- 目次
「国内7社統合」「コロナ禍」の先にリクルートが描く理想のICT環境
人材、不動産、旅行、教育などのライフイベント・ライフスタイル関連事業のほか、お客さまのビジネスを支援するBtoBサービスの提供など、幅広い分野で事業を展開するリクルート。これまでは事業ごとに分社化していたが、2021年4月に統合し、総従業員数約1.7万人を抱える1つの会社になった。
統合を機に見直すことになったのが、社内のICT環境の整備だ。分社化していた頃も共通化はしていたものの、各社でネットワーク、端末、システムは異なる部分もあった。そこで、統合にあたってICT部門が1つにまとまり、改めて新生リクルートとしてのICT環境の構築に取り組むことになった。
また、ICT環境を見直すことになった背景には、働き方改革の推進によって必要なインフラが変化してきていたという事情もある。統合以前、各地に拠点が点在しているリクルートでは、リモートワークを実現するためにVDIと呼ばれる仮想デスクトップ環境を構築して運用していた。しかし、コロナ禍でリモートワークが普及し、ビデオ会議が増えたことで、ネットワークへの負荷が高いVDIだけでは柔軟な働き方を実現することが難しくなっていたのだ。
こうした背景をふまえ、ICT環境の整備に取り組むにあたってリクルートがめざしたのは、今ある課題の解決だけでなく、5~10年先の未来を見据えた次世代のICT環境を構築することだった。リクルートのICT統括室で社内のインフラ構築をリードしている石光直樹氏は次のように語る。
株式会社リクルート ICT統括室 インフラソリューションユニット インフラソリューション部 部長
石光 直樹 氏
「リクルートには、個を尊重するカルチャーが強く根付いています。多様なバックグラウンドを持つ人がお互いを尊重しあい、とことん議論して新しいものを生み出していく文化がある。そのために、会社として一人ひとりに活躍できる機会を提供し、働きやすい環境をつくろうと考えました。理想の働き方は人によっても、業務内容によっても異なるものです。ICT環境の構築においても、会社のシステムが個の制約になってしまうことなく、高度なセキュリティとガバナンスを実現する。そして多様な人材が時間や場所にとらわれずに働き、お客さまに価値提供できる環境をつくるためには何が必要かを考えるところからスタートしました」(石光氏)
コラボレーションを加速させるオープンな環境をめざして
多様性を重視し、個が活躍できる働き方の実現をめざすリクルートでは、現在、「CO-EN(公園、Co-Encounterから生まれた造語)」というコンセプトビジョンのもと、社内外や事業の垣根を越えてコラボレーションが生まれる場づくりを進めている。会社を、好奇心を起点にしてさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まる場にする、との思いが込められているという。
「社内外問わずオープンな環境で、多様な個が自律的に、生産性を発揮して働く環境をつくるためには、ICT環境の整備が欠かせません。外部の方とでもセキュアに議論や共同作業がしやすい環境を整えていくことが必要です。近年はさまざまなクラウドサービスが出ているので、使えるものはどんどん使っていくべきだと考えています。今後はパソコンやタブレットだけでなくVR、ARも出てきますし、AIの活用も増えていくはずです。この先10年を考えたときに必要な機能やデバイスを導入しやすく、拡張しやすいベースとなるワークスペースの構築が必要でした」(石光氏)
一方で、ガバナンスの観点も忘れてはいけない。
「時間や場所にとらわれずに働ける環境となって発生するわかりやすい問題に長時間労働があります。会社として守らなければならないルールはきちんとガバナンスをかけたうえで見守り、担保しながら、多様なデバイスやサービスの利用が可能な環境をめざしています」(石光氏)
セキュリティやガバナンスを保ちながらクラウドベースのオープンな環境をつくる。この理想のICT環境を構築するにあたり意識していたのが、世の中のスタンダードやトレンドを踏まえた仕組みづくりだ。そこで、プロジェクトのパートナーに選んだのがNTTデータだった。
「ICT環境の構築においてはあまりリクルート独自路線に振り切らない方がいいと考えていました。ガラパゴス化することを避けるためです。社内インフラの将来像は押さえたうえで、世の中のスタンダードにあわせていく。そのためには、ICTトレンドに詳しいパートナー企業の協力が必要です。そこで相談したのが、この領域に知見のあるNTTデータでした」(石光氏)
リクルートの依頼に対し、NTTデータが提供したのが、多様な働き方や業務効率化を実現するためのワークスペースのコンサルティングや、ツールの導入・利用支援をトータルに提供するサービス「Workstyle Invention®」だった。NTTデータでデジタルテクノロジーディレクター®(※)としてリクルートのプロジェクトに参加した岩本拓也は、次のように話す。
テクノロジーコンサルティング事業本部 デジタルテクノロジー推進室 主任
岩本 拓也
「最初にお話を伺ったときに、リクルートとして理想とする働き方のイメージを明確にお持ちだという印象でした。しかし、クラウドを前提とした環境を構築するにあたって必要となるソリューションのノウハウの点でお手伝いできる余地があると感じました。NTTデータ自体もクラウド利用を前提としたインフラ環境にシフトしていて、私もその社内ICT環境の整備に携わっています。そこでの経験もふまえ、今後のトレンドを見据えて最適なICT環境をご提案できると思ったからです」(岩本)
