大量生産・大量消費からの脱却。リテール業界がめざす未来の姿
”Smarter Society Vision 2021”では、5年後の未来の暮らしの一例として、重点領域である”Consumer Experience & Entertainment”について「リアルとオンラインが融合したアバターファッション体験」をテーマにデジタルムービーを公開しました。
動画1:リアルとオンラインが融合したアバターファッション体験
谷口前半は、ITSP事業本部DP事業部でリテール業界に携わる村竹統括部長とともに、これからの時代に生活者が求める「新しい価値観」や、実現に向けて「企業がなすべきこと」について考えていきます。
昨今、ファッション業界をはじめとするリテール業界全体でリアルとオンラインの融合、いわゆるOMO(Online Merges with Offline)マーケティングが急速に広がってきたように思いますが、現状の課題や今後についてどのようにお考えですか。
ITSP事業本部デジタルパートナー事業部
村竹 範彦
村竹 新型コロナの影響によって多くのリテール企業がECビジネスを展開せざるを得ない状況になった点は、大きな変革でした。国内市場でみるとEC化率は2020年で8.08%と、2019年の6.76%から急激に成長しています(※)。一方、世界の2020年のBtoC-EC市場におけるEC化率は18%と、世界と比較するとまだまだ普及が遅れているのが現状です。普及が進まない理由としては、日本は国土が狭いことから店舗が生活者の身近にあるため店舗で受け取る、もしくは家まで配送する場合も大手のEC企業のサービスを活用してしまう、といった点があげられると思います。これからは、サードパーティの配送網などをうまく活用して、いかに効果的に展開していくかがポイントになってくると考えています。
また、日本に限らず各企業が大量生産・大量消費を前提とした生産物流のため、個々の企業に適した形になっていない点も大きな課題ですよね。「良い商品が欲しい」というニーズから、良い商品が世の中に普及すると、今度は「安い商品が欲しい」というニーズになって大量生産・大量消費の時代となりました。しかし、カーボンニュートラルなどグリーン社会に向けた取り組みが加速するこれからの時代は、品質やコストでの単純比較だけではなく、持続可能な社会の実現をふまえた「私たちにとって良い商品が欲しい」というニーズがより高まってくると考えています。
谷口一人ひとりのためと、社会全体のためと、両方にとって嬉しいものを生活者が求め、企業もその求めに応えていくという構想、とても素敵です。需要予測や在庫管理などデジタルで解決できる点も多いように感じますが、具体的な取り組みの事例などはありますか?
村竹G-Retailというプロジェクトの中で、マーケティングから、企画・生産・物流・販売・アフターサービスまでを一気通貫したプラットフォームサービスを構築中です。ポイントは、顧客接点をバリューチェーンの川上とし、そこから得るデータが企画・生産のインプットになっている点です。特にトレンドの入れ替わりの激しいファッション業界で価値を生み続けるためには、顧客接点から得るデータを活用して、いかに個人の嗜好やトレンドに沿った商品を企画し、必要なだけ生産して的確に提案していくか、が鍵になります。また、顧客接点をより多く持つためには、1社単独ですべてを取り組むのではなく他企業・他業界と連携していくことも不可欠でしょう。
図1:G-Retailがめざす全体像
デジタルムービーの中でも、企業同士のデータ連携、スマートミラーを活用した一人ひとりのニーズに合わせた提案、データを活用した在庫管理の例を紹介していましたが、顧客接点を広く持ち、活用して顧客満足度を高めつつ、企画・生産に効果的につなげるという点がリテール企業に求められている要素ではないでしょうか。
図2:スマートミラーを活用したファッション体験
また、デジタルムービーの後半で紹介されていた、オンラインにおけるバーチャル試着もPoCに取り組んでいます。自分のアバターに試着させるだけでなく、バーチャルインフルエンサーといった架空の人物に試着させるなど方法は様々なのですが、実物の生産前に様々な魅せ方を示すことができる点が大きな価値だと思います。例えば、今のライブコマースはどうしてもコストや手間がかかりますが、バーチャルで人間に服を着せることができるとデータの入れ替えだけで様々な魅せ方が可能です。さらには、商品企画時点でのサンプルづくりを省くことができたり、店舗は在庫を抱えるリスクも減らせたりと、企業にとってのメリットは多く今後の展開が期待できます。
図3:オンラインにおけるバーチャル試着
このように、サプライチェーンのあり方も時代によって進化しています。トレーサビリティの確保などもより重要になってくるでしょう。まさに、一人ひとりと社会全体の両方に対して価値を提供していく、”新しいこれから”だと思います。G-Rerailがめざす社会全体のしくみを支えるようなプラットフォームの提供を通して、お客さまとともに実現していきたいです。
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
一人ひとりが自分の健康データを活用していく、これからのヘルスケア
