NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
そもそも「無人店舗」とは?
実は「無人」の店舗はほとんどない
まず本題に入る前に、本記事における「無人店舗」という言葉の範囲を明確にしておきます。
一般的に「無人店舗」とは、「スマートフォンやAIを活用した認証技術やセンサー、カメラなどの導入によって、レジスタッフなど人的オペレーションを不要にした店舗」と理解されています。
ただ、現実には無人店舗をうたっている店舗でも完全な無人化を実現している事例はほとんどなく、最小限の店舗スタッフを配置しているケースが大半です。また、そもそも消費者の立場に立って考えると、「無人」にすること自体が消費者に直接的な価値をもたらすわけではありません。
一方で、「無人店舗」という言葉は直感的にイメージしやすく、世の中にも広く浸透しています。そこで、本記事でもこの「無人店舗」という言葉を使いますが、次のとおり広義にとらえることとします。
【(広義の)無人店舗の定義】 スマートフォンやAIを活用した認証技術やセンサー、カメラなど技術を導入して、オペレーションの省人化と消費者の利便性向上を同時に実現した店舗 |
「無人店舗」=「レジ無し店舗」ではない
また、「無人店舗」のほかに「レジ無し店舗(またはウォークスルー店舗)」という言葉があります。読んで字のごとく、会計の際に使うレジ端末がない、すなわち会計行為を意識する必要のない店舗のことを指します。
「無人店舗」と「レジ無し店舗」は混同されやすいのですが、無人店舗の中には商品を読み取るためのスキャンレジを設置しているところもあります。したがって、「無人店舗」イコール「レジ無し店舗」ではない点にご注意ください。
省人化した店舗 | 狭義の無人店舗 (完全無人) | |
レジ有り店舗 | TOUCH TO GO(日本) SECURE AI STORE LAB(日本) |
Bingo Box(中国) ※有人は商品補充等のみ |
レジ無し店舗 | Catch&Go®(日本) Zippin(米国) Amazon Go(米国) |
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日本でも広がりつつある無人店舗
国内では、実証実験段階も含めて、さまざまな企業が無人店舗を開設・運営しています。その代表的な事例をご紹介します。
<事例①>Catch&Go®(キャッチアンドゴー)
2021年9月に、ダイエーとNTTデータが東京・豊洲のNTTデータ本社 豊洲センタービルアネックスビルにオープンしたレジ無し店舗(ウォークスルー店舗)です。
事前登録しておいたスマートフォンのアプリにあるバーコードをかざして入店すると自動的に認証されます。消費者が手に取った商品は棚の重量センサーと店舗に設置したカメラからの情報によって自動検知され、あらかじめ登録されたクレジットカード情報によって自動決済。店舗を出てまもなく、すべての決済が完了しています。
<事例②>TOUCH TO GO(タッチトゥゴー)
JR東日本子会社のJR東日本スタートアップと、ベンチャー企業のサインポストとの合弁会社「TOUCH TO GO」が展開する無人店舗です。
消費者が手に取った商品を、店内に設置されたカメラと赤外線センサー、商品棚に設置した重量センサーのデータをもとにAIが検知。出口に設置されたレジの前に立つと、AIが検知した商品がタッチパネルに表示され、あとはタッチパネルに交通系電子マネーをタッチするだけで決済が完了します。
2020年3月末、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅にAI無人決済コンビニをオープン。駅ナカ店舗を中心に幅広く展開しています。また、2021年2月には大手コンビニチェーンのファミリーマートと資本業務提携を結んでいます。
<事例③>富士通とZippinの取り組み
富士通では、米スタートアップのブイコグニション・テクノロジーズと提携してレジレスソリューション(レジ無し店舗)に取り組んでいます。ZippinのAIカメラ技術と富士通が持つ生体認証技術を組み合わせた認証システムが特徴で、大手コンビニチェーンのローソンと提携した実証実験店舗「富士通新川崎TSレジレス店」を2020年2月より運営しています。
<事例④>SECURE AI STORE LAB
