NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
NRF 2020:Retail’s Big Showとは
NRF Retail’s Big Showとは、全米小売協会(The National Retail Federation:略称NRF)が年に一度開催する、リテール業界におけるビジョンを発信、議論するカンファレンスです。カンファレンスは大きく、講演、企業展示ブース、イノベーションラボ(Startup展示ブース)に分かれており、400人を超える講演者、800を超える展示ブースが存在し、99の国々から、4万人以上の参加者が集まる大規模なイベントです。
この中でも私たちは、Walmart、Nordstrom、Starbucksなどのメガリテーラーの講演からリテール業界のトレンドを、展示ブースからテクノロジートレンドを調査してきました。
2020リテールの潮流とDXの現状 ~業界トレンド~
「リテール業界は繁栄している。」
オープニングトークにて、NRF取締役会の議長でもあるビージェイズ・ホールセール・クラブ(Bj’s Wholesale Club)のCEO Chris Baldwin氏が高らかにリテール業界の繁栄を宣言しました。同講演の中では、リテール業界の市場規模は今年も4%成長するとの発言もあり、リテール業界を鼓舞するような形で開会を迎えました。
講演の中では、「顧客体験」、「データ活用」、「パーソナライズ」が重要なメッセージになっており、特に顧客体験の変革について重要視していました。リテール業界は最も顧客に近い業界といえるため、顧客行動データをいかに活用し、顧客体験をいかに向上させるかが、企業競争のキモになる時代であることは既に当たり前の共通認識となっているようでした。
“As retailers you have the most valuable asset – commercial scale consumer behavioral data.” (リテーラ―の最も価値のある資産は、顧客の購買行動データである。)
発言元:NRF2020 Satya Nadella氏(CEO at Microsoft)
“Retailers need to make big retail feel small by leveraging data, such as the rich data available through loyalty programs.”(リテーラ―は、ロイヤルティプログラムなどで入手できる豊富なデータを活用して、大規模な小売りを身近にしていく必要があります。)
発言元:NRF2020 JoAnn Martin氏(VP Industry Strategy and Market Development at JDA Software)
こうした発言から感じたことは、リアル店舗のデジタル化が「本格導入期」に入ってきた、ということです。単純に「アプリを作りました」、「店舗にセンサを入れました」ではなく、データを活用した店頭オペレーションの改善による顧客満足度の向上や、オンライン(EC)とオフライン(店舗)間のシームレスな体験実現など、テクノロジー導入における顧客体験の向上に真剣に向き合い、ビジネスKPIの成果を追求する段階になってきた、というのが今年の大きな印象でした。
2020リテールの潮流とDXの現状 ~テクノロジートレンド~
展示ブースでは、インストアソリューションを中心に調査を実施しました。展示全体を通して、コアテクノロジーの進化はあまり見られかった一方、導入実績や成功事例は着実に増えてきていることから、講演と同様に「本格導入期」の到来を感じました。
ここからは、具体的な展示内容とその傾向をご紹介します。まずは、お会計の手間をなくす、「レジレスソリューション」の増加です。
上写真の会社(jisp社)は、商品の前に小さいラベルを置き、そのラベルにスマホをかざすだけで、NFCを用いた商品購入ができるというものです。今までの、“商品を持ってレジに向かう”行為の必然性をなくしたことにより、単なる省力化、省人化だけではなく、ポップアップ店舗の出店や、移動型店舗の実現にも寄与できると感じました。また、ラベルの横にディスプレイを設置することで、商品説明や割引額の表示などにも対応しています。
このソリューションは、ユーザが商品を読み取りお会計をする“Scan&Go型”ですが、他にも、カメラやGPSを搭載した決済機能付きカートを使う“スマートカート型”、カメラやRFIDで商品情報を取得し、お客様が店舗に入って商品を取って出るだけの“ウォークスルー型”のレジレスソリューションも多数存在しました。店舗の形態によって、どのソリューションが適しているかは変わってきますが、レジに並ばないと商品が変えないという店舗は減っていくはずです。
もうひとつは、商品棚を使ったソリューションの増加です。
例えば上写真のように、棚自体にディスプレイを埋め込んだものもあれば、棚に光センサを搭載し商品陳列の見栄えを監視するソリューションなど、さまざまでした。商品棚に外付けで設置できる電子棚札の出展も多く、店内エッジ機器の多様化・高度化が進んでいる現状を感じました。これらソリューションによって、お客さま向けには価格やプロモーションの動的なパーソナライズ化、従業員向けには店頭業務(フェイスの確認、棚札の入れ替えなど)の省力化が期待できます。
ソリューションの多様化・高度化から見えてくることは、テクノロジーは選べる時代になったということです。つまり、テクノロジー自体の希少性やそれを単に導入するだけの優位性は弱くなってきていますが、実際のユースケースが増えたことで、より自社に合った課題解決や価値創出が実現できる“道具としてのテクノロジー”がそろってきたと考えることができます。
これからのリテール×DX成功のための打ち手とは!?
今回のNRF Retail’s Big Showでは、リテール業界トレンドからは「顧客体験の向上に真剣に向き合い、ビジネスKPIの成果を追求する段階になってきた」こと、テクノロジートレンドからは「“道具としてのテクノロジー”がそろってきている」ことが見えてきました。となると、「あとは導入するだけか!」と思う方もいるかもしれませんが、少し立ち止まって考えてみてください。
言葉にすれば当たり前ですが、DXすなわちテクノロジーによる業務変革は、店舗・従業員にとってのベネフィットが欠かせません。実は今回の複数の講演にて、「ブランドストーリーの再定義」、「従業員への投資」、「サステイナビリティ」などのメッセージも多く発信されており、ここ数年のテクノロジー先行の時代からひとつの節目を迎えたと感じました。
また、今回、私たちはNRF Retail’s Big Showと並行してニューヨーク現地のデジタル店舗視察も行い、メディアなどで取り上げられているニューリテールの実状も調査しましたが、そこで得られた知見も「店舗・従業員を巻き込んだテクノロジーの活用の重要性」でした。
今回のNRF Retail’s Big Showおよびニューヨークのニューリテール調査を基に、この先リテール業界がDXを成功させるための打ち手をレポートにまとめています。興味のある方はぜひお問い合わせください。レポート内容の解説に加え、各社に応じた打ち手についてディスカッションさせていただければと思っています。