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2022.3.30事例

シオノギにおけるIT・デジタル人財開発のリアル~デジタル人財化計画 #3

日本を代表する製薬企業『シオノギ製薬』。その現場にも、IT・デジタル活用によるパラダイムシフトが到来し、デジタルメディスンによる治療や予防、RWD活用による新薬開発など「創り・造り・売る」のあらゆる場面で、DXの推進が求められている。

この連載では、全4回に渡りNTTデータの人財育成施策にフォーカス。第3回となる今回は、お客さま人財をデジタル人財へ育成する取り組みの事例として、シオノギグループの全社規模の新たなDX推進研修を紹介。試行錯誤しながらデジタルシフトに取り組む過程、効果を取り上げる。
目次

シオノギグループのデジタルシフトを支えるNTTデータユニバーシティ

NTTデータグループは、NTTデータ社内のデジタル人財育成施策をベースに、社内制度改革を含めた企業向けDX支援サービスを提供している。その中で、社内外に人財育成サービスを提供しているNTTデータユニバーシティとともに、デジタルシフトを支える人財育成に取り組んでいるのがシオノギグループだ。

多くの日本企業はDX推進にあたり、「どういった人財が必要で、どう育成し評価すれば良いのか分からない」といった課題を抱えている。NTTデータユニバーシティ 代表取締役社長の藤原 慎は、「日本のDX成功率は高くありません。人や組織、文化という面で、準備が整っている企業が多くないからです」と語り、こう続けた。

図1:DX成功のカギ=人・組織・文化

図1:DX成功のカギ=人・組織・文化

「企業がお客さまに新たな経験を提供するためには、提供する自らの組織がデジタル変革しなくてはいけません。プロダクト創出による顧客体験の変革と、内部変革を両輪で回すことが必要です」(藤原)

そのためにNTTデータグループでは、企業内でDXを進める組織を支援する仕組みを提供している。これは、NTTデータグループが自ら培い、グループ内で実際に運用し、体系化したものだ。藤原は提供サービスのひとつである「トレーニング」を例に挙げて、こう話す。

「NTTデータユニバーシティが提供しているトレーニングでは、お客さま企業の社員に対して、新しいことに取り組む理由を提示します。目的は、ミッションやゴール、行動指針を明確にして、納得感を持って取り組んでもらうこと。お客さまと相談して必要な施策を探り、その施策のなかでどういった研修を受けてもらうかを決めていきます」(藤原)

その具体的なサービスが『Dive in DX』だ。対象は、IT部門などのテクノロジーサイドと、事業部門をはじめとしたビジネスサイドの両面におけるリーダー層とメンバー層。DX推進にはビジネスとテクノロジーが一体化することが不可欠だ。DXを推進し、新たなビジネスを創造していくため人財育成、組織開発における最新のニーズを取り込んだ研修プログラムを実施している。

図2:Dive in DXの体系

図2:Dive in DXの体系

この『Dive in DX』を活用しているのが、シオノギグループだ。ここからは、シオノギグループのIT・デジタル人財開発に話を移す。

DX実現のためには、全従業員の受講で企業全体を一気に変える

シオノギグループは2020年度に中期経営計画『STS2030~Shionogi Transformation Strategy 2030~』を定めた。
「ビジネスを大きく変革して、新しい会社の姿になっていくという決意。実現するために重要なのが、IT・デジタルの活用、いわゆるDXです」と力を込めるのは、シオノギキャリア開発センター 代表取締役の淺木 敏之氏だ。そのためにシオノギグループでは、2021年7月からDX推進本部を新設し、全社でIT・デジタル教育、DX教育を展開している。

「DX教育を展開するためには、教育によって育てるべき人財像や教育プログラム、研修のテーマ、教育プログラムの対象者、運営体制などの準備が必要でした。全てゼロから作り上げるつもりで、試行錯誤しながら取り組んでいます」と淺木氏。それぞれのキーワードについて語った。

シオノギグループのDX改革に必要な人財は、「IT・デジタル活用での変革立案とデータを駆使した課題特定ができる。そして、小規模でもいいので、変革構想を検証できる人」(淺木氏)。そのような人財を育てるため、NTTデータユニバーシティとともに研修を進めているという。図3がその構成になる。

