スマートシティ実現のための6つのキーワードとは
近年、これからの都市の在り方を示す「スマートシティ」が注目を集めている。国交省が提唱するスマートシティの定義は「都市が抱える諸課題に対して、ICTなどの新技術を活用しつつマネジメントが行われ、全体最適が図られる持続可能な都市または地区」だが、これだけで具体的なイメージを持つのは難しいかもしれない。「役所に行かなくてもスマホで行政手続きができる街」「エネルギーを効率的に使用する環境にやさしい街」「財布もカバンも持たずに手ぶらで買い物ができる街」「自動運転の車が自由に走っているような未来都市」など、人によってスマートシティのイメージはさまざまだ。
それでは、一人ひとりが異なるイメージを持つスマートシティを実現するためにはどうすればよいだろうか?NTTデータでは、スマートシティを実現するための重要なキーワードとして以下の6つを定義する。
1.生活者視点
2.デザイン
3.バックキャスト
4.ユースケース
5.つながる力
6.自分ごと化
健康、教育、災害、貧困、人口問題、気候変動など、現在の社会には解決すべき課題が数多く存在する。こうした課題を解決するために提唱された「SDGs(持続可能な開発目標)」を実現するため、日本ではめざすべき未来社会の姿を「Society 5.0」として定義しており、その未来社会を実現するための手段の1つがスマートシティである。
昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大により、人々の行動や社会の在り方は大きく変容した。スマートシティ実現への取り組みのなかでは、オンライン、リモート、密回避、非接触といったウィズコロナ/アフターコロナの新しい社会に必要とされる要件にも対応していく必要がある。
とはいえ、スマートシティは大きな社会課題を解決するだけのものではない。そこで、先に挙げた1つ目のキーワード「生活者視点」が重要になる。生活者の立場から、その街で生活する人々にどのような価値を提供できるかを考え、実現していくのがNTTデータの考えるスマートシティだ。
オフィス、学校、病院、行政など、さまざまな場所/シーンにおいて生活者視点で利便性向上を図り、安心・安全で楽しく充実した社会生活が送れる社会・街を作っていく。そのためには単なる街づくりではなく、社会全体を「デザイン」することが必要だ。誰の生活がどのようによくなり、その結果どのような社会になっていくのか、持続性も考慮しながらデザインしていかなければならない。これが2つ目のキーワードだ。
生活者視点で社会全体をデザインするには、望ましい未来を想像し、実現するために何をすべきかを考える「バックキャスト(バックキャスティング)」思考のアプローチが必要になる。それと並行して、実フィールドでの「ユースケース」を積み重ねていくことも重要だ。スモールスタートで生活者に価値あるサービスを提供し、利用者の意見を取り入れてブラッシュアップしていくことで、理想の街づくりが進んでいくだろう。
産学官民と「つながる力」がスマートシティを成功に導く
ここまで「生活者視点」「デザイン」「バックキャスト」「ユースケース」の重要性について解説してきたが、NTTデータにおけるスマートシティの取り組みで、もっとも大切にしているキーワードは「つながる力」だ。
NTTデータ/NTTグループの各組織がつながり、強みとなるソリューションを活かすというのはもちろん、産学官民ステークホルダーの皆様としっかり連携し、それぞれの強みを活かすことで新たな価値を提供する。人のつながりだけでなく、スマートシティの実現に不可欠なさまざまなデータやサービスも連携させ、さらにAI、IoTなどの先端技術や各種システムをつなげることも重要となる。
NTTデータでは政府/自治体などの「官」や、デベロッパー、交通、エネルギー、医療などさまざまな分野の企業・組織である「民」と連携して、スマートシティの実現に取り組んでいる。そこで大切となってくるのが6つ目のキーワード「自分ごと化」だ。官・民・生活者のすべてが自分ごと化、すなわち“当事者意識”を持って取り組むことがスマートシティの実現に不可欠と考えている。
スマートシティのプラットフォーム「SocietyOS™」(※)
