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2021.11.2業界トレンド/展望

オープンな金融API連携が実現する、“未来の金融像”

利便性の高いサービスがイノベーションを生み、私たちの日常生活を変える。その変化は硬直的といわれた金融サービスにも及ぶ。金融サービスのオープンなプラットフォームの出現により、業界や団体の垣根を越えて効率的なサービス開発が可能となってきた。その結果、これまで融合しなかった金融各種サービスや金融以外のサービスが連携しはじめ、私たちの日常がよりシームレスになり利便性が高まっている。NTTデータが展開する「豊洲の港から」定例会でテーマとなった「金融APIマーケットプレイス」を通して未来の金融像を探った。
目次

未来の金融システムを展望する上で重要な要素となるのが、フィンテック(FinTech)企業や自治体と金融機関をつなぐ“オープン”なプラットフォームだ。オープンなプラットフォームにより、硬直的といわれていた金融サービスが弾力的に運用できるようになる。この弾力的運用の提供をNTTデータが担う。NTTデータは2021年10月より、誰でも無料で利用できるオープンな金融APIマーケットプレイス「API gallery™」を開設した。

図1:API Galleryとは

図1:API Galleryとは

API(Application Programming Interface)とは、各種システムやサービス(Webサービス等)を利用するアプリケーション(Application)を開発(Programming)するためのインターフェース(Interface)のこと。
APIマーケットプレイスとは、フィンテック企業や自治体などのAPI利用者と金融機関などAPI提供者の間の流通や取引、API管理を行う電子市場のことで、API利用者はAPIマーケットプレイスを通して他社が作成したAPIを利用し効率的に開発を行うことができる。

NTTデータが提供するAPIマーケットプレイス「API gallery」の最大の特徴は、こうした情報の管理や登録、検索を“オープン”に行えることだ。銀行やフィンテック企業、行政など幅広いAPI提供者が作成したAPIを中立的に掲載するだけでなく、NTTデータのAPIサービスを利用していない銀行のAPIも掲載している。また、APIだけでなく、APIを包含したソリューションも掲載し、必要に応じてAPIとソリューションどちらからでも無料で検索を可能としている。

このような金融APIが広がる背景として以下4つの要因がある。

  1. (1)フィンテック事業者の台頭と事業機会の拡大
  2. (2)改正銀行法によるオープンバンキングの推進
  3. (3)金融機関のセキュリティリスク回避と利用者拡大への期待
  4. (4)個人に最適化されたUX(User experience=プロダクトやサービスを通じて得られるすべてのユーザー体験)への期待

これらの背景を受け、未来の金融へ発展させるために何が必要なのか。
その答えはNTTデータのオープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」で語られた。
「豊洲の港から」はNTTデータと顧客企業に加え、独自のビジネスや技術を活用するスタートアップ企業の三者が、共に新しいビジネスを創り上げ、それぞれにメリットがある関係を築くことを目的として2013年に始まった取り組みだ。参加するイノベーターの数は現在4,000人規模にまで拡大している。代表的な活動として、月1回の定例会や年1回のコンテストを開催。定例会では先見性のあるテーマを決め、関連するスタートアップ企業に登壇してもらい、ビジネス課題を討論しコネクションを作り、ビジネスの種を醸成する場となっている。
2021年度3回目となる定例会のテーマは「金融APIマーケットプレイス」。ここで紹介されたNTTデータの取り組みやスタートアップ企業がもつ先進的な技術などから、近未来の金融像を見ていく。

金融機関“以外”が金融サービスを提供~便利な社会の実現へ~

金融APIマーケットプレイス「API gallery」とは、どのようなサービスなのか。定例会で登壇したNTTデータバンキング統括本部OSA推進室の青柳雄一の発言を紹介する。

「これまでNTTデータでは銀行、通信事業者など多くの企業とオープンイノベーションを展開し実績を積み上げてきたが、現在は2020年10月に発表した新しい金融IT戦略『Open Service Architecture®』という新しい戦略に基づき、より多くの企業と新たなビジネスを立ち上げることを目標としている。この考え方はOpen APIとOpen Innovation、Open Platformの3つのOpenを使い、新しい金融IT像を実現していくことで、それぞれ得意な分野をもつ企業と連携し新しいサービスを生み出していく取り組みである。金融ITのオープンイノベーションを推進し、ポストコロナに求められる新しい社会の実現を目指す」と話した。

