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2022.3.22業界トレンド/展望

デジタル化社会の進展とペイメントの方向性

決済手段はクレジットカードからスマホ決済などへと多様化し、決済端末は接触端末からネット決済へと進化している。また、購買行動はECで注文し店舗で受け取るなど、オンラインとオフラインがシームレスにつながってきている。このようなデジタル化における構造変化やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の投入がどのような影響を及ぼすか、今後のペイメントの方向性を探る。
目次

ペイメントの歴史的変化と現状

図1:日本におけるキャッシュレス決済比率

図1:日本におけるキャッシュレス決済比率

日本のキャッシュレス比率は、経済産業省の資料(2021年8月)によると、2015年の18.2%から20年には29.7%と増えており、順調に成長していることが分かります。内訳は、クレジットカードが8割近くを占め最も多く、続いて電子マネー、デビットカード、QRコードとなっています。余談ですが、利用が最も多いクレジットカード決済の起源は1950年代ごろのことで、実業家と弁護士が会食した時に財布を忘れてしまった。これがきっかけとなり、現金が無くてもつけ払いで食事がとれる仕組みを作ったことだといわれています。
さて、このクレジットカード決済の最大の特徴は与信により多くの加盟店でキャッシュレス決済を行えることで、この仕組みには加盟店、消費者双方にメリットがあります。

  • 加盟店のメリット:機会損失が抑制できるほか、良質な消費者の集客を行える。
  • 消費者のメリット:現金を持ち歩かなくても買い物ができ、マンスリークリアならば無金利でポイントも付与されるだけでなく、取引トラブル時の補償なども得られる。

こうしてクレジットカード決済が普及しましたが、デジタル化により電子マネーによる決済、スマホ決済などへの決済手段の多様化が進んでいます。加盟店側もクレジットカードを直接読み取る接触決済端末から非接触決済端末、そしてネット決済へと進化しています。

図2:消費者接点の変化

図2:消費者接点の変化

さらに、ネットワーク技術やデータ処理速度が高度化し、与信から清算までのサイクルがリアルタイムで実現できるようになってきました。これにより、消費者がApple PayやGoogle Payなどの新興決済スキームとダイレクトにつながったり、決済代行事業者が加盟店に対して既存のクレジットカード決済サービスをワンストップで代行したりということが起きています。

購買行動の変化からリアルタイムペイメントへ

クレジットカードの取引は、物理的なカードを使用して主に店舗で行われ、その際の与信や売り上げはネットワークを介して電子データでデジタル的に処理されています。買い物などでクレジットカードを使用するには、店の端末で電子的な情報を読み取りデジタル情報で与信や売り上げ処理を実施。その情報は、カード会社や金融機関に中継され、そこで与信判断を行い店に返答することで最終的な決済が行われます。

このように利用者の目に見えないところで電子データでのやりとりが行われクレジットカード決済が完了します。この仕組みがEC取引の拡大を促進したといえるでしょう。最初からデジタルで取引されてきたクレジットカード決済は、店舗で行われた処理を拡張する形でECでもそのまま適用できたのです。日本のEC市場は20兆円近い取引額になっており、さらに拡大することが想定されています。

図3:EC取引の伸長

図3:EC取引の伸長

最近の購買行動の変化として注目すべき点は、オンラインとオフラインがシームレスになってきていることです。ECで注文し店舗で受け取るなど、高い即時性が加わりました。また、顧客識別は、物理的なカードからスマートフォン上のウォレットに代わりつつあり、本人情報がウォレット内に格納され決済できるようになってきました。今後さらに消費者の接点がデジタルとなり、店舗側のオンライン・オフラインの統合が図られると、購買活動はデジタルの中にすべて統合されていくことが推測されます。

購買行動の変化に伴い、ペイメントにはお店のレジ端末、モバイルとモバイル間の送金などの対応、EC拡大によるPayPalなど送金への対応が求められ、それらを統合する決済プラットフォームが必要となるでしょう。
最近ではモバイルのみで決済ができる仕様も登場しました。従来の決済端末は特別な決済仕様を備えていましたが、非接触の決済が浸透するとともに一般的なデバイスでも決済が可能になってきています。今後は、特別な端末を使わずアプリケーション上で決済できる世界が広がっていくことになるでしょう。

このように進化するペイメントですが、加盟店のコスト・金利負担や清算までのタイムラグが課題です。イギリスでは、国がリアルタイムペイメントの基盤を構築し、その上に購買決済、送金アプリを乗せていくことで決済の最適化と利便性を高めています。インドでは、モバイル普及率が高い国の特徴を生かし、参加銀行と決済システムを横断的に活用できるUPI(支払インターフェース)を利用した決済の利便性向上が図られています。

