NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
ツイートデータは「宝の山」
──トライバルメディアハウスはSNS黎明期から企業のSNSマーケティングを支援してきました。これまでどんな歴史をたどってきたのか、簡単に教えてください。
池田:我々の創業は2007年。ちょうど「Web2.0」が流行し、インターネットでの検索が当たり前になり、テレビや新聞、雑誌等のマスメディアによる従来型のマーケティング手法がうまくいかなくなり始めた頃です。
ブログやmixiによって“バズる”という言葉が生まれ、購入の意思決定に消費者の口コミが大きく影響するように。
そして企業がブロガーを活用して商品を告知する、いわゆるインフルエンサーマーケティングが始まりました。
2008年にTwitterが日本に本格的に上陸すると、ブログにはなかった「リアルタイム性」と「拡散性」が注目され、これをマーケティングに活用しない手はないと、ブログからTwitterマーケティングへと移行してきました。
Twitterが革命的だったのは、人間の感情や思考を拡張して見える化し、世界中をネットワーク化したこと。
リサーチでは本音を語らない人たちの本音がリアルタイムで見える、ツイートデータはまさに「宝の山」です。
──Twitterの上陸から10年以上たち、企業によるTwitter活用のトレンドも変わってきました。
後藤:さまざまな意味でTwitter活用は高度化しています。特にマーケティング文脈では、企業におけるTwitter活用の幅は広がっており、Twitterの利用者も2つのパターンが明確になっています。
ひとつは企業自身が利用者として発信するパターン、もうひとつは企業のお客様をしっかり捉えた、コミュニケーションチャネルとしての活用パターンです。
また、成熟するデジタルマーケティングの潮流においては、市場とのコミュニケーション手法も高度化しています。
企業による従来の情報発信だけでなく、お客様と長期的にカスタマー・インティマシー(顧客親密性)を高めるためのコンテンツ発信が主流になりつつあり、ここ数年では、お客様が今何を考えているのかを理解し、その興味関心に合わせたコンテンツを最適なタイミングで発信する動きが広がっています。
お客様とリアルタイムにコミュニケーションでき、しかも画像や動画も活用できるため、デジタル戦略の展開チャネルとしてTwitterの活用が盛んになってきています。
龍神:そこで出てきたのが、世の中にあふれる大量のツイートをどう分析し、企業が自分たちのプロモーションにどう役立てるのかという課題です。
NTTデータは、ビッグデータの活用や企業が使いやすいかたちでデータを提供できるデータベースの構築に強みがあります。我々とTwitter Japanが組めば、新しい価値を生み出せるのではないかと、2012年ころからアライアンスが始まりました。
2015年からは戦略的ソリューションパートナーとして、全世界の「全量ツイートデータ」をリアルタイムで取得・蓄積し、企業のさまざまな目的に沿った分析データの提供や、継続的な分析ツールの開発を行っています。
分析から未来予測、リアルタイム展開へ
龍神:ここ数年で、データの活用法も大きく進化しています。
これまでは、なにかしらのアクションを起こした利用者群が、過去にどのような投稿や行動を起こしていたのかを振り返って分析し、改善活動につなげていましたが、近年は過去のデータから未来を予測するフェーズに変わってきました。
たとえば「旅行者は次にどこに行くのか」「タピオカの次に何がはやるのか」など、最新の潮流から半歩先、一歩先を予測して商品を開発したり、動線を引いたりするところまで、ツイートデータの活用は進んでいます。
後藤:未来を予測してなにかを先手で打つ際には、リアルタイム性が重要です。
Twitterは今起きていることが瞬時にわかるプラットフォームなので、そこに新しいテクノロジーによる分析が加わることで、数年前には不可能だった「タイミングを捉えたマーケティング活動」ができるようになりました。
この理念は昔からありますが、IT技術の革新やデータ量の充実により実現できるようになったのは、まさに今です。
池田:やっとその時代が来たという印象ですね。
特に日本では、日本語の自然言語処理がすごく難しくて、前後の会話のつながりがないと、その言葉がポジティブな発信なのか、ネガティブな発信なのかがわかりませんでした。
それが、技術革新によって判断できるようになってきた。
龍神:それにより、Twitterの巨大なネットワークの中でインフルエンサーと呼ばれる発信力のある利用者や、企業が本当に求める影響力を持つ人を、ツイート量や関係性、発信の中身から見つけられるようになりました。