図3:2021年度シオノギ全社向けIT/デジタル教育構成

図3:2021年度シオノギ全社向けIT/デジタル教育構成

「シオノギグループの研修を大きく分けると、マネージャーが受講する研修と全従業員が受講する研修の二種類。どちらにも、必須研修と選抜・公募研修があります。加えて、選択制で受講できるプログラムも準備。5,000名超の従業員に対応できるよう、集合研修やe-Learning、外部受講を使い分けています」(淺木氏)

全従業員の受講にこだわったのは、DX実現のために全社が一気に変わる必要を感じたからだ。ここでは、セキュリティや情報処理と言った基礎的なリテラシー講座が準備されている。また、IT・デジタルスキルの知識が乏しく、キャッチアップが必要な人財に対してはリスキルプログラムなどを準備している。

「まずは全従業員に、IT技術を活用した新業務を自律的に実践できるようになってもらうことが目的です。さらにマネージャーは、DX事例やDXマネジメントに関連する知識を持って、マネジメントができるようになってもらいます」(淺木氏)

これらの施策は、決してスムーズに進んだ訳ではない。シオノギグループのDX改革に向けて、DX推進本部がIT・デジタル人財開発に踏み出したとき、社内からはこのような声も聞かれた。

「DX人財になれる従業員がどれくらい存在しているのか。実際にはほとんどいないのでは?」

しかし、淺木氏はそうは思わなかった。「各部署に、ポテンシャルがある人財は必ずいるはずだ」と信じて、まずはDX人財候補の見える化に着手した。

「キャリア志向やIT関連資格の有無、ITツールの活用実績などのデータを元に従業員をスコア化しました。その結果、デジタル系の部署以外にも、素養のある有望人財が散在していることが見えてきたのです。まだ試行錯誤の段階ですが、こういった有望人財を選抜型研修でトレーニングしてコア人財へと育て、部署全体のレベルや意識の向上につなげようと考えています」(淺木氏)

図4:DX人財候補の見える化

図4:DX人財候補の見える化

研修で出た良いアイデアは、実際に社内改革に活用される

では、従業員5,000人超の大組織が、実際にはどのようにして全社向けのIT・デジタル活用の研修を動かしているのだろうか。

シオノギグループにおけるIT・デジタル活用の教育、研修を統括するのは、淺木氏が代表を務める『シオノギキャリア開発センター』だ。ここを事務局として、シオノギグループ各社から各部署の代表者が集まって、グループ全体での人財育成の方針や進め方を議論しながら取り組んでいる。

「さまざまな部署が関わって運営することこそ、シオノギグループが変わるために一番大事なことだと思います」と淺木氏。一人ひとりのDX人財への羽ばたき(成長)が大きな波となって会社全体が変身していくようにとの想いから名付けられたこのプロジェクト『AGEHA』には、NTTデータユニバーシティを始めとした外部ベンダーも携わっている。淺木氏は「丸投げではなく、協働での制作・実施です。外部ベンダーには、研修コンテンツの作成や講師、従業員の評価などをお願いしています。我々は、コンセプトの立案や受講者の選抜、外部ベンダーへの弊社ビジネス情報のインプットなどを行っています」とそれぞれの役割を語る。

図5:外部ベンダーとの役割分担

図5:外部ベンダーとの役割分担

では、具体的には、どういった研修プログラムが行われているのか。一例として、まだマネージャー職ではないが、将来のリーダー候補となる従業員を対象にした選抜研修として、『DX立案研修』がある。

まず、事務局が取り組んだのは、受講者の選抜。各組織からの推薦に加えて、やる気のある従業員からの公募も受け付けた。「非常に多くの応募があったので、テストや課題を課して数十名の精鋭を選びました」と淺木氏は語る。

『DX立案研修』で習得を目指すのは、「ビジネスとして変革の立案と実施ができる能力」「技術を実際に活用できる能力」「チームを作り動かせる能力」。これら3つをバランスよく学び、IT・デジタルを使って何をしたいのか、何を変えたいのかを明確にして、具体的な変革案を提案・検証できるようになることが目的だ。

『DX立案研修』と並行して、マネージャー向けには、『DX実践マネジメント研修』が実施されていた。このふたつの研修を連携させてシナジーを生み出す工夫もある。

「研修自体は別々に行いますが、マネージャーはリーダー候補のメンターとなり相談に乗る仕組みを構築。互いに助言し合うことでつながりが生まれた結果、『DX立案研修』では最終的に10個の改革案が提出された他、『DX実践マネジメント研修』では受講マネージャー全員がITデジタルを活用した自組織/業務の変革立案に取り組み、外部講師より検討過程とポテンシャルが優れたアイデアとして5件が挙げられました」(淺木氏)