デジタル化が導くペイメントの未来

デジタル化が進行することにより多様で細分化した情報がリアルタイムで共有されることになり、消費者と消費者接点プレイヤー(※1)、流通サービス業、製造業がダイレクトに情報がつながる関係性が出てきます。そうなると各エンティティ内の意思決定の精度があがり、社会生活全般が効率化された世界になっていくことが想定できます。

図4:デジタル化が示す世界

図4:デジタル化が示す世界

一方、決済システムは、消費者体験の高度化や加盟店における多様な消費者接点への対応、入金早期化、低価格化など、さまざまなボトルネックを解消するように進化していくと考えられます。また、CBDC(中央銀行デジタル通貨)などの通貨システムの進化と連動し高度化していくことも考えられるでしょう。

消費者の購買接点は、音声認識、オーダーボタン、生体認証、Iotデバイスなどに多様化が進んできます。これに対応するために決済として、最終的にIDベース、もしくはTokenベースの決済が普及していくでしょう。また、消費者が希望する場所で適切な価格の商品・サービスを受けられるよう、消費者と加盟店のタッチポイントがデジタルでつながっていくと考えられます。

消費者と加盟店をデジタルでつなげるためには、加盟店を支援するPSP(決済代行事業者)が重要です。PSPがマルチペイメント化、Omni化、マーケティング、キャッシュレスマネジメントなどにより加盟店をトータルで支援する必要があります。

図5:PSP(決済代行事業者)からの支援

図5:PSP(決済代行事業者)からの支援

またリアルタイムペイメントを実現することで、加盟店は即時に資金を受け取ることができ、与信リスクがないためコストが低下します。既存のクレジットカード決済にある加盟店手数料の高さや加盟店の資金繰り負担などの課題についても、リアルタイムペイメントで解決することができます。

(※1)消費者接点プレイヤー

たとえばモバイルデバイスなどを供給するGoogle社やApple社、モバイルワレットを提供する通信事業者やPayPayなどの決済事業者など。

現状に固執せず未来志向の決済を創造

CBDCによる効用を考えてみたいと思います。CBDCが紙幣や硬貨と同様に強制通用力を保持する場合、加盟店は無料もしくは低コストで電子的な決済が利用可能になることが考えられます。

CBDC投入が行われると、既存の決済手段は不要になるのではという見方ができるのですが、必ずしもそうなるとは思いません。民間マネーとCBDCとの間で使い分けがされると予測できるからです。リワード(※2)を選好する消費者は民間マネーを選ぶでしょうし、そうでない人はCBDCを選ぶでしょう。加盟店は経済性の観点からCBDCを選好し、民間マネーは送客部分だけに限定され、民間マネー、CBDC、現金を使うなど各層が混在していくことが十分に予想できます。現実的に考えれば、中長期的に見通すとCBDCなどの投入余地はあり、既存のペイメントなどと合わせて利用されていくことが想定できます。

決済手段は今後、現状の課題解消のためリアルタイム化する世界へと移行し、次にCBDCなどの価値の交換の世界へという流れが起き、既存のペイメントなどとあわせてCBDCも利用されると考えられます。

図6:CBDCの今後の進化

図6:CBDCの今後の進化

このように進化していくペイメントには、ボトルネックが3つあります。1つ目は「正しい人(本人)の取引であるか」。本人識別、本人認証の精度が高くないと決済システムそのものの信頼性が低下してしまいます。諸外国ではデジタルによる本人識別が整備され、決済取引に用いられる段階での本人認証への接続が実施されています。日本ではプライバシーのコントロールと同時に整備する必要があり、社会システムをデザインするためのポリシーが不可欠となります。
2つめは「選択可能性」です。決済手段の選択が排他的に行われるような環境は排除すべきであり、独占された状態は競争環境を失いコスト増になります。Appleの事例をみると、かつてはAppStoreでの決済でサービス事業者に30%の手数料を科していましたが、今は手数料を下げ支払い方法を柔軟化させています。こうして消費者が好きな決済環境を選べるようにしていかなければなりません。
3つ目は「利用しやすい環境」。流通システムを効率化しながら整備を進める必要があるためAPIなどによる柔軟な接続や物理的な仕組みの置き換えが必要です。また、せっかくデジタル化し電子決済となっていてもレシートや利用控えが紙で出力されています。これでは電子的な処理の利便性を損なうことになります。紙の出力ではなく電子化するなど、すべてデジタルで完結させる取り組みも行わなければならないでしょう。

来るべき新しい世界に対応するための決済システムは、これまで市場側のドライブで変化を遂げてきました。今後はデジタル化の進行により決済プレイヤーの役割・価値の再定義、社会デザインの将来設計、決済システムの再構築が必要になってきます。既存の仕組みに固執せず、関係各所との協調・競争を通して消費者に最適な未来志向の決済を創造することが重要です。

(※2)リワード

商品やサービスを購入したり、資金集めに寄付をしたり、あるいは、立候補者のために時間を投資したりするたびに得られる何らかの価値。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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