ユーザーニーズの多様化、社会課題の複雑化、社会変化スピードの加速化といった社会背景のなかで価値を創造するためには、3つのポイントが重要となる。まず、すべてを自前で作るのではなく、既存のサービス/システムを活用していくための「オープンな連携」、次いで社会の変化に対応して適切なサービスを迅速に提供するための「すばやいサービス創出」と変化への対応、そして多様化するニーズに対応するための「データ活用・分析」だ。スマートシティの実現には、この3つのポイントを兼ね備えたアーキテクチャ/プラットフォームが必要となる。
NTTデータではこの3つのポイントをふまえた、スマートシティを実現するためのプラットフォーム「SocietyOS™」を軸に、新たな価値の創出をめざしている。
「SocietyOS™」は、NTTデータ/NTTグループのサービスはもちろん、さまざまな価値あるソリューション、IoTセンサー、各種データとも連携し、「つながる力」で新たな高付加価値サービスを生み出すサービスデリバリープラットフォームであり、生活者視点のサービスを迅速に提供する。大きな特長としては、以下の4つが挙げられる。
1.さまざまなサービスやソリューションと相互連携したエコシステム形成を促進
2.動的・静的データの幅広い収集・連携・分析およびさまざまなサービスへの活用
3.サービスの継続的な開発と高速デリバリーをサポートするクラウド環境を提供し、お客さまのサービス改善活動の高速化を実現
4.NTTデータ/NTTグループが持つ技術/ソリューション/実績を活かし、ユーザーニーズに合致した高品質なサービスを提供
「SocietyOS™」は、さまざまなプラットフォームや外部サービス、他の都市OSとの柔軟な連携にも対応。スマートシティで重要な、認証・人流・地図・決済・パーソナライズ・予測シミュレーションといった機能に対して、NTTグループが保有する技術/ソリューションの強みを最大限に活かしたサービスを提供できる。
「SocietyOS™」を活用したユースケースは、その日の天気や街の混雑情報、個人の趣味嗜好、体調などを考慮して、その人にあったお店やメニュー、目的地までの最短ルートなどを案内してくれるパーソナルレコメンドサービスや、コロナ社会において重要な混雑予想による密回避、商業施設での災害時の避難誘導、来店予測、需要予測、発注最適化、ダイナミックプライシングからめざすフードロスゼロ社会の実現など多岐にわたる。
多種多様な事例から見えてくる、スマートシティの未来
実フィールドにおけるスマートシティ事例についても紹介したい。
学校安全対策の強化に向けた実証実験では、米国ラスベガスで展開している公共安全ソリューションを日本に初導入。高解像度ビデオカメラのIoTデバイスにより、学校周辺の車両の往来や学内の不審者を監視・把握した。
国交省、東京都の先行モデルプロジェクトとして取り組みが進められている大手町・丸の内・有楽町の大丸有エリアでは、ビジョンオリエンテッドなスマートシティをめざしている。その中でNTTデータは大丸有版都市OSの構築や、さまざまな分野におけるスマートシティサービスの提供を行っている。
同じく国交省、東京都の先行モデルプロジェクトの豊洲エリアでは街の特徴である職・住・遊が融合した「ミクストユース型スマートシティ」をめざして取り組んでいる。
チリのテムコ市にスマートシティ基盤を提供し、ごみ収集高度化サービスなどスマートシティサービスの創出加速に貢献している事例もある。
西新宿におけるバリアフリーデータの収集・利活用事例では、ボランティア参加により集めたデータと官が保有するデータを融合し、車いすやベビーカー利用の人へ付加価値の高い道案内を実現した。さらに、街で提供されるサービス単位で環境・モノ・ヒトを捉え、デジタルツイン間を連鎖させる「デジタルツインコンピューティング(DTC)」で街全体の最適化を図る「街づくりDTC」にも取り組んでいる。
これらのNTTデータが取り組んでいるスマートシティ事例は、まだまだ始まったばかりだ。街の特徴は千差万別で、めざすべき街の姿も違ってくる。NTTデータは6つのキーワードを大切に、街の特徴をしっかりと理解して生活者の皆様とともに安心・安全で快適な街を作っていきたいと考えている。
本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。