2020年7月に、ベンチャー企業のセキュアが東京・新宿の住友新宿ビルにオープンした無人店舗です。大きな特徴として、AIを用いた顔認証による入退管理システムを採用しています。決済の際も消費者のカートに入っている商品が顔認証で識別され、ディスプレイに表示される仕組みになっており、スムーズな買い物体験を実現しています。
無人店舗の先駆け「Amazon Go」と「Bingo Box」
アメリカや中国では、日本に先行して無人店舗の実証実験がスタートしました。その代表例を二つご紹介しますが、その後の展開フェーズで明暗が分かれているようです。
Amazon Go
2018年1月に米国シアトルにオープンしたAmazon Go。スマートフォンにダウンロードした専用アプリを店頭でかざして入店処理を済ませれば、選んだ商品を持ってゲートをくぐれば会計が完了する「レジ無し店舗(ウォークスルー店舗)」の先駆けです。
現在では全米の複数都市にAmazon Goを展開。2021年3月にはイギリスで「Amazon fresh」がオープンするなど、その数は20店舗以上に拡大しています。
Bingo Box
実は、そのAmazon Goよりもいち早く無人店舗を世の中に登場させたのが中国です。それが、2016年8月、中国のベンチャー企業が広東省中山市にオープンしたコンテナ型の無人コンビニエンスストア「Bingo Box」です。
Bingo Boxは完全な無人店舗です。入口は施錠されており、“中国版LINE”のWeChatアプリで入口のQRコードを読み取り、個人認証されると解錠される仕組みになっています。消費者が手にとった商品は自動スキャンされ、WeChatペイなどの電子マネーで決済します。
「Amazon Goより先に無人コンビニを実用化させた」という話題性に加え、多額の資金調達にも成功するなど多くの注目を集めたBingo Boxですが、入店の際の解錠の手間などが敬遠されたのか、徐々に客足が遠のき下火になっていきました。冒頭でも「『無人』そのものが消費者に直接的な価値をもたらすわけではない」と述べましたが、「無人」にこだわるあまり消費者の利便性が低下した、と指摘する声もあります。
これだけある!無人店舗のメリット
ここまで紹介したように、海外から日本国内へと、徐々に導入事例が増えている無人店舗ですが、改めてどのような導入メリットがあるのでしょうか。ここでは大きく「消費者にとってのメリット」と「企業にとってのメリット」に分けて説明します。
消費者にとってのメリット
- 1.スムーズな買い物体験
言うまでもなく、会計行為をスムーズに済ませられる買い物体験は、消費者にとってこれ以上ないメリットです。実際に「Catch&Go®」を利用したお客様からも「とても便利!」「これに慣れてしまうと通常のお店のレジ待ちが苦痛に感じる……」という声が多く聞かれます。
この買い物体験は、実際に体験してみないとわからないものですが、一度体験してみたら今までの会計行為がいかにストレスだったかと改めて気づかされます。 - 2.非接触で買い物ができる
長期化するコロナ禍によって、店舗スタッフや他の来客とのフィジカルな接触にストレスを感じる消費者が増えています。これからのアフターコロナにおいては、「非接触で買い物ができる」ことが新たな体験価値になりつつあることも、無人店舗のメリットと言えるでしょう。
企業にとってのメリット
- 1.省人化による労働力確保・業務効率化が見込める
日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は1995年の8,726万人をピークに減少傾向にあり、2021年には7,318万人にまで減少しています(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2021年1月1日現在))。既に、一部の業界では労働力確保の問題が顕在化しています。
その中で、オペレーションの省人化を図れる無人店舗は言うまでもなく、人口減少時代の有力な解決策になります。
無人店舗の導入によって生産性を向上し、業務の最適化・効率化を図ることができるのもメリットのひとつです。現場スタッフの定型業務を減らすことによって、接客の品質向上や、事業企画、店舗マネジメントなどより高度の業務に注力することが可能になります。 - 2.さまざまな顧客データを収集・活用できる
