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2023.1.20業界トレンド/展望

「LEAPアプローチ」に沿って企業の自然関連リスクと機会を評価する
~TNFDベータ版v0.3の公開内容から~

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フレームワークは2023年9月のv1.0のリリースに向けて、ベータ版v0.3が2022年11月に公開され、自然関連リスクと機会を評価する「LEAPアプローチ」の全容が明らかになりつつある。TNFDの解説第二弾として、本稿ではLEAPアプローチのうち「評価」フェーズに焦点を当てて解説する。
目次

「自然」に関する最近の動向

世界経済フォーラムからグローバルリスク報告書(※1)の2023年版が公開されましたが、長期のグローバルリスクとして「自然災害と甚大な災害」、「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」、「天然資源危機」の3つの自然関連リスクが上位6位のなかに位置付けられています。こうした「自然」への注目の高まりは8月31日のData Insightにてご紹介しました(※2)が、その後も世界では自然をテーマにした議論が活発に行われています。9月には科学的知見と整合した自然環境へのインパクトに関する目標を設定するためのScience Based Target for Natureの、「淡水(freshwater)」にフォーカスしたテクニカルガイダンスがパブリックコメントのために公開されました(※3)。12月には国連生物多様性条約締約国会議(CBD COP15)がモントリオールで開催され、新たな生物多様性に関する世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されました(※4)。そして、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)についてもベータ版v0.3が11月に公開されています(※5)

(※1)The Global Risks Report 2023, 18th Edition

WEF_Global_Risks_Report_2023.pdf (weforum.org)

(※2)気候変動/TCFDに次ぐ、自然/TNFDの開示の動向

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/0831/

(※3)SCIENCE BASED TARGETS NETWORK; Public consultation on technical guidance for companies

SBTN Public Consultation 2022 – Science Based Targets Network

TNFDベータ版v0.3の主な更新内容

企業が自然に関係するリスクと機会を評価し、開示するためのフレームワークである「TNFDフレームワーク」のベータ版v0.3では何が更新されたのでしょうか。図1にTNFDフレームワークの主な構成要素とベータ版v0.3の最も重要な更新内容を示します。円で示されているTNFDフレームワークの主な構成要素はベータ版v0.2から変更ありません。円の中心に位置する「開示提言」は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Taskforce on Climate-related Financial Disclosure)によって推奨されている、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目を基本とするものです。「リスクと機会、評価アプローチ」はTNFD特有のLEAPアプローチ(※6)のことです。「主なコンセプトと定義」は、TNFDの主なコンセプトや用語の定義です。これらを囲むように、「データおよび指標と目標」と「シナリオに関するガイダンス」があり、さらに「追加ガイダンス」が存在します。

図1:TNFDフレームワークの主な構成要素とベータ版v0.3の最も重要な更新内容(出典:TNFD)

図1:TNFDフレームワークの主な構成要素とベータ版v0.3の最も重要な更新内容(出典:TNFD)

v0.3で最も重要な更新内容とTNFDが位置付けているのが図1の右側に示す内容です。TNFDの早期採用を促すために、TCFDのフレームワークとの一貫性と整合性を持たせるための修正や、TNFDフレームワークがリリースされたときに様々な規模、セクター、管轄区域の企業や金融機関が開示を開始できるようなメカニズムが検討されています。また、LEAPアプローチを構成する「評価(Assess)」フェーズのガイダンスが新たに公表されています。本稿では、v0.3で公表された「評価」フェーズの内容を中心に解説します。

(※6)LEAPアプローチ

TNFDは自然関連リスクと機会を統合的に評価するプロセスとしてLEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチを策定しています。LEAPは、自然との接点を発見する(Locate)、依存関係と影響を診断する(Evaluate)、リスクと機会を評価する(Assess)、自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する(Prepare)の4フェーズから構成されます。

「評価」フェーズの新たなガイダンス

図2にLEAPアプローチを示します。このうち、3列目が「評価」フェーズです。「評価」フェーズに至るまでに既に「発見」と「診断」フェーズを通じて、企業活動と接点を持つ優先地域が特定され、優先地域における企業活動の自然への依存関係と影響が診断されています。「評価」フェーズでは、その診断結果を踏まえて重要なリスクと機会の評価が行われます。

図2:TNFDのリスク・機会評価アプローチ(LEAP)(出典:TNFD)

図2:TNFDのリスク・機会評価アプローチ(LEAP)(出典:TNFD)

まずはリスクと機会の特定を行うことから始まります。図3は自然に関連する依存、インパクト(影響)、リスクと機会のつながりを示しています。自然への依存と影響のいずれからも、自然に関連するリスクにつながる可能性があります。これは、自然への依存と影響が、自然の状態そのものの変化、それに伴う生態系サービスの変化、そしてビジネスによる自然への影響が社会に影響をもたらすことによります。自然に関連する機会については、組織が自然に関連するリスクを回避、削減、緩和もしくは管理すること、または、自然の喪失に歯止めをかけ、回復できるようにビジネスモデル、製品、サービス、市場と投資を戦略的に変革することで得ることができます。自然に関連するリスクは、通常、企業等が考慮しているタイムフレームよりも長い期間で発生する可能性があることから、TNFDは短期、中期、長期で分析して特定することを推奨しています。