提案された変革案は、研修用に提出して終了ではない。有望な提案に関しては、DX推進本部や関連本部でのアイデアオークションを経て実装化に向けたコンセプト検証作業へ進めるといった出口を確保する。淺木氏には、「研修で良いアイデアを出しても何にもつながらない、という話はよく聞きます。しかし、シオノギグループを変えるため、本当に良いものはなんとか形にしたい」との思いがあるという。

図6:研修スケジュール

図6:研修スケジュール

腐心したのは、研修後に行う受講者の評価である。「研修でどの程度DX人財に近づけたのか。どうポテンシャルが伸びたのか。これらの正しい測定は、大きな課題だと思っています」と率直に述べる淺木氏。その解のひとつとして活用を検討しているのが、前述した『従業員のスコア化』だ。『デジタル×イノベーティブ』軸と『スキル×志向・will』軸を定め、研修前後の変化について測定する手法を模索中だという。

図7:『デジタル×イノベーティブ』軸での受講者アセスメントの実施(株式会社エクサウィザーズの提供するexaBase DXアセスメント&ラーニング)

図7:『デジタル×イノベーティブ』軸での受講者アセスメントの実施
(株式会社エクサウィザーズの提供するexaBase DXアセスメント&ラーニング)

既存の業務変革と新規ビジネス創出、攻めと守りのバランスが重要

最後に淺木氏は、この1年間の取り組みを振り返って、今回の話を総括した。

「会社によって、実際に求める人財像やIT・デジタル活用の姿は異なります。一見、遠回りで面倒かもしれませんが、専門ベンダーの考えやアイデア、コンセプトも参考にしながら、自社なりの戦略構築に取り組むことが大事だと考えています。戦略構築のために我々は、業務プロセスを分解し、それぞれで必要な能力や経験スキルを考えることから始めました」(淺木氏)

また、人財に関して淺木氏は、「外部から専門人財を登用したり、全てを外部委託したりするだけではDXの実現は難しい。社内業務を理解していることも、変革を進めるうえで非常に重要。一見不在に見えても、DXの素養を持つ人財は社内に散在しています」と語る。

研修プログラムに関しては、特定の小さなところから始めるより、優先度をつけつつ、階層やテーマに応じた複数のプログラムを並行して展開すべきだという。「その研修で出てきた現場課題の解決方法などは、成果物として会社のDX推進戦略に反映させることも重要」と淺木氏はいう。

「ただし、変革提案に関しては、どうしても新規ビジネス創出に寄ってしまいがち。既存の業務変革と新規ビジネス創出、攻めと守りのバランスがとれたアウトプットを心掛ける必要があります」(淺木氏)

そして淺木氏は、「全社のDX実現には、デジタル部署だけでなく、人事や教育、経営企画、R&D、製造も含めた直接部門まで、全ての部署の社内連携がなによりも重要」とも語った。

お客さまのDX人財育成をサポート

NTTデータでデジタル人財育成を担当する人事本部 人財開発担当の下川は、「DX人財育成は何から手を付けて良いかわからず、とりあえずデジタル技術を使いこなせる人財の育成に目が行きがちです。シオノギグループ様のように、まず自社のDXとは何か、なぜ必要なのか、何を目指すのか、これらを明らかにし、そのうえで戦略推進のために必要な人財を定義すると、本質的な課題の解決につながります」と語る。

また、人財育成は研修受講に留めず、実践につなげることでポータブルスキルとして定着化するという。「シオノギグループ様のように、初めから研修のアウトプットを実務に反映させるよう設計することで、受講者のモチベーション向上やアウトプットの実効性を高める効果が期待でき、より実践的な育成が可能となります」(下川)

さらに、「社員の意欲やスキルをスコア化し、データドリブンで対象者選出や効果検証を行っている点も特徴的。近年採用や育成効果を高める手法として、ピープルアナリティクスの取組が広がっていますが、今回のスコアデータを他の人事データとも組み合わせて分析することにより、さらなる配置・育成への活用が期待できるでしょう」とも語った。
NTTデータは今後も、自社での取り組み成果をもとに、お客さま人財育成や組織改革に貢献していく。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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