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2022.2.14業界トレンド/展望

デザイン思考の事例から見る3つのベネフィット

デザイン思考を実践した事例を通し、そのプロセスから得られる3つのベネフィットを紹介する。また、今後のデザイン思考活用拡大とともに進むであろうデザイナー内製化を、最適に進めるために必要となる営みや、それを担える人材である「デザインシンカー」とはどういう人材か見ていく。
目次

デザイン思考とはー基本的な実践プロセス

デザイン思考にすでに取り組んでいる方や、身近な事例をご存知という方も多いのではないでしょうか。デザイン思考の活用は広く進んでいます。
そもそもデザイン思考とは、デザイナーやクリエイターが業務で使う思考プロセスを活用し、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るための思考法です。

図1:NTTデータのデザイン思考プロセス

図1:NTTデータのデザイン思考プロセス

NTTデータでは図1のように4つの領域(1.Market Discovery/2.People Discovery/3.Solution Design/4.Development)を8つの要素で区切ったプロセスを定義し、デザイン思考を実践しています。

1.Market Discoveryは、
マーケットをリサーチしながら事業・サービスとしての注力領域を見定め、新事業を生み出すプロセスです。
2.People Discoveryでは、
注力領域でのユーザーにどのような価値を提供していくべきなのかを検討します。
3.Solution Designは、
カスタマージャーニーやペイン・ゲインなどの機会領域、つまり価値提供すべき領域において、どのようなアイデアが必要なのかをユーザー検証するとともに、技術およびビジネス的に可能なのかどうかを検討するプロセスです。
4.これらを実際にどのようにリリースすればいいのか、運用までを含めてDevelopmentで検証していきます。

デザイン思考のプロセスにおけるベネフィット

デザイン思考を導入・実践する目的として多く聞かれるものは

  • ユーザーに利用されるもの、価値を感じてもらえるものをつくりたい
  • ペルソナやユーザージャーニー(※1)を利用しコンセプトをつくりたい

など、「つくりたい」という思いです。しかし、サービス・プロダクトをつくりだすこと以外にもデザイン思考がもたらす大きなベネフィットが3点あります。

1.共創によるプロジェクトメンバーの合意形成
2.部門サイロ化の打破
3.可視化と検証から素早く形にする

です。
これらのベネフィットがもたらされた生まれた2事例を紹介します。

(※1)

ユーザーが製品に触れる際のシナリオを4~12程度のステップで表現したもの。

事例(1)キリンビジネスシステム様:新しい働き方ロードマップ作成

キリン様社内には、営業や商品開発、生産部門など様々な職域があります。それぞれの職域において、コロナ禍でどのように生産的な働き方ができるのか、それを実現しながら社員の満足度をどのように向上させられるかをIT部門が検討しました。これに働き方改革ロードマップに職域を超えた社員(ユーザ)目線を取り込むファーストステップを作り込みました。
前述の8つの要素に基づき、働き方改革の他社事例をリサーチし、それを営業部門に紹介しながら共創ワークショップを経てユーザージャーニーを設定、ペイン・ゲイン(※2)を抽出。営業とIT部門とが一緒になってユーザー目線での働き方改革のToBe像、つまりどういう働き方になるのかを策定しました。
もう少し具体的に共創ワークショップで実施した内容を見ていきます。

図2:共創ワークショップ(ユーザージャーニー設定、ペイン・ゲイン抽出)

図2:共創ワークショップ(ユーザージャーニー設定、ペイン・ゲイン抽出)

共創ワークショップでは営業部門を交え、まずユーザー観点での思いや大変さを仮設設定し、働き方「改革」すべき重点部分を抽出します。

図3:共創ワークショップ(ユソリューションアイディエーション~スケッチ)

図3:共創ワークショップ(ユソリューションアイディエーション~スケッチ)

次にそれをもとに、ソリューションのアイディエーション(※3)、優先順位付け、営業がどのような働き方になるべきなのかをスケッチします。

図4:共創ワークショップ(コンセプトボード)

図4:共創ワークショップ(コンセプトボード)

その後、営業が抱く働き方には何が必要なのか、どんなことが実現できるのかを可視化する「コンセプトボード」を作成。これによりIT部門だけでなく営業部門など、職域を超えて一つのことを検討できる仕組みを構築しました。

(※2)

ユーザーが何かしらの目的を達成する際、減らしたい(排除したい)要素のことを「ペイン」、増やしたい要素のことを「ゲイン」という。

(※3)

新しいアイデアを生み出していくクリエイティブなプロセスそのもの

事例(2)SUBARU様:次期「マイスバル」コンセプトアイディエーション

アプリケーションであるマイスバルの更改に向けて、短期的な視点での改善にとどまらず、長期的に「次」のマイスバルアプリのあるべき提供価値を探りたいという要望に応えるため、デザイン思考のプロセスを活用しました。

まず、自動車メーカーのアプリだけでなく海外ソリューションや他業界などの先進事例だけでなく、ブランドロイヤルティや顧客体験をテーマに事例をリサーチします。そして早期に上位層を巻き込んだ共創ワークショップを実施することで、合意形成と意思決定をスムーズに実現しました。さらにそこで合意形成されたアイデアをビジュアルに可視化、アイディエーションするサイクルをクイックに回すプロセスを構築しました。こうすることでユーザーへの検証ポイントを明らかにしていきました。