無人店舗では、店内に搭載したセンサーやカメラを通じて来客者の情報や購買履歴などのデータが記録されます。それら蓄積された顧客データを店舗の陳列やレイアウト改善、クーポン発行などの販促プロモーションに活用することができます。
もっとも、従来の有人店舗でも、POSシステムによってたとえば次のように消費者の属性と購入した商品を紐づけたデータは取得することができました。
○月○日○時○分、20代女性がペットボトルのお茶を購入。
一方、無人店舗では来店から退店までの一連の顧客行動がセンサーで可視化されるため、さまざまなデータを取得することができます。一例としてCatch&Go®では、消費者が購入した商品はもちろん、手に取って棚に戻した商品や、店内を移動した導線に至るまでのデータを取得することができます。
○月○日○時○分、20代の女性が入店。まず弁当コーナーの棚で、パスタの弁当を手に取り1分立ち止まる。しかし、そのパスタは棚に戻し、その後飲料水の冷蔵庫に移動してペットボトルのお茶にすぐ手を伸ばす。その後、クッキー・チョコレートの棚で10秒立ち止まるが結局そのままペットボトルのお茶1本を購入し、○時○分に退店。
さらに、アプリを用いた事前登録制を採用している無人店舗の場合は、購買履歴などのパーソナルデータがアプリに蓄積されるので、消費者の買い物習慣や嗜好に合わせた販促やマーケティング施策が可能となります。
小売業界においてもDX推進の必要性が叫ばれる中で、これだけの豊富なデータを商品の仕入れや陳列、マーケティングなどの施策に活用することができるのは無人店舗の大きなメリットと言えるでしょう。 - 3.万引き・強盗などの犯罪を防止できる
無人店舗と聞くと、セキュリティ面の心配をする方もいるかもしれません。しかし、店内に多数のカメラを設置し、さらに決済もキャッシュレスの無人店舗は、むしろ有人店舗に比べて万引きや強盗などの犯罪リスク減少につなげられる可能性があります。特に事前登録制を採用している無人店舗の場合は、入退店した消費者が特定されるため、より高い犯罪抑止効果が見込めます。
無人店舗の導入課題は「コスト」と「心理的ハードル」
以上のようにさまざまなメリットを消費者、企業の双方にもたらしてくれる無人店舗ですが、導入にあたっての課題はもちろんあります。最後に、その課題についても触れておきます。
- 1.初期費用の負担
当然のことながら、カメラやセンサーなどの設備を必要とする無人店舗には、その分これまでの店舗よりも初期費用がかかります。
一方で、前述の企業メリットにも挙げたとおり、省人化による労働力確保は喫緊の課題になっています。従って、短期的な利益にとらわれない、中長期の事業シナリオが重要になるでしょう。例えば、従来型の店舗では投資対効果が得られにくい小型店舗の集中出店などによって、人件費効率を最大化させると言った事業シナリオは、無人店舗ならではの考えと言えるでしょう。
なお、無人店舗ソリューションを提供するベンダーには、初期費用の負担を低減するサブスクリプションプランを用意しているところもあります。こういったプランの活用も、導入の検討にあたっては選択肢になりえます。 - 2.消費者の心理的なハードルが高い
無人店舗、とりわけレジ無し店舗(ウォークスルー店舗)の場合は、これまでとは全く違う買い物体験をもたらします。結果、消費者がその新しさに心理的な抵抗を感じてしまうことがあります。一度利用すればその圧倒的な利便性を実感してもらえるので、心理的なハードルを下げ、最初の買い物体験を後押しする工夫も導入にあたっての課題となるでしょう。
ここまでみてきたように、さまざまなメリットをもたらしてくれる無人店舗。しかし、企業側にとっては「本当にお客様が利用してくれるだろうか……」という不安がある中で、新たな店舗形態への投資に対して踏み切れないことはあるかと思います。
一方で、労働力人口の減少は避けられず、人材確保がますます困難になる中で、無人店舗がこれからの大きなトレンドとなることは間違いありません。中長期的な視点に立って、新たなビジネスモデルの種をまいておくことも必要でしょう。まずは実証実験も含めて既に導入している企業の事例や、サービスを提供するベンダーの話を聞いてみるところからアクションを起こしてみてはいかがでしょうか。
監修者:新原 友美、西郷 拓海
NTTデータのウォークスルー店舗
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