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2020.6.18事例

東急ハンズさまが描くデジタル店舗の近未来 ―アバター遠隔接客によるお客さまコミュケーション変革

2020年6月18日、NTTデータと東急ハンズさまがアバター遠隔接客ソリューションの実店舗での実証実験を終え、実験で得られた成果として遠隔接客の有用性、限られたスタッフの活躍範囲の拡大可能性について発表しました。アバター遠隔接客は、アバターを通じた遠隔地からの対話によって、専門知識を有するスタッフの活躍範囲を拡大し、省スペース・省力なお客さまコミュニケーションを実現するソリューションです。今回は株式会社東急ハンズのデジタル戦略を推進する本田氏、本ソリューションを企画・提供するNTTデータの星田氏、本ソリューションのCXデザインに取り組んだネットイヤーグループの加藤氏の3名に、実証実験に至った経緯やデジタルマーケティング、店舗のコミュニケーションの将来像を伺いました。

NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。

本田氏

本田 浩一
株式会社東急ハンズ デジタル戦略部長
1995年東急ハンズに入社。店舗、情シス、営業企画などを経て、ITコマース部在籍中の2009年にTwitter公式アカウントの「中の人」としてソーシャルメディア戦略に深く関わる。同年、Twitterを利用した商品検索サービス「コレカモネット」の開発に携わり、10年より東急ハンズのネット通販「東急ハンズネットストア」店長としてEC事業を推進。その後、新宿店や営業企画部でリアル店舗を中心としたマーケティング戦略立案に携わり、19年4月より現職にてDX戦略を推進する立場に。現在も「中の人」としての情報発信は継続中。

星田氏

星田 愛
NTTデータ SDDX事業部 サービスデザイン統括部 課長代理
入社以来、放送業界領域での開発、ITディレクター、顧客営業を経て、データ活用コンサルティングに従事。コンタクトセンターのオペレーターの体験(EX)改善により、契約者の享受する体験(CX)も改善、結果、新規会員獲得や解約抑止などの事業成果に貢献。現在は、顧客接点のデジタル変革をミッションに、アバター遠隔接客ソリューションの営業、CX/EX設計、導入コンサルティングまで一気通貫で実施中。

加藤氏

加藤 弘和
2007年ネットイヤーグループ入社。ナショナルクライアントのデジタルマーケティング戦略立案から個別施策の企画立案業務に携わる。2019年よりNTTデータと新規ビジネス創出をミッションとしたデジタルドライブ事業部プロデュース部部長をつとめる。

スタッフ不足の中でも充実した接客を

NTTデータと東急ハンズさまが、アバターを通じた遠隔地からの対話によるお客さまコミュニケーションを実現する、アバター遠隔接客ソリューションの実店舗での実証実験を行ったことを発表しました。

アバター遠隔接客で省力&非対面接客を進化! 店舗体験のデジタルシフトへ

—東急ハンズさまが抱える課題と、それに対するアバター遠隔接客への期待を教えてください。

本田氏:東急ハンズでは、お客さまの質問に回答しながら最適な商品を提案する「コンサルティング接客」を大切にしてきましたが、人材不足の状況下でお客さまの期待に応え続けるにはどうしたらよいか悩んできました。これまではスタッフが店頭で接客する時間を確保できるよう、接客以外の業務効率化に努めてきましたが、これにも限界があります。そこで注目したのがアバター遠隔接客でした。アバター遠隔接客を利用すれば、場所を飛び越えて一人で複数拠点の接客ができるので、スタッフ不足を解決しつつサービスの質も維持できると考えています。

導入のメリット

星田氏:東急ハンズさまには各領域の専門知識をお持ちのスタッフが多くいらっしゃるので、ニッチなニーズの解決や相談を目的に来店するお客さまも多いです。こうした要望に応えるために、専門知識を持つ限られたスタッフを複数店舗で共有できるのがアバター遠隔接客です。場所を限定せずにスタッフを配置できるので、スタッフ不足の解消に寄与すると同時に、スタッフにとっても接客機会や活躍範囲を広げることができますさらに近年では、好立地な出店場所の減少が顕著になってきている状況下で、店舗の小規模化・省力化による出店機会の創出にも貢献できると思っています。