池田:次は、その特定したインフルエンサーに対して企業は直接アプローチするのか、それともまったく違う方法でエンゲージメントを高めるのかがマーケッターの論点になっています。
「コントロールできる」幻想を捨てろ
──少し前まではインフルエンサーというと、もともと知名度のある著名な方だったのが、今は“一般の人”であることも少なくありません。そうなると企業は情報をコントロールしづらくなりませんか。
池田:企業はもう「コントロールしたい」という思考を捨て切らないといけません。
昔は広告枠を買って、出したいクリエイティブを出したい時期に出したいだけ出せばよかったかもしれません。
でも、そうやって企業がコントロールする広告を消費者は信じなくなりました。
今、消費者が影響を受けるのは、メディアが発信する第三者的・中立的な情報と、消費者のSNS上での発信などの、企業がコントロールできない情報。
だからこそ、Twitter利用者が好き勝手に繰り広げている“おしゃべり”の中で、いかに好意的に取り上げられるブランドになるかを考えないといけない。
人の購買行動は評判や好感度に左右されるので「あの会社、なんとなく嫌い」という印象を持たれると、生き残っていくのは難しいでしょう。
Twitterの中で嫌われている企業やブランドは致命的です。
龍神:今、企業がソーシャルメディアですべきなのは、時間をかけてでも消費者とのエンゲージメントを高めること。企業やブランドの印象が危険な状態になる前に、先手を打って回避すべきです。
池田:その危ない兆しが、ツイートのリアルタイム分析から見えるようになったのは大きな変化ですよね。
膨大なおしゃべりの中で「存在感ゼロ」は危険
──これだけ日本人がTwitterを活用していると、企業としては無視できず、「リスクを取りたくないからやらない」などという判断はもはやないと言えそうです。
池田:2011年ころまでは、リスクを気にする声が多く聞かれましたが、今は活用して当たり前の時代です。
もはや、世の中がソーシャル化しているのに「SNSはリスクだからやらない」というのは「地球で生活したくない」と言っているのと同じだと思うんですね。
ソーシャルの世界で最も怖いことは、自分たちの企業やブランドについてまったく会話されていないこと。好きの反対は嫌いではなく無関心。
人々の膨大なおしゃべりの中で「存在感ゼロ」なのは本当に危険です。
龍神:実際にあるんですよね。分析してみると、大手のブランドでも1日に数件しか会話されていないようなことが。
後藤:それはサンプリングされたデータだけではわからず、全量ツイートデータからじゃないと正しい分析・判断ができないんですよね。
龍神:ブランドが支持されているかどうかを見極めるためには、ツイートの全量データを見渡す必要があると思います。
──世の中には、有料・無料のさまざまなツイート分析ツールが存在しますが、NTTデータが提供する「全量ツイートデータ分析」にはどんな価値があるのでしょうか。
龍神:無料ツールの場合は、サンプリング調査になってしまうから推測値の域を出られません。でもNTTデータはすべてのツイートデータを取り扱っているので、解像度が高い分析ができるんです。
たとえば、全量ツイートから誰と誰がつながって、何をつぶやかれているのかを分析することで、インフルエンサーとなる人を探すこともできますし、さまざまな「兆し」をリアルタイムに捉えることもできます。
これは、全量ツイートデータだからこそ見えてくるもの。
私たちは、全量ツイートデータをリアルタイムに収集し、企業の課題解決に貢献する“高付加価値なツイートデータを提供できる”ことに価値があると考えています。
SNSは戦術ではなく「戦略」の時代
後藤:SNSは、企業のデジタル戦略に基づいて課題を洗い出してプロジェクトを立ち上げるなど、戦術ではなく「戦略」として活用すべきです。
経済産業省や総務省も、日本の国力を上げるためにSNSを活用するという方針を打ち出していますし、最近では多くの企業トップの間でそういう会話がされています。
今後は国内外を問わず、SNSを企業戦略として活用できている企業と、そうでない企業の差がより広がるでしょう。
いずれにせよ、ソーシャルリスニングはスタートであってゴールではないですね。
池田:まさに、担当者が日々発信する内容を考えて、“いいね”をもらうことだけに注力するのは間違い。
言語の使用者数が大きく違うのにもかかわらず、英語ツイート数に比べ日本語ツイート数は単一言語としてとても多く、日本はTwitterが普及しているのに、英語圏に比べると企業が戦略的に活用してマーケティングを革新しようとしている企業は少ないですよね。