図2:Open Service Architecture概要

図2:Open Service Architecture概要

APIマーケットプレイスの市場規模は2024年には約880億円に達することが見込まれ、ソフトウエア間連携の必要性の高まりやクラウドサービスへの移行などによりAPI需要が増加し、必然的にAPIマーケットプレイス市場の関心が高まり市場拡大につながることが見込まれている。青柳は「今後は、顧客接点が変化していく見通しで、Embedded Finance(組込型金融サービス)/BaaSモデルへの変革が訪れつつある」と指摘。「従来の金融機関は、窓口やATMなどを通して顧客に金融サービスを提供する直販モデルであった。しかし今後は、金融機関がAPIで事業会社に機能を提供し、事業会社が金融機関の顧客へサービスを届ける間接モデルが増加すると考えている」と語った。このような流れを受けNTTデータは金融APIマーケットプレイス「API gallery」を立ち上げることになったという。

銀行によるオープンAPIは、銀行と外部の事業者との間の安全なデータ連携を可能にする取り組みで、金融機関がシステムへの接続仕様を外部の事業者に公開し、あらかじめ契約を結んだ外部事業者のアクセスを認めることで、金融機関以外の事業者が金融機関と連携して、お互いに知恵を絞り、利便性の高い高度な金融サービスの展開が可能になる。2021年10月時点の参加企業は26社。銀行、証券取引所のほか決済ビジネスや個人向け、セキュリティ、新たなプラットフォーム開発などを得意とするAPI利用者など多彩だ。
わかりやすい検索、気になるAPI利用者を見つけたら、そのソリューションを知ることができ、さらにそこからホームページなどへ飛んで企業内容を知ってもらうなど、きわめてシンプルで簡単に利用できているのも、「API gallery」の特徴のひとつといえる。「単なるサイトとしての活用ではなく、マッチング支援やプロモーションなど効果的にサポートしていく考えで、まずは知ってもらい、NTTデータによる事業創発サポートなどでつなぎ、イベントやプロモーションなどで広げていく流れを作っていく」と今後の展開を語った。

図3:API galleryのメリット

図3:API galleryのメリット

今後の流れは「2022年10月にソリューションのカタログを公開することからスタートし、オンライン申し込みで簡略化を図り、高度化していく機能を追加していく。さらに金融業界だけに閉じず、公共や製造、流通など他業界との業務連携を積極的に行う」と付け加える。
青柳の話をまとめると、「API gallery」はフィンテック企業や自治体など「API利用者」と金融機関など「API提供者」をつなぐオープンなプラットフォームであり、API利用者は特定の企業や団体のAPIに縛られず幅広いAPIを検索でき、API提供者はAPIを公開できビジネス拡大につなげられる。検索・公開ともに無償で行えるのでAPI利用の促進が図れ、これを通じて自らのサービス普及につなげられるメリットがある。このプラットフォームを通して金融サービスは大きく変化していく可能性があるといえよう。

APIが可能にする、銀行らしからぬ銀行サービス

未来の金融像を探るうえでカギとなるのが、これまでの金融機関による直販モデルから金融機関がAPIで事業会社に機能を提供し、事業会社が金融機関の顧客へサービスを届ける間接モデルへのシフトにあるということが分かった。では、このOpen Service Architecture連携企業は、Embedded Financeにどのように取り組んでいるのか、決済・金融領域を強みとして社会のDX実現を目指すテクノロジー企業である丸山弘毅・インフキュリオン社長の発言を見てみる。

「新たなフィンテックの潮流として、デジタルバンキングやBaaS、Embedded Financeがある。現在は国内外問わずスマホベースにユーザーにとって使い勝手のよい、銀行らしからぬ銀行ともいえるチャレンジャーバンクの事例が多く出てきている。それは日常に欠かせない支払いや支出管理など」と説明する。
Embedded Financeを具体的にいえば、買い物に行きレジで現金を渡すのをデジタルにするのがキャッシュレスだったが、オンラインとオフラインが融合した現在は、買い物に行く前から終わった後までつながることになる。予約や事前承認、自動決済の無人店舗や会員証、電子レシート、支払いタイミング指定や変更などを含む。「今までスタンドアロンで成り立っていた仕組みがAPIでつながっていく。買い物全体がAPIで連携したシームレスな活動になる。このように買い物に行く前のアプリに金融機能を埋め込んでいくのがEmbedded Financeの一事例といえる」と説明する。

