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2022.3.16事例

NTTドコモが社運を賭けた「ahamo」。初の大規模アジャイル開発の裏側に迫る

株式会社NTTドコモは2021年3月26日、デジタルネイティブ世代向けの新料金プラン「ahamo(アハモ)」のサービスを開始した。NTTドコモはこのahamoのサービス提供にあたり、申し込みWebサイトやアプリケーションなどの開発にアジャイル開発を採用。大規模プロダクトでは同社初となるこの取り組みを、株式会社NTTデータがパートナーの立場でサポートした。その経緯と開発プロセス、そして成果として得られた知見について、NTTドコモ、NTTデータ両社の担当者に聞いた。
目次

NTTドコモとNTTデータのコラボレーション

NTTドコモとNTTデータは、同じグループの事業会社・システムインテグレーターの関係として、これまでにも協業を行ってきた経緯がある。例えばNTTドコモが2019年に発表した料金プラン「ギガホ」では、NTTDATA Italyのデザイン組織であるTangity(旧名Digital Entity)が参画し、顧客向けランディングサイト開発を実施。さらには、NTTドコモ店頭で来店客を受け付けるチェックインシステムのアジャイル開発において、NTTデータと協業したことが直接的な契機となり、今回のahamoにおけるコラボレーションに発展した。

NTTドコモにとって、ahamoは戦略的にきわめて重要なプロダクトであると、情報システム部デジタルデザイン・エクスペリエンスデザイン担当の辰巳哲也氏は話す。「ahamoはデジタルネイティブのZ世代をターゲットとする新料金プランで、申し込みからすべてがデジタルで完結する点や、従来のキャリアメールを廃した点も含め、社運を賭けたともいえる意欲的な一大プロジェクトです。その開発パートナーに、グループ内のSIerとして実績のあるNTTデータを選ぶのは、いわば自然な流れだったと考えています」

株式会社NTTドコモ 情報システム部 デジタルデザイン・エクスペリエンスデザイン担当 担当課長 辰巳 哲也氏

株式会社NTTドコモ 情報システム部 デジタルデザイン・エクスペリエンスデザイン担当 担当課長
辰巳 哲也 氏

同社においてアジャイル開発自体はけっして初めての経験ではない。ただし、これまでは比較的小さな規模のシステムで採用したものであり、大規模なプロダクト開発にアジャイルの手法を取り入れるのは今回のahamoが初めてとなった。

ahamoの開発の大きな特徴は、デザイン思考のプロセスを取り入れたことである。その開発にあたり、Webサイトやアプリケーションといったフロント部分についてはアジャイル開発を採用するのが最も妥当であるとの判断が背景にあった。「アジャイル開発は作るのがゴールではなく、一度作ったあとに継続的改善を行うことが重要だと考えています。とくにahamoのデジタルですべてを完結させるというコンセプトの実現に向けては、リリース後の継続的改善がきわめて重要であり、その継続的改善にフィットする手法がアジャイル開発だと考えました。情報システム部としても、このような注力プロダクトの大規模開発をアジャイルで行うのはかなりのチャレンジでした」と辰巳氏は振り返る。

対して、NTTデータとしては今回のプロジェクトにどのような姿勢で臨んだのか。開発のプロジェクトマネージャーを担当したモバイルビジネス事業部の小嶋洋二が語る。

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部 第二統括部 第四デジタルデザイン担当 課長 小嶋 洋二

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部 第二統括部 第四デジタルデザイン担当 課長
小嶋 洋二

「通常のアジャイル開発では人と期間を固定してスコープを変動させ、もしスコープを調整できない場合はリリース時期を延ばすということもありますが、ahamoはNTTドコモが社運を賭けたプロダクトであり、強い思いでリリースするサービスですので、期日の必達を意識しながら進めました。また、当社は開発支援という形で対応を行うことが多いのですが、今回は事業会社であるNTTドコモの内製化を一緒になって進めるという点が大きなポイントとなりました」

開発とデザインを貫くハブ組織が有効に機能

ahamoのプロジェクトは2020年春に動き出した。デザインフェーズは6月から、本格開発は10月からスタートし、2021年3月のサービスリリースへとつながっていく。プロジェクトでは申し込みサイト、アプリケーション、個人情報・決済部分などのシステムごとに各開発担当が歩調を合わせ、1つのプロダクトを作り上げていった。

NTTドコモの部署としても、辰巳氏が属する情報システム部やサービスデザイン部など異なる組織が参画するため、当然ながら縦割りによる弊害が生じる可能性もある。そこに課題を感じていた辰巳氏は、本格開発へ入るに先立ち、まずはプロジェクトのキックオフとして、ビジネス部門も含めたすべての関係者が一堂に会するデザインワークショップを開催。面と向かって議論を重ねながらコミュニケーションをとり、参加メンバーの関係構築に加えて、ahamoの世界観とコンセプトをメンバー全員が身体に吸収していく取り組みを実施した。

「担当はそれぞれ違っても、バーチャル的なワンチームとして一緒に協業することで、部門間の縦割りをなくし、リリースに向け全員が一体となって進むように工夫しました」と辰巳氏。NTTデータと話し合いながらデザインヘッドクオーター(DHQ)という名のハブ組織を立ち上げ、そこを中心に全参加者が有機的に関わり合える体制を構築した。