後藤:海外では、よく新商品戦略にTwitterが使われています。
ハインツがケチャップとマヨネーズをブレンドした新商品「マヨチャップ」の販売前にTwitterを活用した例があります。
Twitterの投票機能で「ケチャップ派」「マヨネーズ派」「ブレンド派」に向けて「50万票集まったらマヨチャップを販売します」と投稿したところ、あっという間に目標に達したそうです。
ちなみに、我々の展開するTwitterエコシステムの強みは、パートナー企業各社と適材適所の役割分担ができていること。
マーケティング担当者が他のSNS情報も含めて、あらゆるデータを見渡した上での意思決定を支援できる体制をとっています。
龍神:Twitter Japanが持つ全量データをNTTデータが分析し、トライバルメディアハウスがマーケティング戦略に落とし込む。
ソーシャル×ソーシャルもそうだし、ソーシャル×オウンドデータの掛け合わせもありますね。
たとえば小売りであれば、自社のPOSデータと世の中の流れであるソーシャルデータを掛け合わせたら、消費者に対してもっと打ち出せるプランが見えてくる。
自社内のデータを活用してビジネスを改善する動きはここ数年増えていますが、それに加えて、自分たちが世の中からどう見られているのか、ソーシャルデータをうまく取り込む方向に早く転換できたらいいなと思っています。
フォロワー数至上主義はもう古い
──消費者とのコミュニケーションはどうデザインすべきですか。
池田:つい最近までインフルエンサーマーケティングが主流でしたが、これからは一歩進んだコミュニケーションになっていくと思います。
10万人のフォロワーがいるインフルエンサーの投稿が何人にリーチしたのかを見るのではなく、これから重要な指標は、投稿を見たフォロワーが商品やブランドを認知して(意識変容)、どれくらい好意度や購入意向が上がり(態度変容)、どれくらいお店に行ったり商品が売れたのか(行動変容)。
これは、今までは全容がわからなかったのですが、ツイートの全量データを時系列かつ膨大なソーシャルグラフ(フォロー・フォロワーの関係)とつなげて分析ができるようになったことで可能になりました。
たとえば「この商品を買ったよ、すごくいい」と(行動変容を表す)投稿したAさんが、3日前に「この商品が欲しいな」と(態度変容を表す)投稿をしていて、さらにその2日前に「この商品がいいよ」と書かれたBさんの投稿を見ていたとわかれば、Bさんが本当のインフルエンサー。
私たちは、この全量ツイートデータの分析から、本当のインフルエンサーを見つけ出すことで、企業のマーケティングを支援することができるのではないかと考えました。
龍神:そこで、NTTデータとトライバルメディアハウスが協業し、本当のインフルエンサーを見つけ出すサービスの提供を開始しました。
全量のツイートデータ分析によって、ブランドに愛着を持ち、発言の影響度が大きいユーザー(以下、ファンインフルエンサー)を発見し、企業のコミュニケーション構築、購買影響度の可視化を行うサービスです。
企業は、ファンインフルエンサーとのコミュニケーションを図り、購買行動への影響を可視化することで、ファンインフルエンサーとの長期的かつ友好的なプロモーション施策の実現が可能となります。
──たしかに、フォロワーは多くないアカウントだけど、「この人がオススメする本は買いたい」となるなど、フォロワー数は関係なくなっている気がします。
池田:まさにそうで、フォロワーが10万人の人よりも300人の人の方が多くの人の意識と行動を変えることがあると、データから検証できています。
これからは、フォロワー数至上主義の考え方から、どれだけその企業やブランドを好きな人なのか、その熱量がいかに共感を呼んで人の心や行動を動かしているのかが、いよいよ可視化されます。
後藤:もちろん、ツイートデータ分析は個人をトラッキングできないルールなので、個人IDを見ているのではなく興味関心グループでの軸で分析しています。したがって、利用者には安心してほしいです。
龍神:そうですね。僕たちは個人とブランドのエンゲージメントを高めるためにデータ活用をするので、個人情報を取って何か売りつけるというわけではありません。
池田:ツイートデータは全世界の人が見られる公開データ。それを活用して「これを使えばもっと生活が楽しくなるよ」といった提案に使っていきますし、新しい世界にぜひご期待いただきたいですね。
(文:田村朋美 編集:樫本倫子 写真:竹井俊晴 デザイン:堤香奈)
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