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2022.2.2事例

絶妙な“化学反応”から生まれた遊び心満載の「ahamo」デザイン
~その実現理由とは~

NTTドコモが2021年3月にリリースした、デジタルネイティブであるZ世代向けの新料金プラン「ahamo(アハモ)」。サービス開始から8カ月で契約数は200万件を突破し、以降も好調に数を伸ばしている。同サービスはこれまでのNTTドコモのイメージを覆すカラフルでポップなデザインが印象的だが、このデザインはどのようにして生まれたのか。キーパーソンに話を聞いた。
目次

「Z世代への共感」からスタートしたプロジェクト

ahamoは、20GBのデータ通信と1回5分以内の国内通話無料というシンプルなサービスを提供しつつ月額2970円(税込)の低価格を実現した、Z世代をターゲットとする料金プランだ。またキャリアメールを提供せず、Webサイトと専用アプリからのオンライン受付のみとなっている点も、従来の同社サービスとは一線を画す。そしてもう一つの大きな特徴が、そのWebサイトやアプリのUIと顧客体験におけるデザイン性だ。

株式会社NTTドコモ サービスデザイン部 アプリケーション開発担当課長 堀本 登氏

株式会社NTTドコモ サービスデザイン部 アプリケーション開発担当課長
堀本 登 氏

NTTドコモでは従来、新サービス立ち上げにあたり、そのサービスの主管部がユーザーのニーズを想像して設計するのが通例だったという。その根底にあるのはプロダクトアウトの思考だ。同社のサービスデザイン部 アプリケーション開発担当課長、堀本登氏はこう話す。

「ahamoについては顧客体験を最優先するため、まずはユーザーの声をしっかり聞き、そこからデザイン思考でお客様に価値を提供する取り組みにチャレンジしよう、との思いで臨みました。組織も従来のように主管部はなく、横断的にワンチームを築いていきました」

株式会社フォーデジット 取締役COO 末成 武大氏

株式会社フォーデジット 取締役COO
末成 武大 氏

そしてこの“デザイン”をキーワードに、開発パートナーとしてNTTデータが参画。NTTデータからの紹介で、サービスデザインに強みを持つフォーデジットも加わり、プロジェクトチームが出来上がった。プロジェクトは2020年6月に始動。まずは複数のメンバーで、ユーザーを中心に据えたサービスデザインのコンセプトについて意見を出し合った。実際にZ世代へのインタビューを重ねながら、ahamoでどのような世界観を目指すのか徹底的に話し合ったという。そのうえで、従来のようにニーズを想像してサービスづくりを行うのではなく、実際にユーザーが考え、望んでいることを実現する方向性でサービスデザインのプロセスを進めていった。このプロセスを牽引したのがNTTデータのデザインチームとフォーデジットだ。同社取締役COOの末成武大氏は次のように振り返る。

「Z世代の若者の声を聞き、共感することで、メンバー全員が同じ目線に立ち、同じような感性と感覚をもって体験をつくり上げていくベースが生まれました。最後まで軸がブレずに走り抜けていけたのは、この最初の合意形成があったからこそだと思っています」

意思決定も若者が行うことでユニークなデザインが次々生まれる

末成氏がまず指摘したのは、世界観のもとに顧客体験を俯瞰する広義のサービスデザインの話だ。

「これまでの若者向けのサービスは、実はもっと上の世代の人間が意思決定しているケースが多かったように思います。その点、今回はZ世代のインタビューを数多く行ったうえ、NTTドコモ社内でもZ世代の若い社員の方が主体性を持って意思決定に関わって下さったので、若者が実際に使いたいものを自らの意思で選ぶという要素が最大化したと考えています」(末成氏)。ビジュアルイメージを検討していく中で、末成氏は、堀本氏が同じ部署の若い社員にことあるごとに「どう思う?」と尋ねていた姿が強く印象に残っているという。

そうした、Z世代の感覚に対する共感の上でプロジェクトを展開したからこそ、いままでのNTTドコモでは見られなかった遊び心満載のデザインを提案できたと末成氏は話す。その遊び心にあふれた提案をNTTドコモも採用し、従来のイメージを打ち破るデザインのアイデアが次々と出来上がっていった。

「NTTドコモは真面目で硬い会社という印象を持っていたのですが、若い社員の方に支持してもらえたおかげで、おもしろい提案がスムーズに受け入れられました。それは驚きであるとともに、私たちとしてはこだわりを一層強く盛り込むモチベーションにもなりました」(末成氏)

この点について堀本氏はこう応じる。「プロフェッショナルとチームを組んだからには、信じて、託す。私としてはその思いでいましたし、Z世代の若い社員もフォーデジットのデザインに好感を持っていたので、それなら正解だろうと自信も感じていました。むしろ年齢が上の人間が決めようとしたら、色はやはりコーポレートカラーの赤でないとダメだとか、ありきたりな意見が出てきたかもしれません」

世界観を貫き通すため、「組織とプロセス」に工夫を盛り込む

一方で、フォーデジットの発想を現実のデザインに落とし込み、システムの形に仕上げる立場のNTTデータは、どのような意識で取り組んだのだろう。NTTデータからはデザイナーと開発部隊、総勢約300人がNTTドコモのサービスデザイン部、情報システム部それぞれの開発チームに加わる形で参加した。デザインと開発の両立を図る立ち位置でプロジェクトに携わったNTTデータの岡村龍也は「最初にみんなで話し合い、考え出した“Z世代のために”というahamoの世界観を実際に描き出したのが、フォーデジットのデザインです」と認識を語る。その上で、開発プロセスにおける取り組みをこう解説した。

