NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
出店難易度がますます高まるリアル店舗
住まいの都心回帰・インバウンド顧客の集中・人口減少が進むことで、「お客様がより多く集まる、出店に適した場所」は、ますます限定的になるのではないかと私たちは想定しています。さらに、人手不足という問題は、もはや避けられなくなってきました。この結果、店舗(ECではなくリアルの店舗)は、限られた立地を激しく他社と争い合うことになり、せっかく見つかった場所も十分な広さが無い、あるいはスタッフが見つからないために出店できないといった事態に陥る、そんな状況が今後ますます増えるのではないかと考えます。
では、リアル店舗を諦めてECを拡大すればいいのでしょうか? 私たちは、必ずしもそうとは考えていません。例えば、ECは検索によってお客様が能動的に目的の商品を探すことに長けた場ですが、目的が明確化されていないお客様にとっては、リアル店舗で店員とコミュニケーションしながら目的を特定していく方が便利な場面もあります。つまり、リアル店舗・ECにはそれぞれの特徴があり、お客様はご自身の都合に応じて、リアル店舗・EC双方のチャネルを自由に使えるのが理想だと考えます。
このように考えると、たとえ確保できる場所が限られたスペースであっても、かつ配置できる人材が少なくても、売場として運営できる店舗、つまり省スペース・省力で運営可能な店舗が、お客様にとっても売り手にとっても今後必要性を増すと考えています。
省スペース・省力でお客様コミュニケーションを実現するデジタルストア
省スペース・省力の店舗として、まず思いつくのが自動販売機型の店舗です。実際に、企業オフィスにて自動販売機型コンビニエンスストアが広まりつつあります。これも一つの手段ではありますが、自動販売機型ではお客様とのコミュニケーションを生み出しづらく、販売可能な商品が限定されてしまいます。つまり、1店舗(拠点)あたりの事業規模が拡大しづらい点が課題と考えています。
このため、私たちは省スペース・省力ながらお客様コミュニケーションが可能な売場をめざしました。コミュニケーションによりニーズを聞き出し、適切な商品やその魅力を提案し、購入へと後押しするといった一連の行動が、お客様満足とより幅広い商品販売へと繋がると考え、デジタルデバイス(デジタルサイネージなど)に表示されるアバターを通してお客様と遠隔対話でき、かつその結果を評価するAIを備えたサービスを企画しました。
これにより、極端に言えばデジタルデバイスさえ現地にあれば、そこが限られたスペースで、かつその場は無人であっても、遠隔地のスタッフによってお客様とのコミュニケーションが可能となります。また、その結果をAIで評価することで、お客様にご満足いただけたかを把握でき、継続的な改善を通じて理想とするお客様コミュニケーションの実現に繋げることを想定しています。
さらに、容易に展開できることにも重点を置いています。デジタルデバイス、アプリケーションを稼働させるパソコン、インターネット、カメラ・スピーカー・マイクなどの一般的な機器があれば稼働でき、さまざまな場所でご利用いただけます。
お客様コミュニケーション活性化が販売の変革へ
本サービスの活用により、デジタルデバイスさえ置ける場所があれば、省スペース・省力ながらお客様コミュニケーションが可能な売場の出店が可能になります。
また、これに加えて、以下のような価値も期待できます。
人材活躍機会の拡大
- 特定の商品や言語に対する高い知識・スキルを持つスタッフ(高度な商品知識保有者、資格保有者、マルチリンガル対応可など)が、遠隔接客によって複数の売場で活躍できるように
- 育児・介護などでご自宅から遠く離れられない方も売場で活躍可能に
表現力の向上
- 商品の魅力を伝えるため、例えばその商品を利用しているシーンの画像など、視覚的に伝えるコンテンツを活用することで、お客様により伝わりやすいコミュニケーションが可能に
接客スタッフのモチベーション向上
- AIを活用してお客様とのコミュニケーション結果を評価することで、接客担当者は自身の接客の良い点、工夫したほうが良い点を把握できるように。これにより、各担当者がさらに良い接客を追求する、新たなモチベーションを引き出すきっかけに
つまり、本サービスは、お客様と売り手のコミュニケーションにおいて、その機会・品質両面から販売の革新へと導くことができます。
三井不動産様とデジタルストアの実証実験を実施
私たちは、このような売場が実現できるのかを確かめるため、2019年3月に三井不動産様にご協力いただき、実際に自ら売場を企画しました。具体的には、「三井ショッピングパークららぽーと海老名」の一角をお借りし、販売員が常駐せずに双方向型のデジタルサイネージで遠隔接客を行うデジタルストアを出店・運営しました。
日本初!「EC連携インタラクティブサイネージ×アバター遠隔接客」によるデジタルストア出店の実証実験を開始
この検証では、デジタルサイネージによるコミュニケーションを活用し、いかにしてお客様をスムーズに目的の商品やサービスに案内できるかに取り組みました。売場を有効に活用するための戦略、顧客体験のデザイン、それに沿った店内装飾や関連業務の準備などから取り組み、改善活動や仮説検証を繰り返すことによって、IT面に閉じない多彩なノウハウを得ることができています。
さらに、事業面の検証にも取り組み、そのノウハウを高度化させています。私たちはこのようなノウハウを活用し、売場作りをトータルで支援する存在として、顧客接点の変革をめざしています。
お客様と売り手がより分かり合える、新たな情報活用のステージへ
先述のメリットに加え、お客様と売り手のコミュニケーションに大きな変革を起こせるのではないかと考えています。デジタルストアで得られたお客様の需要やその背景を、デジタルデータとしてそのままの状態で社内に展開できるからです。これにより、これまでアンケートやWebアクセス解析などから断片的にしか取得できなかった情報を、コンテキストを伴った繋がりのある情報として取得・蓄積することができます。
このことは、お客様一人ひとりへの対応はもちろん、企業全体の販売戦略・商品開発戦略などの精度向上にも繋がることから、企業としては投資対効果の向上が期待できると考えます。また、その結果として、お客様がより自分の期待や要望に合った満足を得ることにも繋がります。
このように、お客様と売り手がより分かり合える情報活用を含め、お客様コミュニケーションを充実・変革させるデジタルストアのあり方を、流通小売業のみなさまと共に考えていきたいと思います。