加藤氏:東急ハンズに訪れるお客さまは、いわゆる「目的買い」のシンプルなCXだけではとらえられません。店舗にいくことで何か楽しい体験ができるという意図で訪れる人が大変多いと察しています。さらに、カスタマーサクセス(注1)という考え方に則れば、例えばUV対策商品を買うだけでなく、そのUV対策商品を持って遊びに行き、楽しい体験をする、というのがお客さまの本来の目的です。店舗が抱えるスタッフ不足という問題を解決しつつ、お客さまの本来の目的達成に繋がるきめ細かいコミュニケーションによって接客を高度化できるのがアバター遠隔接客の価値だと思います。
注1) カスタマーサクセス:自社の利益や成長のためにお客さまをサポートするのではなく、お客さまの成功を第一としてめざす考え方。

売り場

—アバター遠隔接客の実証実験を行うにいたった理由は何ですか。

本田氏:先ほど述べたスタッフ不足という課題に対しては、これまでもWeb会議ツールを利用したリモート接客を試みたことはありました。しかし、使い勝手が悪かったり、スタッフ本人が見えることでお客さまが心理的に抵抗感を感じてしまったりしていました。その点、アバターであれば従業員とお客さま双方にとっての心理的抵抗を減らせると考えたことが採用した理由の一つです。

加藤氏:心理的抵抗感をなくすというのが、まさにCXデザインにつながる部分です。アバター遠隔接客ソリューションでは、「その場にソリューションがある必然性」を感じてもらえることを重視しています。アバターを用いることで匿名性や親しみやすいビジュアルが効果的になる場合もある一方、お客さまに一種の違和感を与えてしまったり、温かみある人対人のリアルな接客への要望が大きくなったりする可能性も少なくありません。そのため、アバター接客を受ける間はもちろん、その前後のカスタマージャーニーまでを含めてお客さまにしっくりと受け入れてもらえる状態を作ること=必然性が重要だと考えます。

サイネージ

実証実験を通して分かった、デジタルだからこその良さ

—実際に取り組んでみてどのように感じましたか。

本田氏:今まで、接客は生身のスタッフが相対することがベストと考えていて、接客の効率化は比較的ネガティブに捉えてきました。しかし、アバター遠隔接客によって、プロフェッショナルなスタッフがより多くのお客さまに接客を提供できる点は、思いのほかメリットが大きいと感じています。また、東急ハンズは、スタッフが苦労していたら楽しみは提供できないという考えで、お客さまだけでなくスタッフも楽しんで働けることを重要視しています。そういった点では、スタッフにアバター接客への抵抗感があまりなく、想像よりハードルが低かった印象です

星田氏:東急ハンズさまの文化として、お客さまに無理やり買わせるような接客はせず、一人一人に合った商品を提案し、ヒントを提供することを重要視されていると伺っていました。一緒に実証実験を進める中でも、接客を通じて目の前のお客さまに喜んでいただくことを本当に大切にしていることを強く感じました。他のお客さま企業では、「one to oneの商品レコメンドを自動で行えないか」といったデータドリブンな要望をいただくことが多かったのですが、東急ハンズさまはお客さまとの接点を重要視し、接客の中で情報提供や購入の後押しをしたいという方針をお持ちでしたので、アバター遠隔接客のコアな部分と通じると感じました

—今後アバター遠隔接客をどのように発展させていきたいですか。

星田氏:今回の実証実験では定量的な評価はもちろん、遠隔接客業務がプラスされてもスタッフの方々の通常業務が問題なく円滑にまわったか、触れてくださったお客さまの満足度はどうだったかなどの定性的な評価も進めています。これらをもとに次のステップでは、お客さまと東急ハンズさまとのエンゲ―ジメントを高めることで、コアファンが長きにわたって東急ハンズさまをご愛用いただくといった、「LTVの最大化」をテーマに取り組みたいと考えています。

