が難しいため、外食業では詳細なアレルギー情報を提供しない方が一般的です(※6)。自主的にアレルギー表示に取り組む飲食店もありますが、誤表記で事故が起きたケース(※7)もあり、表示をむやみに信用できないのが現状です。
課題2:緊急時の対処
もう一つの課題は、重篤な症状が出てしまった場合でも対処できる安心な環境の構築です。特にアナフィラキシー(複数臓器に全身性のアレルギー症状が現れた危険な状態)に対して迅速かつ適切に対処できる仕組みが求められています。具体的には補助治療剤の一刻も早い注射(※8)が求められますが、重篤な症状が出ている本人が自ら注射するのは難しいため、周りの人による注射が必要になります。この際、関係者以外では、何が起きているのかわからない/注射に心理的な抵抗がある/判断できない、などにより適切な対処が困難になっている現状があります。
ITによる解決の取り組み
外食での情報提供の問題点は、個々人によって必要な情報が異なることと、飲食店側で情報の正確性を担保するのが難しいことでした。つまり、パーソナライズと高精度かつリアルタイムでの原材料解析ができれば、ITによって解決できるとも言えます。例えば、パーソナライズについては有症者からあらかじめ情報を取得しておくサービスが立ち上がっていますし(※9)、原材料の解析・推定についても様々な方法が登場しています(※10、11)。
緊急時の対処の問題点は、処置を行う判断が素人にはできないことでした。これは、センサで体調の悪化を判定し、関係者が本人や周囲の人と即座にコミュニケーションできるような仕組みがあれば解決できると考えています。スマートウォッチがバイタルデータの異常を検知したケース(※12)もあるように、最終的にはアナフィラキシーに対する処置をAEDのような装置で自動化することができるかもしれません。
まとめ
食物アレルギーの課題とITによる新たな解決方法について述べました。食は我々の生活に不可欠な要素である分、ITを含めた変化が長年浸透しにくかった分野であるように思います。しかし近年「Food Tech」としてテクノロジーの活用が注目されるようになり、多様なニーズが生まれている側面もあります。これらのニーズに答えていくことで、誰もが食を自由に愉しめる、誰もが幸せだと思える世界に繋がると考えています。
図1:食を安全に愉しめる世界
https://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_H260030/H260030.pdf
https://alle-net.com/wp2/wp-content/uploads/2013/06/hiyarihatto2013.pdf
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20200106-00157852/
https://www.telegraph.co.uk/news/2019/07/16/apple-watch-saves-mans-life-warning-heart-problems/