図3:自然に関連する依存、インパクト、リスクと機会のつながり(出典:TNFD)

図3:自然に関連する依存、インパクト、リスクと機会のつながり(出典:TNFD)

続いて、企業等の既存のリスク軽減、リスクと機会を管理するための枠組みに、自然に関連するリスクと機会を統合します。企業等によって整理されているリスク項目に、自然に関連するリスクを紐づけていく作業を行います。TNFDでは自然に関連するリスクを、物理的リスク(企業活動の自然への依存によって生じる直接の結果)、移行リスク(企業等もしくは投資家の戦略およびマネジメントと、変化する規制、政策、社会環境との不整合の結果)、システミックリスク(部分的ではなくシステム全体の機能不全によって生じるリスク)の3つに分類して定義しています。自然に関するリスクならび機会をリスク項目に紐づけることで、自然に関するリスクと機会を適切に企業等のリスクと機会を管理する枠組みに統合することができます。

最後にどのリスクと機会がマテリアルで(重要で)優先すべきか分析を行います。リスクと機会を評価するための指標を設定することが必要になりますが、TNFDは「暴露(Exposure)指標」と「マグニチュード指標」の設定を提案しています。ここで、「暴露指標」とは自然への依存と影響に関する定量的な指標で、例えば花粉の媒介者の減少に伴う収穫量の減少や、降雨や洪水の発生頻度などです。「マグニチュード指標」とは、関連して企業等への財務影響を評価するのに用いることができる指標です。表1に「暴露指標」と「マグニチュード指標」の例を示します。

表1:暴露指標とマグニチュード指標の例(出典:TNFDの図表をもとに著者作成)

表1:暴露指標とマグニチュード指標の例(出典:TNFDの図表をもとに著者作成)

ここまでのプロセスから自然に関連する機会とリスクが企業等に与える財務影響を、定量的に表現することができました。続いて、機会とリスクの優先順位をつけるために、それぞれの深刻さや影響の大きさを分析していきます。TNFDは一般的な「頻度」と「影響度」を掛け合わせたリスク分析に加えて、追加的に「脆弱性」や「発生スピード」も掛け合わせてリスク評価を行うことを提案しています(図4参照)。さらに、「自然への影響の規模と深刻さ」、「自然への影響に起因する社会への影響の規模と深刻さ」も用いることを提案しています。

図4:自然に関連するリスクと機会の優先順位をつけるためのクライテリア(出典:TNFD)

図4:自然に関連するリスクと機会の優先順位をつけるためのクライテリア(出典:TNFD)

水産養殖のケーススタディ

さて、「評価」フェーズを掘り下げて解説しましたが、TNFDはベータ版v0.3のなかで、追加ガイダンスとして水産養殖の仮想ケーススタディを公表しています。LEAPアプローチの具体的なイメージをつかむために、紹介します。

Salmon Fresco社はチリでサーモン養殖を手掛ける企業です。サーモンは、生け簀(いけす)等を使って海面養殖されるため、地域の生態系に影響を及ぼします。また、最適な養殖生産環境を確保するために、低水温、保護された海岸線、適した生態環境が必要となります。ケーススタディの内容を表2に要約します。また、「評価」フェーズのマテリアリティ評価では自然に関連するリスクと機会のマグニチュードと発生頻度によるリスクマトリックスから、リスクと機会の深刻さ/大きさを分析しています(図5)。

表2:水産養殖のケーススタディの主要な内容(出典:TNFD)

表2:水産養殖のケーススタディの主要な内容(出典:TNFD)

図5:Salmon Frescoの自然に関連するリスクマトリックス(出典:TNFD)

図5:Salmon Frescoの自然に関連するリスクマトリックス(出典:TNFD)

まとめ

本稿ではTNFDベータ版v0.3の内容を、LEAPアプローチの「評価」フェーズを中心に解説しました。冒頭に記載したとおり自然に関する各種枠組は、次々と公開されています。加えて、温室効果ガスと異なり、自然に関する議論はさらに幅広い専門性が求められるため、公開される情報を読んで理解するだけでも大変な状況ではないでしょうか。

NTTデータでは、めざす姿として「Realizing a Sustainable Future(※7)」を掲げ、私たち自身の企業活動(of IT)とお客さまや社会に対する事業活動(by IT)の両面から社会課題の解決と地球環境への貢献に取り組んでいます。私たちは、デジタル技術を活用し、脱炭素の取組に限らず、お客さまのグリーン経営・事業戦略の策定、戦略を実現するための実行支援を提供していきます。お客さまとともに、サステナブルな社会を実現するために、引き続き自然に関連する情報をみなさまに提供していきます。

(※7)NTTデータのサステナビリティ

https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/

注:TNFDが英語のみで公開している内容を日本語で表現している部分については、著者が翻訳したものであり、TNFDによる公式な日本語訳ではありません。

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