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新エネルギー自動車が牽引する中国自動車市場
2022年の中国の自動車市場は、厳しいコロナ規制の影響はあったものの、政府による各種販売優遇策が奏功し、通年の自動車販売台数は前年を2%上回る2680万台となる見込みです。上半期は、新型コロナ流行の影響を大きく受け、自動車生産および販売の抑制、また半導体チップの供給不足や原材料価格の上昇により、産業全体の回復に遅延が見られました。しかし下半期は、新型コロナの漸進的な緩和と自動車の購入税半減政策の実施に伴い回復の兆し、特に乗用車および部品修理の領域において業績回復の傾向が見られています。
新型コロナにおける影響、および国外競合ベンダー参入によるサプライチェーンへの影響を踏まえても、中国が“自動車大国”のマーケットであることは変わっていません。特に、新エネルギー自動車(以下「NEV」。電気自動車「EV」とプラグインハイブリッドカー「PHV」の合計)の販売量は過去最高記録を更新し、2022年は650万台(前年同期比+95.8%)となる見込みです(※1)。また、輸出も大きく増加しており、特に、環境に関心の高いベルギーや英国等の欧州の国に中国のEVが輸出されています。2023年の予測では、NEVが中国の自動車販売台数全体に占める比率は過去最高の3割を上回ることが予想されています。
図:中国における2021-2025年のEV売上高実績と予想(2022/12/9に中国自動車工業協会が公表)
中国の自動車販売市場全体では、日本やドイツを中心とする外資メーカーが約半分のウェイトを有しています。しかし、このうちNEVに関しては、外資メーカーで上位10社に入っているのは第3位のテスラのみであり、BYD、上海汽車、東風汽車などの中国メーカーが価格面での優位性等により圧倒的なシェアを有している状況です。
EVに必要な車載電池については、2022年1月~9月の中国国内車載電池市場は193.7GWhと前年同期比92.0%という大きな伸びを記録しています。2023年の車載電池生産量はさらに増加する見込みで、2025年までには670GWhに達すると予想されています。なお、日本の軽自動車に相当する中国国内A00クラス車は、2021年に新エネルギーへの移行が概ね完了し、2022年にはA,Bクラス(全長約4,150mm以下の乗用車)が新エネルギー車の主流となります。
一方で、中国国内のNEVの補助金政策は2022年限りで終了とすることが発表され、市場ニーズ主導の段階に入ります。中長期的にはEVの生産増加及び購入コストの持続的低下、また従来の燃料車の生産削減とガソリンスタンドへの投資削減もEV普及を加速させると予想されます。
2022/12/9に中国自動車工業協会が公表
配車サービスの普及・自動運転タクシーの試験営業
NEVの拡大に加え、中国ではITと自動車関連産業との融合も日本より進んでいるといえます。北京等の中国の大都市では、スマホのアプリで車を呼び、降車後にキャッシュレスで支払いを済ませることが常態化しており、こうした配車サービスのサプライヤとしては、「滴滴」(DiDi)が一時は市場を支配してきました。しかし、同社の個人情報収集方法等に関する政府による統制が強化される過程で、大手インターネット企業のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)やデリバリー大手の美団といった企業が提供する地図等のアプリを利用して車を呼ぶことも普及してきています。
こうした配車サービスのほかにも、BAT等各社は自動車メーカーとの提携等を通じて自動運転の実現にも力を入れており、特にバイドゥは、自動運転ソフトウェアプラットフォーム「アポロ」を開発し、自動車会社と提携して自動運転車を生産開始しました。また、これを利用した自動運転タクシーサービス「アポロ・ゴー・ロボタクシー」が、2020年より試験営業を開始し、限定されたエリアながら国内11都市に展開しています。
インテリジェントコックピット技術の発達
自動運転技術開発は、急速な技術革新と同時に、大きな課題に直面し始めています。技術成熟度や商用化のための条件により、未だレベル3(※2)を超えることができていません。既存の自動運転技術では90%以上の道路条件に適応するまでに至っていますが、残りの10%の特殊な道路条件には対応できていません。その結果、OEM各社は走行距離テストに力を入れるようになり、データ取得能力と完璧な反復アルゴリズムが、自動運転技術の向上と商用アプリケーションの強化のためのコアコンピタンスとなったのです。