図4:Webアンケート「どのようなアプリを使っていますか」回答

図4:Webアンケート「どのようなアプリを使っていますか」回答

インフキュリオンが2020年3月と2021年4月に実施したWebアンケート(2万人対象)をみると、「どのようなアプリを使っていますか」という問いについて、今年は銀行口座の残高確認が38%とトップとなり、音楽配信やショッピングを抜いていることが分かった。この他に、昨年に比べ利用が伸びているのは、店のポイントを画面で表示する機能や、店の予約や事前注文を行う機能を搭載するアプリである。「これまでバラバラに口座を確認し買い物をしていたのが、今後アプリをベースにつながってくることになる。Embedded Financeが注目される理由がここからもみてとれるだろう」。
インフキュリオンのBaaSプラットフォームは、銀行の基幹システムにつながり、銀行でも事業会社のアプリでもAPIで多様な機能を自由に呼び出すことができる仕組みだ。さらに銀行のシステムにある商品だけでなく、他の付随する商品サービスを統合してアプリ側にAPIでサービス提供している。
具体的に利用が進むサービス例として「バーコード認証を用いて、銀行口座で後払いやプリペイド、クーポン券などさまざまな機能の認証と利用をひもづけるようなサービス。認証と決済手段や関連サービスを自由に横断できる仕組みで、金融機関や決済事業者向けにウォレット基盤をOEM提供している」と説明する。また、フィンテック企業や金融機関、小売事業者など自社顧客向けにVISAカード発行を希望する企業向けに安価でスピーディーに機能を提供するプロセシングプラットフォームで、新たな概念のカード発行システムの提供を開始したとしている。
これらのサービスは、ユーザーから見るとポイントアプリを使い決済まで完了すれば、支払いとポイント付与の二度手間が省ける。一部後払いなど支払い方法の変更やカード発行、残額を積み立ててローンの頭金にするなどの一連の流れすべてAPIを活用することで事業会社のサービスに取り込むことができる。「ユーザーにとって間口が広い入り口としてAPIを活用し、金融機能を取り込んでもらうとユーザー利便性の高いサービスが提供できる」と今後の展望を強調した。

定例会に参加したスタートアップ企業6社の事業概要などを紹介する。

  • 株式会社Kyash=代表取締役社長CEO 鷹取真一 氏
    https://www.kyash.co
    送金・決済アプリ「Kyash」を提供。クレジットカードからチャージして使うプリペイド方式で利用状況が常時把握できる。アプリ上で個人間の送金も可能。

  • OLTA株式会社=代表取締役社長兼CEO 澤岻優紀 氏
    https://corp.olta.co.jp/
    法人データに基づくAI(スコアリングモデル)を開発。オンライン完結型ファクタリング(請求書買取)サービス「クラウドファクタリング」を展開する。

  • yup株式会社=代表取締役社長 阪井優 氏
    https://yup.jp/
    フリーランス向けに報酬即日払いサービス「先払い」を提供。取引先に送った入金前の請求書情報をyupに登録すると報酬を即日受け取ることができる。

  • 株式会社justInCase=代表取締役CEO,Co-founder 畑加寿也 氏
    https://justincase.jp/
    わりかん保険などインタラクティブでこれまでにない体験を通し、保険に新しい価値を提供。保険AIPによる異業種向けの組み込み型保険を積極的に展開する。

  • 株式会社Paidy=代表取締役社長兼CEO 杉江陸 氏
    https://paidy.com/
    オンラインショップ向け後払い決済サービス(BNPL)を提供。クレジットカードがなくても利用可能な「あと払いサービス」を展開する。70万店舗以上で利用できる。

  • クレジットエンジン株式会社=代表取締役 内山誓一郎 氏
    https://creditengine.jp/
    SaaS型オンラインレンディングプラットフォームを提供。融資管理サービスだけでなくクレジットスコアリングから債権管理回収サービスまで幅広く展開する。

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