続いてのテーマは「ヘルスケア」です。”Smarter Society Vision 2021”では重点領域である、”Personalized Healthcare & Well-being”について、「健康データを活用した、暮らしの中での健康づくりとウェルビーイングの実現」をテーマにデジタルムービーを公開しました。
動画2:健康データを活用した、暮らしの中での健康づくりとウェルビーイングの実現
谷口後半は「生活者起点でのヘルスケアデータ利活用」の分野でNTTデータのエバンジェリストを務めている、第二公共事業本部ヘルスケア事業部の湊課長とともに、「これからの健康データの活用方法」や「NTTデータのめざす姿」を考えていきます。
ヘルスケアデータというと、毎年の健康診断結果や病院での診療記録、スマートフォンやウェアラブルデバイスから取得されるバイタルデータ、あとは日々の食事内容や睡眠時間など・・・、多岐にわたりますよね。これらを活用してどんな取り組みをされているのか、教えてください。
第二公共事業本部ヘルスケア事業部
湊 章枝
湊 NTTデータでは、「Health Data Bank」という企業の従業員健康管理を支援するクラウド型サービスを2002年より提供しています。健康診断結果をはじめ、ストレスチェック結果や勤怠情報などを一元管理することで、従業員は個人サイトから健康状態が確認でき、企業の人事労務担当者/医療スタッフはスタッフサイトから健康課題の抽出やアドバイス等の産業保健業務が実施できる、というサービスです。直近の取り組みとしては、蓄積したデータの見える化・スコア化によるさらなるデータの活用促進や、アプリから取得するバイタルデータの多様化に注力してきました。
図4:企業の従業員健康管理を支援するクラウド型サービス「Health Data Bank」
NTTグループの医療健康ビジョンとして「バイオデジタルツインの実現」が掲げられています。デジタル空間に身体や心理の精緻な双子(バイオデジタルツイン)が存在し、心身状態の未来を予測することで、一人ひとりに最適な予防・治療・ケアを実現する、という構想です。臓器等のバイオデジタルツインの実現はもう少し先の話になりますが、その第一歩として蓄積されたデータの見える化・スコア化が疾病リスク予測に活用されています。今後は、さらにデータを活用することで、デジタル空間において一人ひとりの未来の体型を見える化し、生活習慣の改善向けた早期予防活動の促進をめざしています。
図5:NTTグループの医療健康ビジョン「バイオデジタルツインの実現」
図6:デジタル空間における未来の体型の見える化
谷口見える化・スコア化によって、課題だけでなく未来の結果も見える化されると、モチベーション高く行動につなげられそうですね。
取得できるデータは、ライフログデータといわれるように生活のあらゆるところで生まれており、今後もさらに増えるように思います。データのさらなる利活用に向けて、課題はありますか。
湊 現状は、各サービスがサービス提供者起点で提供されているため健康データが散在してしまっています。サービスを退会・解約したら使えなくなってしまうというケースもあるでしょう。今後は、生活者起点で、生活者が自分の責任によって自分で健康データを管理し、第三者(サービス事業者・医療機関等)へ開示して活用していくしくみが必要だと思っています。そこで、NTTデータは現在、生活者起点の健康データ管理・運用サービス「My Health Data Bank」の開発に取り組んでいます。生活者は個別散在している自分の健康データを「My Health Data Bank」の「健康口座」に集約して管理し、サービス事業者や医療機関等に自分のデータを提供することで、自分に最適な商品・サービスや予防・治療・ケア等を受けることができるようになります。
図7:「My Health Data Bank」のめざす姿
谷口自分の健康データを自分で把握して管理できれば、生活者も自分の健康をより自分ごととして捉えることができますよね。身体の不調や病気のサインはもちろんですが、疲れているときは良い睡眠がとりたい、お肌の調子が悪いときは美容に関するアドバイスをうけたいなど、ちょっとしたことでも自分でアプリやサービスを探して健康データを活用できたら、より楽しく過ごせそうです。
湊 健康づくりやウェルビーイングって一人ひとり気にする点も違うんですよね。同じ一人の人をみても、年齢や状況などで常に変化しているので、健康に関連するサービスやデータは多岐にわたります。NTTデータはそういったサービスを提供する多業界の企業に向けて、幅広い健康データを集め、健康データと他のライフデータを掛け合わせて生活者と企業をつなぐバックヤードのしくみをご提供できればと考えています。
図8:ウェルビーイングの実現を支援する生活サービスの提案
ヘルスケア領域は人命にかかわるので、制度や医療知識などが必要になってきますが、NTTデータは私の所属するような、医療業界を専門としノウハウが豊富な部署から、インダストリー向けに最先端のビジネスを展開している部署など、幅広い顧客基盤があります。多様な業界・企業のみなさまとともに健康データを利活用する業際ビジネスを創出することで、生活者が自分の健康データを利活用してウェルビーイングを実現できる社会の実現を加速させていきたいと考えています。