図5:ソリューションリサーチ

図5:ソリューションリサーチ

リサーチは単に自動車業界だけではなく、ターゲット顧客層のクルマ購買の意思決定に関するフェーズを整理しながら「マイスバルアプリにおいて、どのような関連性が得られるべきなのか」を軸として行いました。そして図5のようにデジタル接客、オフライン、ファン化、感動体験の4軸でカテゴリーを定義しながらリサーチしていきました。

図6:ワークショップ

図6:ワークショップ

前述した4つのカテゴリーによるリサーチ結果を基にしながら、上位層やディーラー部門を交えワークショップを実施しました。ひとつのペルソナを作り、感情の流れも踏まえながら最も解決すべきペイン・ゲイン、顧客の困りごと、期待していることを選定しながら次期マイスベルに必要なアイデアを検討。そのアイデアをラフスケッチにしオンライン上で共有しながら検討を重ねていきます。新しい顧客体験の定義とアイデアを可視化したプロトタイプとブレストのサイクルをクイックに実施することで、新しい顧客体験の定義検証ポイントを明確にしていきました。

図7:クイックプロトタイピング

図7:クイックプロトタイピング

3視点で捉えるデザイン思考のベネフィット

ここで冒頭に述べた、デザイン思考がもたらす大きな3つのベネフィットを再掲します。

1.共創によるプロジェクトメンバーの合意形成
2.部門サイロ化の打破
3.可視化と検証から素早く形にする

前述の2つの事例ではこの3つのベネフィットがもたらされました。このベネフィットは、「先進的な取り組みのリサーチを実施しつつ、実際に巻き込むステークホルダーを検討していきながら具体案を可視化する」プロセスの結果として得られたものです。
例えば「1.共創によるプロジェクトメンバーの合意形成」は、ワークショップなどで共に作るプロセスをプロジェクトメンバー間で踏むことで、スムーズな合意形成と意思決定が得られました。ここでのポイントは仲間意識の醸成や味方づくり、上位層を巻き込むことで上位下位レイヤーを崩し、合意形成をスムーズにすることです。
また、ユーザージャーニーの体験価値を向上させるためには営業やマーケティング、コールセンターなど部門を超えたサービス企画の検討が不可欠です。そのため部門のサイロを超えた1つのモノで話し、同じ方向を見てお互いの異なる価値観を共有できるようになり、「2.部門サイロ化の打破」が実現しました。
さらに、何となく出たアイデアでも、その場のポストイットだけに留めておかず認識を合わせ、ユーザーにとって明確な提供価値になり得るのかを確認しながら前に進むことが大事であることを理解すること。そして、アイデアをラフに作りながら、みんなで理解し少しずつ前に進ながら実感を得ることで、「3.可視化と検証から素早く形にする」ことができるようになったのです。

求められるDesign Opsにある4要素

ここまで述べてきたデザイン思考のプロセスから得られる3つのベネフィットを「よりあたりまえに、先進的に」提供するためのNTTデータの取り組みをご紹介します。

図8:デザインシンカー

図8:デザインシンカー

3つのベネフィットを得るために必要なのは、デザイナーと共にチームの中でハブとなりデザイン思考を推進する人材です。これをデザインシンカーと呼んでいます。デザインシンカーは、クライアントとデザイナーのコミュニケーションや、デザインデリバリー(※4)の齟齬を埋め、共創プロセスをより価値あるものに仕上げていきます。NTTデータでは、デザインシンカー育成のためサービスデザインプロセスの要所を、講義と実習形式による体験や学習を通じて提供しています。

このような育成の先にあるものとしてNTTデータが考えているのが「Design Ops」です。Design Opsの役割は、今後デザイン思考活用が拡大したときのデザイン価値と影響を増大させるため、人材とプロセス、プロダクトを組織化して最適化することです。今後、企業内のプロダクト部門などでデザイナーの内製化が進んでいくことになるでしょう。ただ、組織としてデザイン思考の運用を最適に進めるスキームが整わない懸念があります。そこにDesign Opsが組織やプロジェクトを通しデザイナーを支援することが求められてくると考えています。
Design Opsには4つの要素があります。

1.People=デザイナーの採用、育成、配置
2.Workflow=ワークフロー、プロセスの最適化
3.Governance=デザイナー管理とプロセス評価
4.Tools&Infrastructure=デザイナー環境の設定

です。

図9:デザインシンカー=Design Opsを担える人材

図9:デザインシンカー=Design Opsを担える人材

この4要素を実践し推進する人材が求められています。このような企業内のデザイン組織やその機能を担う人たちを支える人材として、またDesign Opsを担える人材としてデザインシンカーが求められていくことは間違いありません。NTTデータはこれからのデザイン思考実践に欠かせない人材育成に力を入れ、企業のデザイン思考実践をサポートしていきます。

(※4)

デザインが作成から開発段階に移行すること

NTTデータのデザイナー集団「Tangity」

NTTデータは、世界11カ国に17のデザインスタジオを設けており、「NTT DATA Design Network」として、各デザインスタジオのノウハウを共有しています。このうちイギリス、イタリア、日本、ドイツ、中国の5カ国のデザインスタジオを統合し、デザイナー集団ブランド「Tangity」を2020年6月に立ち上げました。これは業界や技術にとらわれず課題定義と解決を多角的に検討するグローバルデザインチームです。NTTデータは、Tangityの活動やデザイン人材育成、Design Ops支援を通して、デザイン/ビジネス/テクノロジーそれぞれの観点から新しい価値を生み出していきます。

図10:Tangity

図10:Tangity

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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