自動運転技術と比較して、より技術発展が進んでいるのはインテリジェントコックピット技術です。インテリジェント・コックピットソリューションによって、運転手はディスプレイ画面、対話モード画面のどちらの画面からでも車両に指示をだすことができるようになり、より直観的な操作が可能になりました。特に自動車購買層の若年化により、インテリジェントコックピットの技術水準は重要な購買条件となっています。OEMがスマートキャビンの開発に積極的に取り組んでいる中で、インターネット会社や新興技術系企業も参画を開始し、スマートキャビン分野の技術発展を加速させています。これらの企業は技術、ソフトウェア・コンテンツ・エコロジーなどの面で優位性を持っており、OEM各社で不足していた技術力を補うことができると予想されます。
システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要な「条件付自動運転」
CASE変革に潜む課題と日本企業のビジネスチャンスとは
新エネルギーの開発と利用においては高電力消費(発電所から消費中心都市までの電力伝送距離が大きい)、低効率、汚染(リチウムイオン電池)など、欠陥と問題があります。電力網を利用した新エネルギー車の充電は都市部の電力網の運行安定性に一定の影響を及ぼし、ピーク時間帯に一連の問題を引き起こす可能性があります。米国においては近年、効率の良い電力供給を実現するためのスマートグリッドに対するEVの活用が注目され、インフラとサービスが整備されつつある中で日系企業との連携が目立っています。そして日本国内においてもスマートグリッドを取り入れたスマートシティの取り組みが進んでいます。AD/ADASの分野では、米中の継続的な技術と貿易の対立により、産業チェーンにある中国企業が大きな影響を受けています。自動車半導体の不足や、自動運転車やコネクテッドカーの標準化もそのうちの一つと言えるでしょう。自動運転車のナビゲーションサービスを提供する中国企業が米国市場から警戒・除外される可能性や、十分な戦略的鉱物(リチウムやコバルトなど)を確実に入手できるかどうかが主な原因です。半導体、業界標準、米国や欧米諸国との協力などの分野で豊富な経験を持つ日本企業にとって、この事実を逆手にとれば有利に働くことも想定されるでしょう。CASEのどの分野においてもICTの活用が不可欠です。長期的な視点で研究開発に投資し着実に成長を狙う日本企業が、長年培ってきた技術者らのノウハウすり合わせや部品の相互調整による製造力と、自動車ユニット(ハードウェア)、ソフトウェアそしてネットワークを最適なテクノロジ・パートナーシップで組み合わせる能力とを合わせることで、巨大な市場である中国においても競争力を持つことができると思います。
NTTデータグループのグローバルにおける自動車業界向け取り組み
2008年にBMWから株式を譲り受けたドイツ自動車向け情報システム子会社Cirquentにおける長い経験も含め、50年にわたるグローバルの自動車企業、サプライヤのお客様とのビジネス経験から、NTTデータグループは自動車市場の変革に対応し、CASEおよびスマートファクトリ領域におけるイノベーションを打ち出しています。また、自動車向けソリューションを応用して、次世代モビリティや交通インフラといった拡張エコシステム領域においても、データ通信、データ活用、SW制御によるデジタルトランスフォーメーションのサービスを提供し続けます。例えばモビリティ領域においては、NTTデータ、Valeo、Embotechの3社でコンソーシアム“VEN.AI”を組織し、自動駐車ソリューション(AVP: Automated Valet Parking)の開発およびグローバル展開を目指しています。VEN.AIに関するプレスリリースはこちらよりご参照いただけます。
NTT DATA, Valeo and Embotech Form Consortium to Provide Automated Parking Solutions
中国市場においては、BMW、VW、Mercedes-Benz、Geely、トヨタ等のトップブランドのOEMと長年にわたって取引があり、エンジニアリング、製造、販売そしてアフターセールスといった自動車バリューチェーンに沿ってITサービス事業を展開しています。さらにInCar、コネクテッド、ビックデータといったデジタル変革領域に注力してCoEを立ち上げ、AD/ADASの検証とスマートコックピットの開発、コネクテッドカーのデータを活用したオファリング開発に投資を行っています。また、車載アプリを含むインテリジェントコックピットの開発、車両デバイスや消費者と連携したコネクテッドモバイルアプリの開発、車外データ関連解析などにも取り組んでいます。例えば、中国では自動車購買層の若年化に伴って車載エンターテーメントに大きな需要があり、当社は消費者、音楽、車両ライトを連携したダイムラースマートのサービス開発を支援しました。
今後は、顧客データ、コネクテッドカーデータ、ならびに様々な外部環境データを集積・活用する経験を活かし、モビリティ分野、EVサービスにも事業を拡張しており、今後は自動車と他業界、さらには社会プラットフォームとの共創を通じて、安心で安全な社会の実現に貢献していきます。