今回のプロジェクトは、NTTドコモの情報システム部とサービスデザイン部、NTTデータの開発部隊だけでも総勢約300人に上る。この大所帯で、DHQという組織が足並みを揃えるという点において重要な役割を果たしたと小嶋が指摘する。

「ユーザーがランディングページに入り、カタログサイトで端末やプランを選択して申し込み、そして回線が開通するまでの一気通貫の体験を、開発部門とビジネス部門が一緒になって実現していくには、デザインとして統一させることが必須でした。今回は開発、ビジネスの2つの軸に加えて、DHQによりデザインというもう1つの軸を設けることができたため、開発とビジネスで分断されることなく、全体が1つの共通目標に向かって進みやすくなりました」

フレームワークを活かしチーム拡張に柔軟対応

コミュニケーションと組織面の工夫により、大規模なアジャイル開発を短期で遂行するプロジェクトが本格始動した。実際の開発に入ってからも、やはり全体の足並みを揃えるところに最も心を配り、開発チームにおけるNTTドコモ側のプロダクトオーナー(開発責任者)とスクラムマスター(開発チームがスクラムを組み進んでいくうえでの責任者)への支援も強化したと小嶋は回顧する。

一方の辰巳氏は、開発における工夫について次のように語る。「プロジェクト開始時に組織した開発チームは8つでしたが、最終的には15チーム、他社も含めると17チームにまで拡張されました。この多数のチームで1つのプロダクトを作るという大規模なスクラムの経験は当社には当然なかったので、NTTデータのアジャイル開発の大規模フレームワークであるSAFe(Scaled Agile Framework)をベースに、NTTドコモのデジタルデザイン独自の方法論にカスタマイズして、アジャイル開発を回していきました」

結果として2021年3月26日、大きなトラブルもなく無事サービスリリースを果たしたahamo。そしてユーザーの声を聞き、より顧客体験の向上を目指し、アジャイル開発を取り入れたメリットである、リリース後の改善を継続的に行っている。今回の開発でNTTドコモ、NTTデータの両社がお互いに対して感じた強みとは何だったのだろうか。これについては辰巳氏、小嶋ともに、どちらかの強みではなく、両社の強みが活きたのだと力説した。

「開発途中で大きな方針変更があったのですが、それに対して迅速にアジャストしていくところは、NTTドコモの意思決定の速さと、当社がそれを優先順位付けして開発体制に織り込んでいくところのケーパビリティが活きた成果だと思います」(小嶋)

「当社もNTTデータも、これまでミッションクリティカルなシステムを多数手がけてきた経験があります。だからこそ今回の大きな方針変更に際しても、両社のその経験値がしっかりと活きたのでしょう」(辰巳氏)

NTTドコモのCX向上に寄与するプロダクト開発をNTTデータが共に推進

続いて辰巳氏は、NTTデータの強みについても言及した。

「今回は従来のような業務委託でNTTデータに開発を任せるのでなく、NTTデータには当社の開発担当と席を並べて内製化に取り組んでいただきました。開発過程でチーム数が倍以上にスケールしても、当社の注力プロダクトのためリソースを迅速に集結し、納期に間に合う体制づくりをしてくれた点に大いに感謝しています」

これに対して、今回のプロジェクトに営業担当として関わったNTTデータ モバイルビジネス事業部の篠原笑は「当社の強みのひとつはプロジェクトドライブ力です。ビジネス状況が日々変化しシステムへの要求も変わる混沌とした状況の中でも、デリバリーに向けプロジェクトを推進していく力を今回のahamo開発では発揮できたと感じています。また、NTTドコモの複数部署にまたがるこのプロジェクトにおいて、各部署をサポートする当社のデザイン・開発・営業の複数チームが横の連携をとり、一体となってNTTドコモの力になれたことが本当によかったと考えています」と語った。

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業本部 企画営業担当 課長代理 篠原 笑

テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業本部 企画営業担当 課長代理
篠原 笑

今回のプロジェクトで得られた知見及び今後の展望として、辰巳氏は「顧客体験(CX)を作るにあたって、デザイン、開発、ビジネスの3者が一体となってデザインプロセスを回す重要性を改めて実感したとともに、大規模なプロダクト開発においてもアジャイルがフィットすることを証明できました。今後もデジタルデザインの部門では内製化を推し進めていこうと考えています」と手応えを感じている。

これを受けて最後に篠原は、今後に向け次のように語った。「内製という従来とは異なる形の支援になっても、当社としてCXデザインや大規模アジャイルのノウハウ、プロジェクトドライブ力に代表される強みを発揮し、NTTドコモのCX向上につながるプロダクト開発をサポートしていくことは変わりません。一方、NTTドコモの中のメンバーとして支援することで、NTTドコモと同じ目線でその先のお客様(エンドユーザ)のことを考える意識をより高めていきたいと考えます。その際は当社のさまざまな顧客との取り組みから得たノウハウをNTTドコモに還元していきますし、反対にNTTドコモから得たノウハウも先進的な取り組みとして広く還元していくことを目指しています」

関連リンク

参考

企業情報

株式会社NTTドコモ
1991年に「エヌ・ティ・ティ・移動通信企画株式会社」として設立。2021年には新ブランドスローガン「あなたと世界を変えていく。」を発表。また、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアをグループに加え、新しいドコモグループが誕生。「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向けて、個人の能力を最大限に生かし、お客さまに心から満足していただける、よりパーソナルなコミュニケーションの確立をめざし、モバイルからサービス・ソリューションまで事業領域を拡大・展開している。

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