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部 第二統括部 第四デジタルデザイン担当 部長 岡村 龍也

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部
第二統括部 第四デジタルデザイン担当 部長
岡村 龍也

「デザインを実際に形にする段階で心がけたのは、皆で創り上げた素晴らしいデザインの発想を安易にシステム的に“つくりやすい”ほうに倒してはいけないということ。そのデザインで表現したい世界観、ユーザーに届けたいメッセージをきちんと守っていくことを、デザイナーにも、当社の開発部隊にも伝えていました」

また、ビジネス・デザイン・テクノロジーをつなげるべく関わった、NTTデータの角田仁美はこう話す。「チーム間のコミュニケーションも重要なテーマでした。私の仕事は、300人以上のプロジェクトメンバーがZ世代にその価値を届けるという一つのゴールに向かいやすくすること。複数のチームがそれぞれ作ったものがバラバラにならないよう統制するDesign Head Quarters(DHQ)の設置を提案し、末成さんにその世界観のチェックをお願いしました」

コンサルティング&ソリューション事業本部 コンサルティング事業部 ビジネスコンサルティング統括部 課長 角田 仁美

コンサルティング&ソリューション事業本部 コンサルティング事業部
ビジネスコンサルティング統括部 課長
角田 仁美

今回は主管部のないプロジェクトであったため、各チームを横断的に見る組織がないと目指すものがつくれず、「“福笑い”のようなものができてしまう懸念もあった」と堀本氏は語る。そういった背景もありDHQの設置を決意、末成氏を柱に、各チームでつくり上げたアウトプットがahamoの世界観と合致しているかを点検する役割をDHQが担った。

このDHQのもと、フォーデジットでデザインを設計した担当者がアウトプットを念入りに確認し、世界観と異なる場合は修正を依頼する体制が生まれた。フォーデジットとしても最終段階の判断までより主体的に関わることとなり、「貴重な体験になった」(末成氏)とのことだ。一方、岡村はこう語る。

「通常の開発におけるチェックは、機能的に充足しているか、仕様上の漏れや誤りがないかという観点を中心に行います。デザインが生まれた当初の熱さを冷まさないようにするには、フォーデジットによる異なる観点でのチェックをプロセスに組み入れるのが望ましい。おかげで、普段なら出ないような指摘を最後の最後まで出すことができました。それを修正するのは、もちろん大変な作業でしたが、地道に取り組むことでサービスがよりよくなっていくことが見えましたし、最後まで諦めずに、全体を巻き込んで改善していく姿勢は当社の強みです。ドコモさん、デザイナー、そして開発部隊のこうした妥協のないチャレンジにより、ahamoの世界観が実現したと感じています」

時には、「ここの挙動はもう少し”ぬるっと”動いてほしい」といった擬音を用いた抽象的な修正依頼がフォーデジットから届くこともあった。岡村は「開発チーム担当者も、”ぬるっと”と指摘を受けた経験はなく、自分なりに指摘を咀嚼しながら何度も修正して納得するものに磨き上げていった」と笑いながら振り返る。

“一丁目一番地”のデザインを3社の化学反応で成し遂げる

ahamoは2021年3月26日にスタート。この日は午前10時のサービス開始に合わせ、プロジェクトメンバーはそれぞれの持ち場で待機していたという。結果的には特段のトラブルも起きず、ahamoは順調な船出を切った。

開発プロジェクトを振り返り、末成氏は「とにかく楽しくやらせていただきました。新しいアイデアを試せましたし、クリエイティビティを問われた部分でも私たちなりの答えをしっかり出せたと考えています」と語った。「それに」と末成氏は付け加える。「まだ初期段階だった2020年夏のある日、堀本さんから『グッドデザイン賞を取るんですよね』と言われたことが強く記憶に残っています。私としても本気度がさらに高まりました」

そして、それは現実のものとなった。2021年度のグッドデザイン賞をahamoは見事受賞したのである。堀本氏はこう振り返る。「Z世代のためにという基本コンセプトを最初から最後まで意識して取り組み、実際にグッドデザイン賞も取れたので、末成さんが言うように本当に楽しいプロジェクトでした」

ここまでの取り組みを総括し、堀本氏はサービスにおけるデザインを「一丁目一番地」と表現したうえで、次のように語った。

「何を売るかではなく、お客様が何を欲しているか、その理解と顧客体験なくしてプロダクトなし。そう実感しています。今回、デザインのプロであるフォーデジットと、システム開発のプロであるNTTデータとの協業により、デザイン思考でプロジェクトを成功に導けたことは、まさによい化学反応の結果でした。ahamoのプロジェクト自体はまだまだ続くので、これからも3社の絆をさらに深めていきたいですね」

関連リンク

参考

企業情報

株式会社NTTドコモ
1991年に「エヌ・ティ・ティ・移動通信企画株式会社」として設立。2021年には新ブランドスローガン「あなたと世界を変えていく。」を発表。また、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアをグループに加え、新しいドコモグループが誕生。「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向けて、個人の能力を最大限に生かし、お客さまに心から満足していただける、よりパーソナルなコミュニケーションの確立をめざし、モバイルからサービス・ソリューションまで事業領域を拡大・展開している。

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