お客さまの立場でビジネス変革を支援する、デジタル化(DX)に必要な幅広い技術知識をもつコンサルタント。デジタルテクノロジーディレクター®
豊富な導入実績やトレンド分析に基づき、最適なソリューションを組み合わせる
NTTデータが提供する「Workstyle Invention®」では、お客さまの課題やニーズを踏まえ、最適なソリューションを組み合わせることで、働き方改革を変革するICT環境の構築を提案していく。ワークスペースのモダナイズに関するグランドデザイン策定などの上流工程から、最適なツール選定、導入・利用促進まで一気通貫で対応していくサービスだ。
具体的には、アセスメントやワークショップを通じてFit&Gap分析をしたうえでのロードマップ策定支援や、コミュニケーション基盤・アクセス監視基盤・データ共有基盤などで最適なソリューション選定・導入を支援する。また導入後には、導入済ツールの高度活用検討や運用自動化などのアップデートを行う。
「『Workstyle Invention®』の一番の強みは、特定のソリューションや製品に限定されていないことです。製品ありきのコンサルティングではないため、インフラ領域の専門家が幅広いソリューションから、お客さまの課題解決に最適なソリューションを組み合わせて提案できます。また、外部機関のレポートを分析して技術トレンドをふまえていることに加え、NTTデータ全体でさまざまなニーズを抱えるお客さまにサービスをご提供している実績もあります。これらをふまえ、お客さまが今後どういう働き方を実現したいかという未来の仮説を立て、バックキャストで必要な提案をしていくという方法でご支援できます。
特に本プロジェクトにおいては、クラウド利用を前提としたICT環境へのシフトという文脈において、NTTデータ自身での実績や、さまざまなお客さまを支援してきた知見を生かすことができました。具体的には、アーキテクチャのパターンや製品選定プロセスなどに関する事例・知見がたまっていたことで、本プロジェクトにおける最初のポイントであった全体アーキテクチャ策定をスムーズに進めることができました」(岩本)
NTTデータがリクルートのプロジェクトに参加したのは、2021年4月のこと。リクルート内で「時間や場所にとらわれずに働けて、10年後を見据えたICT環境を整える」という構想が出来上がり、具体的な施策へと落とし込むタイミングだった。
NTTデータではリクルートとディスカッションを重ね、構想に基づいてICT環境のアーキテクチャを描き、どういうソリューションをどういう順番で入れていくかなど、具体的な提案をしていった。
「一度にまとめてソリューションを導入し、既存環境から一足飛びに変化するのはハードルが高く、リスクもあります。そこで、まずは各ソリューションの機能配置を整理し、それらをどのような順で導入していくか、全体のマイルストーンを提案していきました。その次に、各ソリューションの導入計画を月単位に落とし込んでいきました」(岩本)
圧倒的事業スピードの裏側に求められるインフラとは?
現在、プロジェクトはグランドデザインを描き終わり、一つひとつ実装に向けて動いている最中。今は、セキュリティを担保しながら、どこからでもクラウドにアクセスすることのできる、セキュア Web ゲートウェイ(SWG)の導入を進めている。
「まだリクルート従業員からポジティブな反響が届くようなことはありません。インフラ部門の宿命でもありますが、何事もないことが成功の証のようなところがありますから」(石光氏)
「クラウド利用を前提としたインフラを整えることにより、『社内環境に接続するためのステップが最適化・簡略化される』『マルチデバイス対応が進んで利便性が増す』など、徐々に柔軟で快適な環境で業務に取り組めるようになっています。これによって、従業員体験の向上に確実につながっていくと考えています」(岩本)
リクルートでは引き続き、多様な社員を支えていくためのICT環境の実現をめざしていくという。事業展開のスピードが速いリクルートでは、それを支えるインフラも事業成長とともに進化していくことが求められる。石光氏は次のように話す。
「事業の速度を遅らせないために、インフラも同じようにスピーディーに対応していかなくてはなりません。そしてもう1つ大事なのが、インフラに柔軟性を持たせておくことです。事業の進化を妨げるようなことがあってはいけません。変化を受容できる柔軟性の高い基盤を構築しておく必要があると考えています」(石光氏)
NTTデータでは、ソリューションの導入支援に留まらず、より柔軟な働き方をするために必要な施策を含めて価値提供していく考えだ。「Workstyle Invention®」としても、お客さまの働き方自体をデザインしてDXで支えていく取り組みに注力していくという。
「リクルートに限らず、今後もリモートワークやハイブリッドワークはますます活発になっていきます。それに伴い、従業員一人ひとりが時間や場所にとらわれない自由な働き方に対するニーズもさらに高まっていくでしょう。そのような状況でもコミュニケーションをより活発にして、生産性高く働けるよう、バーチャルオフィスやVR会議などのソリューション研究や試験導入にも取り組んでいます。またソリューションを導入するだけでなく使いこなせなければ、結果的にビジネスのスピードが落ちてしまいます。お客さまの働き方をデザインし最新の技術トレンドをふまえて変革の後押しを手助けすることがわれわれの役目。今回描いたグランドデザインの導入完了が最終ゴールではなく、環境の変化、技術の進化を踏まえた上でさらに5~10年先を見据えた構想検討を進めていく必要もあります。
今後も構想フェーズから導入フェーズまでお客さまとともに働き方改革の支援をしていきたいと考えています。」(岩本)