本田氏:アバター遠隔接客はいかにお客さまに利用していただき、浸透させていくかが重要です。そのためにスタッフの努力で解決できることがあればぜひ取り組みたいですし、仕組みが必要であれば一緒につくっていきたいと思っています。たとえば、将来的にアバターのバリエーションが増えていけばさらに親しみやすくなり利用しやすくなると思いますね。

星田氏:そうですね。アバターのビジュアルをはじめ、動画やPOPといったクリエイティブはサービスを利用していただけるかどうかに大きく関わります。今回、NeuroAI®(注2)という脳活動をモデル化したソリューションを用いて、好感度や試用意向度などの指標が高いと予測したコンテンツを活用しています。クリエイティブは触れるお客さまの感性に大きく依存する領域ですが、定量化された指標と実際の顧客体験との相関性を確認できれば、クリエイティブの良し悪しを定量評価できるのではと考えています。将来的には、設置店舗のお客さま層や商材ごとに、確実に「刺さる」コンテンツを用意できる世界を目指しています。
注2) NeuroAI®:脳科学によって人間の感性を予測し、コンテンツ、広告、製品の最適化といった実用的なサービスとして活用するためのソリューション開発基盤。
http://nttdata-neuroai.com/

アバター

加藤氏:お客さまに長期的に利用していただけるサービスにするためには、「めずらしい」「ちょっと面白い」から早く脱却しなければならないと思います。そのためには、冒頭に述べたとおり、顧客体験の中でのアバター遠隔接客の「必然性」を極めていく必要があります。例えばカメラによる顔認識技術を向上させ、識別したお客さま情報を瞬時に接客するスタッフへ届けることや、初回のお客さまをQRコードなどによってお友だち登録できるようになると、最良のCXを実現しやすくなるだろうと思います。

OMO実現に向けたアバター遠隔接客への期待

―今後のデジタルマーケティング高度化に向け、東急ハンズさまが描いている将来像を教えてください。

本田氏:オムニチャネルからOMOの段階を目指し、シームレスに欲しいときに欲しいものを欲しい場所で変えることを実現したいと思っています現状はお客さま自身に店舗とECを意識的に使い分けていただいていますが、近い将来東急ハンズのお買い物はどこでもできるという世界観をめざしたいです。今回のアバター遠隔接客は店舗にとどまっていますが、スマートフォンアプリにも展開していくことができれば、店舗と同じクオリティの接客をいつでもどこでも提供できると思っています。また生身の人間が提供するサービスは時間の制限があるので、最終的には時間の壁もとりはらい、AIが接客をするようなことも考えていきたいです。

星田氏:おっしゃる通り、将来的には店舗という接点に閉じず、お客さまの好きな時、好きな場所からオンラインで相談できるように接点を拡大したいと思っています。シーンに応じては、“オタク”ともいえる専門知識をお持ちのスタッフが顔を出して接客することや、よくある質問にはヒトではなくチャットボットが自動で返答するなど、お客さまもスタッフのみなさまもより柔軟に活用いただけるようにして、購買体験になくてならないサービスにしていきたいです。
さらに、アバター遠隔接客を単に売り場に置いておくだけでなく、お客さまが店舗に来店してから接客を受け、満足・納得して購入して退店するという一連のカスタマージャーニーの中で、「もっと触れてみたい」「接客を受けたい」と思えるような価値提供をしたいです。
また昨今の新型コロナウィルスの影響により、スタッフ・お客さまの双方が非接触な接客を求めるようになっているため、ウィズコロナ時代の新しい接客スタイルとしても提示していきたいです。

加藤氏:これまでデジタルの世界では個人の追跡が可能な一方、リアル店舗での購入までは追跡困難で、デジタルとリアルのデータの断絶が発生していました。しかしOMOが加速する近年、ユーザーのデジタルな行動とリアルな行動をデータとしてより密接に結びつけられるようになってきました。そのため、これからの時代はどのような業態でもお客さまひとりひとりにきめ細やかなサービス提供をしていくようになると思いますし、そのためにデジタルやデータを上手に利用する必要があると思います。東急ハンズさまが描くシームレスな世界で、アバター遠隔接客はオンラインとオフラインをまたがるコミュニケーションツールとして「必然性」をもった価値を発揮していくことができると思います。

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